6 / 24
6.クビ
しおりを挟む
社長室の扉をそっと閉めて、私はそっと頭を下げる。
「入社三年目の冬城真夏です。今日は⋯⋯」
「冬城真夏、君を解雇する」
挨拶をぶった斬ってかけられた涼波社長の突然の言葉に、私は頭を勢いよく上げた。
「車の件でしょうか?」
震える声で尋ねる私に社長は冷たく言い放った。
「弊社では暴力団、暴力団関係者は受け入れない。寮も可及的速やかに出ていくように。以上だ。下がってくれ」
頭が真っ白になる。私はずっと自分の生まれから抜け出せないのだろうか。大好きな仕事を辞めたくない。
「どうして急に⋯⋯」
「全く騙されたよ。無害そうな顔をして採用担当者は懲罰にかけなきゃだな」
「やめてください。責任は全部私にあります。申告義務を怠ってました。今すぐ、この会社を立ち去ります」
手が震える。私は結局、堅気の世界では生きられないらしい。さっきまで幸せいっぱいだったのに、突然真っ逆さまに地獄に突き落とされたようだ。
「それから、息子と関わるのもやめてくれ」
「息子とは早瀬ライさんですか?」
「そうだ。ライの部屋に泊まったらしいじゃないか。後で、妊娠したとか虚言を吐いてたかるつもりだったのか?」
ライ君の部屋に泊まった事もバレている。私は彼とも離れなければいけなくなりそうで怖くなった。
「そんな事しません。ちゃんとしたお付き合いをしてます」
「息子には素性の正しい婚約者もいる。君の事は遊びだろうが、迷惑だから消えてくれ」
確かにライ君は恋人はいないと言ったが、婚約者がいないとは一言も言っていない。
「分かりました。一度、早瀬ライさんと話してみます」
私の言葉にドンと脅すように涼波社長が机を叩く。
「もう関わるなと言っている。しつこくするようなら、君を採用した担当者も解雇する。『冬城真夏』なんて冬なんだか夏なんだか分からないような馬鹿丸出しな名前をつける親はどんなかと思えばヤクザだ」
呆れたような涼波社長に私は力が抜ける。私が骨の髄からヤクザの娘なら、今の発言で冬城組総出で涼波食品を襲撃するだろう。でも、彼は私が家を出て極道の世界から逃げたい女だと分かっていて侮辱している。
ここに逃げ込んでくるんじゃないと拒絶され、私の逃げ道は塞がってしまった。
「会社も辞めます。寮も出ます。早瀬ライさんとも二度と会いません」
私は深く頭を下げると涙が溢れる前に社長室を出た。
♢♢♢
あれから二ヶ月、私は鎌倉で人力車のバイトをしている。バイトなのに寮に住まわしてくれる福利厚生の整った良い職場だ。鎌倉の観光を案内しながら、色々な人と話せて楽しい。私の筋力と体力も活かせていた。
季節は桜が満開な春になっていた。人力車のバイトは繁忙期を迎えている。
大好きな仕事を失って、ずっと好きだった人ともお別れしたけれど私は何とか立ち直っていた。
「シンカちゃん、もう上がりだよね」
「はい、お疲れ様でした」
私を採用してくれた先輩俥夫の真島さんはこの道三十年のベテランだ。
アラフィフでも、テカテカでムキムキな体をしている彼はこの仕事が体力勝負だということを教えてくれた。
「それにしても、真夏と書いてシンカと呼ぶって、改めて凄いキラキラネームだね。シンカちゃん真面目なのに親はヤンキーなの?」
「そこそこヤンチャな親です」
「ははっ、幾つになってもヤンチャしたいもんだな。今日もお疲れ!」
実はヤンキーではなく、ヤクザとは言えなかった。私は涼波社長に冬なのか夏なのか分からない馬鹿丸出しな名前だと言われたのを気にしていた。なので、このバイトで履歴書を提出する時に真夏の振り仮名をシンカと書いた。確か戸籍に振り仮名まで登録しなければならないのは五月からだから、今はセーフだろう。なぜか「シンカ」という名前が真島さんのツボに入ったらしく、面白いと採用になった。
私は今日の勤務を終えようと思って事務所に戻ろうと思った途中、見つけた家族に声を掛けた。
「大きいベビーカーありますよ。乗ってみませんか?」
二歳くらいの小さい男の子が両親に疲れたから抱っことねだっているのが見えたのだ。
鎌倉の観光は北鎌倉駅から電車を降りて、円覚寺、鶴岡八幡宮、長谷寺などを巡り鎌倉駅から帰る人が多い。北鎌倉から巡ると下り坂で一見楽に見えるが、下り坂というのは足に一番負担がかかる。
小さい子には辛い上に、親もへとへとだ。
「人力車、乗ってみたいけどお高いでしょ」
「駅までくらい歩けるよな、悠太!」
ご両親は怪訝な顔をしているが、男の子は興味津々に人力車を見つめている。
「僕、乗ってみたい!」
「私、今日の仕事は終わっていて鎌倉駅まで戻る途中なんです。だからついでなのでお代は結構です」
「「ええっ! 良いんですか?!」」
私はご両親に悠太君を挟んで乗せるように促す。
悠太君はキャッキャとご機嫌で、ご両親は風景よりも彼の喜ぶ顔を見ていた。
(なんて、幸せな空間!)
私は幸せな気持ちで胸いっぱいになりながら、観光案内をしつつ彼らを鎌倉駅に送る。
「ありがとうございます。最高の思い出になりました」
「良かったら、また鎌倉に来てください!」
ご家族を見送ると、急に眩暈が襲う。最近なんだかフラフラする事が多い。通常、定員二名のところを子供も乗せたから流石に体に負担が来たのかもしれない。
私は少しだけでも休もうと、地面に俯いてしゃがみ込んだ。
よく考えれば今日は全く水分補給をしていない。春とはいえ熱中症になってしまったかもしれない。
「冬城真夏!?」
頭上から聞いたことのあるような低い声がして、慌てて立ちあがろうとし私はそこで意識を失った。
目が覚めると真っ白な天井。充満する消毒液の匂い。
(病院?)
自分の体調管理が不十分であったが為に誰かに迷惑を掛けてしまった。
扉をノックして、ベテランっぽい看護師さんが入ってくる。
「目が覚めたのね。熱中症に、貧血。お腹に赤ちゃんがいるんだから、体力勝負のお仕事は控えた方が良いわよ。妊娠初期って大切なんだから」
私は一瞬言われた言葉の意味が分からなかった。
「妊娠?」
「もしかして、気がついてなかったの? 妊娠十週目よ。初産? 双子だから、帝王切開になるかと思うけれど分娩予約は早めにね。この辺りは直ぐに埋まってしまうわよ」
私はお腹を思わず抑えた。
(この中に赤ちゃんがいる?!)
「赤ちゃんの為なら私は腹切りでもなんでも受け入れます。麻酔しなくても良いから産みたいです!」
お腹の子はライ君との子。妊娠していると知られてしまったら、おそらく中絶させられるだろう。でも、私は自分の中に生まれた命を諦めたくない。
「ぷっ、何言ってるの? 麻酔をしなきゃ殺人になっちゃうわよ。腹切りというか、カイザーね」
「カイザー! カッコ良い! 皇帝みたいな名前ですね」
「それはカエサルじゃない? 冬城さん、面白いわね。点滴が終わったら、今日はもう帰って大丈夫だから」
看護師さんに言われて腕を見ると、腕に針が刺さって管が繋がれていた。私は人生初点滴を経験している。
「今、何を打たれてるんでしょうか」
「そんな期待に満ちた目で言われても、ただの生理食塩水よ。熱中症になったら水分と電解質を補給しなきゃね」
てっきり強化剤でも打たれてパワーアップするのかと思ったが、体に足りない水分と塩分を補っているだけだったらしい。やはり、忙しくても頻繁に水分補給をするべきだった。
先輩俥夫の真島さんにも口酸っぱく言われていたのに反省しかない。
扉をノックする音が聞こえると共に、スーツ姿の男性が現れた。スラッとした背に精悍な顔立ち。どこから見てもエリート弁護士にしか見えないヤクザの跡取り、京極清一郎だ。
「看護師さんありがとうございます。ご心配お掛けしました」
退出を促すように物腰柔らかに言った京極さんに看護師さんが頬を染める。
「冬城さん、優しいパートナーにもう心配かけちゃダメよ」
「⋯⋯はい」
私は思わず京極清一郎の顔を見た。私を微笑みながら見つめてくる彼に戸惑ってしまう。彼が私をここまで連れて来てくれたということだろうか。一度しか会っていないお見合い相手にとても親切な方だ。
看護師さんが病室を出ていくと一気に冷ややかな目を向けてくる京極清一郎。
「清一郎さん、ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした。お世話になりました」
私は自分で点滴の針を抜くと、立ち上がった。
ふらりと眩暈がしたかと思うと、温もりに包まれる。
私は京極清一郎に抱きしめられていた。
「お前は馬鹿か、妊娠しているのにあんな肉体労働をして」
私は妊娠していることを彼も知っていることに血の気が引く。
「すみません」
「何に対して謝ってるんだ? 女なんて皆アバズレだって知っているから、期待もしていない。お腹の子は俺の子として報告してある。お前のことだから、どうせ産むんだろ」
軽蔑するような視線が怖い。そして、彼はどこまで私のことを知っているんだろう。私がライ君の家族から拒否されているのを知っているかのような口ぶりだ。
「何で報告しちゃうんですか? この子たちもヤクザの子になるなんて絶対嫌です」
私は学生時代に遠巻きにされた思い出や、大好きな涼波食品をクビになった記憶が蘇って苦しくなった。私の子も同じように社会から拒絶された未来しかないなんて悔しい。ライ君だって、私がヤクザの娘だと知ったら幻滅するだろう。
「アメリカやカナダとか生地主義の国に移住して国籍を変える。冬城真夏、お前が願うなら極道の世界を抜けて生きられるようにしてやる」
偉そうな口調だが、信じられないような夢の話を語る京極清一郎に私は釘付けになった。
「入社三年目の冬城真夏です。今日は⋯⋯」
「冬城真夏、君を解雇する」
挨拶をぶった斬ってかけられた涼波社長の突然の言葉に、私は頭を勢いよく上げた。
「車の件でしょうか?」
震える声で尋ねる私に社長は冷たく言い放った。
「弊社では暴力団、暴力団関係者は受け入れない。寮も可及的速やかに出ていくように。以上だ。下がってくれ」
頭が真っ白になる。私はずっと自分の生まれから抜け出せないのだろうか。大好きな仕事を辞めたくない。
「どうして急に⋯⋯」
「全く騙されたよ。無害そうな顔をして採用担当者は懲罰にかけなきゃだな」
「やめてください。責任は全部私にあります。申告義務を怠ってました。今すぐ、この会社を立ち去ります」
手が震える。私は結局、堅気の世界では生きられないらしい。さっきまで幸せいっぱいだったのに、突然真っ逆さまに地獄に突き落とされたようだ。
「それから、息子と関わるのもやめてくれ」
「息子とは早瀬ライさんですか?」
「そうだ。ライの部屋に泊まったらしいじゃないか。後で、妊娠したとか虚言を吐いてたかるつもりだったのか?」
ライ君の部屋に泊まった事もバレている。私は彼とも離れなければいけなくなりそうで怖くなった。
「そんな事しません。ちゃんとしたお付き合いをしてます」
「息子には素性の正しい婚約者もいる。君の事は遊びだろうが、迷惑だから消えてくれ」
確かにライ君は恋人はいないと言ったが、婚約者がいないとは一言も言っていない。
「分かりました。一度、早瀬ライさんと話してみます」
私の言葉にドンと脅すように涼波社長が机を叩く。
「もう関わるなと言っている。しつこくするようなら、君を採用した担当者も解雇する。『冬城真夏』なんて冬なんだか夏なんだか分からないような馬鹿丸出しな名前をつける親はどんなかと思えばヤクザだ」
呆れたような涼波社長に私は力が抜ける。私が骨の髄からヤクザの娘なら、今の発言で冬城組総出で涼波食品を襲撃するだろう。でも、彼は私が家を出て極道の世界から逃げたい女だと分かっていて侮辱している。
ここに逃げ込んでくるんじゃないと拒絶され、私の逃げ道は塞がってしまった。
「会社も辞めます。寮も出ます。早瀬ライさんとも二度と会いません」
私は深く頭を下げると涙が溢れる前に社長室を出た。
♢♢♢
あれから二ヶ月、私は鎌倉で人力車のバイトをしている。バイトなのに寮に住まわしてくれる福利厚生の整った良い職場だ。鎌倉の観光を案内しながら、色々な人と話せて楽しい。私の筋力と体力も活かせていた。
季節は桜が満開な春になっていた。人力車のバイトは繁忙期を迎えている。
大好きな仕事を失って、ずっと好きだった人ともお別れしたけれど私は何とか立ち直っていた。
「シンカちゃん、もう上がりだよね」
「はい、お疲れ様でした」
私を採用してくれた先輩俥夫の真島さんはこの道三十年のベテランだ。
アラフィフでも、テカテカでムキムキな体をしている彼はこの仕事が体力勝負だということを教えてくれた。
「それにしても、真夏と書いてシンカと呼ぶって、改めて凄いキラキラネームだね。シンカちゃん真面目なのに親はヤンキーなの?」
「そこそこヤンチャな親です」
「ははっ、幾つになってもヤンチャしたいもんだな。今日もお疲れ!」
実はヤンキーではなく、ヤクザとは言えなかった。私は涼波社長に冬なのか夏なのか分からない馬鹿丸出しな名前だと言われたのを気にしていた。なので、このバイトで履歴書を提出する時に真夏の振り仮名をシンカと書いた。確か戸籍に振り仮名まで登録しなければならないのは五月からだから、今はセーフだろう。なぜか「シンカ」という名前が真島さんのツボに入ったらしく、面白いと採用になった。
私は今日の勤務を終えようと思って事務所に戻ろうと思った途中、見つけた家族に声を掛けた。
「大きいベビーカーありますよ。乗ってみませんか?」
二歳くらいの小さい男の子が両親に疲れたから抱っことねだっているのが見えたのだ。
鎌倉の観光は北鎌倉駅から電車を降りて、円覚寺、鶴岡八幡宮、長谷寺などを巡り鎌倉駅から帰る人が多い。北鎌倉から巡ると下り坂で一見楽に見えるが、下り坂というのは足に一番負担がかかる。
小さい子には辛い上に、親もへとへとだ。
「人力車、乗ってみたいけどお高いでしょ」
「駅までくらい歩けるよな、悠太!」
ご両親は怪訝な顔をしているが、男の子は興味津々に人力車を見つめている。
「僕、乗ってみたい!」
「私、今日の仕事は終わっていて鎌倉駅まで戻る途中なんです。だからついでなのでお代は結構です」
「「ええっ! 良いんですか?!」」
私はご両親に悠太君を挟んで乗せるように促す。
悠太君はキャッキャとご機嫌で、ご両親は風景よりも彼の喜ぶ顔を見ていた。
(なんて、幸せな空間!)
私は幸せな気持ちで胸いっぱいになりながら、観光案内をしつつ彼らを鎌倉駅に送る。
「ありがとうございます。最高の思い出になりました」
「良かったら、また鎌倉に来てください!」
ご家族を見送ると、急に眩暈が襲う。最近なんだかフラフラする事が多い。通常、定員二名のところを子供も乗せたから流石に体に負担が来たのかもしれない。
私は少しだけでも休もうと、地面に俯いてしゃがみ込んだ。
よく考えれば今日は全く水分補給をしていない。春とはいえ熱中症になってしまったかもしれない。
「冬城真夏!?」
頭上から聞いたことのあるような低い声がして、慌てて立ちあがろうとし私はそこで意識を失った。
目が覚めると真っ白な天井。充満する消毒液の匂い。
(病院?)
自分の体調管理が不十分であったが為に誰かに迷惑を掛けてしまった。
扉をノックして、ベテランっぽい看護師さんが入ってくる。
「目が覚めたのね。熱中症に、貧血。お腹に赤ちゃんがいるんだから、体力勝負のお仕事は控えた方が良いわよ。妊娠初期って大切なんだから」
私は一瞬言われた言葉の意味が分からなかった。
「妊娠?」
「もしかして、気がついてなかったの? 妊娠十週目よ。初産? 双子だから、帝王切開になるかと思うけれど分娩予約は早めにね。この辺りは直ぐに埋まってしまうわよ」
私はお腹を思わず抑えた。
(この中に赤ちゃんがいる?!)
「赤ちゃんの為なら私は腹切りでもなんでも受け入れます。麻酔しなくても良いから産みたいです!」
お腹の子はライ君との子。妊娠していると知られてしまったら、おそらく中絶させられるだろう。でも、私は自分の中に生まれた命を諦めたくない。
「ぷっ、何言ってるの? 麻酔をしなきゃ殺人になっちゃうわよ。腹切りというか、カイザーね」
「カイザー! カッコ良い! 皇帝みたいな名前ですね」
「それはカエサルじゃない? 冬城さん、面白いわね。点滴が終わったら、今日はもう帰って大丈夫だから」
看護師さんに言われて腕を見ると、腕に針が刺さって管が繋がれていた。私は人生初点滴を経験している。
「今、何を打たれてるんでしょうか」
「そんな期待に満ちた目で言われても、ただの生理食塩水よ。熱中症になったら水分と電解質を補給しなきゃね」
てっきり強化剤でも打たれてパワーアップするのかと思ったが、体に足りない水分と塩分を補っているだけだったらしい。やはり、忙しくても頻繁に水分補給をするべきだった。
先輩俥夫の真島さんにも口酸っぱく言われていたのに反省しかない。
扉をノックする音が聞こえると共に、スーツ姿の男性が現れた。スラッとした背に精悍な顔立ち。どこから見てもエリート弁護士にしか見えないヤクザの跡取り、京極清一郎だ。
「看護師さんありがとうございます。ご心配お掛けしました」
退出を促すように物腰柔らかに言った京極さんに看護師さんが頬を染める。
「冬城さん、優しいパートナーにもう心配かけちゃダメよ」
「⋯⋯はい」
私は思わず京極清一郎の顔を見た。私を微笑みながら見つめてくる彼に戸惑ってしまう。彼が私をここまで連れて来てくれたということだろうか。一度しか会っていないお見合い相手にとても親切な方だ。
看護師さんが病室を出ていくと一気に冷ややかな目を向けてくる京極清一郎。
「清一郎さん、ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした。お世話になりました」
私は自分で点滴の針を抜くと、立ち上がった。
ふらりと眩暈がしたかと思うと、温もりに包まれる。
私は京極清一郎に抱きしめられていた。
「お前は馬鹿か、妊娠しているのにあんな肉体労働をして」
私は妊娠していることを彼も知っていることに血の気が引く。
「すみません」
「何に対して謝ってるんだ? 女なんて皆アバズレだって知っているから、期待もしていない。お腹の子は俺の子として報告してある。お前のことだから、どうせ産むんだろ」
軽蔑するような視線が怖い。そして、彼はどこまで私のことを知っているんだろう。私がライ君の家族から拒否されているのを知っているかのような口ぶりだ。
「何で報告しちゃうんですか? この子たちもヤクザの子になるなんて絶対嫌です」
私は学生時代に遠巻きにされた思い出や、大好きな涼波食品をクビになった記憶が蘇って苦しくなった。私の子も同じように社会から拒絶された未来しかないなんて悔しい。ライ君だって、私がヤクザの娘だと知ったら幻滅するだろう。
「アメリカやカナダとか生地主義の国に移住して国籍を変える。冬城真夏、お前が願うなら極道の世界を抜けて生きられるようにしてやる」
偉そうな口調だが、信じられないような夢の話を語る京極清一郎に私は釘付けになった。
11
あなたにおすすめの小説
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる