聖女リオノーラの反逆〜千年の恋のためクズ夫を寝取ってください〜

専業プウタ

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4.傲慢。

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「ふっ、気の強い女だ」
私をまっすぐ見ながら呟くシリルの美しい瞳にまたも見惚れてしまう。

自分でも恥ずかしくなり、目を逸らすとノワールが微かに震えてるのが見えた。
目の前には息遣いの荒い硬い鱗で覆われ牙を持ったドラゴン。
ベルナール王国にはいない神獣。

ノワールが怖がるのも無理はない。

「ノワール、そんなに怯えないで。大丈夫よ」
ドラゴンに怯えて震えているノワールを慰めていると、シリルが吹き出した。

「馬に名前を付けてるのか? 可愛い女だな」
「皇帝陛下にも名前はありますよね!」
私がムッとして言い返すと、シリルは再び冷ややかな目つきに変わった。

「まさか、人も動物も植物も皆平等だとか、聖女らしい寒い事を言うんじゃないだろうな」
「私の元で世界中の生きとし生けるものは皆平等です!」

私にとっては当たり前の常識だ。
人々が勝手に聖女は国のトップと同じ地位だと言い出した。
しかし、私は世界を平和に、あらゆる生物を幸せに導く天命を受けている。

「噂と違って随分傲慢な思想を持ってるんだな。気に入った。行くぞ! リオノーラ」
シリルが私にドラゴンに乗るように促す。
「私、1人だけ乗るわけにはいきません」

「いちいち、面倒な女だ」
シリルは私を横抱きにすると、無理やりドラゴンに跨らせた。

「リオノーラ様、私はノワールも連れ、後を追いますのでご安心を」
私の不安を察してくれたマイロが叫ぶ。

「マイロ! 任せたわ。信頼してる」
マイロは私の言葉にまた顔が紅潮。
心情が表情に出やすい彼は信頼できる。

私は後ろにシリルの吐息を感じながらドラゴンに乗った。

千年もの間繰り返し生きてきたのに、このような空高く舞う事は初めてだ。
眼下には平原が広がっている。
今いるところは風が強く、吹き飛ばされそうだ。
私は急に怖くなり、目を軽く瞑りドラゴンの首に抱きついた。

「さっきまでの威勢はどうした? 随分、怖がりなんだな」
シリルの挑戦的な声。
言い返したいのに、恐怖で唇が震えてしまい声が出ない。
(このまま死ぬのは嫌⋯⋯)

私は自分が長い間世界に尽くしてきたという自負があった。
リオノーラとしての人生は今までの私を完全否定。

私を尊重しない夫に、私を憎む双子の妹。
悪意により貶められ、傷つく度に霧がかる心。

今まで運良く環境に恵まれていて、目指したように改革ができただけ。
思うように生きられたのは私の実力ではない。
私は聖女の力を失ったら無用の人。

日々恐怖心に苛まれ、それと共に聖女の力は弱体化。
体内を巡る光の粒子を必死に掻き集めて、聖女の力を無理くり放出するような日常。
もう「時戻しの術」を使える聖女の力も残っていないだろう。

「終わりたくない⋯⋯ここで、終わるのは嫌」
私は只管にドラゴンの首にしがみついた。
ゴツゴツ硬い鱗。
恐れを成しそうな見た目をした神獣に縋る自分。
(一番怖いのは人の悪意ね)

世界の為に常に考え、生まれた国に尽くした。

思い起こすと、私が本当に愛したのは共にペルケノン王国を建国した最初の夫だけ。
転生を繰り返しながら、常に聖女の役目を果たす神のマリオネット。
愛していると言い聞かせ、国の指導者になる夫を聖女として庇保。
子孫を残すのも役目だと信じていたが、今世ではそれも叶いそうにない。

「私だって⋯⋯」
私の下に人は平等。
私が支えるべき人々。
感謝され、尊重されていたから出来ていた事。

私だって自由に生きたかった。
恋をして、好きな人の子を産みたかった。
(ああ、好きな人の子を産んだ事もあったわね⋯⋯クレイグ)

私と最初の夫クレイグの間に生まれた子は王位を継ぎ、ペルケノン王国を繋いでくれた。
全てが夢だったのかと思える程遠い日の記憶。

カルティス、セリア⋯⋯全てが崩れていく。

「お、おい。高い所は苦手だったのか。リオノーラしっかりしろ」
薄れゆく意識の中で、私が恐れている男の声を聞いた。

♢♢♢

うっすらと目を開けると見知らぬ天井があった。
背に柔らかさを感じる。
私はベッドに寝かされているようだ。
「ここは⋯⋯」

「起きたのか、リオノーラ。ここはアントワーヌ帝国の皇宮だ。今日から、この部屋を使え」
知る限り冷たい視線をいつも向けてきたシリル・アントワーヌ皇帝。
今の彼はらしくもなく心配そうに私を見つめていた。

眉を下げた表情が、一瞬クレイグと重なる。
無鉄砲な私を愛情に溢れたアメジストの瞳で心配そうに見つめていた遠い昔に愛した男。
私は思わず甘えた気持ちになり、皇帝が目の前にいるのに起き上がるのをやめて布団に包まった。

最高級のベッドの質感が気持ち良過ぎる。
この部屋は広く開放感もあり居心地が良い。

束ねてあるエンジのカーテンの高級感あふれる質感。
繊細な彫刻が施してある調度品。
アントワーヌ帝国がいかに栄えているかが窺える。

「私をここまで運んでくれたのですか? ありがとうございます」
私がお礼を言うとシリルは目を丸くした。

元々彼に会いに来る予定だった。

ベルナール王国の現状は非常に良くない。
貨幣価値は下がり、物価の上昇は止まることを知らない。

貧富の差は広がり、労働力としている平民たちは住みやすい他国へ流出。
王家への不満は高まっているのに、約3年後に王位を継承するカルティスは現状に目を向けようともしていない。

私なりに対策を取ってきたが、他国の助けなしではどうにもならなくなってきた。アントワーヌ帝国は周辺諸国では格段に安定している。

「調子が狂う。威勢よく俺に噛みついてきた狂犬リオノーラはどこに行ったんだ?」
シリルが笑っているのを初めて見た。

いつもの人を遠ざけるような威圧感がない。
平気で人を惨殺する怖い方なのに、今、彼の存在は私に安心感を与えている。

綺麗でずっと見ていたくなるような微笑み。
私を安心させてくれる穏やかな声。

私は思わず彼の腕に手を伸ばし引き寄せた。
「人の善意には感謝をします。当然のことです。私はシリル・アントワーヌ皇帝陛下にお願いがあって参りました」

「ああ、離婚させて欲しいってことだろ?」
世間的には仲睦まじい夫婦と思われている私とカルティス。
シリルは心でも読めるように私の気持ちを知っている。
(問題はカルティスと別れた後、ベルナール王国をどう導くか⋯⋯)

カルティスと縁を切りたいと思いながら、ベルナール王国のことをまだ考えている自分に嫌気が差した。
(天命に縛られて自由がないわ)

「カルティス・ベルナールとは離婚するつもりです。彼は私が尽くすべき相手ではありません」

カルティスは王の器にあらず。
聖女である私を当てがって、愚息をなんとかして欲しいというエイブラハム国王の気持ちには応えられない。

「じゃあ、俺の女になるか? そうなれば、小国の王子となど直ぐに別れられる」
寝転がったままの私に覆いかぶさってくるシリルに、私は恐怖よりも驚きを覚えた。
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