浮気な婚約者を捨て愛を知る。

専業プウタ

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20.許せない

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私が領地にいた間に何があったのだろう。

アンドレアが瞬間移動できる魔術などというものを使い出した。

(魔術? 存在したの?)

扉の前に立ちはだかる彼が哀れだ。一晩過ごしたなどと噂がたっても、婚約破棄は成立する。奔放と噂な悪女に噂が一つ加わるだけだ。

「そんな所で立ってないで、私は逃げないから話をしましょう」

口角を上げて笑顔を作り、アンドレアの冷たい手を引き応接ソファーに座らせる。

「今、お茶を淹れるわね」

私は以前来た時の記憶を辿りながら、ティーセットを出した。珍しくお茶の缶が三缶もある。

「あっ! それは、シエンナの!」

少し慌てたような彼を無視して紅茶の缶を開けてく。

「麻薬、媚薬、マンドレアまであるのね。浮気相手とこんなもので楽しんでたの。気持ち悪い」

アンドレアに対する嫌悪感が込み上げてくる。
猫時代、彼の幻聴をストレスのせいだと思って心配していたのが馬鹿らしい。マンドレアは幻覚や幻聴を起こすハーブ。紅茶に如何わしいハーブを混ぜて遊んでるなんて吐き気がする。浮気するような人間の考えそうな事だ。

「エスメ、誤解だよ」

「アンドレア、私は何も誤解してないわ。少しでも貴方のような浮気男に情を感じてた自分を恥じてるの」

私の言葉に彼は傷ついた顔をしているが、もうどうでも良い。

「私はジェイクを立太子させるわ。彼は貴方と違って誠実だもの。さようなら、もう二度と私に話し掛けないで」

扉の方に向かおうとすると、急に身体が浮く。アンドレアが私を横抱きにしていた。

「離して! 穢らわしい!」

私の言葉を無視して、彼は私を続き部屋になっている寝室に運ぶ。

ふかふかのベッドに降ろされた隙に逃げ出そうとすると、彼がお覆い被さってきた。

アンドレアが私を射抜くように見つめてくる。

「僕は誰にも穢されていない。君だけを思う童貞だ。今からそれを証明する」

私以上に彼は混乱している。

「分かったから、どいて! もう、何言ってるのよ」

『童貞の証明』というパワーワードに私は思わず吹き出してしまった。

「エスメ、やっと笑ってくれた」

ホッとしたような顔のアンドレアが幼い。今は彼を責めるのをやめて、私が何故ジェイクを皇帝にしたいと思ったのか正直に話した方が良い気がする。

ガンガン!

ベッドの下から音がする。

「にゃー」

下から出て来たのはノエルで、私の状態を見るなりアンドレアに噛み付いた。

「いたっ」

私は爪を立てるノエルをそっと抱き締める。ベットの下から大きな影がまた出て来た。銀髪頭のジェイクだ。隠し通路を通って舞踏会会場から最短距離でここに来たのだろう。

「アンドレア、お前!」

私に跨る彼を見るなり、胸ぐらを掴んで殴り掛かろうとするジェイクの腕を掴む。

「エスメ、なんで?」

ジェイクが悲しそうな顔で私を見た。様々な誤解を解きたいが、今の私の最優先事項はノエル。

「ここは御兄弟で一晩仲良く話して、わだかまりが解けたと周囲にアピールする機会にしたら?」

私はベッドから立ち上がると、二人の男を置き去りにして扉の方へ向かった。私に着いて来たノエルを抱き締める。

(ノエルじゃない。この子はクラリッサだ)

「「エスメ!」」

私を引き止める声を無視して扉を開けて廊下に出る。

そこにいたのは、私の妹の姿をした女。

「エスメお姉様、アンドレア皇子殿下とお話しはできましたか?」

「⋯⋯クラリッサ、私は貴方に話があるから直ぐに帰るわよ」

私はノエルを床に降ろし、クラリッサの腕を引き馬車まで急ぐ。私を必死に見上げながらついて来る白猫。間違いなく私の愛しい妹だ。

私は猫になった時、その前の記憶を失った。きっとそれは私が執着のない人間だからだ。

クラリッサは愛に執着する。母が亡くなった時、私は怒りに任せて母のものを全て川に捨てた。裏切り者の存在を跡形もなく消してしまいたかった。クラリッサは何もなくなった母の部屋で、いつまでも母の形見を探していた。

やっと見つけた亜麻色の髪は抜けた自分の髪なのに、母のものだと信じて今も持っている。母の愛を欲していた四歳の子の執着は二歳年上の姉である私に向かった。

クラリッサの私への執着は姿が変わっても残っている。

「お姉様、腕が痛いわ」

私はクラリッサのフリをする忌々しい女を馬車に放り込む。

「にゃーん」

私にピッタリくっついて、縋るような目をした白猫を優しく抱き上げた。

屋敷までの馬車の中で、向かいに座ったクラリッサの姿をした女は饒舌だ。アンドレアと私を何とかくっつけたいのか、必死に彼の誠実さと一途さをアピールしてくる。

「お姉様の氷の心を溶かせるのはアンドレア皇子殿下だけです」

この不思議な力を持つ白猫の目的は分からない。でも、自分より大切な人を賤しめられた時怒りを感じるというのは本当のようだ。

これ程、怒りの感情を抑えられないのは初めてだ。

私は両手を伸ばして、クラリッサに化けたノエルの首を締め上げる。

「お、お姉様何を⋯⋯」
「私の妹を返しなさい! この化け猫が!」

膝の上の白猫の温もりを感じながら、らしくもなく私は冷静さを失った。
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