14 / 20
14.私、容疑者になりますでしょうか。
しおりを挟む
「礼を欠いた事を謝罪させてください。申し訳ございませんでした」
私に頭を下げるレスター・ケンタス伯爵は羞恥と怒りに震えていた。
恐らく意図にそぐわない行為を強いられたからだろう。
「私は対して気にしてませんよ。それよりもケンタス伯爵は弁明をすることがあるのではないですか?」
「何についてお話をされているのか、さっぱりです。なぜ、このような忙しい時期に私を呼ばれたのか、私にはその意図が皆目見当もつきません」
口元に浮かべた薄笑い。
ケンタス伯爵が私を馬鹿にしているのはよく分かった。
ミゲルに捨てられた地味な女。
そう思って私を見下しているのだろう。
あと2ヶ月で新皇帝が即位する時期、リオダール帝国の貴族たちは皆忙しくしていた。
当然、行政部にいる私も多忙の極めている。
「そんなに頭が悪いのですか? ここに呼ばれた意味も理解できない程? なぜ、アラン皇太子殿下が同席していると思っているのですか? それは伯爵様が爵位を失う程の罪を犯している疑惑をかけられているからですよ。最も疑惑レベルですが⋯⋯」
「な⋯⋯無礼です。たかが子爵令嬢ごときが!」
私の言葉に動揺したケンタス伯爵が声をあげる。
「子爵令嬢? マレンマは正式に爵位を継承したモリアート子爵だ。そなたの罪を自ら自白しないのなら、罪は重くなる一方だぞ」
隣にいるアラン皇太子が頼もしい。
10歳以上も歳下で、2ヶ月先には他の女と婚約しているだろう男だ。
それでも私は彼にどうしようもなく惹かれてしまう。
前世で男女不平等ではない叫んでいた私はなんだったのだろう。
この世界のリオダール帝国に比べれば、レディースデイなど女性は十分優遇されていた。
頼りたくないけれど、女が道具のように扱われるこの世界で私を尊重してくれる彼に寄りかかってしまいたくなる。
1人で生きていたのような強気で可愛げのない私がこのような気持ちになるのは初めてだ。
「私の罪とは⋯⋯」
「お土産代とはなんでしょうか。月に90万リオン⋯⋯小さな邸宅が買えるくらいの額が定期的にルトアニア王国に渡っています」
私の言葉にケンタス伯爵が震え上がるのを感じた。
ビンゴ! 彼は本当に罪を犯している。
「それから、8月7日⋯⋯ルトアニア王国の外交官カイゼル・マルテスと食事をしたと申告していますが、カイゼル・マルテスは同日レンデス王国の建国祭りに参加していますよ? 虚偽の報告をした理由はなんでしょうか⋯⋯同じルトアニア王国の方でも別の方とお会いしていたのでは?」
「なんなんだ⋯⋯そのような細かい事は覚えてはいない」
「誰と食事したかも覚えていられないなら引退してください。その言い訳が通用するとお思いですか? 覚えていない訳ないでしょう。ご丁寧に記録にまで残しているのに⋯⋯」
私の言葉にケンタス伯爵は沈黙した。
その沈黙で私は彼が隠し事をしていると確信した。
「失礼」
ケンタス伯爵はそう一言残すと、目の前のデスクに置きっぱなしにしていた私の万年筆をとり首に刺した。
動脈が切れたのか、血が勢いよく吹き出す。
見たこともないような光景に私は硬直した。
(な、何? 自白するくらいなら自害するって事?)
自分の顔に温かい血飛沫がかかって、何が起こったのか理解できない。
前世の記憶が戻り、自分は強くなったと勘違いをしていた。
この世界は日本とは全く違う。
強い身分制度に、宗教的にも感じる君主への忠誠心。
(ケンタス伯爵の君主は誰?)
ケンタス伯爵は自分が崇める相手の為に自害したのだろう。
人の命が信仰や忠誠よりも軽い。
瞬間、私を恐怖から遠ざけるようにアラン皇太子が覆い被さってくる。
情けないことに私は彼に守られてしまった。
「マレンマ、大丈夫か? 恐ろしかっただろう⋯⋯震えてるぞ! この問題は奥が根深そうだな」
「私は全然大丈夫です。私の置きっ放しにした万年筆のせいですよね。私、容疑者になりますでしょうか」
前世の経験で強気になっていた私はどこに行ったのだろう。
結婚生活がうまくいかなくても、自分は社会で認められる自立した女になれるという自負があった。
目の前で人が命を断つ瞬間を見たのは初めてで、目がチカチカする。
「マレンマ⋯⋯」
私は気がつけばアラン皇太子にキスをされていた気がする。
「大丈夫だ⋯⋯僕が全部悪かった。ルトアニア王国から麻薬が密輸されているのではないかと疑惑は持っていたのだ。それにケンタス伯爵周りの貴族たちが絡んでいるかもしれないとも疑っていた。それがこのような悲劇を起こすことまで予想できなかった」
私を宥めるような澄んだ紫色の瞳。
私よりも10歳以上歳下で、純粋で天然な男の子。
そのような若い子に恋をしないと思っていた。
でも、彼はそれだけではなかった。
純粋すぎるくらい真っ直ぐだけれども、非常に賢く冷酷な面も持っていて誰も大切にしてくれなかった私を守ろうとしてくれた。
そして、なんでも自分のせいにしてしまう不器用な人だ。
「アラン皇太子殿下⋯⋯怖くないです。殿下が側にいれば⋯⋯」
私は初めて男にしがみついた。
私は男を信用していない。
美しい時は下心丸出しで近づいてきて、枯れたら離れて行く。
前世の記憶も思い出し、他の人の2倍の人生経験を持っているのに目の前の未成年の男の子に縋ってしまう。
「マレンマ! 僕が夜道を歩けるようなリオダール帝国にするから、もう絶対にこのような怖い思いはさせない」
私の髪を撫でながら慰めてくれるアラン皇太子を頼もしく感じた。
しかし、今回の件は私の浅はかな考えが起こした事だ。
疑惑をチラつかせて自白を取れればうまく行くと思っていた。
自分の命以上に守ろうとするものがある人間の恐ろしさを理解していなかった。
「本当に怖くないですよ。全ては私の甘さが招いた事です。殿下もお察しの通り、ルトアニア王国とケンタス伯爵を含む帝国貴族は後ろ暗い取引をしてますね。そして、ケンタス伯爵の後ろには彼が逆らえない黒幕がいそうです」
「マレンマ、自分を律する必要はない。そなたが甘いのなら、僕はもっと甘い。今日はもう帰ってゆっくり休むと良い。後始末は僕がしておくから」
私の強がりは見抜かれていた。
確かに手や唇の震えが止まらず、頭の中が混乱して仕事を続けられそうもない。
この状態で仕事に戻ってもミスをしそうだ。
そして、目の前で血飛沫をあげた死体が転がっているのに、全く動揺が見られない殿下は私とは見てきた世界が違うのだろう。
私は彼の好意に甘えることにした。
私に頭を下げるレスター・ケンタス伯爵は羞恥と怒りに震えていた。
恐らく意図にそぐわない行為を強いられたからだろう。
「私は対して気にしてませんよ。それよりもケンタス伯爵は弁明をすることがあるのではないですか?」
「何についてお話をされているのか、さっぱりです。なぜ、このような忙しい時期に私を呼ばれたのか、私にはその意図が皆目見当もつきません」
口元に浮かべた薄笑い。
ケンタス伯爵が私を馬鹿にしているのはよく分かった。
ミゲルに捨てられた地味な女。
そう思って私を見下しているのだろう。
あと2ヶ月で新皇帝が即位する時期、リオダール帝国の貴族たちは皆忙しくしていた。
当然、行政部にいる私も多忙の極めている。
「そんなに頭が悪いのですか? ここに呼ばれた意味も理解できない程? なぜ、アラン皇太子殿下が同席していると思っているのですか? それは伯爵様が爵位を失う程の罪を犯している疑惑をかけられているからですよ。最も疑惑レベルですが⋯⋯」
「な⋯⋯無礼です。たかが子爵令嬢ごときが!」
私の言葉に動揺したケンタス伯爵が声をあげる。
「子爵令嬢? マレンマは正式に爵位を継承したモリアート子爵だ。そなたの罪を自ら自白しないのなら、罪は重くなる一方だぞ」
隣にいるアラン皇太子が頼もしい。
10歳以上も歳下で、2ヶ月先には他の女と婚約しているだろう男だ。
それでも私は彼にどうしようもなく惹かれてしまう。
前世で男女不平等ではない叫んでいた私はなんだったのだろう。
この世界のリオダール帝国に比べれば、レディースデイなど女性は十分優遇されていた。
頼りたくないけれど、女が道具のように扱われるこの世界で私を尊重してくれる彼に寄りかかってしまいたくなる。
1人で生きていたのような強気で可愛げのない私がこのような気持ちになるのは初めてだ。
「私の罪とは⋯⋯」
「お土産代とはなんでしょうか。月に90万リオン⋯⋯小さな邸宅が買えるくらいの額が定期的にルトアニア王国に渡っています」
私の言葉にケンタス伯爵が震え上がるのを感じた。
ビンゴ! 彼は本当に罪を犯している。
「それから、8月7日⋯⋯ルトアニア王国の外交官カイゼル・マルテスと食事をしたと申告していますが、カイゼル・マルテスは同日レンデス王国の建国祭りに参加していますよ? 虚偽の報告をした理由はなんでしょうか⋯⋯同じルトアニア王国の方でも別の方とお会いしていたのでは?」
「なんなんだ⋯⋯そのような細かい事は覚えてはいない」
「誰と食事したかも覚えていられないなら引退してください。その言い訳が通用するとお思いですか? 覚えていない訳ないでしょう。ご丁寧に記録にまで残しているのに⋯⋯」
私の言葉にケンタス伯爵は沈黙した。
その沈黙で私は彼が隠し事をしていると確信した。
「失礼」
ケンタス伯爵はそう一言残すと、目の前のデスクに置きっぱなしにしていた私の万年筆をとり首に刺した。
動脈が切れたのか、血が勢いよく吹き出す。
見たこともないような光景に私は硬直した。
(な、何? 自白するくらいなら自害するって事?)
自分の顔に温かい血飛沫がかかって、何が起こったのか理解できない。
前世の記憶が戻り、自分は強くなったと勘違いをしていた。
この世界は日本とは全く違う。
強い身分制度に、宗教的にも感じる君主への忠誠心。
(ケンタス伯爵の君主は誰?)
ケンタス伯爵は自分が崇める相手の為に自害したのだろう。
人の命が信仰や忠誠よりも軽い。
瞬間、私を恐怖から遠ざけるようにアラン皇太子が覆い被さってくる。
情けないことに私は彼に守られてしまった。
「マレンマ、大丈夫か? 恐ろしかっただろう⋯⋯震えてるぞ! この問題は奥が根深そうだな」
「私は全然大丈夫です。私の置きっ放しにした万年筆のせいですよね。私、容疑者になりますでしょうか」
前世の経験で強気になっていた私はどこに行ったのだろう。
結婚生活がうまくいかなくても、自分は社会で認められる自立した女になれるという自負があった。
目の前で人が命を断つ瞬間を見たのは初めてで、目がチカチカする。
「マレンマ⋯⋯」
私は気がつけばアラン皇太子にキスをされていた気がする。
「大丈夫だ⋯⋯僕が全部悪かった。ルトアニア王国から麻薬が密輸されているのではないかと疑惑は持っていたのだ。それにケンタス伯爵周りの貴族たちが絡んでいるかもしれないとも疑っていた。それがこのような悲劇を起こすことまで予想できなかった」
私を宥めるような澄んだ紫色の瞳。
私よりも10歳以上歳下で、純粋で天然な男の子。
そのような若い子に恋をしないと思っていた。
でも、彼はそれだけではなかった。
純粋すぎるくらい真っ直ぐだけれども、非常に賢く冷酷な面も持っていて誰も大切にしてくれなかった私を守ろうとしてくれた。
そして、なんでも自分のせいにしてしまう不器用な人だ。
「アラン皇太子殿下⋯⋯怖くないです。殿下が側にいれば⋯⋯」
私は初めて男にしがみついた。
私は男を信用していない。
美しい時は下心丸出しで近づいてきて、枯れたら離れて行く。
前世の記憶も思い出し、他の人の2倍の人生経験を持っているのに目の前の未成年の男の子に縋ってしまう。
「マレンマ! 僕が夜道を歩けるようなリオダール帝国にするから、もう絶対にこのような怖い思いはさせない」
私の髪を撫でながら慰めてくれるアラン皇太子を頼もしく感じた。
しかし、今回の件は私の浅はかな考えが起こした事だ。
疑惑をチラつかせて自白を取れればうまく行くと思っていた。
自分の命以上に守ろうとするものがある人間の恐ろしさを理解していなかった。
「本当に怖くないですよ。全ては私の甘さが招いた事です。殿下もお察しの通り、ルトアニア王国とケンタス伯爵を含む帝国貴族は後ろ暗い取引をしてますね。そして、ケンタス伯爵の後ろには彼が逆らえない黒幕がいそうです」
「マレンマ、自分を律する必要はない。そなたが甘いのなら、僕はもっと甘い。今日はもう帰ってゆっくり休むと良い。後始末は僕がしておくから」
私の強がりは見抜かれていた。
確かに手や唇の震えが止まらず、頭の中が混乱して仕事を続けられそうもない。
この状態で仕事に戻ってもミスをしそうだ。
そして、目の前で血飛沫をあげた死体が転がっているのに、全く動揺が見られない殿下は私とは見てきた世界が違うのだろう。
私は彼の好意に甘えることにした。
78
あなたにおすすめの小説
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました
水上
恋愛
【全18話完結】
「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。
そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。
自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。
そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。
一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。
婚約者を交換しましょう!
しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。
友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。
ならば婚約解消しましょう?
一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。
冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています
鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。
伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。
愛のない契約、形式だけの夫婦生活。
それで十分だと、彼女は思っていた。
しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。
襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、
ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。
「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」
財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、
やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。
契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。
白い結婚の裏で繰り広げられる、
“ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました
ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。
一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。
「大変です……!」
ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。
手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。
◎さくっと終わる短編です(10話程度)
◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!
従姉の子を義母から守るために婚約しました。
しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。
しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。
再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。
シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。
ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。
当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって…
歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる