浮気な婚約者を捨て愛を知る。

専業プウタ

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3.愛を知らない悪女

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「美味しいお茶ね、クラリッサ」
私の言葉にクラリッサが目を見開く。

「お褒め頂き嬉しいです」

クラリッサが爛々とした目を向けてきて、私は思わず目を逸らした。純粋な子を自分の信者にするのは簡単。クラリッサだけではない、アンドレアも私は巧みな話術と色気で落とした。

(私がエスメよね⋯⋯)

赤い趣味の悪い革張りのソファーの横に佇むノエルに視線を向ける。ゆっくりと不自然に視線を逸らすノエルが妬ましい。

「クラリッサ、今、社交界は悲惨な状態になってるよね」

「⋯⋯はい、お姉様」

蘇った記憶のカケラを集めても足りないピースがある。

それでも、空白の三年間に私がやらかしているだろう事は想像に簡単だった。

「召集をかけるわ。私が今お茶会を開いてどれだけの令嬢が参加するかしら?」

「⋯⋯それは、難しいかもしれません。お姉様の権威はアンドレア皇太子殿下の寵愛あっての事なので」

言い辛そうな事を言ったクラリッサは口を固く閉じた。

「何も間違った事は言ってないわ。クラリッサ。招待状を出して集まった令嬢だけで良いの。その令嬢達は落ちぶれた私を面白く思っている可愛い子達でしょ」

偉そうにしてたエスメが皇太子の愛を失って笑い者になっている。私の側にいて得もあるから、表向きはヨイショし裏で笑う。つまり、友人ではなく取り巻きだ。

「は、はい。そうだと思います」

クラリッサが真っ青な顔をしている。
私は彼女の赤毛を束にすると、そこにそっと口付けた。

「クラリッサ。可愛い私の妹。私が変わって沢山悩んだかもしれないわ。でも、それは貴方が成長するための布石。私に寄りかからないでも、やっていけるでしょ貴方なら」

「⋯⋯そんな、私はお姉様がいないと何もできません。でも、頑張ります。私はエスメ・オクレールの妹ですから」

「クラリッサ、役に立つ頑張り屋の貴方が大好きよ。平民の聖女なんかに大きな顔はさせられないわ。招待客にプレゼントも贈るつもりよ」
「侯爵家の富を見せつけるんですね」
「そんな品のない事はしないわ。誰に従っていけば良いのか思い知らせるだけよ」

脳内で精査されていないような言葉の数々が私の口から出てくる。

クラリッサは強かで賢い私を敬愛している。だから、強気な含みのある言葉をかければどんどん心酔した。

私はこうやって人を言葉巧みに操る悪女で、妹さえも手駒のように扱う。しかし、何もかも企み通りに上手くいき、手練手管で簡単にマリオネットになる人間に辟易していた。

そんな狡賢い私が帝国一の女を目指したのは必然。アンドレアの婚約者候補を蹴散らし、彼を自分に惚れさせた。本当はアンドレアの事など、これっぽっちも好きではなかった。

でも、今の私は⋯⋯。

頭の中に蘇る猫時代のアンドレアのやりとり。

籠絡すべきターゲットでしかない彼の人となりを知った猫時代。皮肉な事に彼を愛していなかった三年前とは違い、今は彼を愛しく思っている。この気持ちは恋というより情に近い。今の彼の心は聖女ものだが、あの性悪に彼を渡す訳にはいかない。

「クラリッサ、私の代わりにアンドレアの婚約者になってくれる?」

「ゴホッ、お姉様何を言って」
クラリッサは思わず、口に含んだお茶むせた。

「私、アンドレア以外に婚約したい方がいるの」
「お姉様、皇太子妃の椅子は惜しくは無いのですか?」
「ふふっ、ここから先の計画は教えてあげられないわ。ただ、貴方にアンドレアに嫁ぐ気はあるのか聞きたかったの」

私の言葉に何故かクラリッサは目を潤ませた。私の計画は聞く人に寄っては反逆にもとられかねない。彼女は一番信用できる味方だが、口を滑らせないとも限らない。

「お姉様の命令なら私は従います。私などの意見をお姉様が聞いてくれるなんて⋯⋯」

彼女に言われて自分でも驚く。猫時代聞き役に徹してた影響かもしれない。

「じゃあ、その時が来たらお願いね」

口角を上げて微笑みを作ると、クラリッサは頬を赤くして頷いた。私にお願いされたのが嬉しいのだ。以前は何とも思わなかったのに、今は心から妹の素直さを可愛いと感じる。

「フッー」

ふと膝の上に乗っているノエルが爪を立てて私に抗議している。エスメだった時のノエルの行動を見るに、彼はアンドレアの為にいつも動いていた。その三年でアンドレアの心が聖女に移ったのは、彼女は彼の心を掴む事に注力したからだ。役に立っていれさえすれば愛されるなどと幻想を抱くなんて哀れな猫。

(大丈夫、全てアンドレアの為だから)

現在、私、聖女の策略によりアンドレアに純潔を疑われている。私が初恋である彼にとって、私から心が離れる決定的な出来事だった。彼の中で今の私は浮気女。奔放な女という根も葉もない噂まで立てられてるのはノエルの立ち回りが下手だったせい。

私はその状況を逆手に取るつもりだ。
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