聖女リオノーラの反逆〜千年の恋のためクズ夫を寝取ってください〜

専業プウタ

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5.失敗したと思ってた⋯⋯。

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「そこを退きなさい! シリル・アントワーヌ。私はベルナール王国、王位継承権第一位カルティス・ベルナールの妻です」

私は至極当然の事を言ったつもりが、シリルは気分を害したように鋭い視線で睨んできた。

「離婚したいようだから、助けてやろうとしているだけだがな」
私の上から退きながら、ベッドに腰掛け私を横目で見下ろすシリル。

「なぜ、私が離婚をしようとしてると思うのすか? ベルナール王宮にはアントワーヌ帝国の諜報員でも潜んでいたりするのかしら。それとも、魔法道具で王宮内の会話を盗聴でもしているのでしょうか?」

私は体を起こしながら、シリルの目の奥を見た。
私の発言に対して全く動揺が見られない。
(じゃあ、なんで⋯⋯)

「なぜ、アントワーヌ帝国が小国であるベルナールごときの情報を欲しがると思うんだ。俺が欲しいのは⋯⋯」
「私! シリル・アントワーヌ皇帝陛下、貴方が欲しいのは私ですよね」
咄嗟に出た言葉に自分でも恥ずかしくなった。

でも、アントワーヌ帝国領土に入り、出迎えとばかりにシリルが私の元に現れた。
今、思うと国境の検問所にはアントワーヌ側の人間もいる。
魔法道具で皇宮にいるシリルに私が国境を越えた事を連絡すれば、ドラゴンに乗ってあのタイミングで私を出迎えられる。

「そうだと言ったら、どうするんだ? 聖女様」
私の手を引き、半ば強引に隣に座らせてくるシリル。

「どうもしませんわ。私は離婚しても、ベルナール王国の民と国益の為に尽くす聖女。それが、ベルナール王国の地に聖女として生まれた⋯⋯」
「天命だからだろ」

私が最後まで言う前にシリルに言葉の先を当てられる。
思考が読まれている気がして、心臓の鼓動が速くなる。

「私のプライベートの事には干渉しないでください。余計なお世話です。私はアントワーヌ帝国に外交に来たのです。皇城を案内して、宰相にも会わせてくださいますか?」

この部屋の暖炉の火は明らかに魔法を使って灯されたもの。
火花や煙が出ないように操作されている。
火事になりづらく、とても便利。
皇城を見て回るだけでも、勉強になりそうだ。

「待ってくれ。どうして、そんなに偉そうなんだ? 俺は皇帝だぞ」
シリルはなぜか笑いを堪え切れなそうにしている。

「シリル・アントワーヌ、貴方が皇帝なら、私は聖女です。どうせなら、今後のアントワーヌ帝国との関係について語りながら皇城を見て回りたいと考えておりますわ」

私の言葉にシリルは溜息を吐くと、私を急に横抱きにして立ち上がった。

「降ろしてください! ちゃんと自分で歩けますわ」
「気を失って丸3日も寝ていた癖によく言うな」
「もしかして、丸3日も付き添っていたのですか?」

図星だったようで、シリルは気まずそうに目を逸らし私を床に降ろす。
エスコートするように差し出してきた彼の手に触れる。
剣術の鍛錬を怠っていない硬い指先。
魔法が使えるのに、あらゆる状況への備えを怠らない男。

一瞬、彼の表情が少し和らぎ、似ても似つかぬ最初の夫の姿と重なった。

こんなにもクレイグの事を思い出すのは、私の繰り返しの転生もこれが最後だからかもしれない。

皇城の廊下は広々していて、床は艶々の大理石で出来ていた。
風魔法を使って掃除をしていた使用人が、シリルの姿を見て手を胸にあて頭を軽く下げてお辞儀をする。

「火、水、風、闇、光、5種類の魔法が存在する」

シリルが先生のような口調で魔法について説明し出す。
5種類の魔法を使えるのは彼だけで、その魔力の強さもあり彼は兄を退け皇帝になったらしい。

「光魔法は治癒魔法ですね。ここでは、私は不要のようですわ」
私はアントワーヌ帝国にいたら聖女と崇められる事なく、普通に暮らしていそうだ。

「来月、ベルナール王国の解放日なんです。いつも私の力を求めて多くの人がこの日を待っております。宜しければ、光魔法の使える治療師を何人か派遣してくれないかしら?」

解放日を待ち侘びている病人や怪我人を私1人で全員対応するのは困難。私はその状況をなんとかしたいと思っていた。

「リオノーラ、君は聖女の力がなければ自分の存在は不要だと思っているのか?」
「⋯⋯」
シリルは痛いところをついてくる。
千年積み上げた知識、自分が達成してきた功績。
私は自分の歩んできた道に自信を持っていた。

しかしながら、子を成せない王妃の扱いは悲惨。
尊厳を傷つけられ続け、私の心の拠り所は聖女の力のみになっていった。

廊下の向こう側から、肩までの輝くプラチナブロンドの髪にルビー色の瞳をした艶っぽい男性が歩いて来る。後ろにはゾロゾロと貴族たちを引き連れているので、それなりの身分の方だろう。

「シリル・アントワーヌ皇帝陛下に、コンラッド・アントワーヌがお目にかかります。聖女リオノーラ様のお身体が回復したようで喜ばしく思います」

(アントワーヌ?)
私は思わずシリルとコンラッドを見比べた。
色っぽい顔立ちにルビー色の瞳が似ている。

「俺の即位と共に臣籍降下した兄のコンラッドだ。今、アントワーヌ帝国の宰相を務めている」

「リオノーラ・ベルナールでございます。以後、お見知り置きを」
私は淡い水色のワンピースを持ち上げ挨拶した。

(あれ、私、ここに来る時はグリーンのドレスを着ていたはずだけど)
一週間、湯浴みもしていないのに体からは仄かに薔薇の香りがする。

ちらりとシリルを覗き見ると、口の端を上げてニヤリと笑った気がした。
(いくら何でも、そんな侍女がするような事しないわよね。考えるのはやめよう)

「聖女リオノーラ様は噂に違わぬ美しさですね。皇帝陛下、午前中の貴族会議の資料です。午後は公務ですよね。宜しければ、リオノーラ様の対応は私の方で致しましょうか?」

穏やかな笑みを浮かべるコンラッド。
シリルは忙しいのに、私に付き添っていたようだ。
「私からもお願いします。皇帝陛下」

「分かった。アフタヌーンティーは一緒にしよう」
シリルは私の肩をトントンと叩いて去っていった。
冷たそうな彼がアフタヌーンティーなどを嗜むのが意外過ぎる。
胃が空っぽで空腹を感じディナーまでは持ちそうにない現状では、ありがたい申し出。

「では、リオノーラ様。ランチでもしながらお話ししましょうか」
コンラッドが差し出して来る手に、私は手を重ねた。
彼に連れてこられたのは、離れにある個室の部屋だった。

アントワーヌ帝国の伝統的な調度品が品よく飾られている。
テーブルに一気に並べられたコース料理に私は目を白黒させた。

「メイドも諜報員である可能性があるので下げました。リオノーラ様、僕に秘密裏に話したい事があるんじゃないんですか?」
コンラッドは艶っぽく囁く。
まるで、誘惑して来るような声色。

「ありますわ。こちらからお願いしたいのは2つ。来月、ベルナール王国で解放日があります。その際に光魔法を使える治療師をお貸しして頂きたいこと。もう1つはアントワーヌ帝国とベルナール王国の間に防衛関係のある友好条約を結んで頂きたいのです」

ベルナール王国をいっそアントワーヌ帝国の領地にしてしまおうという案は危険。
前回、事細かな平和的提案書を送ったにも関わらず、アントワーヌ帝国はベルナール王国に攻め込んで来た。平和条約を無視して強国に武力で攻め込まれたら、ベルナール王国にはなす術がない。

私の提案を聞くなり、かぼちゃのスープを啜りながら気怠そうにコンラッドは囁いた。

「それらの提案を受け入れる事でアントワーヌ帝国に得はあるんでしょうか? 自分の提案が受け入れられると思っているのは、僕が君に一途だったクレイグだと知っているからですか?」

私は突然、彼の口から飛び出した唯一心から愛した人の名前に硬直した。

眼前の男をまじまじと見る。
私よりも生真面目で、私を溺愛し願いを何でも叶えてくれたクレイグ。
生まれ変わっても一緒になりたいと、私は一抹の望みをかけて彼に聖女の力で「転生術」を使った。

「転生術」は「時間を戻しの術」よりも莫大な聖女の力を使う。

「失敗したと思ってた⋯⋯。貴方なの? クレイグ。エメラルドのイヤリングを左耳だけに付けているのは私を守るって意味よね」

よく見るとコンラッドは左耳だけにイヤリングを付けている。
利き手と反対側だけイヤリングをつけるのは、隣の女性を守るという意味。
エメラルドは私がチェルシーだった時の瞳の色。
「夫婦愛」はエメラルドの石言葉。

私は席から立ち上がり、彼に近づいた。心臓の鼓動が自分でも聞こえるくらい強く、愛しい人へと私を掻き立てる。

「えっ? このイヤリング?」
コンラッドが右手をクロスさせ自分の左耳に触れようとする手をとった。
彼が目を見開いて私を見つめている。

「そんなイヤリングよりも、私に触れて。ずっと貴方に触れて欲しかったの」
私は掴んだ彼の手をそのまま自分の唇に誘導した。









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