聖女リオノーラの反逆〜千年の恋のためクズ夫を寝取ってください〜

専業プウタ

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3.憧れと逃亡。

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「セリア。僕を置いて先に行かないでくれよ。寂しいじゃないか」
「マイロ⋯⋯」
初めて目の前の男を呼び捨てにする。

マイロ・ブラウンが私をセリアと勘違いしている訳がない。
マイロ・ブラウン卿は父レシャール侯爵が団長を務める第2騎士団で副団長をしている。その縁もあり、人柄と腕を見込まれセリアの婚約者となった。


⋯⋯これは演技。

「セリア、また憧れのリオノーラお姉様の真似をしていたのか?」

セリアはドレスや身につけるジュエリーや髪飾りに至るまで、私と同じものを選んで真似をした。それを可愛らしいと思っていた私は大馬鹿者。彼女は私のエメラルドのピンを男娼の集う娼館に置いてきた。

私のイニシャルが彫ってあった事で、ヘアピンは私の持ち物と誤解されスキャンダルとなり恥を掻いた。私が自分のヘアピンの紛失を気がつけなかったのは、セリアが自分のものと密かに取り替えていたからだ。

セリアは身体が弱く、滅多に外に出ない深窓の令嬢と世間では思われている。

彼女は私のドレスと似せたドレスを着用し、私の名前を使っては夜遊びをした。銀髪はベルナール王国では珍しく、直にあった人以外は彼女を私と誤認。彼女は仕切りに私を貶めようとした。

「ふふっ、だってリオノーラお姉様は素敵ですもの。私もお姉様のようになりたいわ」

定型句のようにセリアが呟いていた心にもないだろう言葉を吐く。
セリアが私を憧れではなく、嫌悪と憎しみに満ちた目で見ているのは行動からも明白。

「第2騎士団副団長、マイロ・ブラウンだ。今、婚約者のセリアと婚前旅行中なんだ。王宮が少しピリピリしているみたいだけど、彼女に負担をかけないで欲しい。知っているかもしれないが、彼女はあまり外に慣れていないから」

私の肩に遠慮がちにマイロが触れて来た。
私は外に慣れていない演技をしようと、俯き目を泳がせる。

そっと検問の騎士たちが道を開ける。
私はほっとして、自分の胸の辺りの布を掴んだ。

視線を首のあたりに感じ振り向くと、マイロが私を心配そうな瞳で見つめている。

私とマイロは検問を抜けると無言で馬を走らせた。

どれくらいか馬を走らせたところで、見渡す限りの平原に出る。雲一つない青空と何処までも続く広野。
眩しいくらいの温かい日差しが気持ちが良い。

初めて足を踏み入れるアントワーヌ帝国。
栄えていると聞いていたが、首都から離れると何もないようだ、

「リオノーラ様! お伝えしておきたいことがございます!」
私の後をピッタリと随行して来るマイロが口を開く。

「何?」
「セリアはリオノーラ様として王宮で振る舞っています。リオノーラ様がお戻りにならない場合は来月の公式行事へも参加予定です」
「何ですって?」
私は思わずノワールを停めてマイロの方を向いた。

彼は王宮での事情を知り、慌てて馬を走らせて私を追って来たのだろう。
(エイブラハム国王の提案? セリアの入れ知恵?)

来月には王宮が平民にも解放される年に一度の解放日がある。

聖女の力を求めて多くのベルナール王国民が集う。
見た目はベールで隠して騙せても、聖女の力は誤魔化せない。

「マイロ! 貴方はどこまでセリアのことを知っているの?」
「セリアがリオノーラ様と血の繋がった双子の妹ではなく、貧民街で買われた子だと言う事は⋯⋯」

十分だ。

どうやらレシャール家の最大の秘密は漏れていたようだ。
私、リオノーラはレシャール夫妻の間にやっと生まれた待望の子。

当時レシャール侯爵は事業に失敗し、大貴族とは思えないくらい経済的に切迫していた。
屋敷の内情は使用人を雇うどころか、食べるものにも困る状態。

そこで目をつけたのが、ベルナール王国が人口減少に歯止めをかけるために作った報奨金制度。

子供1人当たり1000ベルという平民であれば一年は暮らせる額を、出産報奨金として配布する。
元々、平民が経済的理由に出産を渋るのを回避する為に考えられた政策。

レシャール侯爵は隣国の貧民街に赴きパンが買える程度の額で、娼婦からセリアを買い付けてきた。
そして、レシャール侯爵夫人が双子を産んだという体にして、2000ベルを手に入れ侯爵家の窮地を脱した。

しかし、そこで喜ばしくも悲劇的な誤算。

それは娘リオノーラ・レシャールに聖女の力があった事。

歴史上、双子の聖女が現れたことは何度かある。
聖女の双子の妹は当然聖女。

レシャール侯爵は、セリアの身体が弱いということにして滅多に外に出さなかった。

「それで? 貴方はセリアに懐柔されて私を陥れに来たのかしら?」
私の言葉に目を伏せて首を振るマイロ。

私の知る限り、過去にも彼が私を尊重しなかった事はない。
実直な彼はいつも私同様にセリアの企みに振り回されていた。

「私を懐柔した所で、たかがしれてます。私は聖女を有する国の騎士として、リオノーラ様に忠誠を誓っております」

マイロは感情に左右されず、忠誠心の高い男。
彼は裏切りに苦しめられる今世で、私が信用できた数少ない人間の1人。

セリアの目的はあくまで私を苦しめる事。
彼女はその身体だけを武器に、私の立場を脅かし続ける。
薬屋から不妊の薬を秘密裏に手に入れた時も、その身体を使い手練手管で薬師を唯唯諾諾として従わせた。

「自分のことを価値がない男だと思ってる? 少なくとも私から見ればカルティスよりずっといい男よ。マイロ」

マイロは彼の髪と同じくらいに顔を真っ赤にした。
(人に褒められる事に慣れてないのね)

「もっと、良い男を教えてやろうか。リオノーラ」
空から聞こえた冷ややかな低い声に身震いして、俯く。

私はこの声の主を知っている。

「ガルルッ。」
ドラゴンが唸る声。
おそらく、私が今最も恐れる男はドラゴンに乗って目の前にいる。
(どうして私の居場所が?)

カルティスが王位に就くより、ベルナール王国はアントワーヌ帝国の支配下に入った方が良い。過去に追い詰められた私はアントワーヌ帝国の皇帝であるシリル・アントワーヌに手紙を書いた。その結果ベルナール王宮は血で染められた。

平和的にベルナール王国を帝国の領地とする案を提案したのに、全く違うアプローチをしてきたシリル・アントワーヌ。

聖女である私の前で、平然と殺戮を繰り広げた男。

「アントワーヌ帝国、シリル・アントワーヌ皇帝陛下にマイロ・ブラウンがお目に掛かります」
咄嗟に跪いたマイロ。
彼の声が震えているのを初めて聞いた。

私はそっと、この世界唯一の皇帝である男の顔を覗き見る。

圧倒的威圧感と、射抜くような灼眼。
転生を繰り返す中でも、魔法使いの治めるアントワーヌ帝国に「生」を受けた事はない。

聖女と魔法使い。
それは相容れない存在。
聖女は助けの必要な土地に生まれてくる。
アントワーヌ帝国は魔法で潤っていて私は不要。

「挨拶もできないのか?」
シリルの低い声に責められているような気分になる。
顎を指で持ち上げられ、目を合わせさせられた。
白磁のような白い肌に、吸い寄せられるようなルビー色の瞳。

自分が彼に見惚れている事に気がつき、私の頬へと移動する彼の手を掴んだ。

「私は聖女リオノーラ! シリル・アントワーヌ! 貴方の方こそ初対面の相手に対して失礼ではありませんか?」
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