愛より、お金!〜溺愛してくる夫が重いので、離婚させてださい〜

専業プウタ

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11.「それは、もっと仲良くなってからにさせてください」

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 朧気な意識の中で目を開くと、全てを手にしたような満ちたりた表情で私を見つめる美青年がいた。
 銀髪に少し憂いを帯びた澄んだエメラルドの瞳、ソフィアが思い出にしたいと願った男⋯⋯アーネスト・グロスターだ。


「アーネスト・グロスター。そなたは、ソフィア・リットンを妻とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、妻を想い添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」
 
 「はい、誓います」
 アーネストが穏やかな声で微笑みながら誓った言葉に、私はまた自分が時を戻ったのだと確信した。

「ソフィア・リットン、そなたは、アーネスト・グロスターを夫とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、夫を想い添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」

「はい、誓います」
 私は自分の口から出た言葉に驚いた。
(誓いませんって言ったつもりなのに、なんで⋯⋯)

 風がとても強くて雲が凄いスピードで流されていた。私はその雲に乗って遠くまで逃げ出したいような気持ちになった。

 結婚式の最中ふと強い視線を感じた。
 視線を感じた先を見ると深い緑色のドレスを着たシェイラ嬢が私を睨みつけていた。
 
 結婚式が終わり、グロスター伯爵邸でメイドに手伝われながら湯浴みをする。
 お風呂には赤い薔薇の花びらが浮いていて、私は今晩アーネストが何本の薔薇を持ってくるのかと考えていた。
 前回、花で不満を伝えるという手段を彼から奪ったのは失敗だった気がする。
 そして、前回は離婚を急かし過ぎて必要以上にアーネストを追い詰めてしまった。今回はあちらから離婚を言い渡されるように、自分と彼の価値観が合っていない事を伝えていったほうが良いだろう。
 いつの時代も、どこの世界でも離婚の原因1位は「価値観の不一致」だ。

「奥様、最初は不安でしょうがグロスター伯爵様に全てお任せすれば大丈夫です」
「まあ、アーネスト様はその道のプロでしょうからね」
 メイドは私の返答に気まずそうにしていた。

 アーネストは夢のような一夜をくれる方だと貴族令嬢たちが噂しているのを聞いた事があった。でも、私は彼との行為がそのような素晴らしいものだと思った事はない。もしかしたら、私の方に何か問題があるのかもしれない。

 とにかく、私は今回も白い結婚作戦を継続するつもりだ。

 寝室に案内されて、アーネストが来るのを待つ。
 よく見ると私は1回目に殺された時の3段フリルのお気に入りの寝巻きを着ていた。
 2回目に殺されたのは明らかに『心中』だった。
 もしかしたら、1回目もアーネストは私を撲殺した後、後を追ったのかもしれない。
 撲殺以外も殺し方は沢山あるようだ。
 殺されて時を戻るとトラウマを抱えたまま同じ時を過ごさなければならないのが辛い。私は精神的には強い方だと自負しているが、前世も含め3度殺された事で結構メンタルに限界が来ている。
 
 扉がノックする音がして、小さく返事をするとガウンを着たアーネストが部屋に入ってきた。
 
「いらっしゃい、アーネスト様。私からお願いがあるのですが聞いていただけますか」
「もちろんだ」
「初夜を待って頂きたいのです。成り行きでアーネスト様と結婚する事になりましたが、やはり、そういった行為はお互いをもっとよく知ってからが良いと思います。今宵は、アーネスト様さえ宜しければ一晩中お喋りしませんか?」

 私の言葉が予想外だったのか、アーネストは目を瞬いていた。彼は後ろ手に持っていた赤い薔薇の花束を差し出してくる。
 100本くらいの本数があるから、初めの初夜の時と同じ本数だろう。

「赤い薔薇とても綺麗ですね。何本あるのですか?」
「99本だ」
 彼はそう言うと私にベッドに座るように促して来た。今晩の私の目標は彼と喧嘩をせず、彼に私と彼の価値観の隔たりの大きさを感じさせる事。だから、取り敢えず彼の言うことに従いベッドに座る。すると、すぐ隣に彼が座ってきた。
(うっ⋯⋯近い⋯⋯)
 愛おしそうに私を見つめてくる彼とコミュニケーションを取ろうと見つめ返す。
 彼のあまりの美しさに恐怖心の中に、ひとつまみのときめきが混じった気がした。

「薔薇の数を数えさせてください」
 私は彼がベッドに押し倒してくる事のないように、花束を解体しベッドに99本の薔薇を並べていった。棘がある薔薇の上に押し倒されたら、剣山に刺さった生花状態になるだろう。

「ソフィア、手伝うよ」
 アーネストは私が薔薇を並べるのを手伝ってくれた。客観的に夜中に何をやっているのかと行動が不自然過ぎて笑いを堪えるのが難しい。

「薔薇の数に意味はあるのですか?」
 今、手元に花に関する本がないから分からない。私は彼の声に出さない不満パラメーターを知る為に明日にでも本を買いに行こうと決意した。何の気なしに、前回本を隠したベッドの下に目をやる。

(えっ? 本がある? どういう事?)

 明らかに時を戻ったのに、あるはずのない花に関する本がベッドの下に見えた。
「99本の薔薇には『ずっと好きでした』という意味があるんだ」
 アーネストは結婚後半年後にされる予定だった、私に初恋をした話をして来た。私はベッドの下に本があった事に動揺して、話に集中できない。

「ソフィア、顔が真っ青だ。俺があのように軽い感じでプロポーズに訪れながら、実はずっと君を見ていたなんて言ったから怖がらせたよな」
 私の手を握りしめながら、アーネストが宥めるように見つめてくる。
「いえ、嬉しいですわ」
 私は最初にこの話を聞いた時も嬉しいと思っていた。
 最初に彼に殺されるまでは、私は彼と結婚した事を自分の人生最大のファインプレーだと思っていたのだ。

 なぜなら、彼と結婚した事で私の女としての評価が上がり宝飾品店の客が増えた。行き遅れの女が7歳も歳下のマゼンダ王国一のモテ男と結婚したからだ。
 私のファションを真似る動きが出て来たので、私は次に売りたいアイテムを身に付けるだけで売ることができた。大幅な宣伝費の削減に成功したのだ。グロスター夫妻は円満な夫婦として見られていたので、私の店の商品は縁起が良い物とみなされ贈答品としての購入率も上がった。

 それにしても花に関する本も私と時間を戻っているのだとしたら、アーネストはどうなのだろう。
「アーネスト様、時を戻れるとしたらいつに戻りたいですか?」
「時を戻る? 俺は今日という日を何度も繰り返したいかな。ずっと想い続けたソフィアが俺の妻になった最高に幸せな日だ」

 そっと手の甲に口づけを落とされながら吐かれた甘い言葉。
(アーネストは時を戻った記憶がない⋯⋯)
 彼は時を戻った記憶がないから、彼の言う最高の日に戻った時にいつも幸せを感じられるのだろう。
 私は死のトラウマを背負いながら、この日に戻っている。
 神が時を戻しているのは、私ではなくアーネストの為な気がしてきた。

「ソフィアの体調も悪そうだし、俺の部屋に移動しないか? 寝転がりながら話をしよう」
 アーネストは私の手を自分の頬に愛おしそうに当てながら、穏やかな瞳で見つめてくる。
「いえ、ここでアーネスト様にプレゼントされた薔薇に囲まれてお話ししたいです」
 剣山状態のベッドでなければ、押し倒されて抱かれてしまうリスクがある。

「君がそう言うならそうしよう」
 アーネストは私の上半身を傾けさせると自分の太ももに乗せた。
 剣術をやって日々鍛錬しているだけあって、筋肉質でかなり硬めの膝枕だ。
 私は彼を見上げる形で会話をする事になった。

「アーネスト様、結婚生活という共同作業をするにあたり幾つかの約束事を決めたいのですが宜しいですか?」
「もちろんだ。ソフィアはどのような約束をしたいの?」
「私にプレゼントは買わないでください。特に宝飾品はやめてください。私はパーティーには店の展示品や試作品をつけて行っています」
 ドレスにしても次に売りたい宝飾品に合わせて自分で購入したい。

 最初の結婚生活で毎日の花以外にも、定期的にドレスをプレゼントされた。
 メイドたちは私と彼が毎晩のようにお盛んなのを知っていたので、「脱がせたくて仕方がないのでしょうね」などと噂していた。
 
「花はプレゼントさせて欲しいな」
「もちろん、良いですよ。約束事は2人で決めるものです」
「では、その敬語をやめてくれないか? 夫婦になったのだから、もっと砕けた話し方をして欲しい」
「それは、もっと仲良くなってからにさせてください」
 敬語は人との距離を一定に保つのに役に立つ。
 私の最終目標はあくまで離婚なのだから、敬語は崩すつもりはない。

「分かった。早く仲良くなれるように俺が努力しないとな」
 私の髪を愛おしそうに撫でながら語る彼はとても幸せそうだ。
 本当は私も彼が絶対に自分を殺さないのなら、一緒にいたい気持ちはある。
 私は彼との最初の1年の結婚の生活は、毎日充実していたし幸せも感じていた。
 でも、彼は私を殺して心中を考えるくらい追い詰められていた。
 
 私は安全に離婚する為に彼と沢山話をした。

 私はリアリストで極度のロマンチストの彼とはかなり価値観が違う。
 それに気がついて、彼が私に失望して離れていくように願った。

 私は彼が私の自分と違うところに魅力を感じ、どんどん好きになっていた事をこの時は知らずにいた。
 
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