38 / 40
38.アリアお姉様、お会いしたかったです。
しおりを挟む
私が時を戻す前も、ルイスは私を好きだったと思うと確信めいた表情で語っていた。
私はセルシオを失った後は、この世界に興味がなくなっていた。
再三、対話を求めてくるルイスのことを無視し続けた。
そして私自身が寝室で彼に献上されると知った日。
ルイスはセルシオの首を持って楽しそうにしていた。
私は彼を最低なクズ男と思い生贄にした。
でも、ルイスの人となりを知った後では、もっと彼と話すべきだったと思う。
私は移動中の船で2週間セルシオの首を離さなかった。
きっと、ルイスはそんな私を哀れに思い、城門にかけられる前のセルシオの首を持ってきてくれたのだ。
そして、彼の高圧的な態度や発する言葉は私が愛読した『絶倫皇子の夜伽シリーズ』の主人公にそっくりだった。
彼はカルパシーノ王国に密偵も潜ませているようだった。
姉が私の会話を盗聴していたことも知っていた。
私の愛読書についても知っていたかもしれない。
私の事が好きで仕方ないのに、対話もできなくて彼は私の好みを絶倫皇子のような男と勘違いし演技をしていた可能性がある。
いつも、私を見るだけで顔を真っ赤にしてしまうようなルイス。
きっと自分とはかけ離れた演技をしている自分に笑えてきてしまっていたのだろう。
彼の複雑な感情など考えずに、私は勝手に彼を最低な愉快犯のように決めつけた。
あの時の私はセルシオのことしか考えていなくて、生贄候補であるルイスを悪者にする事ばかりに気を取られていた。
本当は、ルイスの口づけが言動とは裏腹に優し過ぎることに気がついていた。
過去のルイスが本当は何を考えていたか知りたくても、それはもう叶わない。
対話の機会を拒絶し、彼の存在する世界の時を切り捨てたのは私だ。
私は本当に清らかな慈悲の心を持つという聖女とは程遠い存在だ。
せめて、隣にいるセルシオだけでも幸せにできる存在になりたい。
私とセルシオはカルパシーノ王国に到着するなり、すぐにシャリレーン王国で行われる姉の戴冠式に向かった。
シャリレーン王国に到着すると、すれ違う人間が皆私の姿を不思議そうに見ていた。
今日、この国の女王になるアリアドネ・シャリレーンと似ているからだろう。
シャリレーン王国の王宮は、宗教色が強いのか紫色と黄色という変わった配色をしていた。
そして、王宮で働く人たちもメイド服ではなく、皆、紫色に黄色のラインが入ったロングスカートのような服を着ている。
セルシオと私が通ると、膝を曲げて、両手を胸に手をあてお辞儀をしてくる。
そのお辞儀の仕方も独特で、他国とは全く違う文化を持っているようだ。
この国で14歳まで育った姉が、他国の礼法を完璧に身につけて優雅に振る舞っていた事に気が付かされる。
「セルシオ・カルパシーノです。本日はお招き頂きありがとうございます。アリアドネ女王陛下はどちらにいらっしゃいますか? 少しお話しできればと存じます」
セルシオの存在を確認すると姉がいるという控え室に案内された。。
純白のウェディングドレス姿で紫色の王冠をかぶっている姉は息を呑むほど美しかった。
淫猥で寝台で君主を惑わせてきた悪女⋯⋯そんな彼女はどこにもいなかった。
清廉潔白、一点の曇りもなく国の未来を見据える君主の瞳。
その清らかさに、私は自分が神なら彼女に神聖力を授けるだろうと思った。
「アリアお姉様、お会いしたかったです」
私は彼女を抱きしめ、ありったけの神聖力を送った。
「温かいわね⋯⋯」
柔らかく微笑む姉が美しい。
彼女のことも私は理解できていなかった。
彼女が本当に望んでいるのは、シャリレーン王国の再建だ。
それなのに、3カ国を滅ぼしてきた彼女を悪女であると私が決めつけていた。
だからこそ、カルパシーノ王国が滅ぼされそうになった時に彼女が暗躍していると決めつけた。
実際、過去の彼女がどう思っていたかなんて私には分からない。
でも、今美しく清らかな彼女が本当のアリアドネ・シャリレーンなのだと思う。
「アリアお姉様、実は帝国のお土産があるんです。パレーシア帝国は本当にお菓子帝国でした」
私はお土産のクッキーを1箱出すと、思わず美味しそうで手が伸びて1つ食べていた。
(美味しすぎる⋯⋯止まらなくなりそうだわ)
ルイスは本当に私を理解している。
彼は30箱お土産に渡してくれたが、これが最後の1箱だ。
私はとても誘惑に弱い女だった。
姉にも帝国のお菓子を食べさせたいのに、1日1箱は気がつけば食べ終わってしまっていた。
「お土産だったんでしょ。どうして自分で食べるのよ」
姉が笑っている。
私は彼女の笑顔を見るのが初めてで思わず見入ってしまった。
(本当に綺麗な笑顔⋯⋯ずっと見たかった⋯⋯)
「甘い⋯⋯本当に美味しいわ」
姉は目に涙を浮かべながら、クッキーを頬張っていた。
孤児院に寄付をし続けたことのお礼を言いたいのに、泣きながらクッキーを食べる姉の前にして言葉が出ない。
それに、姉がどんな気持ちで両親の名前をもじって孤児院に寄付していたのかも私には分からない。
姉が自分の名前ではなく、彼らの名前を使ったことにはきっと意味があるはずだ。
でも、その意味を聞いてしまうと姉がますます泣いてしまいそうで聞けなかった。
今日は姉の戴冠式でもあるが、結婚式でもある。
きっと、女の子が一番綺麗で幸せな日だから、姉に辛いことを思い出してほしくはないと思った。
私はセルシオを失った後は、この世界に興味がなくなっていた。
再三、対話を求めてくるルイスのことを無視し続けた。
そして私自身が寝室で彼に献上されると知った日。
ルイスはセルシオの首を持って楽しそうにしていた。
私は彼を最低なクズ男と思い生贄にした。
でも、ルイスの人となりを知った後では、もっと彼と話すべきだったと思う。
私は移動中の船で2週間セルシオの首を離さなかった。
きっと、ルイスはそんな私を哀れに思い、城門にかけられる前のセルシオの首を持ってきてくれたのだ。
そして、彼の高圧的な態度や発する言葉は私が愛読した『絶倫皇子の夜伽シリーズ』の主人公にそっくりだった。
彼はカルパシーノ王国に密偵も潜ませているようだった。
姉が私の会話を盗聴していたことも知っていた。
私の愛読書についても知っていたかもしれない。
私の事が好きで仕方ないのに、対話もできなくて彼は私の好みを絶倫皇子のような男と勘違いし演技をしていた可能性がある。
いつも、私を見るだけで顔を真っ赤にしてしまうようなルイス。
きっと自分とはかけ離れた演技をしている自分に笑えてきてしまっていたのだろう。
彼の複雑な感情など考えずに、私は勝手に彼を最低な愉快犯のように決めつけた。
あの時の私はセルシオのことしか考えていなくて、生贄候補であるルイスを悪者にする事ばかりに気を取られていた。
本当は、ルイスの口づけが言動とは裏腹に優し過ぎることに気がついていた。
過去のルイスが本当は何を考えていたか知りたくても、それはもう叶わない。
対話の機会を拒絶し、彼の存在する世界の時を切り捨てたのは私だ。
私は本当に清らかな慈悲の心を持つという聖女とは程遠い存在だ。
せめて、隣にいるセルシオだけでも幸せにできる存在になりたい。
私とセルシオはカルパシーノ王国に到着するなり、すぐにシャリレーン王国で行われる姉の戴冠式に向かった。
シャリレーン王国に到着すると、すれ違う人間が皆私の姿を不思議そうに見ていた。
今日、この国の女王になるアリアドネ・シャリレーンと似ているからだろう。
シャリレーン王国の王宮は、宗教色が強いのか紫色と黄色という変わった配色をしていた。
そして、王宮で働く人たちもメイド服ではなく、皆、紫色に黄色のラインが入ったロングスカートのような服を着ている。
セルシオと私が通ると、膝を曲げて、両手を胸に手をあてお辞儀をしてくる。
そのお辞儀の仕方も独特で、他国とは全く違う文化を持っているようだ。
この国で14歳まで育った姉が、他国の礼法を完璧に身につけて優雅に振る舞っていた事に気が付かされる。
「セルシオ・カルパシーノです。本日はお招き頂きありがとうございます。アリアドネ女王陛下はどちらにいらっしゃいますか? 少しお話しできればと存じます」
セルシオの存在を確認すると姉がいるという控え室に案内された。。
純白のウェディングドレス姿で紫色の王冠をかぶっている姉は息を呑むほど美しかった。
淫猥で寝台で君主を惑わせてきた悪女⋯⋯そんな彼女はどこにもいなかった。
清廉潔白、一点の曇りもなく国の未来を見据える君主の瞳。
その清らかさに、私は自分が神なら彼女に神聖力を授けるだろうと思った。
「アリアお姉様、お会いしたかったです」
私は彼女を抱きしめ、ありったけの神聖力を送った。
「温かいわね⋯⋯」
柔らかく微笑む姉が美しい。
彼女のことも私は理解できていなかった。
彼女が本当に望んでいるのは、シャリレーン王国の再建だ。
それなのに、3カ国を滅ぼしてきた彼女を悪女であると私が決めつけていた。
だからこそ、カルパシーノ王国が滅ぼされそうになった時に彼女が暗躍していると決めつけた。
実際、過去の彼女がどう思っていたかなんて私には分からない。
でも、今美しく清らかな彼女が本当のアリアドネ・シャリレーンなのだと思う。
「アリアお姉様、実は帝国のお土産があるんです。パレーシア帝国は本当にお菓子帝国でした」
私はお土産のクッキーを1箱出すと、思わず美味しそうで手が伸びて1つ食べていた。
(美味しすぎる⋯⋯止まらなくなりそうだわ)
ルイスは本当に私を理解している。
彼は30箱お土産に渡してくれたが、これが最後の1箱だ。
私はとても誘惑に弱い女だった。
姉にも帝国のお菓子を食べさせたいのに、1日1箱は気がつけば食べ終わってしまっていた。
「お土産だったんでしょ。どうして自分で食べるのよ」
姉が笑っている。
私は彼女の笑顔を見るのが初めてで思わず見入ってしまった。
(本当に綺麗な笑顔⋯⋯ずっと見たかった⋯⋯)
「甘い⋯⋯本当に美味しいわ」
姉は目に涙を浮かべながら、クッキーを頬張っていた。
孤児院に寄付をし続けたことのお礼を言いたいのに、泣きながらクッキーを食べる姉の前にして言葉が出ない。
それに、姉がどんな気持ちで両親の名前をもじって孤児院に寄付していたのかも私には分からない。
姉が自分の名前ではなく、彼らの名前を使ったことにはきっと意味があるはずだ。
でも、その意味を聞いてしまうと姉がますます泣いてしまいそうで聞けなかった。
今日は姉の戴冠式でもあるが、結婚式でもある。
きっと、女の子が一番綺麗で幸せな日だから、姉に辛いことを思い出してほしくはないと思った。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~
夢呼
ファンタジー
異世界へ「王妃」として召喚されてしまった一般OLのさくら。
自分の過去はすべて奪われ、この異世界で王妃として生きることを余儀なくされてしまったが、肝心な国王陛下はまさかの長期不在?!
「私の旦那様って一体どんな人なの??いつ会えるの??」
いつまで経っても帰ってくることのない陛下を待ちながらも、何もすることがなく、一人宮殿内をフラフラして過ごす日々。
ある日、敷地内にひっそりと住んでいるドラゴンと出会う・・・。
怖がりで泣き虫なくせに妙に気の強いヒロインの物語です。
この作品は他サイトにも掲載したものをアルファポリス用に修正を加えたものです。
ご都合主義のゆるい世界観です。そこは何卒×2、大目に見てやってくださいませ。
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】動物と話せるだけの少女、森で建国して世界の中心になりました
なみゆき
ファンタジー
ミナ・クローバーは、王国で唯一の“動物使い”として王宮のペットたちを世話していたが、実は“動物語”を理解できる特異体質を持つ少女。その能力を隠しながら、動物たちと心を通わせていた。
ある日、王女の猫・ミルフィーの毒舌を誤訳されたことがきっかけで、ミナは「動物への不敬罪」で王都を追放される。失意の中、森へと向かったミナを待っていたのは、かつて助けた動物たちによる熱烈な歓迎だった。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる