私の死を覚えている人〜鮮血の赤い糸は、私を逃がさない〜

専業プウタ

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19.推しのハートに火がついた

 私は今、女子グループに混じってお喋りをしている。
半日でボッチだった私とサヨナラする事ができたのだから驚きだ。

 すぐにグループ化する女子をくだらないと思っていたが、グループに入るのはいつの間にかだった。
私が自分のバカさ加減を打ち明けると、周りは親身になってくれた。
せめて赤点をとらないようにしようと周囲に助けを求めたら、沢山の手が差し伸べられた。

 私は周りから見て近寄り堅かったらしい。ありのままの自分を曝け出したら、みんな怖がらずに話しかけてくれるようになった。
 
 それまで私同様ボッチだったはずの美湖ちゃんまでも、今は一緒にグループの中に入っている。
 
 何がきっかけかなんてわからないものだ。私の寂しさは急速に埋められていった。

 帰り支度を済ませていると、周囲が騒がしくなる。
 私は門の前に玲さんが迎えに来ているのだと察した。
 リムジンを門の前に乗り付けて、堂々と私を迎えに来られるのは玲さんの特権だ。
 
 彼は窓から顔を出した私を見つけるなり、清涼飲料水のCMのような爽やかな笑顔で手を振ってくる。
 私はそんな彼に手を振り返した。皆が私を羨ましがっているのは、やはり少し気持ちが良い。
 
 それでも1週間後に私は何が起ころうと彼とは別れるつもりだ。

 帰りの会が終わるなり、再び窓際にへばりついて玲さんを一目見ようとする子たちを見てため息が漏れる。
 彼女たちは玲さんがどれ程恐ろしいかも知らずに、彼の美しさだけを見て憧れているのだろう。

 「えっ、嘘でしょ?」
 口々に皆が驚いたような声を出し頬を染めていた。

 皆が窓際ではなく廊下側の方に群れをなして移動しはじめた。

「な、何事?」
「やばいですよ! 大スターの襲来ですよ、凛音さん!!」

 仲良くなったばかりの丸岡茉莉乃が興奮気味に私の二の腕腕を叩いてくる。

「やっぱり、同年代での人気は凄いよね。私たちと同じ年の男の子が活躍してるんだもの。HIROが今学校に来ているらしいよ。『スーパーブレイキン』最高!」
 美湖ちゃんが嬉しそうに拍手している。

「HIRO! HIRO! HIRO!」
 謎の拍手とコールと共に行儀良く列を作る皆にあっけにとられる。しっかりと声を揃え、花道を即座に作れるのはお嬢様学校で厳しく躾けられた成果の賜物だ。
 ここの学校の生徒は音楽はクラシックしか興味ないような顔をしながら、実はかなりミーハーだったようだ。
 私は玲さんとHIROには会わないと言う約束をした以上、彼と出会す訳にはいかない。
(あと1週間、静かにしていれば玲さんとの婚約も円満に破棄できるのに⋯⋯)

 HIROは黒蘭学園にボランティア活動にでも来たのだろうか。
 
 どのような理由であれ、玲さんとの約束を守らない事は死に直結する。

「美湖ちゃん、みんな、バイバイ! 私、玲さんが待っていてくれているから急がなきゃ」

 私は友達が急にできた興奮に胸がいっぱいになったのも束の間、迫りくる恐怖に教室を後にした。

「凛音!」
 後ろから呼び止めてくる男の声は、少し高いHIROのものだ。
 私の未来の不倫相手かもしれない彼を相手にする気はない。
 道ならぬ恋をする程に、今は彼に溺れてもいない。

 私は彼を無視して校舎の外付きの扉を勢いよく開けて、非常階段を駆け降りようとした。

 「わっ!」
 今朝早くに降った雨のせいか私は足を滑らせて階段を転げ落ちそうになる。
 非常階段の重い扉が大きく閉まる音がした。
 それと共に私は熱いくらいの温もりに包まれた。

「凛音は本当に危なっかしいな。昨日、会ったばかりなのに会いたくて仕方がなかった」
「私、もうHIROとは会わないって言ったよね!」
 後ろから強く抱きしめられたせいか、危機に瀕していたからか心臓の鼓動が早くなる。
 それと共に門の所にいる玲さんからは、角度的に私たちの姿が見えていると言う事実に気が付く。

「あの、離して1」
 私は玲さんが私とHIROの微妙な音声だけで浮気を疑った事を思い出していた。
 私には前科があったのだ。
 前科持ちの私は些細な行動でも疑われる。
 1週間後に婚約破棄が成立するまでは、静かに穏便に過ごす必要がある。

「離さねえよ!」
 HIROがますます強く私を抱きしめてきた。
(離さないとHIROの命が危ないんだって! 説明したはずなのに理解できてないの?)

「ボランティア活動で来たんじゃないの? まさか、不法侵入? どうやって、校舎に侵入したのよ! ここは、関係者以外立ち入り禁止なはずだけど?」
 お嬢様学校というだけあり、セキュリティーはバッチリだ。
 事前登録のない人間は一切学校の敷地内に入れないのが、この学校の売りでもある。

「裏口の用務員さんみたいな人に柏原凛音の恋人だって言ったら、あっさり入れたけど」
 新校舎を寄付した効果あってか、「柏原パワー」は絶大な力を持っていたようだ。

「はぁ? 私たち恋人じゃないよね。何言ってるの?」
「でも、お前は曽根崎玲と別れたいんだろ。恋人役をやってやるよ。そうすれば、きっとアイツも諦めて別れてくれるだろう」

 外から丸見えの非常階段で、HIROは私を助けにきたヒーローのような顔をして裏口から徒歩でやってきた。
 鉄の塊を乗り付けてきた万能魔王の玲さんに勝てるはずもない。

「恋人役なんていらない! そんな事をしたら玲さんの逆鱗に触れるから危ないの! あと、勘違いして欲しくないから言うけど小柳真紘には何の興味も持ってないからね!」
 私の言葉にHIROは笑って、私を反転させる。

 そのまま彼と向き合った形になり、思いっきり抱きしめられキスされた。
 身を捩って抵抗したが力の差があり無駄だった。私はただ玲さんに目撃されていないことを願った。
 
 その時の私はモテ続ける人生を送ってきたHIROが、私に避けられ拒絶され続けた事で余計に燃え上がっている可能性まで考えが及んではいなかった。

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