聖女リオノーラの反逆〜千年の恋のためクズ夫を寝取ってください〜

専業プウタ

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2.不妊。

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「お姉様ごめんなさい。でも、カルティス王子殿下に求められてしまい仕方なく⋯⋯」

セリアはシーツを身体に巻きつけ、床に座り込み顔を両手で隠した。彼女が肩を震わせているのは、笑いが込み上げてくるのを堪えているからだ。彼女の悪意と強かさは、千年の時を過ごした私の想像を超えてくる。

「違うんだ。リオノーラ。実は君とセリアを間違えてしまって」

明らかに慌てている夫カルティス。
彼と双子の妹との関係を知ったのは、私がリオノーラとして一度目に生きた時。
その不適切な関係と裏切りに、心が破壊されそうな程の衝撃を受け私は咄嗟に時を戻した。

「ふふっ、面白い言い訳。カルティス、貴方が私と夜を過ごす時はいつも私の寝室でしょ」
クスクスと笑いながら余裕の表情を浮かべた私に、俯くしかない夫。

私が光沢のある銀髪であるのに対し、セリアの銀髪はマットな灰色に近い。
瞳の色もアクアマリンと称される私の瞳に対し、セリアの瞳は深海のような深い青。顔立ちだってレシャール侯爵夫人に似て端麗な私に対し、セリアは婀娜っぽい。

「お姉様、子供ができないんでしょ。カルティス王子殿下はとても悩まれてたの。私はお心を慰めて差し上げたくて、こうするしかなかったのよ」

セリアは声が弾むのを隠せていない。
私の不幸を喜ぶだけの女に、伝説の大聖女である私が恐怖しているのだから笑える。

「成程、双子の貴方が産んだ子供を私にくれる計画でも立案してくれたの? 婚前で婚約者もいる貴族令嬢が随分ね」

温和な私が皮肉を言ったのが意外だったのか、セリアは不思議そうに首を傾けた。

「そ、そうなんだ。セリアに赤子を産ませて、リオノーラと僕の子として育ててれば良い。そんな名案が浮かんでセリアを招集したんだ」

バカな夫は頭に浮かんだ言い訳を必死に紡いでくる。

「カルティス・ベルナール! ベルナール王国の危機を伝えたはずでしょ。今は夜中でも貴族を招集し、アントワーヌ帝国の侵略に備える時ではないの?」

カルティスは私が彼を敢えてフルネームで呼び、提言をしてきた事に顔を顰めた。

「そんな事はありえないと言ったはずだ。リオノーラ、君は疲れてるんだよ。君の負担を考えると、セリアと役割を分担したらどうだ?」

焦ってガウンを纏うカルティスのみっともなさには呆れるしかない。
(もう、この男に未練はない)

「カルティス、私と離婚してくださる? セリアは私の双子の妹よ。彼女を側室にでもと考えてるの? 節操がない」
私は意識して低い声を使う。

「離婚? 何を言ってるんだ。セリアを側室にするのが嫌なら、君の影として彼女を使えば良いだろう」

カルティスの言葉に、セリアが血が滲むくらい強く唇を噛んだのが分かった。
彼は自分しか愛していない利己的な男。
一時の快楽に平気で身を委ねてしまう自制心のないクズ。

「一生日陰で暮らせとおっしゃるのですか? カルティス王子殿下、それはあんまりです。私なら貴方様のお子を産めます。どうか、エイブラハム国王陛下に私を側室にするようご提案ください」

過去、セリアは確かに彼の側室になる事に成功している。
私は子を成せない後ろめたさから、屈辱的な提案を甘受した。
セリアが私に不妊の毒を盛っていったのが分かったのは、二度目のやり直しの時。

(もっと、重大な事が二度目には分かったけれどね)

巻きつけたシーツがはだけそうな姿で、カーティスの腰にしがみ付く彼女に溜息をついた。
縋るような彼女の視線に、彼が唾を飲み込んだのが分かる。
(天命を忘れた女狂いのクズ男⋯⋯)

「私はカルティス・ベルナールとは離婚するわ。尽くす価値のない夫とはお別れよ」
私は閉ざされた重い扉を勢いよく開いた。

すると、そこには護衛騎士が呼んだのか正装したエイブラハム・ベルナール国王が険しい顔で立っている。勲章の連なる真っ白な礼服に身を包み、緊急時に駆けつけられる彼は正しい国王。

「国王陛下、ご挨拶は省略させて頂きますわ。見ての通り、私の双子の妹と夫の不貞現場です。私は聖女リオノーラ。この耐え難い侮辱を持って、カルティス・ベルナールとの離婚を請求します」

エイブラハム国王はカルティスにそっくりな黄金の瞳を隠すようにゆっくりと目を閉じた。そして穏やかな表情を作り口を開く。

「リオノーラ、そのような理由で離婚になると君が恥を掻くのではないか?」
「恥? 私の感覚では面目を失うのはカルティスの方かと思いますわ。まあ、私を妹に夫寝取られたと笑い者にするような方もいるかもしれませんわね。それでも、この程度の男に一生尽くす役割はお断りします」

「この程度? 口を慎まないか? リオノーラ!」
私の言葉にカッと目を見開き、エイブラハム国王は怒鳴りつけて来た。

「口を慎むのは陛下の方では? 何の権利があって聖女である私に怒号を浴びせているのですか?」
地位的に私はエイブラハム国王と同等、カルティスは私より下。

エイブラハム国王は、愚息の此度の不適切な行動に対して諌めなければならない立場。

「リオノーラ、許してくれ。セリアが僕の慈悲を欲しいというので、ほんのボランティアのつもりだったんだ」

エイブラハム国王と私の緊迫した空気の中に、着崩れたガウン姿のカルティスが割って入ってきた。私は必死に縋ろうとする彼を無視し、ベルナール王国の為の進言を続けた。

「王位継承権の長子相続を見直してはいかがですか? 私はカルティスのお守りは降りさせて頂きます。私の代わりにセリアが彼の妻になれば良いではありませんか?」

私はチラリとセリアの顔を覗き見た。
彼女は額に冷や汗を垂らしている。

セリアの目的はあくまで私を王妃に置き、側室になり王子の母として裏で力を持つこと。

「この程度のことで、離婚は認めない!」
馬鹿な子ほど可愛いのか、エイブラハム国王は長子であるカルティスを特別扱いしていた。

二度目のやり直しでは、カルティス以外の王子に王位を継がせるように動いたが失敗した。ベルナール王国の民を守る選択として、愚かなカルティスに王位を継がせるべきではない。王位継承権保持者は4人いる。サンドラ王女は7歳になったばかりだが、第2王子は王妃の子で後ろ盾もしっかりしていて優秀。第3王子は人格者で国民人気も高い。

エイブラハム国王が手を挙げた合図と共に、夜間勤務の護衛騎士たちが集まってくる。
(私を拘束するつもり?)

エイブラハム国王はレシャール侯爵家の秘密を知っているようだ。
私は慌てて周囲の人間の動きを聖女の力で止めた。

「くっ!」
今までになかった体の負担を感じる。
先程のカルティスとセリアの光景は、思っていた以上に私の心に闇を落としていた。
(聖女の力がまた弱まった)

動きを止めたはずの騎士たちが重い足を上げながら近づいて来る。
私は彼らの間をすり抜けるように城の外へと走った。

城外に停まっている毛並みの美しい黒い馬にドレス姿で跨る。
グリーンのドレスはクズ夫からのプレゼント。
今直ぐ脱ぎたいが、そこはグッと我慢。

乗馬は嗜み程度だが、この馬とは相性が良さそうだ。
私の意図を察して、城門に走り出してくれた。

「綺麗な漆黒のたてがみね。貴方の名前はノワールよ。お願い、ノワール! 私をここから連れ出して!」

城門で慌てる騎士たちを無視して、国境を目指す。
私はこのままアントワーヌ帝国に向かうつもりだ。

一週間休まずノワールを走らせたのに、国境の検問で捕まった。
ノワールを撫でながら、掌から発する聖女の力で彼の体力を回復させる。

聖女の力を使った時、発せられる白い光を見て騎士たちの顔が強張ったのが分かった。

「私は聖女リオノーラよ。道を開けなさい」
私の言葉に気圧された国境を守る騎士たちが、私の立ち姿をまじまじと注視。

「エイブラハム国王陛下より、聖女リオノーラ様を見つけ次第捕縛するようにと仰せつかっております」
申し訳なさそうに私に触れようとしてくる茶髪に藍色の目をした騎士の手を叩いた。

「聖女である私の命に背くの?」
私の言葉に国境を守る騎士たちが震え上がる。

天罰があるとでも想像したのだろう。
残念だが私にそんなものを与える能力はない。

その時、疾風の如く早い風が私と検問の前をすり抜けた。
驚く程の速さで、馬を走らせてきた男が下馬し私に近づく。

セリアの婚約者である赤髪に灰色の瞳をしたマイロ・ブラウン卿。
心地良い風が肌を擽る今日。
余程急いで私を追って来たのか流汗淋漓というように、汗でびしょびしょだ。
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