真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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15.拉致

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何故ライ君は私を前にそんな穏やかな顔ができるのかと、恐怖と怒りで震えが止まらなかった。
優しくて素敵な人だと思ってたのに、私を性欲処理の道具としか思ってなかった彼。

それでも三年想いづけた恋を綺麗なまま終わらせたいと私は真実から目を背けた。
安っぽいモーテルで無理矢理に抱かれた夜も、頑なに目を瞑り彼の本当の姿を見ようともしなかった。

売春や薬の取引が行われるような場所は、淫猥な雰囲気に包まれていて私の恋を穢されるようで息苦しかった。

「まだ、私を弄びたいの? 私、ライ君が本当に好きだったのに酷いよ。私、今、幸せなの。もう、放っておいて⋯⋯」

私の言葉にライ君が目を見開く。
日本のニュースサイトで見たが、彼はイケメン敏腕若手社長として有名になっていた。
女など不自由はしないだろうに、地味で美人でもない私をまた騙そうとしている。男は一度抱いた女を冷凍のパンと同じように解凍させれば抱けると考えると聞いた事があるが、どうやら真理だったようだ。

「真夏ちゃん、話をしよう。君は誤解してる。俺は真夏ちゃんを心から大切に思ってるよ」
真っ直ぐに見つめてくるアースアイ。アースアイの遺伝率は四割くらいだと聞いたが、彼の瞳を見ると彼がサラとルイの父親だと改めて思い知らされる。

「嘘ばかり⋯⋯婚約者がいたくせに」
「佐々木雫? 彼女には何の気持ちもないよ。俺が好きなのは真夏ちゃんだけだ」

苦しそうに顔を顰めるライ君に私は首を傾げるしかない。
告白したら直ぐに体を求められ、再会したら体目的みたいな場所で無理やり抱かれた。本当に好きだったら、そんな風に相手を粗末に扱わないはずだ。

「私たち殆どエッチな事しかしてないよね。私、ライ君がそういう人とは思ってなかったの。悪いけど、性欲を満たしたいなら他の人を当たってくれる?」

「違うんだ! 本当は、もっとちゃんとしたデートをいっぱいしたかったんだ。ただ、真夏ちゃんの事を好き過ぎて我慢ができなかった」

ライ君の言い訳には溜め息しか漏れない。
手慣れた感じで私を抱いた彼。私にとってどれだけ勇気がいった事かなんて理解できないだろう。

あの時にできた子を私は育てている。初めての事で、気が動転していて避妊がしっかりできていたか確認できなかった。大好きな人と結ばれたと浮かれて頭が湧いていた私にも責任がある。こんなヤリチンに引っ掛かった自分が情けない。

もう、こんな軽薄な男はいらないが、サラとルイは別だ。二人とも私にとっては自分の命よりも大切な宝物。
子供に自分の体を食べさせる犠牲的な愛を持つムカデの話⋯⋯。自分の存在がなくなるまで体を差し出す母親。図鑑で読んだ時はその究極の母性の形を理解できなかった。
でも、今なら理解できる。私はどんな犠牲を払ってもサラとルイを幸せにする。誰を犠牲にしても、自分自身がどうなっても構わない。

───サラとルイは私に色々な事を教えてくれた。

苦しい恋など時空の彼方に追いやってしまうメガトン級の愛が存在する事。
生まれた時は何もできないのに、どんどん色々な事ができるようになる無限の可能性。
好きになったり、嫌いになったりしない、ずっと大好きでいられる存在があるという事。

「ライ君は私の事なんか好きじゃないよ。 本当に好きだったら、そんなに簡単に手を出さないでしょ」

好きな気持ちに負けて彼の言いなりになった私が悪い。無理矢理の時だけでなく、告白したその日に抱かれた時も本当は怖かった。
私にとってライ君は誰にでも優しい働き者の理想の男性だった。
私の事を名前くらいしか知らないのに、好意を向けてくる相手ならば誰でも抱けてしまうような男。私が告白などしなければ、きっと私たちは客と親切なガソリンスタンドの人のままだった。

「!!!」

ライ君は驚いたように目を見開いたまま固まってしまった。

私は清一郎さんの事を思い出していた。彼はサラとルイにも愛情を持って接してくれているが、私の事をいつも気遣ってくれている。
いつも意地悪に揶揄ってきても私を大切に思ってる事は申し訳ないくらい伝わってきた。
彼からは一度も体を求められた事はない。いつも私を子供扱いしているから、父性に溢れた人なんだろう。

「ライ君、もうお別れしよう。私は心からライ君が好きだったよ。きっと一生貴方の事を忘れない。ガソリンスタンドの優しくて素敵なライ君をもうこれ以上汚さないで欲しい」

ライ君が縋るような瞳で私を見つめてくる。
大好きだったアースアイに胸が締め付けられそうになるが、彼はこうやって何人も女を簡単に落としてきたのだと想像できてしまう。

私が呆然とする彼を放って立ち去ろうとした時だった。
不意に手に持っていた一部破れたビニール袋を取り上げられる。ここにいるはずのない見知った顔に私は固まった。私が生まれた頃から冬城組にいて、私の面倒を見てくれた男。
サラとルイが血の繋がらない清一郎さんを父親と思っているように、私も自分を気遣ってくれる彼を父のように慕っている時期があった。

「園崎? 何でここに」
「お嬢、こちらはお嬢のお宅までお届けさせて頂きます。お子様の事も私にお任せください」

私は園崎とライ君の顔を交互に見る。この二人が繋がるなんて事があって良い訳ない。
園崎は冬城組の人間で暴力団の構成員。ライ君は涼波食品の社長だ。ホワイト企業として就活でも人気な涼波食品が、暴力団と繋がりがあったらスキャンダルになるだろう。
ライ君は得意げな顔で私を見ている。さっきまで悲壮感溢れる表情をしていたのに、ジェットコースターのような表情の変化。彼が心底理解できない。

「園崎、あの⋯⋯」

私はトロントの自宅まで露見してしまっている事に震撼した。サラとルイは今ナーサリーにいて、お迎えの時間までは四十分くらいある。
何とか二人をお迎えに行って清一郎さんと合流したい。清一郎さんは明らかに私と子供たちを極道の世界から抜け出させようとしてくれていた。

「真夏ちゃん、乗って」

私がカバンからスマホを出そうとするとライ君に腕を引かれて、黒いリムジンに乗せられる。
趣味が悪い赤いレザーのソファーが私の知るライ君のイメージではない。敏腕若手社長と持て囃され彼も変わってしまったのだろうか。

私はつなぎの制服で笑顔で懸命にガソリンスタンドで働く彼が好きだった。お客さんの一人でしかない私を覚えていてくれて、溌剌と車を拭きながら喋りかけてくれる彼。
今、仕立ての良いスーツを着て、私にシャンパングラスを渡そうとしてくる男は別人だ。

気がつけばリムジンは発進している。

「どこ行くの? 私、用事があるの。車を止めて!」
「用事? ナーサリーに子供をお迎に行くんだよね。それなら大丈夫だよ。園崎さんが代わりに行ってくれるって言ってたでしょ」

私は慌ててカバンからスマホを出そうとする。清一郎さんに連絡してサラとルイを保護して貰わないといけない。いきなり厳つい刺青男がナーサリーに来たら大騒ぎになる。

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