真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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16.警告

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スマホの右上に圏外と表示されていて私は驚いた。
リムジンのカーテンを開けて外を見ると、既に高速道路に乗っている。
こんな街中の高速道路で圏外なんてありえない。おそらく、妨害電波を使われている。

「ライ君、私、連絡を取りたいの。私が迎えに行かないと子供たちが心配するわ」
「誰に連絡するの? 京極清一郎? 俺と会話する方が大事だよね」

ライ君がシャンパングラスを床に叩きつけた。
カシャンと叩きつけられ、無惨にも割れるグラス。
暴力で脅して相手に言うことを聞かせる。
彼はこの三年で変わってしまった。おそらく暴力団と付き合い始めたせいだ。

「ライ君、私、結婚してるの」
「知ってるよ。でも、真夏ちゃんが好きなのは俺でしょ。無理矢理こんな遠くに連れてこられて孕まされた上に、好きでもない男の子供を育ててるなんて可哀想な真夏ちゃん」

急にギュッと私を抱きしめてくる彼に私は動揺した。シトラスの香りも温もりも記憶にあるそのままだ。ずっと忘れたくても忘れられなかった大好きな人。
彼は私に子供がいることを知っているが、双子の親を清一郎さんだと思っている。実際に戸籍上はそうだが、双子は間違いなくライ君の子だ。
でも、とてもじゃないが今の彼に真実は明かせない。

「どこに向かってるの?」
「真夏ちゃんが行きたがってたところ」
ライ君は新しいシャンパングラスを出し、シャンパンを注いで私に渡して来た。

「私、お酒は飲まないわ」
「もしかして、今、妊娠してたりするの?」
彼が鋭い目つきに変わる。彼にとって私は遊びの相手だったはずだ。清一郎さんに嫉妬しているなんて理不尽極まりない。

私の父、冬城源次郎も女を沢山囲っているが誰にも心を捧げていない。しかし、自分の女が他の男と密通しようものなら半殺しにする。それは、嫉妬心ではなく所有欲で人に向けるものではない。女を物のように扱う男が私は嫌いだ。
(ライ君もそういう男だったって事か⋯⋯)

私が渡されたシャンパンを一気飲みすると、ライ君は上機嫌になった。また、シャンパンを注がれる。私は酒に強いし、このシャンパンには薬も入ってなさそうだ。どんどん飲んで安心させ、彼も飲ませて酔った隙に逃げてしまおう。

「美味しいシャンパン。ライ君も飲んで」
口角を上げて目を細め意識して笑顔を作る。先ほど、バックミラー越しに後続車が見えた。後続車の運転席にいるのは冬城組の舎弟。
私は、半永久的な平和な日々を手にしたと勘違いしていたが、仮初めの幸せだったようだ。

「ライ君、私にとって子供たちは何より大事な宝物なの。お願いだから、次の出口で高速を降りて迎えに行かせてくれない?」

「それは、無理かな」

「双子はまだ二歳なの。怖い経験はさせたくない」

必死に彼の良心に訴えたが、ライ君はまた不機嫌になった。
私の知っている温和で優しい彼はもういないのだろうか。もし、双子が彼の子だと告げれば、彼は双子を必死で守ろうとしてくれるだろうか。

「日本に戻ったら、真夏ちゃんの子供も連れてデートしよう。ミラクルランドとか行こうよ」

「まだ双子は二歳だから、列に並んだりはできないわ」
「ミラクルランドは涼波食品がスポンサーだから、並ばずアトラクションに乗せてあげられるよ」
「⋯⋯サラとルイは行きたがらないんじゃないかしら」

脳裏に浮かぶのは清一郎さんに抱っこをせがむサラとルイの姿。
パパっ子の二人はどこに行くにも清一郎さんの取り合いだ。ライ君が双子の父親のはずなのに、今の彼が双子を可愛がる姿が想像できない。

サラもルイも特別扱いを喜ぶような子たちではない。愛する人にとって自分が特別であることに幸福を感じる子たちだ。サラもルイも清一郎さんを心から求めている。

「そう? 俺も本当は真夏ちゃんと二人っきりでデートがしたい。俺たち、そういう時間が足りてなかったと思うんだ。双子の男の子の方のルイって名前は、まるで俺の子みたいな名前だね。真夏ちゃんが望むなら子供たちとも仲良くするよ」

「外国でも日本でも通用する名前にしたの。私は子供たちには何にも囚われず自由に生きて欲しいのよ」

今から私は日本に強制送還されようとしている。

サラとルイは? 清一郎さんは?
愛しい私の子たちも極道の世界に囚われるの?
世間から避けられ、暴力と犯罪の世界で生きなければいけないの?

私は清一郎さんを信じることにした。登録していない人間がナーサリーに来てもサラとルイを引き渡すことはない。保育士は私に電話をして通じなかったら、清一郎さんに電話する。
私に連絡が通じない異常事態に彼が気が付いてくれればきっと何とかしてくれる。血が繋がってなくてもサラとルイに、愛情を注いでいた彼。双子の夜泣きに悩まされ寝不足で苦しんでいた時も、真夜中のミルク係をかって出てくれた。
サラとルイにとってパパは清一郎さんで、彼は間違いなく頼れる男だ。

ライ君が今度はデートで行った水族館の話をしていて、私は適当に相槌をうった。思えば清一郎さんとの思い出は山程あるのに、彼との思い出は殆どない。

若紫色の正絹の風呂敷に包まれた長方形の荷物をライ君が渡してきた。
「そうだ、真夏ちゃんのお母様からプレゼントを預かってきたんだよ。真夏ちゃんのお母様って気品があって素敵な方だよね」

「母に会ったのね」

ライ君が暴力団と関係を持つ入り口に母がなった事は容易に想像できた。
名家のお嬢様として生まれた母は立ち居振る舞い一つで相手の信用を得てしまう。母は相手によって自分をどう見せるのが一番良いかを常に理解している。

「真夏ちゃんのお母様だからね」

真っ直ぐに私を見つめてくる彼から目を逸らし、風呂敷をとくと中から桐の箱が現れる。
心臓の鼓動が速くなる。母は本当にお育ちの良い人で、怒りを外には見せない。そっと相手が察するように遺憾の意を示してくる。

桐の箱をそっと開けると中から出てきたのは、しっかりと梱包された二つの小さなグラス。

「ガラスのお猪口? お洒落だね。日本に帰ってきたら一緒に日本酒でも飲んで語りたいねってお誘いかな」
ライ君はこのグラスが何かわからないようで呑気な事を言っていた。
私はグラスを窓から差し込む光に翳す。怪しい緑色の光。ブラックライトを当てれば、もっとはっきり光るだろう。

このグラスにはウランが含まれている。ウランガラスはアンティーク品として現在では扱われているが、実際に飲み物を飲むグラスとして使ったら健康に被害を及ぼす。ウランは放射線物質なのだから当然だ。

お猪口は大きいものでも四勺程度。このグラスはそれよりも大きい。これはお猪口ではなく、子供用のサイズのグラス。裏を見るとサラとルイの名前が彫ってあった。
これは警告。母は双子を殺す気なのかもしれない。

目の前が急に一瞬チカチカし出して、眩暈がする。

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