身代わり婚〜悪女の姉の策略で嫁ぎましたが夫を溺愛してます〜

専業プウタ

文字の大きさ
34 / 40

34.カリン、とっても甘そうだ⋯⋯。

しおりを挟む
 ルイスは私を自分の執務室に案内すると、本棚から青い本を一冊抜いた。
 本棚が動いて、その下から地下に続く階段のようなものが見える。
 驚きのあまり声を出そうになったところを、彼に口を抑えられた。
(そうだ、今、ルイスは皇帝の命令に逆らって私を逃がそうとしている⋯⋯)

 階段の下は大きな歩行空間になっているようだった。
遠くに水の流れる音が聞こえる。
皇城から海まで繋ぐ秘密の道があるということだ。
(真っ暗でほとんど何も見えない⋯⋯少し怖い)
 
 ルイスは右手で私の手を繋いでくると、左手で小さな赤い炎を出した。
 その炎でほんのり周囲が明るく見えてくる。
 彼は火の魔力を持っている人だからだろうか、手がとても温かくて安心する。

「カリン、もう声を出しても大丈夫だよ。ここは皇族しか知らない隠し通路だ」
「そうなんですね⋯⋯」
 ルイスともう会えないかもしれないと思うと寂しい気持ちになった。
 彼が自分に好意を持っていることに、いつからか気がついていた。

 それでも、私は彼とレイリンをくっつけようとしていた。
 どこまで彼は私の気持ちに気がついて、傷ついて来たのだろう。

「カリン、セルシオ国王が君を迎えに来ているって情報が入ったよ。それと、君はカルパシーノ王国に戻ったら、そのままシャリレーン王国に出向くと良い。君はアリアドネのことを気にしていたよね。彼女は見ていられない程、国の為に生きていて誰も頼れない人だ⋯⋯この手紙を持って彼女の元に行って、君の願いも彼女の願いもきっと叶うから」
「アリアお姉様の願いと、私の願い⋯⋯ルイス、ありがとうございます」

 私はルイスから渡された手紙を握りしめた。
 姉と私の願いを叶えてくれるという彼に、私も彼の願いを叶えると返してあげられない。
 彼の願いは私と一緒にいることだと聞かなくても分かっている。

 時を戻す前、大して彼のことを知らないのに彼と姉を自分の敵と決めつけてしまった。
 生贄にされた事実を知ってもなお、私の意思を尊重してくれる彼が敵とは思えない。

 歩いて行くと光が差し込んできて出口が近いのがわかった。
ルイスがそっと自分の左手の炎を消す。

「ほら、僕は火の魔力を完全にコントロールできるって分かった?」
「はい。私も神聖力のコントロール方法を学びたいです。お父様のことも、元気にし過ぎてしまったということですよね⋯⋯」
「まあ、そうかな⋯⋯しばらく、皇位は譲ってもらえなそう」

 ルイスが微笑みかけてきて、私は胸がいっぱいになった。

 隠し通路を抜けると、セルシオが私を待っていた。

「セルシオ! 会いたかった」
 私は気がつけば彼に抱きついていた。

「カリン、心配した⋯⋯君に何かあったらどうしたら良いのか」
 私を愛おしそうに抱いてくれるセルシオを抱きしめ返す。

「セルシオ国王陛下、カリンを父上を治療するのにお借りしました。しかし、カリンの力は人の欲望を引き摺り出すような恐ろしい力です。父上の1面を見ただけで全てを見たと思わず、1番愛おしい人を守ってください」

 ルイスが頭を下げていて、私は彼に駆け寄って私の為にそんなことをしないで欲しいと訴えたくなった。
 自分でもなぜだか分からないが、私はルイスが人に頭を下げたりするのを見たくない。
 
「ご忠告とカリンを見送ってくれたことに礼を言います」

 セルシオが私を抱く力を強くする。
 私は緊張で固まってしまった。

 私には彼との1年の結婚生活の記憶がある。

 しかし、彼にとって私は5日だけ自分の妻だった女で、身分まで偽っていた女だ。

 ルイスが隠し通路の出口に待機していた侍従から受け取ったお土産を渡して来る。
 私が昨晩食べ切ってしまったクッキーが30箱入っていた。

 私は私をじっと見つめるルイスから目が離せないままに、案内されるがままに小さな船に乗った。

 その後、パレーシア帝国の紋章のついた速そうな船に乗り継いだ。
 セルシオと私は豪華な客室に案内され、フカフカの赤いソファーに並んで座った。

「セルシオ、こんな遠くまで迎えに来てくれたのですか? 嬉しいです」
「カリン⋯⋯君が心配で気が狂いそうだった。帰ったら、正式に俺の妻になってくれ」

 私の頬に手を添えてくるセルシオに胸の鼓動が死にそうなくらい早くなる。
 私はとにかく気持ちを落ち着けながら、彼のプロポーズに頷いた。

「ど、どうしたのですか? そ、そういえばお土産のクッキーを食べますか? 帝国のお菓子はすごく美味しいですよ」

「カリン、君の方が美味しそうだ⋯⋯」

 船に乗ってからセルシオの様子がおかしい。
 今、私たちは船の中の部屋に2人きりだ。

 私の知っている彼は私を含めて女性に対してはクールな印象だった。
 だからこそ、彼が死に際に私に愛を語ってきた時には驚いた。

 こんなに甘い彼は見たことがなくて戸惑ってしまう。
(まさか、死期が近いんじゃ?)

 セルシオは時を戻す前、口づけしてくれたのさえ死に際だった。

「実はレースの可愛い寝巻きも買ったんです。これを着た私もお土産ですよ⋯⋯」
 自分でも何を言っているのか分からなかった。
 
 ただ、いつになく色っぽいセルシオに応戦しようとして変なことを言ってしまった。

 「カリン、とっても甘そうだ⋯⋯」

 気がつけば私はセルシオに口づけをされていた。
(これ、セルシオが死に際にやっとしてくれた口づけ⋯⋯)

 私は思わず自分を抱きしめてくる彼にしがみついた。
 彼らしくない事をされると不安で堪らなくなる。
(今度こそ、彼を守り抜いて見せる)

 気がつけば彼にお姫様抱っこされて、私はベッドの方まで連れて行かれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む

青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。 12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。 邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。 、

偽聖女として断罪追放された元令嬢は、知らずの森の番人代理として働くことになりました

石河 翠
恋愛
見習い聖女として神殿で働いていた伯爵令嬢リリィは、異母妹に嵌められ偽聖女として断罪される。頼りの大聖女も庇ってくれないまま、リリィは貴族ではなく平民として追放された。 追放途中リリィは、見知らぬ騎士に襲われる。危ないところを美しい狼の加勢で切り抜けた彼女は、眠り続けているという森の番人の代理を務めることに。 定期的に森に現れる客人の悩みを解決するうちに、働きづめだった神殿やひとりぼっちだった実家よりも今の暮らしを心地よく感じ始めるリリィ。そんな彼女の元に婚約破棄したはずの婚約者が復縁を求めてやってきて……。 真面目でちょっとお人好しなヒロインと、訳ありヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 約10万字、2025年6月6日完結予定です。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙画像は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:1602447)をお借りしております。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

処理中です...