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22.夫の執着
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私はまずはブレンダン司教を説得しに向かった。
「カルティス王子殿下と離婚し、ベルナール王国を離れる? ご冗談を」
「冗談ではございませんわ。ブレンダン司教、私はカルティス王子殿下とは添い遂げられません。離婚を許可してください」
離婚を反対されるのは織り込み済み。
「聖女ともあろうお方が人の過ちを許せないとは嘆かわしい」
真っ黒な瞳を覆い隠しながら呟く、ブレンダン大司教。
「過ちとは不貞行為の事ですか? それ共、罪もない私の妹を処刑しようとした事? 何も過ちなどと簡単な言葉で片付けられるものではありません!」
私は火の魔力を使い、昼間は消えている大聖堂の中の全ての燭台に火をつけた。
ブレンダンは驚いたような顔で絶句し目を丸くしている。
「たかだか、大司教ごときが私に意見をするなど言語道断。私は転生を繰り返す大聖女」
大聖女は歴史上この世界で私一人。
だからこそ、大聖女の能力は知られていない。
実際、私ができるのは「治癒」と「時を司る事」。
私以外の聖女ができる事と何ら変わらない。
私が伝説の大聖女である事は「転生を繰り返す」という事実でしか証明が不可能。
私だけの記憶。そんな私をずっと見つめてくれてたのはシリルだけ。
それにしても、シリルはそんな大きな秘密をコンラッドに話していた。
彼はコンラッドにヤキモチを妬いていたけれど、私も妬けてしまう。
「この火は一体⋯⋯」
「これが、私が大聖女たる証。私は時を司るだけでなく、人が千年以上前から生きる糧としていた炎と水を操れます」
聖女を利用する大司教。
それならば、圧倒的な存在として彼を跪かせる。
大聖女が魔力をも持つという設定はコンラッドの提案。
「大聖女様。リオノーラ様があの伝説の⋯⋯」
唐突に跪いて来たブレンダン大司教は私の手の甲に顔を擦り付けてきた。
「寄付を集めるのに私を利用しましたね? 寄付をすれば、聖女が次の転生先に選ぶなどというのは出鱈目です」
見下ろすように私が言うと、ブレンダン大司教は頭を床に擦り付けてきた。
「利用だなんて、滅相もございません」
「そう⋯⋯では、私の離婚を承認してください」
突然、大聖堂の扉が開く。
「リオノーラ、君は大聖女だったんだね。やっぱり、君は特別だ」
カルティスが恍惚とした表情で私に近づいて来た。
「カルティス。もう、回復したの?」
「君が聖女の力で治してくれたんだろ。君を怒らせて痛い目に遭ったけれど、僕は許すよ」
火だるまにされても、私を許すなどという彼が怖い。
「カルティス、私は貴方を許してないわ」
「セリアと寝た事をまだ怒ってるって言うのは、君が僕を好きな証拠なんじゃない?」
「違うわ」
「君は何度も転生を繰り返す中で、色々な男と寝て来たんだよね。僕はそれも許すよ」
カルティスの言葉は私の心臓を残酷に切り裂いた。
私はぎゅっと胸元にある指輪のネックレスを握る。
「それは、国を正しい方向に導く私の役目だったからよ。貴方の浮気と一緒にしないで」
自分の声が弱々しい。
私は今カルティスではなく、通信魔法道具の指輪を通じて聞いているかもしれないシリルに言い訳をしている。
「人は過ちを犯すものだよ。君はどうして僕にだけそんなに厳しいの? セリアの方が君を陥れようと暗躍して来たじゃない」
セリアに対して私も以前はカルティス同様に思っていた。
「カルティス、私は貴方に失望して2度も時を戻している。今回で3度目なの貴方との結婚生活。一度めは結婚一年で貴方はセリアと浮気した。はっきり言って浮気がなくても貴方は最低の男だったわ」
カルティスは仕事を私や第二王子であるレアードに任せて、自堕落な生活を送っていた。彼を愛そうとしても、私の気持ちは日に日に彼から離れていった。そんな時に庭園でセリアと彼が抱き合って口付けを交わしているのを見て、ショックで時を戻した。
「最低? セリアと浮気した言うけれど、僕は彼女のこと人として見てないよ。それなのに浮気扱い?」
「セリアは貴方が守るべき国民の1人。人として見てない? だとしたら、貴方は玉座に座る資格がない。もういい加減にして」
「じゃあ、2度目は? 2度目はどうして時を戻したの?」
「最低な貴方は毎晩のように酒と女にうつつを抜かし政務を怠った⋯⋯」
「それって、僕が悪いのかな? リオノーラが僕の相手をしてくれなかったからだよね。僕が好きなのは君だけだ。君が心に開けた穴を埋めようと必死だったんだと思う」
カルティス・ベルナール名物。恐ろしい程の他責思考。
確かに2度目はセリアと浮気した彼を穢らわしく感じて、私は彼を避けるようになった。
「たかがそんな事で時を戻すなんて、本当にリオノーラは繊細だな。僕が愛しているのは君だけだから安心して」
私に手を伸ばしてくる彼の手を思いっきり叩いた。
「違う! 言ったでしょ!」
私は咄嗟に指輪の通信機能を切った。
「アントワーヌ帝国がベルナール王国を攻めてみんな死んだの。だから時を戻したの」
自分でも涙声になるのが分かった。
シリルには絶対に聞かれたくない。
今でもシリルがあの時全てを焼き尽くしたのか理解不能。
本当は何となく分かっている。
私はあの時手紙でシリル・アントワーヌにベルナール王国の実情を事細かに説明した。
他の男に奪われたと涙を飲んで千年の恋を諦めたシリル。
そんな彼に私は夫カルティスへの不満をぶちまけてしまった。
私を粗末に扱われていると感じたシリルは許せなかったのだ。
彼は誰より私を尊重して愛してくれていた人だから。
「平和条約があるのに?」
「カルティス、貴方はどれだけ平和条約が無敵だと思っているの? 私の存在がアントワーヌ帝国に移れば一気に破棄されるものよ」
「そうです! ベルナール王国の為にもリオノーラ様には此処にいて頂かねば」
突然、足元で跪いていた大司教ブレンダンが大声を出す。
「アントワーヌ帝国とは友好条約を結んだわ」
「もしかして、僕と離婚して君はシリル皇帝の元に行こうとしてる?」
カルティスに図星をつかれる。
「やっぱり、そうなんだ。服で隠してるつもりだろうけれど、指輪をネックレスにしてるよね。それって、何? 浮気してるのは君の方じゃないか!」
カルティスが私の首元に手を伸ばしてくる。
「やめて!」
私は咄嗟に水の魔法で彼の手を凍らせた。
火の魔力は殺傷能力が強すぎるが、水の魔法は身を守る為に使いやすい。
私は3歩ほど下がってカルティスから距離をとると、氷を溶かした。
「僕は君の一時の心変わりも許せるよ。心が不安定になっていたんだよね」
「心変わりなどではないわ。私にだって相手を選ぶ権利はあるのよ」
私は神のマリオネット。
でも、感情のあるマリオネット。
今まで心から愛したのはシリル一人。
そんな中、私が歴代の夫に尽くせたのは、夫が私を尊重していたから。
「僕の何が不満? 聖女なら無償の愛を持って僕を愛してよ」
「無償の愛? 貴方は国王陛下から無償の愛を受けているじゃない。それはとても幸運な事よ」
親が無条件で子を愛する。
王族という難しい立場で、そのような稀有な愛を受けたカルティス。
愛を受けた者は愛に溢れた人間に育つ。
私の思い込みを砕いたのは彼。
カルティス・ベルナールは自分しか愛さない男に成長。
「僕が幸運? 当たり前じゃないか。僕は選ばれた人間。だから君を手に入れられる」
カルティスの言葉に背筋が凍った。
クレイグの側にいた時の私は自分が選ばれた無敵な人間のような感覚があった。
神になったような気持ちで愛する男に転生術を使った。
「もうやめて。カルティス、貴方は誰にも選ばれてなどいないわ。私も貴方は選ばない」
カルティスは私の声を聞くなり苦しそうな顔をする。
(初めてかもしれない、こんな顔)
「君以外の女はもう絶対に抱かないと誓うよ。リオノーラ、君の側にいられるように努力する。だから一緒にいて。情けないけれど、生まれて初めて欲しいと思ったのは王位でもなく君だけなんだ⋯⋯」
「そう、じゃあ、王位継承権は放棄して」
信じられないことに彼は自ら王位継承権を放棄してくれるらしい。
それならば、その提案に乗らないことはない。
「何もかも失ってしまった僕とでも、一緒にいてくれるなら」
彼が自分が王位を継がなければ何もないと思っているのが自分と重なり苦しくなった。
「全ては貴方次第よ。カルティス」
カルティスが変われる訳がない。
彼がどれだけクズかは私自身が一番よく知っていた。
問題は溺愛するカルティスが王位継承権を放棄すると宣言した時のエイブラハム国王の反応。
カルティスはその晩当たり前のように私の寝室に来た。
「カルティス、お願い。受け入れられないわ」
「今までの男はお役目とやらで受け入れてきたのに?」
彼の冷ややかな言葉が私の胸に突き刺さる。
「カルティス、私にも感情はあるの。自分の妹と関係を持つような男は受け入れられない」
「そうか⋯⋯全部、セリアが悪いんだな」
カルティスは呟くと部屋を出ていった。
私はセリアに彼の怒りが向くことを恐れた。
「待って、カルティス。セリアを責めるのはやめて」
私はカルティスの腕を慌てて掴んだ。
彼は私を不思議そうに見つめている。
セリアの戸惑いを今なら理解できた。
私は彼女を妹として扱った。
しかし、真実を知る周囲はそうではなかった。
「じゃあ、君が僕に開けた穴は君自身が埋めてくれるということ?」
カルティスの私を見下ろすような視線と言葉に背筋が凍った。
甘やかされ愛されてきた人間。
誰よりも恵まれて育っただろう男。
「お断りするわ。私はたとえ神の命だろうと、自分の尽くすに値する男ではないと判断すれば離れる。心に穴が開かない人間などいない。それを自分で埋められないのならば、貴方はそれまでの人間」
「リオノーラは僕にだけ厳しい⋯⋯これだけは覚えておいて。僕が好きなのは君だけ。僕が完璧な王子になったらどうする? 君は僕から逃げる大義名分をなくすんじゃない?」
ニヤリと笑うとカルティスは私から離れた。
想像以上に彼は私を理解していた。
「カルティス王子殿下と離婚し、ベルナール王国を離れる? ご冗談を」
「冗談ではございませんわ。ブレンダン司教、私はカルティス王子殿下とは添い遂げられません。離婚を許可してください」
離婚を反対されるのは織り込み済み。
「聖女ともあろうお方が人の過ちを許せないとは嘆かわしい」
真っ黒な瞳を覆い隠しながら呟く、ブレンダン大司教。
「過ちとは不貞行為の事ですか? それ共、罪もない私の妹を処刑しようとした事? 何も過ちなどと簡単な言葉で片付けられるものではありません!」
私は火の魔力を使い、昼間は消えている大聖堂の中の全ての燭台に火をつけた。
ブレンダンは驚いたような顔で絶句し目を丸くしている。
「たかだか、大司教ごときが私に意見をするなど言語道断。私は転生を繰り返す大聖女」
大聖女は歴史上この世界で私一人。
だからこそ、大聖女の能力は知られていない。
実際、私ができるのは「治癒」と「時を司る事」。
私以外の聖女ができる事と何ら変わらない。
私が伝説の大聖女である事は「転生を繰り返す」という事実でしか証明が不可能。
私だけの記憶。そんな私をずっと見つめてくれてたのはシリルだけ。
それにしても、シリルはそんな大きな秘密をコンラッドに話していた。
彼はコンラッドにヤキモチを妬いていたけれど、私も妬けてしまう。
「この火は一体⋯⋯」
「これが、私が大聖女たる証。私は時を司るだけでなく、人が千年以上前から生きる糧としていた炎と水を操れます」
聖女を利用する大司教。
それならば、圧倒的な存在として彼を跪かせる。
大聖女が魔力をも持つという設定はコンラッドの提案。
「大聖女様。リオノーラ様があの伝説の⋯⋯」
唐突に跪いて来たブレンダン大司教は私の手の甲に顔を擦り付けてきた。
「寄付を集めるのに私を利用しましたね? 寄付をすれば、聖女が次の転生先に選ぶなどというのは出鱈目です」
見下ろすように私が言うと、ブレンダン大司教は頭を床に擦り付けてきた。
「利用だなんて、滅相もございません」
「そう⋯⋯では、私の離婚を承認してください」
突然、大聖堂の扉が開く。
「リオノーラ、君は大聖女だったんだね。やっぱり、君は特別だ」
カルティスが恍惚とした表情で私に近づいて来た。
「カルティス。もう、回復したの?」
「君が聖女の力で治してくれたんだろ。君を怒らせて痛い目に遭ったけれど、僕は許すよ」
火だるまにされても、私を許すなどという彼が怖い。
「カルティス、私は貴方を許してないわ」
「セリアと寝た事をまだ怒ってるって言うのは、君が僕を好きな証拠なんじゃない?」
「違うわ」
「君は何度も転生を繰り返す中で、色々な男と寝て来たんだよね。僕はそれも許すよ」
カルティスの言葉は私の心臓を残酷に切り裂いた。
私はぎゅっと胸元にある指輪のネックレスを握る。
「それは、国を正しい方向に導く私の役目だったからよ。貴方の浮気と一緒にしないで」
自分の声が弱々しい。
私は今カルティスではなく、通信魔法道具の指輪を通じて聞いているかもしれないシリルに言い訳をしている。
「人は過ちを犯すものだよ。君はどうして僕にだけそんなに厳しいの? セリアの方が君を陥れようと暗躍して来たじゃない」
セリアに対して私も以前はカルティス同様に思っていた。
「カルティス、私は貴方に失望して2度も時を戻している。今回で3度目なの貴方との結婚生活。一度めは結婚一年で貴方はセリアと浮気した。はっきり言って浮気がなくても貴方は最低の男だったわ」
カルティスは仕事を私や第二王子であるレアードに任せて、自堕落な生活を送っていた。彼を愛そうとしても、私の気持ちは日に日に彼から離れていった。そんな時に庭園でセリアと彼が抱き合って口付けを交わしているのを見て、ショックで時を戻した。
「最低? セリアと浮気した言うけれど、僕は彼女のこと人として見てないよ。それなのに浮気扱い?」
「セリアは貴方が守るべき国民の1人。人として見てない? だとしたら、貴方は玉座に座る資格がない。もういい加減にして」
「じゃあ、2度目は? 2度目はどうして時を戻したの?」
「最低な貴方は毎晩のように酒と女にうつつを抜かし政務を怠った⋯⋯」
「それって、僕が悪いのかな? リオノーラが僕の相手をしてくれなかったからだよね。僕が好きなのは君だけだ。君が心に開けた穴を埋めようと必死だったんだと思う」
カルティス・ベルナール名物。恐ろしい程の他責思考。
確かに2度目はセリアと浮気した彼を穢らわしく感じて、私は彼を避けるようになった。
「たかがそんな事で時を戻すなんて、本当にリオノーラは繊細だな。僕が愛しているのは君だけだから安心して」
私に手を伸ばしてくる彼の手を思いっきり叩いた。
「違う! 言ったでしょ!」
私は咄嗟に指輪の通信機能を切った。
「アントワーヌ帝国がベルナール王国を攻めてみんな死んだの。だから時を戻したの」
自分でも涙声になるのが分かった。
シリルには絶対に聞かれたくない。
今でもシリルがあの時全てを焼き尽くしたのか理解不能。
本当は何となく分かっている。
私はあの時手紙でシリル・アントワーヌにベルナール王国の実情を事細かに説明した。
他の男に奪われたと涙を飲んで千年の恋を諦めたシリル。
そんな彼に私は夫カルティスへの不満をぶちまけてしまった。
私を粗末に扱われていると感じたシリルは許せなかったのだ。
彼は誰より私を尊重して愛してくれていた人だから。
「平和条約があるのに?」
「カルティス、貴方はどれだけ平和条約が無敵だと思っているの? 私の存在がアントワーヌ帝国に移れば一気に破棄されるものよ」
「そうです! ベルナール王国の為にもリオノーラ様には此処にいて頂かねば」
突然、足元で跪いていた大司教ブレンダンが大声を出す。
「アントワーヌ帝国とは友好条約を結んだわ」
「もしかして、僕と離婚して君はシリル皇帝の元に行こうとしてる?」
カルティスに図星をつかれる。
「やっぱり、そうなんだ。服で隠してるつもりだろうけれど、指輪をネックレスにしてるよね。それって、何? 浮気してるのは君の方じゃないか!」
カルティスが私の首元に手を伸ばしてくる。
「やめて!」
私は咄嗟に水の魔法で彼の手を凍らせた。
火の魔力は殺傷能力が強すぎるが、水の魔法は身を守る為に使いやすい。
私は3歩ほど下がってカルティスから距離をとると、氷を溶かした。
「僕は君の一時の心変わりも許せるよ。心が不安定になっていたんだよね」
「心変わりなどではないわ。私にだって相手を選ぶ権利はあるのよ」
私は神のマリオネット。
でも、感情のあるマリオネット。
今まで心から愛したのはシリル一人。
そんな中、私が歴代の夫に尽くせたのは、夫が私を尊重していたから。
「僕の何が不満? 聖女なら無償の愛を持って僕を愛してよ」
「無償の愛? 貴方は国王陛下から無償の愛を受けているじゃない。それはとても幸運な事よ」
親が無条件で子を愛する。
王族という難しい立場で、そのような稀有な愛を受けたカルティス。
愛を受けた者は愛に溢れた人間に育つ。
私の思い込みを砕いたのは彼。
カルティス・ベルナールは自分しか愛さない男に成長。
「僕が幸運? 当たり前じゃないか。僕は選ばれた人間。だから君を手に入れられる」
カルティスの言葉に背筋が凍った。
クレイグの側にいた時の私は自分が選ばれた無敵な人間のような感覚があった。
神になったような気持ちで愛する男に転生術を使った。
「もうやめて。カルティス、貴方は誰にも選ばれてなどいないわ。私も貴方は選ばない」
カルティスは私の声を聞くなり苦しそうな顔をする。
(初めてかもしれない、こんな顔)
「君以外の女はもう絶対に抱かないと誓うよ。リオノーラ、君の側にいられるように努力する。だから一緒にいて。情けないけれど、生まれて初めて欲しいと思ったのは王位でもなく君だけなんだ⋯⋯」
「そう、じゃあ、王位継承権は放棄して」
信じられないことに彼は自ら王位継承権を放棄してくれるらしい。
それならば、その提案に乗らないことはない。
「何もかも失ってしまった僕とでも、一緒にいてくれるなら」
彼が自分が王位を継がなければ何もないと思っているのが自分と重なり苦しくなった。
「全ては貴方次第よ。カルティス」
カルティスが変われる訳がない。
彼がどれだけクズかは私自身が一番よく知っていた。
問題は溺愛するカルティスが王位継承権を放棄すると宣言した時のエイブラハム国王の反応。
カルティスはその晩当たり前のように私の寝室に来た。
「カルティス、お願い。受け入れられないわ」
「今までの男はお役目とやらで受け入れてきたのに?」
彼の冷ややかな言葉が私の胸に突き刺さる。
「カルティス、私にも感情はあるの。自分の妹と関係を持つような男は受け入れられない」
「そうか⋯⋯全部、セリアが悪いんだな」
カルティスは呟くと部屋を出ていった。
私はセリアに彼の怒りが向くことを恐れた。
「待って、カルティス。セリアを責めるのはやめて」
私はカルティスの腕を慌てて掴んだ。
彼は私を不思議そうに見つめている。
セリアの戸惑いを今なら理解できた。
私は彼女を妹として扱った。
しかし、真実を知る周囲はそうではなかった。
「じゃあ、君が僕に開けた穴は君自身が埋めてくれるということ?」
カルティスの私を見下ろすような視線と言葉に背筋が凍った。
甘やかされ愛されてきた人間。
誰よりも恵まれて育っただろう男。
「お断りするわ。私はたとえ神の命だろうと、自分の尽くすに値する男ではないと判断すれば離れる。心に穴が開かない人間などいない。それを自分で埋められないのならば、貴方はそれまでの人間」
「リオノーラは僕にだけ厳しい⋯⋯これだけは覚えておいて。僕が好きなのは君だけ。僕が完璧な王子になったらどうする? 君は僕から逃げる大義名分をなくすんじゃない?」
ニヤリと笑うとカルティスは私から離れた。
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