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11.誕生祭
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二日後、私は完全に回復した。ジェイクはずっと私の側にいた。
今、ベッドサイドに寄せた椅子に座って目を瞑り寝息を立てている彼は普段より幼く見える。
私は彼をベッドに寝かせてあげようと持ち上げようと屈んだが、重過ぎて諦めた。
扉をノックする音と共に、サラが現れる。
「あら? ジェイク様?」
「ジェイクったら、ずっと私についてたのよ」
「ふふっ、ラブラブですね」
皇籍復帰したいジェイクと、アンドレアへの複雑な感情から彼を利用しようとした私。そんな私とジェイクの関係は、契約関係に近い。実際、アンドレアが婚約破棄に応じてくれてないから、他者からは不適切な関係に見られているだろう。
再び扉をノックする音がして、医師のアシャーが現れた。
濃紺の短髪に、薄茶色の瞳をした彼はリスラム王国に攻撃されているレイロ王国出身。レイロ王国は地下資源が豊富で強国リスラムに狙われ侵略されている。リスラム王国との繋がりが深い帝国はこの戦争には非介入の立場を通していた。十四歳の時、私は罪もなく苦しむレイロ王国の人を助けたくて、国営の移民の学校を作ることを提案した。費用は全て国費だ。
ライナス国王を説得する為に、医師や薬師といった専門職の人間の移民を進んで受け入れ、帝国の利益の為に使うという名目だ。それによりレイロ王国から難民の一部を受け入れる事には成功した。
アシャーもサラと同じ五年前に帝国に移民して来た。サラが自分の力を試したくて帝国に移民したのに対し、彼は戦争中の国から難民として入ってきた。
非常に優秀で帝国としてはかなりウェルカムな人材だ。身一つで来た彼は国費で学び住居提供もされている。
「アシャー、何事? 女性の寝室に入ってくるなんて」
アシャーを見るなり、サラが彼を部屋から押し出そうとする。
三ヶ月観察して来たが、二人は恋人同士のようだ。
「サラ痛いって! 特効薬を作ったから、エスメ様に持って来たんだよ」
「特効薬?」
私はもう治癒したが、特効薬には興味がある。二日間でも、死ぬほど苦しい空咳に苦しめられた。
「エスメ様、この薬液を注射で直接血液に流すと五時間で回復します」
「五時間! 凄いわね」
「エスメ様が病魔に襲われていると聞き、寝ずに開発しました。エスメ様は私の恩人ですから」
胸を張るアシャーをサラが蹴飛ばす。
「遅い! エスメ様、もうこの通り治ったからね」
私はベッドから立ち上がり、アシャーの手から注射器を受け取って天に翳した。
「少しも遅くないわ。アシャー、ありがとう。貴方はバルベ帝国の恩人よ」
私の言葉に照れ過ぎて、アシャーが耳まで真っ赤になり言葉を失っている。
これから乾燥する季節がくれば、感染症がまた猛威を振るうかもしれない。このタイミングで特効薬ができたのは大きな収穫。
「サラもありがとう。二人とも作った薬の特許を取って、ガッツリ稼ぎましょうね」
「か、金の話?」
突然、寝ていたと思ったジェイクが素っ頓狂な声を出す。どうやら寝たふりを決め込んでいたようだ。
「ど、どれくらい稼げますかね」
サラが私に頬を染めながら聞いて来る。
「大きな豪邸を建てて、二人が祖国から親族を呼んで盛大な結婚式を挙げられるくらいには軽く稼げるわよ」
アシャーとサラは私の言葉に目を輝かせて抱き合った。
「ふふっ、それにしてもジェイクはなんで寝たふりをしてたの?」
「俺を持ち上げようとして態勢を崩したエスメを押し倒そうかと思って」
「えっ?」
ジェイクの言葉に私は思わず首を傾げてしまう。
「なんて、冗談! どう? ドキドキした?」
ニコッと笑う彼は私をときめかせたかったらしい。
口説くのが下手くそ過ぎて、私は彼の不器用さに吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
「⋯⋯ふふっ、それより体調は大丈夫なの?」
「全然元気」
ジェイクは私に向かって手を広げて来る。きっと抱きついて来て欲しいのだろう。
「サラ、アシャー。感染症に罹患しても発症しないケースもある?」
「勿論です」
アシャーの言葉に私は恐らくジェイクは感染症の保菌者になっているの推察した。私は息苦しくて、布で口元も隠さず咳をし続けていた。そんな私と密室でまる二日過ごして、病気が移っていないはずもない。
「ジェイク、貴方もあと一週間はここで大人しくしないとね。せっかくだから、元気になった領民に剣術でも教えて体を動かしたら?」
「一週間、ラブラブするんじゃなくて?」
「しないわよ。そんなの」
彼はどうやら随分前から寝たふりをして、私たちの会話を聞いてたらしい。私たちが恋人のように過ごした事などない。恋や愛を知らない私には、そんな時間は無駄に思える。恋に落とすまでは戦略的で楽しいが、いちゃいちゃしたりは退屈そうだ。
「そういえば、来週はオクレール侯爵の誕生祭で演劇が開催されますよ。是非、デートで行って来てください。昨年、私もアシャーとその演劇を見て仲が深まったんです」
サラとアシャーは気が付けば手を繋いでいた。気づけば相手に触れていたいというのが、きっと恋なのだろう。
私はお祭りができるまで、領地が正常な活動を取り戻した事にホッとした。
「もちろん行くよな」
「そうね」
領地のお祭りに行った事がない。そもそも、首都から出て領地に来るのは今回が初めてだ。ここに到着してからは、感染症対策に没頭していた。お祭りに行くのは普段の生活を知る良い機会かもしれない。
今、ベッドサイドに寄せた椅子に座って目を瞑り寝息を立てている彼は普段より幼く見える。
私は彼をベッドに寝かせてあげようと持ち上げようと屈んだが、重過ぎて諦めた。
扉をノックする音と共に、サラが現れる。
「あら? ジェイク様?」
「ジェイクったら、ずっと私についてたのよ」
「ふふっ、ラブラブですね」
皇籍復帰したいジェイクと、アンドレアへの複雑な感情から彼を利用しようとした私。そんな私とジェイクの関係は、契約関係に近い。実際、アンドレアが婚約破棄に応じてくれてないから、他者からは不適切な関係に見られているだろう。
再び扉をノックする音がして、医師のアシャーが現れた。
濃紺の短髪に、薄茶色の瞳をした彼はリスラム王国に攻撃されているレイロ王国出身。レイロ王国は地下資源が豊富で強国リスラムに狙われ侵略されている。リスラム王国との繋がりが深い帝国はこの戦争には非介入の立場を通していた。十四歳の時、私は罪もなく苦しむレイロ王国の人を助けたくて、国営の移民の学校を作ることを提案した。費用は全て国費だ。
ライナス国王を説得する為に、医師や薬師といった専門職の人間の移民を進んで受け入れ、帝国の利益の為に使うという名目だ。それによりレイロ王国から難民の一部を受け入れる事には成功した。
アシャーもサラと同じ五年前に帝国に移民して来た。サラが自分の力を試したくて帝国に移民したのに対し、彼は戦争中の国から難民として入ってきた。
非常に優秀で帝国としてはかなりウェルカムな人材だ。身一つで来た彼は国費で学び住居提供もされている。
「アシャー、何事? 女性の寝室に入ってくるなんて」
アシャーを見るなり、サラが彼を部屋から押し出そうとする。
三ヶ月観察して来たが、二人は恋人同士のようだ。
「サラ痛いって! 特効薬を作ったから、エスメ様に持って来たんだよ」
「特効薬?」
私はもう治癒したが、特効薬には興味がある。二日間でも、死ぬほど苦しい空咳に苦しめられた。
「エスメ様、この薬液を注射で直接血液に流すと五時間で回復します」
「五時間! 凄いわね」
「エスメ様が病魔に襲われていると聞き、寝ずに開発しました。エスメ様は私の恩人ですから」
胸を張るアシャーをサラが蹴飛ばす。
「遅い! エスメ様、もうこの通り治ったからね」
私はベッドから立ち上がり、アシャーの手から注射器を受け取って天に翳した。
「少しも遅くないわ。アシャー、ありがとう。貴方はバルベ帝国の恩人よ」
私の言葉に照れ過ぎて、アシャーが耳まで真っ赤になり言葉を失っている。
これから乾燥する季節がくれば、感染症がまた猛威を振るうかもしれない。このタイミングで特効薬ができたのは大きな収穫。
「サラもありがとう。二人とも作った薬の特許を取って、ガッツリ稼ぎましょうね」
「か、金の話?」
突然、寝ていたと思ったジェイクが素っ頓狂な声を出す。どうやら寝たふりを決め込んでいたようだ。
「ど、どれくらい稼げますかね」
サラが私に頬を染めながら聞いて来る。
「大きな豪邸を建てて、二人が祖国から親族を呼んで盛大な結婚式を挙げられるくらいには軽く稼げるわよ」
アシャーとサラは私の言葉に目を輝かせて抱き合った。
「ふふっ、それにしてもジェイクはなんで寝たふりをしてたの?」
「俺を持ち上げようとして態勢を崩したエスメを押し倒そうかと思って」
「えっ?」
ジェイクの言葉に私は思わず首を傾げてしまう。
「なんて、冗談! どう? ドキドキした?」
ニコッと笑う彼は私をときめかせたかったらしい。
口説くのが下手くそ過ぎて、私は彼の不器用さに吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
「⋯⋯ふふっ、それより体調は大丈夫なの?」
「全然元気」
ジェイクは私に向かって手を広げて来る。きっと抱きついて来て欲しいのだろう。
「サラ、アシャー。感染症に罹患しても発症しないケースもある?」
「勿論です」
アシャーの言葉に私は恐らくジェイクは感染症の保菌者になっているの推察した。私は息苦しくて、布で口元も隠さず咳をし続けていた。そんな私と密室でまる二日過ごして、病気が移っていないはずもない。
「ジェイク、貴方もあと一週間はここで大人しくしないとね。せっかくだから、元気になった領民に剣術でも教えて体を動かしたら?」
「一週間、ラブラブするんじゃなくて?」
「しないわよ。そんなの」
彼はどうやら随分前から寝たふりをして、私たちの会話を聞いてたらしい。私たちが恋人のように過ごした事などない。恋や愛を知らない私には、そんな時間は無駄に思える。恋に落とすまでは戦略的で楽しいが、いちゃいちゃしたりは退屈そうだ。
「そういえば、来週はオクレール侯爵の誕生祭で演劇が開催されますよ。是非、デートで行って来てください。昨年、私もアシャーとその演劇を見て仲が深まったんです」
サラとアシャーは気が付けば手を繋いでいた。気づけば相手に触れていたいというのが、きっと恋なのだろう。
私はお祭りができるまで、領地が正常な活動を取り戻した事にホッとした。
「もちろん行くよな」
「そうね」
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