身代わり婚〜悪女の姉の策略で嫁ぎましたが夫を溺愛してます〜

専業プウタ

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28.どうか時を戻さないでください。

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 私はルイス皇子との会談を終え、潜伏先のホテルに戻った。
 ずっと戻りたかった祖国に戻れる道筋が照らされて来た。

 シャリレーン王国は降りかかった不幸は、神にも等しい存在を捨てたことから始まったのだろう。

 シャリレーン王国の宗教色については薄めておく必要がある。私自身、国外を巡ることで信仰心は薄れていたと思っていた。
 そして、他国からいかにシャリレーン王国が異常な国と思われていたかを知った。宗教など役にたなない、自分しか頼れないという認識を持っていたはずだった。

 しかし、カリンの神聖力の強さを見せられた時、私は自分の方が身代わりの模造品だと思った。
 双子は悪魔の悪戯による模造品⋯⋯私の中に根付いたシャリレーン教による発想がそんな風に思わせてしまった。
 本当に妹のカリンを愛おしく思っていたはずなのに、姉であり王女として育てられたはずの自分が模造品だと思うと気が狂いそうになった。

 カリンが自分とは全く違う創世の聖女という存在だと気がつけたから、やっと彼女へ複雑な愛憎乱れる感情から解放された。

 もう、彼女に会うことはないかもしれないけれど、私は彼女の幸せも願えている。帝国の次期皇帝に守られる方が安全に過ごせるし、ルイス皇子はいかなる時も彼女を優先してくれるだろう。

ノックと共にケントリンが入って来た。

手には泥だからけの指輪が握られている。

 普通、泥を拭いてから私に見せると思うのだが、そこまで指示していなかったから仕方がない。

「これで、シャリレーン王国に帰れるわ。帰国したら直ぐに私の戴冠式よ」
 私は自分のハンカチで指輪を嵌めながら宣言した。

 とっとと、セルシオ国王と離婚して祖国に戻ろう。
 シャリレーン王国には問題が山積みで、私にはやるべき事が沢山ある。

 その問題は皮肉なことに、シャリレーン王国で大切に育てられていたままでは気がつけなかったものばかりだ。

「それから、ケントリン。戴冠式と同時に私とお前の結婚式を挙げるから」
「はい、分かりました」
 ケントリンは無表情で了承する。

 私が女王になったら、貴族たちは私の夫を次々と薦めてくるだろう。
 私が隣における男はケントリンだけだと分かっているし、貴族たちにも国の再建に集中して貰いたい。

 それにしても、10歳で王族を捨てに行かされたケントリンは、すでに父親のモンスラダ侯爵から見切られていたはずだ。

 使えないと見捨てたはずのケントリンが、自分より高い地位にいくとは想像もしていなかっただろう。モンスラダ侯爵が、ケントリンに手の平を返したような態度で接してくるのが簡単に想像できておかしい。

 それでも、きっとケントリンは全く態度も変えず、地位が変わっても奢るこがない。そう言い切れる程、私は彼と多くの時を過ごしてきた。

 翌日、カリンの乗った帝国の船が出航したことを確認すると、私はセルシオ・カルパシーノの前に姿を現した。

「セルシオ・カルパシーノ国王陛下にアリアドネ・シャリレーンがお目にかかります」
 私を見て彼は明らかに動揺している。
 彼はカリンの正体に気がついていたのだろう。
 そもそも、双子とはいえ私はカリンと自分は全く似ていないと思っている。
 
「アリアドネ⋯⋯一体、どうして⋯⋯」
 自分が嵌められた事にすぐ気がつけていない。
 セルシオ国王は帝国に恩義があるせいか、帝国を信用し過ぎている。

「ここのところ体調が思わしくなくて、妹のカリンに結婚式の代役を頼んだんです。やっと回復したので、妻として陛下の元に戻って参りましたわ」

 パレーシア帝国まで2週間、ベリオット皇帝が回復してルイス皇子を皇太子に任命するまで最低でも1ヶ月はかかりそうだ。
(早く離婚したいけれど、仕方ないわね)

「アリアドネ、今日は部屋で休むと良い」
「はい、分かりました。それでは失礼します」
 私はドレスを持ち上げお辞儀をして下がった。

「アルタナ! 伯爵以上の貴族を緊急招集してくれ、緊急会議を開く!」
 私が部屋を出るのも待てないように、セルシオ国王が慌てている声が聞こえた。

♢♢♢
 「アリアドネ様、今晩は、陛下はお部屋にはいらっしゃらないそうです。体調が回復したばかりだろうし、ゆっくりと休むようにとのことでした」
「そう、もう今日は下がっていいわよ」

 私の寝支度をしたメイドの言葉にイラッときた。

 セルシオ国王は女なんて気持ち悪くて抱けないくせに、まるで私に気を遣っているから部屋に来れないと言っている。
(本当に気にくわない男だわ⋯⋯早く離婚したい)

 翌朝、直ぐにセルシオ国王から大事な話があると呼ばれた。

「アリアドネ、俺と離婚してくれ。君を家族のように守ると言った約束を反故にすることを謝らせて欲しい」

 深く頭を下げながら言ってくる彼の言葉は予想外だった。

 私と離婚したいということは、彼もルイス皇子のようにカリンを求めているはずだ。

 それならば、嵌められたと思った時点で帝国の船を追うべきだ。
(もしかして、カリンがパレーシア王国に戻ってこれるとでも思っている?)

 その時、私の頭の中に指輪から聞こえたカリンの言葉が蘇った。

(「私はあなたを幸せにする為に存在しています」)
 
 創世の聖女である彼女は世界のために存在するはずだ。
 でも、彼女自身はセルシオ国王の為に存在していると言っている。

(まさか、彼と会えなくなったからと言って、時を戻したりしないよね⋯⋯)

 1度芽生えた疑念は消えない。

 今、私はパレーシア帝国の支援の約束を取り付け最高の形で祖国に帰還しようとしている。
 時を戻されて、これ以上の事ができるとは到底思えない。

「ふふっ、カリンが戻ってくると思っているんですか? ルイス皇子は彼女にご執心、今頃彼女はろくに服も着せてもらえていないと思いますわよ」

 気がつけば、わざとセルシオ国王のトラウマを刺激するようなことを言っていた。
 瞬間、一瞬で私を殺しそうな目つきで彼が私を睨んだ。
(こ、怖過ぎ!)

「アルタナ、留守を頼んだ。今からパレーシア帝国に行って来る」
「では、船をご用意します」
「貿易船に乗っていくから構わない」

 セルシオ国王は私の横を素通りして行ってしまった。
(1人でふらっと行って、カリンが取り戻せると思っているの?)
 
 私は離婚もできたし、祖国に戻り女王に即位し国を建て直しながら吉報を待つしかない。
 盟約の誓いをしていて本当に良かった。

 セルシオ国王の足止めはできなかったが、ルイス皇子が立太子した時点でシャリレーン王国は帝国の支援が受けられる。

 とにかく祈りながら毎日を過ごそうと思った。

「神様、創世の聖女様、カリン様、どうか時を戻さないでください」
 
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