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その十
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義嗣のシマで闘争が起こっていた。
義嗣の所属する島田組と敵対する吉田組は、義嗣が所属する島田組より数倍でかい構成員がいるヤクザだ。これまで一触即発な状態が続いていたが、ついに吉田組は薬を使って地元の若いグループを取り込んで、義嗣たちのシマである場所まで荒らしに来た。血に血を注ぐ凄惨な抗争を繰り広げていた。うぬぼれではないが、義嗣は相当強い。なんとか吉田組と対等に渡り合っていたが、それどころでもないのに島田組の中で内紛が起こった。
今の島田組の組長島田恒彦を、気に入らない勢力が出てきたのだ。義嗣はすっかり油断して島田恒彦組長の養子である若頭の島田宗次の弟分の八坂輝也に刺された。
義嗣は天井を見つめながら舌打ちをする。厄介なことになったと、義嗣は忌々しく思う。今は内紛をしているわけにはいかないというのに。
八坂の義嗣を刺すときのにやにや笑いを思い出す。
「ぜってぇ、しばく」
ぽつりと義嗣はつぶやく。自分の縄張りを荒らすものは必ず排除する。それが義嗣達の流儀だ。
「義嗣さん」
義嗣の命の恩人の忍という青年がベッドから起きて、こちらを見ている。
「すまねぇな。起こしちまったか?」
今はほとんどの人間が寝ている深夜だ。起きだしてきた忍のことを、義嗣は気に掛ける。
「あの、けが人がソファーで寝るなんて、よくないです。怪我にさわります」
思いつめたような忍の顔。無条件で人のことをそんなに心配できるなんて、よほど忍は育ちがいいのだろうと、義嗣は思う。
義嗣も名門の名家育ちだが、義嗣の両親は、どう他人をおもいやるかということよりも、どうエリートを育成するかに着目していたかに思う。
「いや、いい。俺はここで寝る」
忍は考える。他に義嗣が寝る場所があるかどうかを。残念だが、忍は一人暮らしだ。余分な布団など一切ない。けれど義嗣はけが人だ。絶対ソファーで寝るなんてだめだ。
そこで忍は一つの答えにたどり着く。
「あの、一緒に寝ませんか?ベッドとなり空いてますし」
「やめとけよ」
「どうしてですか?」
「気持ち悪いだろうが」
侵すか侵されるかの争いをするのがオス同士だ。一緒に寝るなんて、論外だ。
「全然気持ち悪くないですよ、僕、義嗣さん大好きですし。今日寒いですから、一緒に寝ましょう。暖かいですよ。あ、義嗣さんが気持ち悪いと思ったら悪いんですけど」
にこにこ笑う忍に、義嗣は毒気をぬかれる。
「俺が今お前を襲うって言ったらどうなんだ?」
身を起こしてソファーに座り、義嗣は眉を寄せて忍を見る。殺すか殺されるかの世界で生きてきた義嗣には、目の前の青年が無防備すぎにみえる。
「襲う?」
忍は首をかしげる。
「お前をレイプして、金目のものを盗んで、とんずらこく場合もある。もう少し警戒しろ」
そのまま義嗣は背中を向けてソファーに横になってしまう。
「じゃぁ、僕は床に寝ます。義嗣さんだけソファーだなんて嫌ですから」
忍は床に横になって、掛け布団をかける。
義嗣はため息を吐くと、ベッドに横になってくれた。だがそうは言ったものの忍はベッドに横になるのが、ためらわれた。
ためらっている忍の様子に、義嗣は声を上げる。
「どうした?さっさと来いよ」
恐る恐る忍は義嗣の隣に横になる。
温かい人の体温を、忍は感じる。少しだけ自分とは違う微かにレモンのような爽やかな香りもする。なんだか忍の心臓の鼓動が激しくなるのが、自分でもわかった。
「すまねぇな」
ぽつりとつぶやく義嗣の低い声。
緊張する。
早く寝てしまおう。と、忍は目を閉じる。今日はいろいろあって疲れていたのか、すぐ意識が闇の底に沈んでいく。
寝息を立てて眠る忍に、男のため息は聞こえてはいなかった。
義嗣の所属する島田組と敵対する吉田組は、義嗣が所属する島田組より数倍でかい構成員がいるヤクザだ。これまで一触即発な状態が続いていたが、ついに吉田組は薬を使って地元の若いグループを取り込んで、義嗣たちのシマである場所まで荒らしに来た。血に血を注ぐ凄惨な抗争を繰り広げていた。うぬぼれではないが、義嗣は相当強い。なんとか吉田組と対等に渡り合っていたが、それどころでもないのに島田組の中で内紛が起こった。
今の島田組の組長島田恒彦を、気に入らない勢力が出てきたのだ。義嗣はすっかり油断して島田恒彦組長の養子である若頭の島田宗次の弟分の八坂輝也に刺された。
義嗣は天井を見つめながら舌打ちをする。厄介なことになったと、義嗣は忌々しく思う。今は内紛をしているわけにはいかないというのに。
八坂の義嗣を刺すときのにやにや笑いを思い出す。
「ぜってぇ、しばく」
ぽつりと義嗣はつぶやく。自分の縄張りを荒らすものは必ず排除する。それが義嗣達の流儀だ。
「義嗣さん」
義嗣の命の恩人の忍という青年がベッドから起きて、こちらを見ている。
「すまねぇな。起こしちまったか?」
今はほとんどの人間が寝ている深夜だ。起きだしてきた忍のことを、義嗣は気に掛ける。
「あの、けが人がソファーで寝るなんて、よくないです。怪我にさわります」
思いつめたような忍の顔。無条件で人のことをそんなに心配できるなんて、よほど忍は育ちがいいのだろうと、義嗣は思う。
義嗣も名門の名家育ちだが、義嗣の両親は、どう他人をおもいやるかということよりも、どうエリートを育成するかに着目していたかに思う。
「いや、いい。俺はここで寝る」
忍は考える。他に義嗣が寝る場所があるかどうかを。残念だが、忍は一人暮らしだ。余分な布団など一切ない。けれど義嗣はけが人だ。絶対ソファーで寝るなんてだめだ。
そこで忍は一つの答えにたどり着く。
「あの、一緒に寝ませんか?ベッドとなり空いてますし」
「やめとけよ」
「どうしてですか?」
「気持ち悪いだろうが」
侵すか侵されるかの争いをするのがオス同士だ。一緒に寝るなんて、論外だ。
「全然気持ち悪くないですよ、僕、義嗣さん大好きですし。今日寒いですから、一緒に寝ましょう。暖かいですよ。あ、義嗣さんが気持ち悪いと思ったら悪いんですけど」
にこにこ笑う忍に、義嗣は毒気をぬかれる。
「俺が今お前を襲うって言ったらどうなんだ?」
身を起こしてソファーに座り、義嗣は眉を寄せて忍を見る。殺すか殺されるかの世界で生きてきた義嗣には、目の前の青年が無防備すぎにみえる。
「襲う?」
忍は首をかしげる。
「お前をレイプして、金目のものを盗んで、とんずらこく場合もある。もう少し警戒しろ」
そのまま義嗣は背中を向けてソファーに横になってしまう。
「じゃぁ、僕は床に寝ます。義嗣さんだけソファーだなんて嫌ですから」
忍は床に横になって、掛け布団をかける。
義嗣はため息を吐くと、ベッドに横になってくれた。だがそうは言ったものの忍はベッドに横になるのが、ためらわれた。
ためらっている忍の様子に、義嗣は声を上げる。
「どうした?さっさと来いよ」
恐る恐る忍は義嗣の隣に横になる。
温かい人の体温を、忍は感じる。少しだけ自分とは違う微かにレモンのような爽やかな香りもする。なんだか忍の心臓の鼓動が激しくなるのが、自分でもわかった。
「すまねぇな」
ぽつりとつぶやく義嗣の低い声。
緊張する。
早く寝てしまおう。と、忍は目を閉じる。今日はいろいろあって疲れていたのか、すぐ意識が闇の底に沈んでいく。
寝息を立てて眠る忍に、男のため息は聞こえてはいなかった。
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