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6.クビ
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社長室の扉をそっと閉めて、私はそっと頭を下げる。
「入社三年目の冬城真夏です。今日は⋯⋯」
「冬城真夏、君を解雇する」
挨拶をぶった斬ってかけられた涼波社長の突然の言葉に、私は頭を勢いよく上げた。
「車の件でしょうか?」
震える声で尋ねる私に社長は冷たく言い放った。
「弊社では暴力団、暴力団関係者は受け入れない。寮も可及的速やかに出ていくように。以上だ。下がってくれ」
頭が真っ白になる。私はずっと自分の生まれから抜け出せないのだろうか。大好きな仕事を辞めたくない。
「どうして急に⋯⋯」
「全く騙されたよ。無害そうな顔をして採用担当者は懲罰にかけなきゃだな」
「やめてください。責任は全部私にあります。申告義務を怠ってました。今すぐ、この会社を立ち去ります」
手が震える。私は結局、堅気の世界では生きられないらしい。さっきまで幸せいっぱいだったのに、突然真っ逆さまに地獄に突き落とされたようだ。
「それから、息子と関わるのもやめてくれ」
「息子とは早瀬ライさんですか?」
「そうだ。ライの部屋に泊まったらしいじゃないか。後で、妊娠したとか虚言を吐いてたかるつもりだったのか?」
ライ君の部屋に泊まった事もバレている。私は彼とも離れなければいけなくなりそうで怖くなった。
「そんな事しません。ちゃんとしたお付き合いをしてます」
「息子には素性の正しい婚約者もいる。君の事は遊びだろうが、迷惑だから消えてくれ」
確かにライ君は恋人はいないと言ったが、婚約者がいないとは一言も言っていない。
「分かりました。一度、早瀬ライさんと話してみます」
私の言葉にドンと脅すように涼波社長が机を叩く。
「もう関わるなと言っている。しつこくするようなら、君を採用した担当者も解雇する。『冬城真夏』なんて冬なんだか夏なんだか分からないような馬鹿丸出しな名前をつける親はどんなかと思えばヤクザだ」
呆れたような涼波社長に私は力が抜ける。私が骨の髄からヤクザの娘なら、今の発言で冬城組総出で涼波食品を襲撃するだろう。でも、彼は私が家を出て極道の世界から逃げたい女だと分かっていて侮辱している。
ここに逃げ込んでくるんじゃないと拒絶され、私の逃げ道は塞がってしまった。
「会社も辞めます。寮も出ます。早瀬ライさんとも二度と会いません」
私は深く頭を下げると涙が溢れる前に社長室を出た。
♢♢♢
あれから二ヶ月、私は鎌倉で人力車のバイトをしている。バイトなのに寮に住まわしてくれる福利厚生の整った良い職場だ。鎌倉の観光を案内しながら、色々な人と話せて楽しい。私の筋力と体力も活かせていた。
季節は桜が満開な春になっていた。人力車のバイトは繁忙期を迎えている。
大好きな仕事を失って、ずっと好きだった人ともお別れしたけれど私は何とか立ち直っていた。
「シンカちゃん、もう上がりだよね」
「はい、お疲れ様でした」
私を採用してくれた先輩俥夫の真島さんはこの道三十年のベテランだ。
アラフィフでも、テカテカでムキムキな体をしている彼はこの仕事が体力勝負だということを教えてくれた。
「それにしても、真夏と書いてシンカと呼ぶって、改めて凄いキラキラネームだね。シンカちゃん真面目なのに親はヤンキーなの?」
「そこそこヤンチャな親です」
「ははっ、幾つになってもヤンチャしたいもんだな。今日もお疲れ!」
実はヤンキーではなく、ヤクザとは言えなかった。私は涼波社長に冬なのか夏なのか分からない馬鹿丸出しな名前だと言われたのを気にしていた。なので、このバイトで履歴書を提出する時に真夏の振り仮名をシンカと書いた。確か戸籍に振り仮名まで登録しなければならないのは五月からだから、今はセーフだろう。なぜか「シンカ」という名前が真島さんのツボに入ったらしく、面白いと採用になった。
私は今日の勤務を終えようと思って事務所に戻ろうと思った途中、見つけた家族に声を掛けた。
「大きいベビーカーありますよ。乗ってみませんか?」
二歳くらいの小さい男の子が両親に疲れたから抱っことねだっているのが見えたのだ。
鎌倉の観光は北鎌倉駅から電車を降りて、円覚寺、鶴岡八幡宮、長谷寺などを巡り鎌倉駅から帰る人が多い。北鎌倉から巡ると下り坂で一見楽に見えるが、下り坂というのは足に一番負担がかかる。
小さい子には辛い上に、親もへとへとだ。
「人力車、乗ってみたいけどお高いでしょ」
「駅までくらい歩けるよな、悠太!」
ご両親は怪訝な顔をしているが、男の子は興味津々に人力車を見つめている。
「僕、乗ってみたい!」
「私、今日の仕事は終わっていて鎌倉駅まで戻る途中なんです。だからついでなのでお代は結構です」
「「ええっ! 良いんですか?!」」
私はご両親に悠太君を挟んで乗せるように促す。
悠太君はキャッキャとご機嫌で、ご両親は風景よりも彼の喜ぶ顔を見ていた。
(なんて、幸せな空間!)
私は幸せな気持ちで胸いっぱいになりながら、観光案内をしつつ彼らを鎌倉駅に送る。
「ありがとうございます。最高の思い出になりました」
「良かったら、また鎌倉に来てください!」
ご家族を見送ると、急に眩暈が襲う。最近なんだかフラフラする事が多い。通常、定員二名のところを子供も乗せたから流石に体に負担が来たのかもしれない。
私は少しだけでも休もうと、地面に俯いてしゃがみ込んだ。
よく考えれば今日は全く水分補給をしていない。春とはいえ熱中症になってしまったかもしれない。
「冬城真夏!?」
頭上から聞いたことのあるような低い声がして、慌てて立ちあがろうとし私はそこで意識を失った。
目が覚めると真っ白な天井。充満する消毒液の匂い。
(病院?)
自分の体調管理が不十分であったが為に誰かに迷惑を掛けてしまった。
扉をノックして、ベテランっぽい看護師さんが入ってくる。
「目が覚めたのね。熱中症に、貧血。お腹に赤ちゃんがいるんだから、体力勝負のお仕事は控えた方が良いわよ。妊娠初期って大切なんだから」
私は一瞬言われた言葉の意味が分からなかった。
「妊娠?」
「もしかして、気がついてなかったの? 妊娠十週目よ。初産? 双子だから、帝王切開になるかと思うけれど分娩予約は早めにね。この辺りは直ぐに埋まってしまうわよ」
私はお腹を思わず抑えた。
(この中に赤ちゃんがいる?!)
「赤ちゃんの為なら私は腹切りでもなんでも受け入れます。麻酔しなくても良いから産みたいです!」
お腹の子はライ君との子。妊娠していると知られてしまったら、おそらく中絶させられるだろう。でも、私は自分の中に生まれた命を諦めたくない。
「ぷっ、何言ってるの? 麻酔をしなきゃ殺人になっちゃうわよ。腹切りというか、カイザーね」
「カイザー! カッコ良い! 皇帝みたいな名前ですね」
「それはカエサルじゃない? 冬城さん、面白いわね。点滴が終わったら、今日はもう帰って大丈夫だから」
看護師さんに言われて腕を見ると、腕に針が刺さって管が繋がれていた。私は人生初点滴を経験している。
「今、何を打たれてるんでしょうか」
「そんな期待に満ちた目で言われても、ただの生理食塩水よ。熱中症になったら水分と電解質を補給しなきゃね」
てっきり強化剤でも打たれてパワーアップするのかと思ったが、体に足りない水分と塩分を補っているだけだったらしい。やはり、忙しくても頻繁に水分補給をするべきだった。
先輩俥夫の真島さんにも口酸っぱく言われていたのに反省しかない。
扉をノックする音が聞こえると共に、スーツ姿の男性が現れた。スラッとした背に精悍な顔立ち。どこから見てもエリート弁護士にしか見えないヤクザの跡取り、京極清一郎だ。
「看護師さんありがとうございます。ご心配お掛けしました」
退出を促すように物腰柔らかに言った京極さんに看護師さんが頬を染める。
「冬城さん、優しいパートナーにもう心配かけちゃダメよ」
「⋯⋯はい」
私は思わず京極清一郎の顔を見た。私を微笑みながら見つめてくる彼に戸惑ってしまう。彼が私をここまで連れて来てくれたということだろうか。一度しか会っていないお見合い相手にとても親切な方だ。
看護師さんが病室を出ていくと一気に冷ややかな目を向けてくる京極清一郎。
「清一郎さん、ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした。お世話になりました」
私は自分で点滴の針を抜くと、立ち上がった。
ふらりと眩暈がしたかと思うと、温もりに包まれる。
私は京極清一郎に抱きしめられていた。
「お前は馬鹿か、妊娠しているのにあんな肉体労働をして」
私は妊娠していることを彼も知っていることに血の気が引く。
「すみません」
「何に対して謝ってるんだ? 女なんて皆アバズレだって知っているから、期待もしていない。お腹の子は俺の子として報告してある。お前のことだから、どうせ産むんだろ」
軽蔑するような視線が怖い。そして、彼はどこまで私のことを知っているんだろう。私がライ君の家族から拒否されているのを知っているかのような口ぶりだ。
「何で報告しちゃうんですか? この子たちもヤクザの子になるなんて絶対嫌です」
私は学生時代に遠巻きにされた思い出や、大好きな涼波食品をクビになった記憶が蘇って苦しくなった。私の子も同じように社会から拒絶された未来しかないなんて悔しい。ライ君だって、私がヤクザの娘だと知ったら幻滅するだろう。
「アメリカやカナダとか生地主義の国に移住して国籍を変える。冬城真夏、お前が願うなら極道の世界を抜けて生きられるようにしてやる」
偉そうな口調だが、信じられないような夢の話を語る京極清一郎に私は釘付けになった。
「入社三年目の冬城真夏です。今日は⋯⋯」
「冬城真夏、君を解雇する」
挨拶をぶった斬ってかけられた涼波社長の突然の言葉に、私は頭を勢いよく上げた。
「車の件でしょうか?」
震える声で尋ねる私に社長は冷たく言い放った。
「弊社では暴力団、暴力団関係者は受け入れない。寮も可及的速やかに出ていくように。以上だ。下がってくれ」
頭が真っ白になる。私はずっと自分の生まれから抜け出せないのだろうか。大好きな仕事を辞めたくない。
「どうして急に⋯⋯」
「全く騙されたよ。無害そうな顔をして採用担当者は懲罰にかけなきゃだな」
「やめてください。責任は全部私にあります。申告義務を怠ってました。今すぐ、この会社を立ち去ります」
手が震える。私は結局、堅気の世界では生きられないらしい。さっきまで幸せいっぱいだったのに、突然真っ逆さまに地獄に突き落とされたようだ。
「それから、息子と関わるのもやめてくれ」
「息子とは早瀬ライさんですか?」
「そうだ。ライの部屋に泊まったらしいじゃないか。後で、妊娠したとか虚言を吐いてたかるつもりだったのか?」
ライ君の部屋に泊まった事もバレている。私は彼とも離れなければいけなくなりそうで怖くなった。
「そんな事しません。ちゃんとしたお付き合いをしてます」
「息子には素性の正しい婚約者もいる。君の事は遊びだろうが、迷惑だから消えてくれ」
確かにライ君は恋人はいないと言ったが、婚約者がいないとは一言も言っていない。
「分かりました。一度、早瀬ライさんと話してみます」
私の言葉にドンと脅すように涼波社長が机を叩く。
「もう関わるなと言っている。しつこくするようなら、君を採用した担当者も解雇する。『冬城真夏』なんて冬なんだか夏なんだか分からないような馬鹿丸出しな名前をつける親はどんなかと思えばヤクザだ」
呆れたような涼波社長に私は力が抜ける。私が骨の髄からヤクザの娘なら、今の発言で冬城組総出で涼波食品を襲撃するだろう。でも、彼は私が家を出て極道の世界から逃げたい女だと分かっていて侮辱している。
ここに逃げ込んでくるんじゃないと拒絶され、私の逃げ道は塞がってしまった。
「会社も辞めます。寮も出ます。早瀬ライさんとも二度と会いません」
私は深く頭を下げると涙が溢れる前に社長室を出た。
♢♢♢
あれから二ヶ月、私は鎌倉で人力車のバイトをしている。バイトなのに寮に住まわしてくれる福利厚生の整った良い職場だ。鎌倉の観光を案内しながら、色々な人と話せて楽しい。私の筋力と体力も活かせていた。
季節は桜が満開な春になっていた。人力車のバイトは繁忙期を迎えている。
大好きな仕事を失って、ずっと好きだった人ともお別れしたけれど私は何とか立ち直っていた。
「シンカちゃん、もう上がりだよね」
「はい、お疲れ様でした」
私を採用してくれた先輩俥夫の真島さんはこの道三十年のベテランだ。
アラフィフでも、テカテカでムキムキな体をしている彼はこの仕事が体力勝負だということを教えてくれた。
「それにしても、真夏と書いてシンカと呼ぶって、改めて凄いキラキラネームだね。シンカちゃん真面目なのに親はヤンキーなの?」
「そこそこヤンチャな親です」
「ははっ、幾つになってもヤンチャしたいもんだな。今日もお疲れ!」
実はヤンキーではなく、ヤクザとは言えなかった。私は涼波社長に冬なのか夏なのか分からない馬鹿丸出しな名前だと言われたのを気にしていた。なので、このバイトで履歴書を提出する時に真夏の振り仮名をシンカと書いた。確か戸籍に振り仮名まで登録しなければならないのは五月からだから、今はセーフだろう。なぜか「シンカ」という名前が真島さんのツボに入ったらしく、面白いと採用になった。
私は今日の勤務を終えようと思って事務所に戻ろうと思った途中、見つけた家族に声を掛けた。
「大きいベビーカーありますよ。乗ってみませんか?」
二歳くらいの小さい男の子が両親に疲れたから抱っことねだっているのが見えたのだ。
鎌倉の観光は北鎌倉駅から電車を降りて、円覚寺、鶴岡八幡宮、長谷寺などを巡り鎌倉駅から帰る人が多い。北鎌倉から巡ると下り坂で一見楽に見えるが、下り坂というのは足に一番負担がかかる。
小さい子には辛い上に、親もへとへとだ。
「人力車、乗ってみたいけどお高いでしょ」
「駅までくらい歩けるよな、悠太!」
ご両親は怪訝な顔をしているが、男の子は興味津々に人力車を見つめている。
「僕、乗ってみたい!」
「私、今日の仕事は終わっていて鎌倉駅まで戻る途中なんです。だからついでなのでお代は結構です」
「「ええっ! 良いんですか?!」」
私はご両親に悠太君を挟んで乗せるように促す。
悠太君はキャッキャとご機嫌で、ご両親は風景よりも彼の喜ぶ顔を見ていた。
(なんて、幸せな空間!)
私は幸せな気持ちで胸いっぱいになりながら、観光案内をしつつ彼らを鎌倉駅に送る。
「ありがとうございます。最高の思い出になりました」
「良かったら、また鎌倉に来てください!」
ご家族を見送ると、急に眩暈が襲う。最近なんだかフラフラする事が多い。通常、定員二名のところを子供も乗せたから流石に体に負担が来たのかもしれない。
私は少しだけでも休もうと、地面に俯いてしゃがみ込んだ。
よく考えれば今日は全く水分補給をしていない。春とはいえ熱中症になってしまったかもしれない。
「冬城真夏!?」
頭上から聞いたことのあるような低い声がして、慌てて立ちあがろうとし私はそこで意識を失った。
目が覚めると真っ白な天井。充満する消毒液の匂い。
(病院?)
自分の体調管理が不十分であったが為に誰かに迷惑を掛けてしまった。
扉をノックして、ベテランっぽい看護師さんが入ってくる。
「目が覚めたのね。熱中症に、貧血。お腹に赤ちゃんがいるんだから、体力勝負のお仕事は控えた方が良いわよ。妊娠初期って大切なんだから」
私は一瞬言われた言葉の意味が分からなかった。
「妊娠?」
「もしかして、気がついてなかったの? 妊娠十週目よ。初産? 双子だから、帝王切開になるかと思うけれど分娩予約は早めにね。この辺りは直ぐに埋まってしまうわよ」
私はお腹を思わず抑えた。
(この中に赤ちゃんがいる?!)
「赤ちゃんの為なら私は腹切りでもなんでも受け入れます。麻酔しなくても良いから産みたいです!」
お腹の子はライ君との子。妊娠していると知られてしまったら、おそらく中絶させられるだろう。でも、私は自分の中に生まれた命を諦めたくない。
「ぷっ、何言ってるの? 麻酔をしなきゃ殺人になっちゃうわよ。腹切りというか、カイザーね」
「カイザー! カッコ良い! 皇帝みたいな名前ですね」
「それはカエサルじゃない? 冬城さん、面白いわね。点滴が終わったら、今日はもう帰って大丈夫だから」
看護師さんに言われて腕を見ると、腕に針が刺さって管が繋がれていた。私は人生初点滴を経験している。
「今、何を打たれてるんでしょうか」
「そんな期待に満ちた目で言われても、ただの生理食塩水よ。熱中症になったら水分と電解質を補給しなきゃね」
てっきり強化剤でも打たれてパワーアップするのかと思ったが、体に足りない水分と塩分を補っているだけだったらしい。やはり、忙しくても頻繁に水分補給をするべきだった。
先輩俥夫の真島さんにも口酸っぱく言われていたのに反省しかない。
扉をノックする音が聞こえると共に、スーツ姿の男性が現れた。スラッとした背に精悍な顔立ち。どこから見てもエリート弁護士にしか見えないヤクザの跡取り、京極清一郎だ。
「看護師さんありがとうございます。ご心配お掛けしました」
退出を促すように物腰柔らかに言った京極さんに看護師さんが頬を染める。
「冬城さん、優しいパートナーにもう心配かけちゃダメよ」
「⋯⋯はい」
私は思わず京極清一郎の顔を見た。私を微笑みながら見つめてくる彼に戸惑ってしまう。彼が私をここまで連れて来てくれたということだろうか。一度しか会っていないお見合い相手にとても親切な方だ。
看護師さんが病室を出ていくと一気に冷ややかな目を向けてくる京極清一郎。
「清一郎さん、ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした。お世話になりました」
私は自分で点滴の針を抜くと、立ち上がった。
ふらりと眩暈がしたかと思うと、温もりに包まれる。
私は京極清一郎に抱きしめられていた。
「お前は馬鹿か、妊娠しているのにあんな肉体労働をして」
私は妊娠していることを彼も知っていることに血の気が引く。
「すみません」
「何に対して謝ってるんだ? 女なんて皆アバズレだって知っているから、期待もしていない。お腹の子は俺の子として報告してある。お前のことだから、どうせ産むんだろ」
軽蔑するような視線が怖い。そして、彼はどこまで私のことを知っているんだろう。私がライ君の家族から拒否されているのを知っているかのような口ぶりだ。
「何で報告しちゃうんですか? この子たちもヤクザの子になるなんて絶対嫌です」
私は学生時代に遠巻きにされた思い出や、大好きな涼波食品をクビになった記憶が蘇って苦しくなった。私の子も同じように社会から拒絶された未来しかないなんて悔しい。ライ君だって、私がヤクザの娘だと知ったら幻滅するだろう。
「アメリカやカナダとか生地主義の国に移住して国籍を変える。冬城真夏、お前が願うなら極道の世界を抜けて生きられるようにしてやる」
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