私の死を覚えている人〜鮮血の赤い糸は、私を逃がさない〜

専業プウタ

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23.開花する才能

 私は怖いし自分に自信も持てないが、兄の力強い言葉に『JKロック』のキーボードをやってみる事にした。

 私が『JKロック』のキーボードをやると宣言すると、美湖ちゃんも、奈美子さんも喜んでくれた。
そして、何より喜んだのはHIROだった。

「曽根崎玲との婚約も解消されたし、俺たちの間に障害がなくなったな。凛音、この際本当に俺と付き合わないか?」
 目をキラキラさせながら、事務所の人が周りにいるのに告白してくるHIROは馬鹿だと思う。アイドルが恋愛なんてしたら、ファンはがっかりだ。
 
「HIRO⋯⋯ファンに手を出すなんて最低だよ。アイドルとしてまずは一流になりなよ。私、貴方のファンだとは言ったけれど、恋愛感情は全くないから」

「凛音は俺のこと好きって言ったり、突き放したり駆け引き上手だな。まあ、絶対落とすけどな」
 HIROは得意げに言い放つ練習スタジオに入っていった。私は会話の成立しなさに驚いていた。彼はファンとして好きと恋愛感情の好きの区別できていない。

 奈美子さんが私たちのやり取りを微笑ましそうに見ている。
「凛音ちゃん、これから宜しくね! うちの弟は超自信家で諦める事を知らないから頑張ってね」
 出された彼女の手を握り返す。HIROの事はともかく私は恥をかかないように『JKロック』に全力を注ごうと誓った。
 
 奈美子さんに連れられてスタジオに行くと、ショートカットのギターのM AIとポニーテールをしたベースのRINAがいた。

「よろしくお願いします。キーボードをやらせて頂きます。柏原凛音です」
 これからお世話になる先輩たちに深々と頭を下げる。
「お嬢様って感じだね。黒蘭学園の制服じゃん」「習い事感覚で来られてもねー」
 MAIとRINAの冷ややかな声に私は驚いてしまった。
 昔から、私の世界では私の後ろにある柏原ブランドを見て、みんな私には表向きは気を遣って接していた。

「とんでもない才能のある子だから、びっくりするよ」
奈美子さんが皆の仲をとりもとうとする。

「ウッセーよ、ババア」
 私はRINAが言い捨てた暴言に驚いた。ロックの世界は不良の世界だ。かつて私もヤキモチのような不思議な感情から奈美子さんをババア扱いした。しかし、見た目的に見て明らかに奈美子さんは既存メンバーよりは若い。

「客観的に見てRINAさんの方が奈美子さんよりお年を召して見えますよ。二児の母と言われても疑いません」
 RINAさんは大人顔をしていて、童顔の私から見ると羨ましい。そして奈美子さんは25歳であるが故にJKに見えるよう気をつけている。

「はぁ? 何こいつ生意気なんだけど!」
 思った通りの事を言っただけなのに、私はRINAに殴られそうになった。
 私はあまりのロックな展開に怖くて目を瞑ってしまった。

「何やってるの? 新人虐めて」
 その時、隣のスタジオで練習中のはずのHIROの声がした。
 顔をあげるとRINAの手を捻り上げているHIROと目があった。

「いや、こいつが私を老け顔呼ばわりして」
「違います! 私はRINAさんが、子供2人くらい産んでそうな大人な顔してるって言ったんです! 私はこの通り童顔で可愛い過ぎてロリコンの餌食になりやすいので羨ましかっただけです」

 私の弁明になぜか周りは吹き出した。
 私は無自覚に笑われるような事を言ってしまう時がある。何を言えば笑われないのか未だ理解できない。思ったことをそのまま言っているだけだ。

「ねっ! 凛音ちゃんはキャラも良いし。顔も良いし。演奏技術もハンパないんだから! あっという間に、この子人気出ると思わない?」
 私の頭を奈美子さんが撫でてくる。私にそんな事をしてくるのは兄の博樹くらいだったので、心がくすぐったくなる。

「確かに、天然お嬢様受けそう。でも、親とか学校の許可はとってるの?」
 MAIさんが首を傾げながら尋ねてくる。

「とってません。私は無償のボランティア活動として『JKロック』に参加します。でも、柏原凛音の名にかけて必死に頑張ります」
 私はグループで円陣を組んだ方が良い気がして手を前に出した。
 すると奈美子さんが私の手に手を重ね、続いてMAIさんとRINAさんが手を重ねてくる。

「東京ドームに行きたいかっ!」
「おー!」
 私が叫んだ言葉に3人が合わせてくれた。

「そこは日本武道館なんじゃないの?」
 HIROがなぜか吹き出している。
「5大ドームツアーとかできるくらいになりたいって意味だよね」
 奈美子さんが微笑みながらフォローしてくれた。
 
 予想外に半年もしない間に私は一躍人気者になった。
「可愛過ぎる天然お嬢様がロックに参戦」「お嬢様のピアノレッスンがロックのキーボードに!?」
 私は連日雑誌や新聞で取り上げられた。
 そのどれも私の見た目と柏原ブランドで誤魔化した紛い物のような感じで落ち込んだ。

 周囲が称賛している間にも私の心は落ち込んでいった。
 いつ中身が空っぽなことに気が付かれ叩かれるのかと不安になった。
 一心不乱にスタジオで演奏している時だった。

 扉のノックと共に現れたのは美湖ちゃんのお父様だった。私の演奏に拍手をしながら現れた彼に美湖ちゃんの面影を見た。
「RIO、そんなに練習に躍起にならなくても大丈夫。君の演奏は完璧だよ」
「完璧⋯⋯そうですよね。歌番組では弾いてるフリだけでインストラメンタルになるだけだし⋯⋯」
 弱音を吐いてしまうのは彼が美湖ちゃんに似ているせいだ。静かな口調と決して人を責めることのない優しい性格。私の大好きな親友によく似ている。

「作曲、挑戦してみる気はない? 自分の音楽的才能を試してみるんだ」
「私にそんな特別な才能なんてない⋯⋯。変な曲作って笑われたら嫌だ」
 父がモーツアルトが好きだから、作曲も学ばされた事がある。懸命に作った曲を家庭教師のピアニストは「本当に子供っぽい」と嘲笑った。

「変な曲か⋯⋯僕は聞いたことのない曲を聴きたいな。初めて聴いた時にナニコレと首を傾げたくなるような、感性をぶつけたような曲を聴きたい。RIO、失敗しても別に構わないんだよ。失敗をしない人なんていない。でもね、RIOが作った曲を聴いてみたいって人はいると思うんだ。変な曲作ってくれないかな?」
 美湖ちゃんのお父様は娘から私が今の立ち位置に悩んでいることを聞いて他のかもしれない。私は美湖ちゃんには隠している胸の内を話すようになっていた。彼女は決して私を責めないで黙って話を聞いてくれるからだ。

「私、変な曲作ってみます。子供っぽくて笑っちゃうような変な曲」
 私の返事を聞いて穏やかに笑う美湖ちゃんのお父様をみて、私にもこんな父親がいたらと思ってしまった。

 美湖ちゃんのお父様の薦めで作曲にも挑戦した。私の作った曲に快く奈美子さんが詩を書いて歌ってくれる。この曲は彼女を想いながら作った。繰り返すときの中で懸命に歌う永遠の女子高生の輝きをイメージした。

「聴いたことのないメロディーライン」「耳に残るくらい癖になる」

 私が作った新曲の『永遠のJK』は異例のヒットをした。
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