16 / 20
16.多分、媚薬を⋯⋯。(アラン視点)
しおりを挟む
2秒もしない内に、僕は思いっきりマレンマに押し返された。
エメラルドの瞳が僅かに揺れていて、明らかに僕の様子がいつもと違うのを心配しているのが分かる。
「アラン皇太子殿下、体が異常に熱いです。何か盛られましたか?」
「多分、媚薬を⋯⋯」
僕は彼女が僕の熱を冷ましてくれるのを期待してここまで来たのだろう。
「吐きましょう!」
マレンマの言葉は予想外だった。
僕は洗面台まで連れて行かれ、肩を押さえつけられマレンマに2本の指を思いっきり口の奥まで突っ込まれた。
(吐けと?)
有無を言わせぬ、彼女にもう吐くしかなかった。
「液体しか出てきませんね」
彼女は指をより奥まで突っ込んでくる。
(く、苦しい。多分、媚薬はもう体内から出た⋯⋯)
「え、えき⋯⋯」
「殿下、どうしましたか?」
「液体なのだ。紅茶だったから、多分もう出た⋯⋯」
「それは良かったです」
マレンマがにっこりと微笑むと、僕は自分のした事が恥ずかしくなった。
彼女が水を入れたコップを渡してきてくれたので、うがいをする。
彼女の気遣いはいつも自然で押し付けがましくない。
知れば知る程に僕は彼女を好きになっているけれど、彼女は僕を意識してくれているようには見えない。
おそらく僕の一方的な片想いだ。
(押し倒して無理やり口づけをしたことを謝った方が良いだろうか⋯⋯)
「それにしても、一体、誰に⋯⋯」
「それは⋯⋯」
僕は思わず言い淀んだ。
自分の浅はかな行動が彼女に露見するのが恥ずかしかったと言うより、この件に彼女をこれ以上関わらせるのは危険だと思った。
レオナ嬢は自分が婚約者に選ばれない可能性を消す為に、僕と関係を持とうと媚薬を盛ったのだろう。
そして、それはもしかしたら彼女の父親であるキリアン・アーデン公爵の指示だ。
異常に強力な媚薬はルトアニア帝国産である可能性が高い。
今日、ケンタス伯爵の自害の場を見てマレンマは怯えていた。
この件に彼女がこれ以上関わると、彼女はもっと怖い目にあうだろう。
「とりあえず、吐いてお腹が空いたんじゃないですか? 何か食べます?」
「いや、大丈夫だ。心配かけてすまなかった」
僕が考えあぐねている事に気がついたのか、彼女が話題を変えてくれた。
さりげない心遣いをされる度にますます好きになってしまう。
本当はすぐにでも皇宮に戻り、紅茶のカップを証拠にレオナ嬢を問い詰めるべきだ。
そうすれば、媚薬の入手元やアーデン公爵を追い詰める事実に辿り着けるかもしれない。
それなのに、僕はマレンマと2人きりになれた今の時間を手放せなかった。
どうせ、媚薬を盛った証拠など既に処分されていると言い訳し、彼女と一緒にいる事を選んだ。
「マレンマ、僕がどうしてそなたの所に来たのか聞かないのか?」
「お困りだったからですよね。殿下に頼られて嬉しかったです。いつも、私は殿下に助けられてばかりなので」
僕の下心に全く気がついていない彼女を見て罪悪感が込み上げてきた。
彼女はとても察しが良くて賢いのに、どうして僕の気持ちには気がつかないのだろう。
もしかしたら、彼女から見ると僕は幼くて相手にされていないのかも知れない。
(男として見て欲しい⋯⋯)
僕は賭けに出る事にした。
思いの丈を彼女に話してみて彼女から拒絶されてしまうかも知れないが、恐れていたら最後の1歩は縮まらない。
僕は深呼吸して、マレンマに向き直った。
「マレンマ、僕はそなたを抱きたかったから来たのだ。ずっとマレンマの事が好きだった。知れば知る程、そなたの事を心から想うようになったのだ。媚薬を飲まされて、その勢いのままそなたを抱いてしまおうと思った。マレンマ、そなたの優しさに付け込もうとしたのだ」
僕の言葉にマレンマはなぜか俯いてしまった。
軽蔑されたかも知れない。
僕が困っていたら、彼女は助けてくれると思った。
予想していたのとは違う方法だったが、実際に彼女は僕を助けてくれた。
「私は優しくなどないですよ。優しいのはアラン皇太子殿下の方です」
「僕が優しいとマレンマが感じるのなら、それは僕がそなたの事が好きだからだ」
実際、マレンマといると優しい気持ちになれる。
きっと、それは彼女のことが愛しいからだ。
彼女に優しい人間だと思われたい下心もあるのかも知れない。
「マレンマ、顔をあげてくれ」
僕は彼女が何を考えているのか不安になり、彼女の頬に手を添えて顔をあげさせた。
(顔、真っ赤だ⋯⋯可愛い⋯⋯もしかして、マレンマも僕のことを)
心臓の鼓動が早い。
耳の奥でウェディングベルが鳴り響いている気がする。
「私も殿下をお慕いしております」
マレンマの言葉が僕の心の奥まで届く。
僕たちはその日結ばれた。
♢♢♢
「殿下、もう皇宮に戻られた方が良いのではないですか? 殿下がいないと分かると騒ぎになりますよ」
「さっきまでは、アランと呼んでくれていたのにどうして⋯⋯」
「もう、切り替えなければなりませんから」
マレンマが僕の着替えを手伝ってくれるが、目を合わせようとしてくれない。
そして、先程まで恋人のように戯れ合っていたのに、明らかに臣下のように振る舞っている。
それが照れているのか、気まずいからなのか分からない。
「あれはマレンマが発明したクリーム石鹸ではないか。一緒に泡風呂に入らないか?」
机にマレンマが以前プレゼントしてくれたクリーム石鹸の瓶と同じものを発見したので、勇気を出して提案してみた。
僕は彼女と少しでも一緒にいたかった。
せっかく心が通じ合ったのに、離れたくはなかった。
「殿下、皇宮にお戻りください」
彼女はそう短く言って、目を合わせてくれなかった。
エメラルドの瞳が僅かに揺れていて、明らかに僕の様子がいつもと違うのを心配しているのが分かる。
「アラン皇太子殿下、体が異常に熱いです。何か盛られましたか?」
「多分、媚薬を⋯⋯」
僕は彼女が僕の熱を冷ましてくれるのを期待してここまで来たのだろう。
「吐きましょう!」
マレンマの言葉は予想外だった。
僕は洗面台まで連れて行かれ、肩を押さえつけられマレンマに2本の指を思いっきり口の奥まで突っ込まれた。
(吐けと?)
有無を言わせぬ、彼女にもう吐くしかなかった。
「液体しか出てきませんね」
彼女は指をより奥まで突っ込んでくる。
(く、苦しい。多分、媚薬はもう体内から出た⋯⋯)
「え、えき⋯⋯」
「殿下、どうしましたか?」
「液体なのだ。紅茶だったから、多分もう出た⋯⋯」
「それは良かったです」
マレンマがにっこりと微笑むと、僕は自分のした事が恥ずかしくなった。
彼女が水を入れたコップを渡してきてくれたので、うがいをする。
彼女の気遣いはいつも自然で押し付けがましくない。
知れば知る程に僕は彼女を好きになっているけれど、彼女は僕を意識してくれているようには見えない。
おそらく僕の一方的な片想いだ。
(押し倒して無理やり口づけをしたことを謝った方が良いだろうか⋯⋯)
「それにしても、一体、誰に⋯⋯」
「それは⋯⋯」
僕は思わず言い淀んだ。
自分の浅はかな行動が彼女に露見するのが恥ずかしかったと言うより、この件に彼女をこれ以上関わらせるのは危険だと思った。
レオナ嬢は自分が婚約者に選ばれない可能性を消す為に、僕と関係を持とうと媚薬を盛ったのだろう。
そして、それはもしかしたら彼女の父親であるキリアン・アーデン公爵の指示だ。
異常に強力な媚薬はルトアニア帝国産である可能性が高い。
今日、ケンタス伯爵の自害の場を見てマレンマは怯えていた。
この件に彼女がこれ以上関わると、彼女はもっと怖い目にあうだろう。
「とりあえず、吐いてお腹が空いたんじゃないですか? 何か食べます?」
「いや、大丈夫だ。心配かけてすまなかった」
僕が考えあぐねている事に気がついたのか、彼女が話題を変えてくれた。
さりげない心遣いをされる度にますます好きになってしまう。
本当はすぐにでも皇宮に戻り、紅茶のカップを証拠にレオナ嬢を問い詰めるべきだ。
そうすれば、媚薬の入手元やアーデン公爵を追い詰める事実に辿り着けるかもしれない。
それなのに、僕はマレンマと2人きりになれた今の時間を手放せなかった。
どうせ、媚薬を盛った証拠など既に処分されていると言い訳し、彼女と一緒にいる事を選んだ。
「マレンマ、僕がどうしてそなたの所に来たのか聞かないのか?」
「お困りだったからですよね。殿下に頼られて嬉しかったです。いつも、私は殿下に助けられてばかりなので」
僕の下心に全く気がついていない彼女を見て罪悪感が込み上げてきた。
彼女はとても察しが良くて賢いのに、どうして僕の気持ちには気がつかないのだろう。
もしかしたら、彼女から見ると僕は幼くて相手にされていないのかも知れない。
(男として見て欲しい⋯⋯)
僕は賭けに出る事にした。
思いの丈を彼女に話してみて彼女から拒絶されてしまうかも知れないが、恐れていたら最後の1歩は縮まらない。
僕は深呼吸して、マレンマに向き直った。
「マレンマ、僕はそなたを抱きたかったから来たのだ。ずっとマレンマの事が好きだった。知れば知る程、そなたの事を心から想うようになったのだ。媚薬を飲まされて、その勢いのままそなたを抱いてしまおうと思った。マレンマ、そなたの優しさに付け込もうとしたのだ」
僕の言葉にマレンマはなぜか俯いてしまった。
軽蔑されたかも知れない。
僕が困っていたら、彼女は助けてくれると思った。
予想していたのとは違う方法だったが、実際に彼女は僕を助けてくれた。
「私は優しくなどないですよ。優しいのはアラン皇太子殿下の方です」
「僕が優しいとマレンマが感じるのなら、それは僕がそなたの事が好きだからだ」
実際、マレンマといると優しい気持ちになれる。
きっと、それは彼女のことが愛しいからだ。
彼女に優しい人間だと思われたい下心もあるのかも知れない。
「マレンマ、顔をあげてくれ」
僕は彼女が何を考えているのか不安になり、彼女の頬に手を添えて顔をあげさせた。
(顔、真っ赤だ⋯⋯可愛い⋯⋯もしかして、マレンマも僕のことを)
心臓の鼓動が早い。
耳の奥でウェディングベルが鳴り響いている気がする。
「私も殿下をお慕いしております」
マレンマの言葉が僕の心の奥まで届く。
僕たちはその日結ばれた。
♢♢♢
「殿下、もう皇宮に戻られた方が良いのではないですか? 殿下がいないと分かると騒ぎになりますよ」
「さっきまでは、アランと呼んでくれていたのにどうして⋯⋯」
「もう、切り替えなければなりませんから」
マレンマが僕の着替えを手伝ってくれるが、目を合わせようとしてくれない。
そして、先程まで恋人のように戯れ合っていたのに、明らかに臣下のように振る舞っている。
それが照れているのか、気まずいからなのか分からない。
「あれはマレンマが発明したクリーム石鹸ではないか。一緒に泡風呂に入らないか?」
机にマレンマが以前プレゼントしてくれたクリーム石鹸の瓶と同じものを発見したので、勇気を出して提案してみた。
僕は彼女と少しでも一緒にいたかった。
せっかく心が通じ合ったのに、離れたくはなかった。
「殿下、皇宮にお戻りください」
彼女はそう短く言って、目を合わせてくれなかった。
86
あなたにおすすめの小説
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました
水上
恋愛
【全18話完結】
「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。
そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。
自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。
そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。
一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。
婚約者を交換しましょう!
しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。
友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。
ならば婚約解消しましょう?
一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。
冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています
鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。
伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。
愛のない契約、形式だけの夫婦生活。
それで十分だと、彼女は思っていた。
しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。
襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、
ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。
「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」
財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、
やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。
契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。
白い結婚の裏で繰り広げられる、
“ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました
ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。
一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。
「大変です……!」
ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。
手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。
◎さくっと終わる短編です(10話程度)
◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!
従姉の子を義母から守るために婚約しました。
しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。
しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。
再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。
シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。
ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。
当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって…
歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる