真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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5.初デート

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水族館はカップルが沢山いて緊張した。
トンネル水槽にはエイとサメが一緒に飼育されている。
毒のあるエイと凶暴なサメが共存しているのが不思議で私はじっと見ていた。キラキラ輝くイワシの群れがサメの前を通過する。

「真夏ちゃん、サメってイワシは食べないのかね? 水族館だと十分餌を貰えているからお腹が空かないのかな」

「食べてるよ、ほら」
群れになれず、はぐれたイワシがパクッと食べられる瞬間を珍しくも私たちは目撃した。

「うわー。グロッ! 俺、こういうの無理だわ」
「ふふっ」
サメが食事しているだけなのに怖がっているライ君が可愛い。

群れる魚は広い海にいる時は助け合うけれど、小さな水槽にいるとイジメが発生するらしい。イワシたちは小さな空間に押し込められているのに、協力し合っている。
それは同じ水槽の中にサメという脅威がいるからだ。イワシが群れる様が綺麗だから敢えて、サメと一緒に水槽に入れている。常に脅威に晒され必死に寄り添い泳ぐイワシもきっと辛い。

私はその様子に自分の孤独な学生時代を思い出していた。
私のクラスではイジメがなかった。それは、極道の娘である私が脅威になっていたからだ。先生もクラスメートも皆、できるだけ私に関わらないようにしていた。

下手に目立って私に目をつけられたら怖いのか、乱暴なイジメが発生しない平和なクラス。

私は一度も危害を加えなかったけれど、仲間に入れてもらえる事はなかった。
寂しくて辛くて、私は地元を出た。きっと、彼らも私と一緒のクラスは辛かっただろう。
だから、誰も恨まない。極道の娘の私の姿がサメに見えてしまうのは仕方のない事だから⋯⋯。

「真夏ちゃん、そろそろドルフィンショーの時間だから行こう」
ライ君が私と手を繋いできて驚く。こんな冬に手汗をかいてしまっているのは緊張しているからだ。こんな人気のあるところで手を繋ぐなんて恋人みたいだ。

ドルフィンショーのスタジアムに到着すると、既に水のかからない席は埋まっていた。
クリーニングに出してから返す予定だが、借りているワンピースが海水で濡れるのではないかと不安になる。

「真夏ちゃん、水、いっぱい掛かりたいから一番前に行こう」
「ええ?」
私の手をグイグイ引っ張るライ君は子供のように無邪気な顔を見せてくれる。
水飛沫が敢えてかかる場所に座りたがるライ君が本当に可愛い。
お客としてガソリンスタンドで働く彼を見ていた時のライ君は大人っぽく見えていたが、意外な面を昨晩から沢山見せてくれる。

爆音の中、イルカが輪を潜ったりジャンプする。音響は人間の私でも煩いと感じるくらい大きい。人間より高周波を聞けるくらい耳が良いと言われるイルカ。
この環境で過ごすのは辛くないだろうか。イルカは調教師を乗せたりしているけれど、本当はそんな事をしたくないのではないかと考えてしまった。

「イルカはうるさくないのかな。人を乗せたり重くないのかな」
「そんな事を考えるなんて、真夏ちゃんらしいね。この環境に慣れてるから大丈夫だと思うよ」

私はふと嫌っている極道の世界を思い出した。刺青、暴力、薬物。あの世界に生まれた癖に私はあの世界に染まってないから苦しい。

「このイルカたちを海に逃してあげたい」
「海に逃げたら、自分で餌をとったりしなきゃだから大変でしょ。ここで育ったイルカはここでしか生きられないよ」

音楽に合わせて踊るようにジャンプし続けるイルカたち。観客たちは皆楽しんでいる。イルカたちも辛い気持ちになってないと信じたい。

「次はどこ行きたい」
「タッチプールかな」
「ここはタッチプールないよ」

私はここに来てから、ライ君が館内マップが頭に入っているように案内してくれているのを思い出した。
水槽が割と高い位置に設置されてたりするここはファミリー向けというより、カップル向けの水族館。

(他の女の子を連れて来たことがあるのかな?)

これが嫉妬のような気持ちなのだろうか。彼にお客として憧れてただけの時はそんな気持ちは持っていなかった。
彼にとって私は一夜の相手で、この水族館デートはアフターサービスみたいなものかもしれない。水槽に映った彼と私を見ても、人が振り向くくらいカッコ良い彼と地味な私が釣り合っているようには見えない。

突然、ライ君が私の手のひらと自分の手のひらを合わせてくる。
「これでタッチ! ヒトデとか触りたかったの? 人の手で我慢してくれる?」
「我慢だなんて、とんでもない」
顔から火が出そうに熱い。昨晩、もっと彼と密着して恥ずかしい事をしたのに、手が触れただけで心臓が飛び出しそうだ。

お土産売り場で可愛いイルカのストラップを見つける。私は思わず二つ購入した。

「あー。楽しかった。イルカの調教師とかって大変だけど面白そうだな」
「ライ君は来年卒業だよね。卒業したら、どうするの?」
「⋯⋯普通に就職かな」
「そうなんだ。内定おめでとう! これ、お祝い!」

私はライ君の前にイルカのストラップを一つ差し出す。『今日のデートの記念』に買ったのだが、彼にとってこれがデートだったのか分からない。勇気のない私は彼へプレゼントを渡す口実を探していた。

「ありがとう」

ライ君はニコッと笑って小さな小袋からイルカのストラップを出すと、マンションの鍵を取り付ける。ストラップをスマホに付けて貰って、見る度に私を思い出して貰う作戦だったがこれはこれで嬉しい。

「はい。これ、真夏ちゃんにあげる。もう一つ買った方のストラップを俺に頂戴」

私は差し出された鍵に混乱していた。パニックになる頭で何とか彼が所望したもう一つ買った方の小袋を渡す。

(あれ? 二つストラップ買ったのバレてる?)

私はお揃いのストラップを買ったのが彼に露見していることに気が付き、途端に恥ずかしくなる。気持ち悪いとか、重いとか思われたかもしれない。それよりも、今、家の鍵を渡されたのだがどう言う事だろうか。

「この鍵は⋯⋯えっと、私に用心棒をして欲しいって事?」
「用心棒? 真夏ちゃんは相変わらず面白いな。これ、合鍵。いつでもウチに来て良いよ」

「そんな貴重なもの受け取れないよ。私が悪い奴で、帰宅したら金目の物を全部盗まれてたらどうするの? 流石に不用心だよ。私の事、よく知らないのに⋯⋯」

彼にとって私は昨日まで自分のシフト時間を狙って来る、ちょっと気持ち悪いストーカー的なお客さんだったはずだ。
そのような得体のしれない女に家の鍵を渡す彼が不用心で心配になる。

「涼波食品の三年目の社員、冬城真夏。工場見学のガイドを天職だと思ってる愛社精神旺盛な少し天然な女の子。早瀬ライの恋人」

突然、彼に他己紹介される私。工場見学のガイドは三年目社員までなので来年度からは本社勤務になる。それにしても、彼の前ではしっかりした年上のお姉さんでいたかったのに天然だと思われていたようだ。
(それよりも、こ、恋人!?)

「待って、ライ君良いの? ストーカーを恋人にしちゃってるよ」
焦る私に彼は手を叩いて爆笑し出した。

「じゃあ、今度は俺に真夏ちゃんを追わせて」
「ふ、ふぁい」

妄想を超えたような夢のような状況に私は動揺していた。心臓の鼓動が小動物のように早くなっていて寿命が縮みそうだ。
明日も休日だから一緒にいたいというライ君のお誘いに後ろ髪をひかれつつ断る。明日は日曜日で親子クッキング教室を開催するので休日出勤だ。

♢♢♢

日曜日、私はいつも通りのジーンズ姿で出勤する。靴だけは彼氏からのプレゼントである白のドライビングシューズだ。
この靴は私にとってはシンデレラのガラスの靴。どこかで片方落としたら、きっとライ君が拾って私を見つけてくれるだろう。

親子クッキング教室は準備から楽しい。
小中学校にある調理室のような場所に、今日は二十組の親子連れが来訪予定だ。
私は同僚の佐々木雫と材料であるピーマンや筍、牛肉を切っていた。

「今日の冬城さんの白い靴可愛い。春夏もいけそうですね」
「実は彼氏が買ってくれたの。春夏秋冬、一生履くつもりなんだ」
私は浮かれるあまり惚気てしまった。「彼氏ができた」なんて地味な癖にイキってると思われたかもしれない。

「彼氏できたんですか? もしかして、ずっと好きだったっていうガソリンスタンドの?」
私は「ライ君が彼氏になった」という事実に感極まり泣きそうになりつつも、無言で頷く。

「えー! 泣かないでください。ピュア過ぎですよ冬城さん」
「違う、これは玉葱を切ってたから」
「材料に玉葱ないですよ。幸せ過ぎて、見えない玉葱が見え始めましたか?」

肩を振るわせながら笑う佐々木雫に私は照れた。美人なのに気さくな彼女とも三月までで、一旦お別れだ。私は同僚にも恵まれ、大好きな仕事をし、ずっと好きな人と結ばれ有頂天になっていた。

本日、参加する親子が体験するのは、フライパンに油をひいて切った具材に涼波食品の青椒肉絲の素を混ぜるだけ。
初めて料理をするというような小学校低学年の子が多く参加し、得意げに野菜を炒める姿がたまらなく可愛い。IHなのにフライパンを持ち上げて、安全装置が働き熱源が消えてしまうのはお約束だ。

和気藹々と料理する親子を見て、私はライ君との子供を想像してしまった。私の両親は料理をした事がないし、私も自炊は殆どレトルトを使用している。でも、ライ君みたいに冷蔵庫にあるもので、ささっとアイディア料理とか作れるようになりたい。
(まずは基本料理だよね。肉じゃがとか作ってみたい!)
楽しい時間はあっという間で、終了時刻になり制服から私服に着替える。

帰りに常備野菜を買いに行くことを決意し、帰途につこうとした時だった。

佐々木雫が私に足早に駆け寄ってくる。
「冬城さん、さっき内線で今から本社の社長室に来るようにって連絡がありました」
「社長室?」
私の頭の中はクエッションマークでいっぱいだ。来年度からの配属の件にしても、末端平社員の私に社長直々というのは不自然。

「冬城さん可愛いから、社長秘書にスカウトされるんじゃないですか?」

人が振り向くくらい美人の彼女に可愛いと言われるが嫌味ではないと分かっている。高身長の彼女から見ると私は彼女の好むペット系なのだろう。私は女子の可愛いって信用ないよなと男から言われるタイプの女。そんな私を可愛いと言いながら夜中ぎゅっとしてくれたのがライ君だ。

「そんな訳ないでしょ。何かやっちゃったかな?」
お世辞に照れながらも、工場から本社に向かう道のりは色々な可能性が頭を駆け巡りドキドキしていた。私のような末端の人間が会社のトップに会える事はなかなかない。
昨日私の人生では大きな出来事があったが、社長の呼び出しを喰らうほど会社で何かをした記憶はなかった。
(休みの日に車を停めっぱなしにした事がバレたのかも!?)

本社は工場の敷地内にある。この街は涼波食品の企業城下町と呼ばれていた。
多くの従業員はこの付近に住んでいるが、私は旧工場があった近くの古い寮に住んでいた。
緊張しながら本社に行くと、すでに入り口に社長秘書の間口さんという女性が立っていて私を見るなり社長室に案内してくれる。

自社ビルの最上階、緊張の面持ちで扉をノックし開く。
社長の椅子に座っている威厳のある男性の顔を見て、私は絶句した。
(ライ君の高校の入学式の写真に写っていた方だ!)
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