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19.話がしたい
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何度、エスメの領地に手紙を送っても返事は返ってこなかった。唯一返ってきたのは、建国祭で僕のエスコートを断る手紙。
僕は彼女が手紙を読まずに捨てることはしていない事に救われていた。嫌われた訳ではなく、彼女がやりたい事をやる為のパートナーとして見限られただけ。
僕はあれから母を追求し、魔術師を召喚した。コーラルストーンに様々な魔術を掛けさせ持ち歩いている。ジェイクに勝つためには手段を選んではいられない。
建国祭の舞踏会会場前で僕はエスメを待っていた。艶やかな銀髪にブルーサファイアの瞳のジェイクが現れる。
僕と彼は一言も言葉を交わさなかった。他の貴族令嬢なら間違いなく皇帝と元王女である皇后の血を引いた僕を選ぶ。
でも、エスメが血筋で人を見ない人間だと僕は知っている。皇后である母にもエスメは全く媚びない。
エスメが現れた瞬間、僕は今にも彼女を連れ去りたくなった。それなのに、彼女が手を取ったのはジェイク。
僕たちの婚約した七年は何だったのか。自分のしたことを棚に上げて憎しみが込み上げてくる。
シャンデリアの光が降り注ぐ中、ジェイクとエスメが踊っていた。僕は誰とも踊らずひたすら二人を見つめていた。僕がウェディングドレスのようだと言ったドレスで他の男と踊っているエスメが憎い。
僕を散々唆して、興味を失ったら簡単に捨てる女。僕は彼女が憎いのに手放したくない程好きになっていた。そして、賎民の血が混じっている癖に帝国最高の女を自分のモノのように見つめるジェイク。
周囲の視線も陰口も気にならない。僕が婚約破棄をごねているともっぱらの評判。そして、その原因は僕が彼女を蔑ろにして聖女に構ってたせいだと噂を流したのはクラリッサだろう
クラリッサはエスメの影に隠れて特に目立った存在ではなかった。しかし、シエンナとのやり取りで彼女の賢さを目の当たりにしてから注意深く見ると恐ろしい女だと気がついた。噂を操作し、令嬢たちをコントロールしているのは彼女だ。
オーケストラの荘厳な始まりの曲が終わり、僕は勇気を出してエスメをダンスに誘おうと一歩踏み出した時だった。エスメとジェイクが手を繋いでライナス皇帝の元まで行く。
皆が七年婚約していた皇子に婚約破棄を申し出た女の動向に注目している。
エスメが大袈裟なくらいにジェイクを褒めて売り込んでいた。母がエスメに喧嘩をふっかけているのが恥ずかしい。貴族連中が皆会話を聞いている中で話せば話す程、母の愚鈍さがエスメの聡明さを引き立ててしまっている。
エスメがジェイクに惚れているような振る舞いをしていたが、所詮演技だろう。彼女の心は僕が何年欲しがっても手に入らなかったものだ。
令嬢たちに囲まれているエスメを連れ出そうとしたら、彼女は何故かバルコニーに出て行った。追っかけて外に出るジェイク。
僕は慌ててバルコニーの側に行く。そこで、僕は全てのものに裏切られるような光景を見る。
屈んで愛おしそうにノエルを撫でるエスメを後ろからジェイクが抱きしめていた。部屋に置いてきたはずなのに、何故かそこにいるノエル。あの雄猫も結局エスメが良いらしい。雪が降り注ぎ積もる真っ白な後継の中、エスメの赤い髪が他靡いている。
その髪に触れたいと窓際に寄った時、ジェイクがエスメに突然キスをした。一瞬、怒りを覚えるも、僕はジェイクが失態を犯したと思った。しかし、絶対嫌がると思っていたエスメが彼の深いキスに応えている。
僕は耐えきれずバルコニーに続く扉を勢いよく開けた。憎悪に満ちた感情を持っていたのに、エスメの琥珀色の瞳が僕を見つめているとどうでも良くなってしまう。
僕はとにかく彼女と話したくて、彼女の手首を掴み移動魔術を使い僕の部屋まで移動した。
僕の部屋に瞬間移動してきたエスメは普段の冷静さを失って流石に動揺していた。怖がっているような彼女を見るのは初めてで、加虐心を唆られる。
「さっきまでバルコニーにいたのに、どうして?」
エスメは神話や神などあまり信じないから、魔術について知らなそうだ。
部屋中を観察するエスメの頬に触れてこちらを向かせる。琥珀色の瞳が震えていて、明らかに僕に怯えていた。
初めて見るその顔に加虐心を唆られたが、彼女に嫌われるのが怖くて僕はネタバレする。
「二人でゆっくり話したくて、魔術でここに来たんだ」
突然消えた僕たちをジェイクが探しても、舞踏会会場からここまでは三十分以上掛かる。
「は、離して」
エスメは自分の足を僕の足の間に差し入れ、足を上げ僕を押し倒す。僕は思わずその場に倒れ込んだ。皇室で習う護身術の技の一つだ。ジェイクに習ったのだろう。
「エスメ、話したいだけだ。僕は君を押し倒したり、無理に口付けしたりも絶対しないと誓うよ」
胸が詰まりながらも彼女に気持ちを伝えると、彼女が屈んで僕を抱き起こして来た。久しぶりに嗅ぐ彼女の薔薇の香りにドキドキする。
「ごめんなさい。痛かったよね」
「痛いよ。もう、ずっと痛い。エスメ、ごめん謝るよ。僕が全て悪かった」
母上を切れなかった事、エスメにしてもらうばかりで何もできなかった事。薬を盛られていたとはいえ彼女以外の女を側に置いた事。
エスメの薔薇の香りに包まれると彼女の許しを乞いたくなった。先程まで抱いていた憎しみなど消えていく。
エスメはスッと立ち上がって、僕から距離を取
る。彼女の甘い薔薇の香りが離れていく。
「浮気した事? それは、一回でもしてはいけない事。謝罪は受け入れない。アンドレアと私は終わりよ」
冷めたような琥珀色の瞳。僕はエスメが母親の裏切りを許せず、形見の品を全部捨てたのを思い出してゾッとする。
「待って、見捨てないでよ」
帝国の皇子とは思えない情けない声が出る。
扉を開けて外に出ようとする、彼女の行手を塞いだ。
「退きなさい! アンドレア・バルベ」
真っ直ぐに僕を見据える彼女は本当にカケラも僕を好きじゃないらしい。
分かっていたけれど、その事実に心の底から苛立った。
「退かないよ。朝まで僕はここを退かない。朝まで二人きりで僕と部屋に居たとなれば、君は僕と婚約破棄できなくなる」
こんな事をしたら嫌われると分かっていても、僕には彼女を手放さない手段が他に思いつかなかった。
僕は彼女が手紙を読まずに捨てることはしていない事に救われていた。嫌われた訳ではなく、彼女がやりたい事をやる為のパートナーとして見限られただけ。
僕はあれから母を追求し、魔術師を召喚した。コーラルストーンに様々な魔術を掛けさせ持ち歩いている。ジェイクに勝つためには手段を選んではいられない。
建国祭の舞踏会会場前で僕はエスメを待っていた。艶やかな銀髪にブルーサファイアの瞳のジェイクが現れる。
僕と彼は一言も言葉を交わさなかった。他の貴族令嬢なら間違いなく皇帝と元王女である皇后の血を引いた僕を選ぶ。
でも、エスメが血筋で人を見ない人間だと僕は知っている。皇后である母にもエスメは全く媚びない。
エスメが現れた瞬間、僕は今にも彼女を連れ去りたくなった。それなのに、彼女が手を取ったのはジェイク。
僕たちの婚約した七年は何だったのか。自分のしたことを棚に上げて憎しみが込み上げてくる。
シャンデリアの光が降り注ぐ中、ジェイクとエスメが踊っていた。僕は誰とも踊らずひたすら二人を見つめていた。僕がウェディングドレスのようだと言ったドレスで他の男と踊っているエスメが憎い。
僕を散々唆して、興味を失ったら簡単に捨てる女。僕は彼女が憎いのに手放したくない程好きになっていた。そして、賎民の血が混じっている癖に帝国最高の女を自分のモノのように見つめるジェイク。
周囲の視線も陰口も気にならない。僕が婚約破棄をごねているともっぱらの評判。そして、その原因は僕が彼女を蔑ろにして聖女に構ってたせいだと噂を流したのはクラリッサだろう
クラリッサはエスメの影に隠れて特に目立った存在ではなかった。しかし、シエンナとのやり取りで彼女の賢さを目の当たりにしてから注意深く見ると恐ろしい女だと気がついた。噂を操作し、令嬢たちをコントロールしているのは彼女だ。
オーケストラの荘厳な始まりの曲が終わり、僕は勇気を出してエスメをダンスに誘おうと一歩踏み出した時だった。エスメとジェイクが手を繋いでライナス皇帝の元まで行く。
皆が七年婚約していた皇子に婚約破棄を申し出た女の動向に注目している。
エスメが大袈裟なくらいにジェイクを褒めて売り込んでいた。母がエスメに喧嘩をふっかけているのが恥ずかしい。貴族連中が皆会話を聞いている中で話せば話す程、母の愚鈍さがエスメの聡明さを引き立ててしまっている。
エスメがジェイクに惚れているような振る舞いをしていたが、所詮演技だろう。彼女の心は僕が何年欲しがっても手に入らなかったものだ。
令嬢たちに囲まれているエスメを連れ出そうとしたら、彼女は何故かバルコニーに出て行った。追っかけて外に出るジェイク。
僕は慌ててバルコニーの側に行く。そこで、僕は全てのものに裏切られるような光景を見る。
屈んで愛おしそうにノエルを撫でるエスメを後ろからジェイクが抱きしめていた。部屋に置いてきたはずなのに、何故かそこにいるノエル。あの雄猫も結局エスメが良いらしい。雪が降り注ぎ積もる真っ白な後継の中、エスメの赤い髪が他靡いている。
その髪に触れたいと窓際に寄った時、ジェイクがエスメに突然キスをした。一瞬、怒りを覚えるも、僕はジェイクが失態を犯したと思った。しかし、絶対嫌がると思っていたエスメが彼の深いキスに応えている。
僕は耐えきれずバルコニーに続く扉を勢いよく開けた。憎悪に満ちた感情を持っていたのに、エスメの琥珀色の瞳が僕を見つめているとどうでも良くなってしまう。
僕はとにかく彼女と話したくて、彼女の手首を掴み移動魔術を使い僕の部屋まで移動した。
僕の部屋に瞬間移動してきたエスメは普段の冷静さを失って流石に動揺していた。怖がっているような彼女を見るのは初めてで、加虐心を唆られる。
「さっきまでバルコニーにいたのに、どうして?」
エスメは神話や神などあまり信じないから、魔術について知らなそうだ。
部屋中を観察するエスメの頬に触れてこちらを向かせる。琥珀色の瞳が震えていて、明らかに僕に怯えていた。
初めて見るその顔に加虐心を唆られたが、彼女に嫌われるのが怖くて僕はネタバレする。
「二人でゆっくり話したくて、魔術でここに来たんだ」
突然消えた僕たちをジェイクが探しても、舞踏会会場からここまでは三十分以上掛かる。
「は、離して」
エスメは自分の足を僕の足の間に差し入れ、足を上げ僕を押し倒す。僕は思わずその場に倒れ込んだ。皇室で習う護身術の技の一つだ。ジェイクに習ったのだろう。
「エスメ、話したいだけだ。僕は君を押し倒したり、無理に口付けしたりも絶対しないと誓うよ」
胸が詰まりながらも彼女に気持ちを伝えると、彼女が屈んで僕を抱き起こして来た。久しぶりに嗅ぐ彼女の薔薇の香りにドキドキする。
「ごめんなさい。痛かったよね」
「痛いよ。もう、ずっと痛い。エスメ、ごめん謝るよ。僕が全て悪かった」
母上を切れなかった事、エスメにしてもらうばかりで何もできなかった事。薬を盛られていたとはいえ彼女以外の女を側に置いた事。
エスメの薔薇の香りに包まれると彼女の許しを乞いたくなった。先程まで抱いていた憎しみなど消えていく。
エスメはスッと立ち上がって、僕から距離を取
る。彼女の甘い薔薇の香りが離れていく。
「浮気した事? それは、一回でもしてはいけない事。謝罪は受け入れない。アンドレアと私は終わりよ」
冷めたような琥珀色の瞳。僕はエスメが母親の裏切りを許せず、形見の品を全部捨てたのを思い出してゾッとする。
「待って、見捨てないでよ」
帝国の皇子とは思えない情けない声が出る。
扉を開けて外に出ようとする、彼女の行手を塞いだ。
「退きなさい! アンドレア・バルベ」
真っ直ぐに僕を見据える彼女は本当にカケラも僕を好きじゃないらしい。
分かっていたけれど、その事実に心の底から苛立った。
「退かないよ。朝まで僕はここを退かない。朝まで二人きりで僕と部屋に居たとなれば、君は僕と婚約破棄できなくなる」
こんな事をしたら嫌われると分かっていても、僕には彼女を手放さない手段が他に思いつかなかった。
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