聖女リオノーラの反逆〜千年の恋のためクズ夫を寝取ってください〜

専業プウタ

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21.私を信じて

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「コンラッド様から水の魔力を譲渡してもらったの」
昨晩、コンラッドは指を絡め私と手を合わせながら迫ってきた。私を拘束し襲おうとした夫とは違う。私はいつでも聖女の力で彼の動きを止められた。

「⋯⋯」
何も言わずに私の首筋に顔を埋めるシリルは、おそらく怒りを抑えている。
「シリルも火の魔力を私に渡してたのね。知らなかったから、カルティスを火だるまにしちゃったわよ」
「えっ、君が?」
シリルは私を反転させて、顔をまじまじ見てくる。

「そうよ、危うく消し炭にしてしまうところだった」
コンラッドが城を急速冷凍して、魔力の相殺により僅かだがカルティスが命を繋いだ。残酷な感情を抱いたのに、私の聖女の力は全く弱まっていない。

「アイツ、死んでないのか?」
「コンラッド様が水の魔力で相殺してくれたの」
コンラッドが私に水の魔力を与えた理由は分からない。
でも、昨晩、コンラッド様に合わせられた手のひら。
シリルを裏切りたくない、私に止めて欲しいという気持ちがあったとしか思えない。

「シリル、私は正式にカルティスと離婚して貴方の所に行く。私を信じて、アントワーヌ帝国に戻って。あとは、1人でやれるわ」

私の夫はクズだけど死に値する程の罪じゃない。シリルは明らかにカルティスを殺したいと思っている。

私が笑いかけても、彼は笑い返してくれない。
カルティスと彼がどんな会談をしたかを私は知らない。

「シリル、不安?」
「不安だよ。みんな君に囚われる。それは昔からだ。本当にコンラッドとは何もなかった?」
シリルの問いかけに私は心臓が止まりそうになった。
いつも強気で余裕たっぷりの彼が、追い詰められてたからこそ問い詰めてきた言葉。
私は彼を安心させなければならない。

私の心にはいつも彼がいた。

でも、他の男と何度も結婚し、子供まで産んできた私。
(信用される訳ないよね)

「泣かないでくれ、別に責めてる訳じゃないんだ。お腹が空いてるだろ。随分寝坊していたぞ」
私に背を向けてシリルはお皿に料理をよそい始める。

「私が好きなのは貴方だけよ。本当なの」
私は彼に烏滸がましいと感じながらも、心からの気持ちを伝えた。

「魔力を預けるのは魂を預けるのと同義。コンラッドは昔の俺に似ているし⋯⋯」
振り向いたシリルの真剣な目に時が止まる。
(似てる? どこが? 貴方はわたしにとって唯一無二)

「何それ! 私はクレイグに似た人が好きなんじゃないわ。貴方自身が好きなの。散々他の男と結婚してきた私を信じる方が難しいんでしょうけど」
シリルの不安を取り除きたいのに、自分の気持ちが疑われたのが悲しくてどうにもならない。私の心にいつも彼がいたなんて烏滸がましくて口にもできない。

「ごめん、リオノーラ」
シリルが私の涙を手で拭おうとしてくるのを、顔を振って避ける。

「シリル、アントワーヌ帝国に戻って。仕事を放棄して女のところに来る男なんていらないわ」
責任感の強い彼が公務よりも私を選んでくれて本当は幸せを感じていた。
でも、これ以上彼をベルナール王国に止まらせる事は危険。

シリルは現在の夫カルティスには当然もっと嫉妬する。
その嫉妬は殺意に変化し、再び王宮が血の海と化す。
それならば、今、喧嘩別れしたような形でも彼をアントワーヌ帝国に帰す方が安全。

「喧嘩する気はないぞ。まずは、ご飯を食べようか」
私は改めてシリルがクレイグだと感じた。
私の考えなど読まれている。
彼は昔から抜群に察しがよく、言葉の裏の裏まで読んだ。



シリルと向かい合い、私は手を合わせ食事を始めた。
ジャガイモのスープを口元に持っていくと、先程の甘いキスを思い出した。

「美味しい」
「それは良かった」

シリルが柔らかっく微笑む。
「さっきは、取り乱してごめんなさい。シリル、貴方が私に謝ることは何一つないわ」
謝るのは私の方。
大好きな彼を苦しめ続けているのも私。
自国の問題を解決できず不甲斐ないのも私。

ベルナール王国は私が転生してきた国々とは何もかも違う。
一夫多妻制で男尊女卑。
身分差別が激しく、王族と貴族、平民の間には越えられない壁が存在。

せめて私が平民の聖女として生まれていれば、やりやすかった。
しかし、レシャール侯爵家は王妃を輩出した事もある名門。
大貴族の令嬢が王妃になった。
(『お姉様は運良く聖女で大貴族の家に生まれただけで、皆に大切にされて敬われる』)
セリアの言葉が脳裏に蘇る。
一番近くで私を見ていた彼女の私に対する評価。
しっかりと受け止めて、大聖女としての仕事をベルナール王家で全うしたい。

「俺の方こそ、火の魔力の譲渡について話さなかった。俺を突き放そうとするのは俺がカルティス・ベルナールを殺すと思っているからだよな」
やはり彼に隠し事はできない。
私は静かに頷いた。


火の魔力の譲渡のお陰で私はカルティスに手込めにされずに済んだ。
コンラッドを付けてくれたお陰で、カルティスを消し炭にせずに済んだ。
結局はシリルに私は助けられている。

「平和的に解決して、俺の元に戻ってきたい。そういうことだろ」
「そうよ。私を信じてシリル」
私は立ち上がり、彼の前に跪いて手を握った。

「そんな目で懇願してくるなんて、確かに君って狡いよな。信じるよ愛しのリオノーラ」
シリルの顔が近付いて来て私は目を閉じる。
甘い口づけと共に、首筋に指先が触れる。

「これ、ネックレス? それに指輪」
ネックレスには指輪が通してある。
レッドダイヤモンドの石がはめ込んである指輪。
レッドダイヤモンドの石言葉は『不滅の愛』。

「その指輪には通信魔法が仕掛けてある。今度会う時は、その指輪を左手の薬指にはめてきてくれ」

「ありがとう、シリル。大好き」
私は思わず彼に思いっきり抱きつく。
シリルはそんな私を強く抱き返してくれた。

「それにしても、幾らクズでも君が人を火だるまにするなんて」
シリルの声が震えていて笑いを堪えているのが分かる。
「私だって残酷な感情を抱くのよ。でも、不思議なの。聖女の力が全く弱まってない⋯⋯」
私の聖女の力はよわまるどころか強まっている。

「神があのクズを始末する事を認めてるんじゃないのか?」
「流石にそれは⋯⋯」
カルティスは王位を継ぐものとしても、夫としても失格。

でも、彼の温和で優しい部分も私は知ってる。
突然、シリルが額に軽くキスしてくる。
「俺を前にして他の男のことを考えないでくれ」
「自分から話題を振っておいて理不尽」
私はシリルの前髪をかきあげ、軽くキスを落とした。
聖女の力は穢れのない心と比例するという認識そのものに私は疑いを持ち始めていた。

「リオノーラ、これだけは言わせてくれ。君が俺に謝る事も一つもない。君もまた千年もの間、俺を想ってくれていたと分かっているよ」
彼の言葉に胸が詰まる。
本当に心が読めるように、私を慰める言葉をくれるシリル。
(また彼の隣に居られる女に早くなりたい!)

「早く俺のところに来たいんだろう。相変わらず可愛い奴だな」
「また、心を読んだわね。だから、信じて待っててね」

彼が私を信じてくれたのが嬉しい。
これ以上、彼を失望させない。
シリルの温もりに私の身体の中の光の粒が力を強める。
もう、恐れることは何もない。


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