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20.魅惑の婚約者
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「離してよ!」
力一杯にHIROの胸を押す。
「もう、私に関わらないで! この際言わせて貰うけど、私は貴方みたいな軽い男は嫌いなの! 役でも私の恋人なんてやらせてあげない!」
私の強い言葉にHIROがショックを受けた顔をしている。
私も人の事を言えないが、彼が不倫するような男だとは思ってもみなかった。
このまま軽薄な彼を知っていったら、応援もできなくなりそうだ。
私は、ショックで固まるHIROを置いて、非常階段を駆け降りた。
「俺は軽い気持ちでこんな事言ってる訳じゃねーよ」
後ろからHIROの叫び声が聞こえるが、私は振り返らなかった。
「わっ!」
非常階段の途中で滑ってしまう。
私は恐怖でぎゅっと目を瞑った。
(あれっ! 落ちてない⋯⋯)
私は玲さんにがっしりと支えられていた。
着痩せして見えるが、彼はとても体を鍛えている。
(あれっ? 今、イカガワシイ記憶が脳裏に⋯⋯)
私が玲さんから慌てて離れようとすると、いつの間にか横抱きにされていた。
まさか、また「アバズレが!」とか言われて振り落とされるのではないかと怖くなり彼にしがみつく。
私の不安に気が付いたのか玲さんが優しい声色で私に語りかけてくる。
「大丈夫だよ。凛音、ちょっと痴漢にあってたみたいだね」
「そ、そうなの。玲さん、ごめん。私、約束破っちゃったね。信じてくれてありがとう。もう、絶対に玲さんとの約束を守ると誓うよ」
私とHIROのキスシーンを見ていて傷ついただろうに、前科持ちの私を信じてくれる玲さんに感動し私は彼の胸に顔を埋めた。
リムジンのソファーに座らせられた所で、玲さんがまたクリスタルのグラスに私のお気に入りの葡萄ジュースをいれて渡してくれる。
「あ、ありがとう。」
私はグラスを受け取った所で、自分が手ぶらである事に気が付いた。
「鞄は人をやって取りに行かせるから、心配しなくても平気だよ」
「玲さん、本当にありがとう」
安心して葡萄ジュースに口をつけると、とても温かい気持ちになった。
気が付くと、リムジンは発進していた。
「玲さん⋯⋯私、こんなに玲さんに尽くして貰う価値があるのかな」
「どうしたの急に?」
「私は将来不倫するような女なんでしょ。知能指数が20以上違うと頭の良い方が悪い方に合わせ続けなければ話が成立しないんだって。玲さんは私と話してて疲れない?」
「今の凛音はもう不倫なんて絶対にしないでしょ。それに僕は凛音に合わせるのが好きなんだ」
「知能指数20以上離れていることは否定しないのね。でも、そういう下手に取り繕わない所が好きだわ」
私が笑っていると、玲さんは静かに私の手元のワイングラスを取り上げる。
そして、そっと私の唇にキスして来た。
「ごめん、凛音に好きって言われたのが嬉しくて。それに、消毒もしたかったし⋯⋯」
「うん、そっか⋯⋯」
私を見つめる玲さんの瞳が熱っぽい。
大人の色気全開の玲さん⋯⋯これは、私が溺れた第二形態の玲さんだ。
私の脳裏に過去の記憶の断片が再び蘇った。
私と玲さんが出会ったのは彼と東大寺茜さんの婚約披露パーティーだった。
『ご婚約おめでとうございます。紹介するのは初めてですね。娘の凛音です』
父に紹介され雛壇にいる玲さんと婚約者の東大寺茜さんに挨拶をする。
茜さんは黒蘭学園のOGで私は少し面識があった。
『茜先輩、ご婚約おめでとうございます。素敵な婚約指輪ですね』
『ありがとう、凛音さん。この指輪は1ヶ月職人のスケジュールを拘束させてオーダーメイドで作らせたの』
ピンクダイヤモンドとパープルダイヤモンドをプラチナの精巧な細工で彩った婚約指輪は手の込んだ洗練されたデザインで目を引いていた。
しかし、婚約指輪より目を引いたのは彼女の婚約者の曽根崎玲だった。
パーティーで彼を見かけた事はあったけれど、近くで見ると彫刻のように完璧な美貌を持っていて驚いた。彼からの視線を感じたが、私は人の婚約者に視線を返すような趣味はなかった。
挨拶を終えた後、父が私に耳打ちした。
『同じ指輪が欲しいのなら、お父様から凛音にプレゼントしようか』
『1ヶ月も待つならいらないわ。すぐに手に入るなら欲しいけれど』
パーティーから帰宅して寝支度をしていると、私に用があるという曽根崎玲が家に現れた。門の前で待たせるように伝え、ネグリジェにショールを羽織って外に出る。
『曽根崎さん、今宵は素敵なパーティーでしたわ。こんな夜遅くに何かご用かしら?』
私を見るなり玲さんは中世西洋の王子のように跪き、先程まで東大寺先輩がしていた指輪を差し出してきた。
『この指輪が欲しいとおっしゃっていたので、お持ちしました』
『なんの冗談ですか? 人のお下がりなんていりませんわ?』
私は心臓がバクバクしていた。先程まで婚約披露パーティーをしていた男がパートナーの婚約指輪を持って登場したのだ。あの頃の私は今より我儘ではないが、常に高飛車に振舞っていた。
私のつれない反応を見るなり、玲さんは婚約指輪を思いっきり空へ投げた。
どこかに飛んで行った指輪を見ながら唖然とする。
(流石に勿体無い⋯⋯宇宙まで飛んでいって星になっていれば良いけれど⋯⋯)
『先程の指輪は僕が東大寺家との婚約を破棄してきた証と、凛音さんにの忠誠を誓う事を示す為に持ってきただけのものです。凛音さんに一目惚れしました。僕と結婚前提にお付き合いください』
私は玲さんの信じられない行動に呆気にとられつつも、平静を保とうとした。
『今日はもうお帰りください。流石にこんな時間に訪ねて来られるのは迷惑ですわ』
私は素っ気なく彼に言い放ち、家に戻って行った。
その翌朝には東大寺茜の醜聞が明らかになり、曽根崎家と東大寺家の婚約は破棄されたと公に発表された。
玲さんは毎日のように私を訪ねて、かぐや姫のように振る舞う私の願いを叶え続けた。私は東大寺先輩の醜聞は玲さんが自分に有利に婚約を破棄する為にでっち上げたものだと気が付いていた。彼に怖さを感じつつも、私の願いを全て聞いてくれるサーバントのような彼に安心感を抱いていた。
第一形態の玲さんは何でも私の言うことを聞いて私を安心させた。
そして、付き合い始めると第二形態の玲さんが顔を出した。
彼の大人の色気とテクニックに私は溺れ陥落した。
⋯⋯知能指数が20以上違うと話が合わない?
そのような問題は頭の良い方の操作で何の問題にもならなくなる。
問題はそれだけの差がある2人が一緒になると、頭の悪い方は思考を読み取られ手のひらで転がされてしまう事だ。
♢♢♢
「凛音、到着したよ。ボーッとしてたけれど、疲れちゃったかな?」
「大丈夫だよ」
後少しで私が恐れた第三形態の玲さんが思い出せそうな気がする。
気がつけばリムジンはタワーマンションの地下駐車場に到着していた。
私たちのリムジンの後続車が到着する。
後続車から大きな荷物が搬出されていた。
「マットレスを部屋に持って行っても良い?」
「う、うん⋯⋯」
HIROとキスした罪悪感があり、私は玲さんをここで追い返すことはできなかった。
鍵を開けて、部屋に入ると玲さんとマットレスを持った業者の方が続いてくる。
新しいマットレスがセットされ、真っ白なシーツがかけられるのを見ていると玲さんが電話をしているのが分かった。
「柏原様、学生鞄をお持ちいたしました」
スーツ姿の女性が扉から顔を出して、私の学生鞄を置く。
「ありがとうございます。助かりました」
業者も帰り、部屋に私と玲さんの2人きりになる。
玲さんが電話を切ると私に近づいてきた。
「お仕事の電話だよね。今日は忙しいのに送ってくれてありがとう」
「いや、実はマズイ事になったんだ。非常階段での凛音と小柳真紘が週刊誌に撮られていたみたいで」
玲さんが焦ったように告げてくる言葉に私は動揺した。
まだ、駆け出しのHIROにとってスキャンダルは御法度だ。
「大丈夫だよ、凛音。僕が揉み消してあげるから」
「玲さんにそんな事させられないよ」
「僕の凛音のことだもの。僕が処理するのは当たり前」
私は彼との婚約を破棄する予定なのに、そんな事を言われて言いようもない罪悪感に苛まれた。
「僕に少しでも悪いと思おうなら、凛音からキスして」
玲さんが熱っぽい目で私を見つめて来ながら、自分の唇を人差し指で差す。
「えっ、でも、玲さんみたいに上手にはできないよ」
「僕のキスは上手? 小柳真紘より?」
「まぁ、比べられないくらい上手かな⋯⋯」
思わず漏れた私の本音に、玲さんは妖しく微笑む。
「当たり前でしょ、僕が一番凛音の事を知っているんだから、君の感じるところも全部⋯⋯」
玲さんはそう言って私を抱き寄せると深く口づけてくる。
脳が蕩けるくらい気持ちよく頭がボーッとしてきた。
彼と接触したからか、電気が流れるように結婚生活の記憶が蘇ってきた。
『学生時代の友達と会うだけだって言ってたのに、男もいたんだね』
玲さんが冷ややかな声で、テーブルの上に浮気の証拠のように写真を並べた。
『男って言っても、茉莉乃さんの婚約者だよ。近々結婚するから、お披露目に連れて来ただけ⋯⋯』
私は最後まで言い訳させて貰えずに寝室に連れてかれ、押し倒される。
『不安なんだよ。この僕だって婚約していても凛音に魅せられたんだ。他の男に君を見せたくない』
私の監視は日に日にキツくなっていった。
第三形態の玲さんは恐ろしいくらいの束縛男だった。
HIROと出会ったのは、彼が父のブランドのアンバサダーとして出席したパーティーだった。私はそのパーティーの最中も玲さんにピッタリつかれて出席した。
『お手洗い行ってくるね』
私は恥ずかしそうに玲さんに耳打ちする。
行きたいわけでもないけれど、私が玲さんから逃れられるのはお手洗いに行く時だけだった。
少しの時間でも自由になれる時間を渇望していた。
私が廊下を歩いていると、誰かに手を引かれ部屋に連れ込まれた。
『曽根崎凛音さん! 顔真っ青だよ。大丈夫?』
連れ込まれたのはHIROの控え室だった。
私は身内にも気付いて貰えなかった私のSOSに気がついてくれた彼に自分の状況を涙ながらに話してしまった。
『今の場所から逃げ出したいのなら、俺が手伝ってあげるよ』
私から離婚はできないと嘆く私に、HIROは自分と劇的に恋に落ちた事にすれば良いと言った。
『そんな事したら、貴方もタダじゃ済まないわよ』
私は曽根崎玲がどれだけ怖い人か知っていた。
『でも、そんな役目をできて信じ込ませる事ができるのは俺レベルの魅力のある男だけでしょ』
『凄い自信⋯⋯私にはHIROさんの魅力はあまり分からないけれど』
『だから、恋人役だって! 流石にあんな風に苦しそうな姿見て放って置けないよ』
私は藁をも掴む思いで、HIROの作戦に乗った。
HIROと私は不倫なんかしていない。
彼は初対面の私を助けようとしてくれたヒーローだった。
だから、私は時が戻った時、彼の姿を見るだけで元気付けられたのかもしれない。
私は気が付けば、ベッドに横たわらせられていた。
玲さんが愛おしそうに私の顔中に静かにキスをしてくる。
「凛音、新しいマットレスの寝心地はどお? 君は本当に可愛いね。我慢できなくなりそう」
玲さんが色っぽく私の耳元で囁いてくる。
(ちょ、ちょっと待って!)
私は第二形態の彼に陥落される寸前で、第三形態の恐ろしい彼を思い出せた。
力一杯にHIROの胸を押す。
「もう、私に関わらないで! この際言わせて貰うけど、私は貴方みたいな軽い男は嫌いなの! 役でも私の恋人なんてやらせてあげない!」
私の強い言葉にHIROがショックを受けた顔をしている。
私も人の事を言えないが、彼が不倫するような男だとは思ってもみなかった。
このまま軽薄な彼を知っていったら、応援もできなくなりそうだ。
私は、ショックで固まるHIROを置いて、非常階段を駆け降りた。
「俺は軽い気持ちでこんな事言ってる訳じゃねーよ」
後ろからHIROの叫び声が聞こえるが、私は振り返らなかった。
「わっ!」
非常階段の途中で滑ってしまう。
私は恐怖でぎゅっと目を瞑った。
(あれっ! 落ちてない⋯⋯)
私は玲さんにがっしりと支えられていた。
着痩せして見えるが、彼はとても体を鍛えている。
(あれっ? 今、イカガワシイ記憶が脳裏に⋯⋯)
私が玲さんから慌てて離れようとすると、いつの間にか横抱きにされていた。
まさか、また「アバズレが!」とか言われて振り落とされるのではないかと怖くなり彼にしがみつく。
私の不安に気が付いたのか玲さんが優しい声色で私に語りかけてくる。
「大丈夫だよ。凛音、ちょっと痴漢にあってたみたいだね」
「そ、そうなの。玲さん、ごめん。私、約束破っちゃったね。信じてくれてありがとう。もう、絶対に玲さんとの約束を守ると誓うよ」
私とHIROのキスシーンを見ていて傷ついただろうに、前科持ちの私を信じてくれる玲さんに感動し私は彼の胸に顔を埋めた。
リムジンのソファーに座らせられた所で、玲さんがまたクリスタルのグラスに私のお気に入りの葡萄ジュースをいれて渡してくれる。
「あ、ありがとう。」
私はグラスを受け取った所で、自分が手ぶらである事に気が付いた。
「鞄は人をやって取りに行かせるから、心配しなくても平気だよ」
「玲さん、本当にありがとう」
安心して葡萄ジュースに口をつけると、とても温かい気持ちになった。
気が付くと、リムジンは発進していた。
「玲さん⋯⋯私、こんなに玲さんに尽くして貰う価値があるのかな」
「どうしたの急に?」
「私は将来不倫するような女なんでしょ。知能指数が20以上違うと頭の良い方が悪い方に合わせ続けなければ話が成立しないんだって。玲さんは私と話してて疲れない?」
「今の凛音はもう不倫なんて絶対にしないでしょ。それに僕は凛音に合わせるのが好きなんだ」
「知能指数20以上離れていることは否定しないのね。でも、そういう下手に取り繕わない所が好きだわ」
私が笑っていると、玲さんは静かに私の手元のワイングラスを取り上げる。
そして、そっと私の唇にキスして来た。
「ごめん、凛音に好きって言われたのが嬉しくて。それに、消毒もしたかったし⋯⋯」
「うん、そっか⋯⋯」
私を見つめる玲さんの瞳が熱っぽい。
大人の色気全開の玲さん⋯⋯これは、私が溺れた第二形態の玲さんだ。
私の脳裏に過去の記憶の断片が再び蘇った。
私と玲さんが出会ったのは彼と東大寺茜さんの婚約披露パーティーだった。
『ご婚約おめでとうございます。紹介するのは初めてですね。娘の凛音です』
父に紹介され雛壇にいる玲さんと婚約者の東大寺茜さんに挨拶をする。
茜さんは黒蘭学園のOGで私は少し面識があった。
『茜先輩、ご婚約おめでとうございます。素敵な婚約指輪ですね』
『ありがとう、凛音さん。この指輪は1ヶ月職人のスケジュールを拘束させてオーダーメイドで作らせたの』
ピンクダイヤモンドとパープルダイヤモンドをプラチナの精巧な細工で彩った婚約指輪は手の込んだ洗練されたデザインで目を引いていた。
しかし、婚約指輪より目を引いたのは彼女の婚約者の曽根崎玲だった。
パーティーで彼を見かけた事はあったけれど、近くで見ると彫刻のように完璧な美貌を持っていて驚いた。彼からの視線を感じたが、私は人の婚約者に視線を返すような趣味はなかった。
挨拶を終えた後、父が私に耳打ちした。
『同じ指輪が欲しいのなら、お父様から凛音にプレゼントしようか』
『1ヶ月も待つならいらないわ。すぐに手に入るなら欲しいけれど』
パーティーから帰宅して寝支度をしていると、私に用があるという曽根崎玲が家に現れた。門の前で待たせるように伝え、ネグリジェにショールを羽織って外に出る。
『曽根崎さん、今宵は素敵なパーティーでしたわ。こんな夜遅くに何かご用かしら?』
私を見るなり玲さんは中世西洋の王子のように跪き、先程まで東大寺先輩がしていた指輪を差し出してきた。
『この指輪が欲しいとおっしゃっていたので、お持ちしました』
『なんの冗談ですか? 人のお下がりなんていりませんわ?』
私は心臓がバクバクしていた。先程まで婚約披露パーティーをしていた男がパートナーの婚約指輪を持って登場したのだ。あの頃の私は今より我儘ではないが、常に高飛車に振舞っていた。
私のつれない反応を見るなり、玲さんは婚約指輪を思いっきり空へ投げた。
どこかに飛んで行った指輪を見ながら唖然とする。
(流石に勿体無い⋯⋯宇宙まで飛んでいって星になっていれば良いけれど⋯⋯)
『先程の指輪は僕が東大寺家との婚約を破棄してきた証と、凛音さんにの忠誠を誓う事を示す為に持ってきただけのものです。凛音さんに一目惚れしました。僕と結婚前提にお付き合いください』
私は玲さんの信じられない行動に呆気にとられつつも、平静を保とうとした。
『今日はもうお帰りください。流石にこんな時間に訪ねて来られるのは迷惑ですわ』
私は素っ気なく彼に言い放ち、家に戻って行った。
その翌朝には東大寺茜の醜聞が明らかになり、曽根崎家と東大寺家の婚約は破棄されたと公に発表された。
玲さんは毎日のように私を訪ねて、かぐや姫のように振る舞う私の願いを叶え続けた。私は東大寺先輩の醜聞は玲さんが自分に有利に婚約を破棄する為にでっち上げたものだと気が付いていた。彼に怖さを感じつつも、私の願いを全て聞いてくれるサーバントのような彼に安心感を抱いていた。
第一形態の玲さんは何でも私の言うことを聞いて私を安心させた。
そして、付き合い始めると第二形態の玲さんが顔を出した。
彼の大人の色気とテクニックに私は溺れ陥落した。
⋯⋯知能指数が20以上違うと話が合わない?
そのような問題は頭の良い方の操作で何の問題にもならなくなる。
問題はそれだけの差がある2人が一緒になると、頭の悪い方は思考を読み取られ手のひらで転がされてしまう事だ。
♢♢♢
「凛音、到着したよ。ボーッとしてたけれど、疲れちゃったかな?」
「大丈夫だよ」
後少しで私が恐れた第三形態の玲さんが思い出せそうな気がする。
気がつけばリムジンはタワーマンションの地下駐車場に到着していた。
私たちのリムジンの後続車が到着する。
後続車から大きな荷物が搬出されていた。
「マットレスを部屋に持って行っても良い?」
「う、うん⋯⋯」
HIROとキスした罪悪感があり、私は玲さんをここで追い返すことはできなかった。
鍵を開けて、部屋に入ると玲さんとマットレスを持った業者の方が続いてくる。
新しいマットレスがセットされ、真っ白なシーツがかけられるのを見ていると玲さんが電話をしているのが分かった。
「柏原様、学生鞄をお持ちいたしました」
スーツ姿の女性が扉から顔を出して、私の学生鞄を置く。
「ありがとうございます。助かりました」
業者も帰り、部屋に私と玲さんの2人きりになる。
玲さんが電話を切ると私に近づいてきた。
「お仕事の電話だよね。今日は忙しいのに送ってくれてありがとう」
「いや、実はマズイ事になったんだ。非常階段での凛音と小柳真紘が週刊誌に撮られていたみたいで」
玲さんが焦ったように告げてくる言葉に私は動揺した。
まだ、駆け出しのHIROにとってスキャンダルは御法度だ。
「大丈夫だよ、凛音。僕が揉み消してあげるから」
「玲さんにそんな事させられないよ」
「僕の凛音のことだもの。僕が処理するのは当たり前」
私は彼との婚約を破棄する予定なのに、そんな事を言われて言いようもない罪悪感に苛まれた。
「僕に少しでも悪いと思おうなら、凛音からキスして」
玲さんが熱っぽい目で私を見つめて来ながら、自分の唇を人差し指で差す。
「えっ、でも、玲さんみたいに上手にはできないよ」
「僕のキスは上手? 小柳真紘より?」
「まぁ、比べられないくらい上手かな⋯⋯」
思わず漏れた私の本音に、玲さんは妖しく微笑む。
「当たり前でしょ、僕が一番凛音の事を知っているんだから、君の感じるところも全部⋯⋯」
玲さんはそう言って私を抱き寄せると深く口づけてくる。
脳が蕩けるくらい気持ちよく頭がボーッとしてきた。
彼と接触したからか、電気が流れるように結婚生活の記憶が蘇ってきた。
『学生時代の友達と会うだけだって言ってたのに、男もいたんだね』
玲さんが冷ややかな声で、テーブルの上に浮気の証拠のように写真を並べた。
『男って言っても、茉莉乃さんの婚約者だよ。近々結婚するから、お披露目に連れて来ただけ⋯⋯』
私は最後まで言い訳させて貰えずに寝室に連れてかれ、押し倒される。
『不安なんだよ。この僕だって婚約していても凛音に魅せられたんだ。他の男に君を見せたくない』
私の監視は日に日にキツくなっていった。
第三形態の玲さんは恐ろしいくらいの束縛男だった。
HIROと出会ったのは、彼が父のブランドのアンバサダーとして出席したパーティーだった。私はそのパーティーの最中も玲さんにピッタリつかれて出席した。
『お手洗い行ってくるね』
私は恥ずかしそうに玲さんに耳打ちする。
行きたいわけでもないけれど、私が玲さんから逃れられるのはお手洗いに行く時だけだった。
少しの時間でも自由になれる時間を渇望していた。
私が廊下を歩いていると、誰かに手を引かれ部屋に連れ込まれた。
『曽根崎凛音さん! 顔真っ青だよ。大丈夫?』
連れ込まれたのはHIROの控え室だった。
私は身内にも気付いて貰えなかった私のSOSに気がついてくれた彼に自分の状況を涙ながらに話してしまった。
『今の場所から逃げ出したいのなら、俺が手伝ってあげるよ』
私から離婚はできないと嘆く私に、HIROは自分と劇的に恋に落ちた事にすれば良いと言った。
『そんな事したら、貴方もタダじゃ済まないわよ』
私は曽根崎玲がどれだけ怖い人か知っていた。
『でも、そんな役目をできて信じ込ませる事ができるのは俺レベルの魅力のある男だけでしょ』
『凄い自信⋯⋯私にはHIROさんの魅力はあまり分からないけれど』
『だから、恋人役だって! 流石にあんな風に苦しそうな姿見て放って置けないよ』
私は藁をも掴む思いで、HIROの作戦に乗った。
HIROと私は不倫なんかしていない。
彼は初対面の私を助けようとしてくれたヒーローだった。
だから、私は時が戻った時、彼の姿を見るだけで元気付けられたのかもしれない。
私は気が付けば、ベッドに横たわらせられていた。
玲さんが愛おしそうに私の顔中に静かにキスをしてくる。
「凛音、新しいマットレスの寝心地はどお? 君は本当に可愛いね。我慢できなくなりそう」
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