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その十四
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亡くなった忍の父親は、忍がいつも学校で失敗して落ち込んでいると頭をなでてくれてたなと、思う。
忍は笑顔でお客さんを見送る。
「忍君」
後ろから伝次郎の声がかかる。
「はい?」
「その首どうしたの?」
「首」
「ずっと首元にシップ貼ってるでしょ」
伝次郎が指さした忍の首元には、義嗣の噛み跡を隠すためのシップが貼ってある。
普通にしていなければいけないのに、忍は焦って赤面してしまう。
「い、いえ、これは、その」
普通に言い訳を考えればいいのに、焦る。
「ふぅーん」
伝次郎は忍の目の前までやってくると、忍の首筋にあるシップとその下に貼ってあった絆創膏ともどもはがしてしまう。
「え」
呆気にとられる忍に、伝次郎は微笑んで言う。
「誰かの噛み跡だね、それ」
慌てて隠そうとする忍を制して、首筋の襟を伝次郎は引き下げてしまう。くっきりピンク色の歯型の上を、伝次郎は口づけた。
「舐めたら治るっていうけど、本当かな」
伝次郎が能天気に言う。
「だ、大丈夫です!消毒液つけましたし」
「そう?お大事に」
にっこり伝次郎がほほ笑む。
「ありがとうございます」
少し顔を赤くしながらも、忍は微笑んだ。
なんとか恥ずかしくもなりながら忍は仕事を終えて、家路につくことができた。
その日忍は、電車の中で四十から五十歳くらいの渋い格好いい男の人と手をつないで、電車に揺られていた。
忍の手を見知らぬ男が握ってきたのだ。忍は首をかしげて、その男の人の横顔を見つめて戸惑った。
「ただいま」
忍の柔らかい優しい声。
「ご飯できてるぞ」
エプロンをつけた義嗣が、玄関で忍を出迎えてくれる。
「義嗣さん、料理できるんですか?」
「ああ。知り合いに料理できる奴いたからな」
背中を向けて義嗣が行ってしまう。
「あ、あの、義嗣さん、これ!」
慌てて忍は袋から花束を取り出して、義嗣に見せる。何故か忍はとても恥ずかしくて、顔が真っ赤に染まる。
「義嗣さんに、これ、花束を。こないだのお返しです」
なんだか耐え切れなくなって、忍は俯く。ひどく顔が熱い。忍は自分自身でなぜこんなに恥ずかしい感情が込みあがるのか、疑問に思う。
義嗣の沈黙が重い。
「綺麗だな」
義嗣が言う。
花束を肩に乗せて、義嗣は忍に背を向けて言う。
「ありがとな」
忍の心臓が弾む。
「いえ!」
その時忍は義嗣のことを好きだなと、はっきり自覚したのだった。
義嗣は花束をいつも寝るソファーの上に置く。なんだか気恥ずかしくて、忍は花束から目をそらす。
「どうした?飯食わないのか?冷めるぞ」
「た、食べます」
食べた義嗣の料理はまるでレストランに出される料理みたいで、とてもおいしかった。いつも自分で作る家庭料理とはまた違うおいしさだ。
「おいしいです!」
「そうか」
「はい」
「首のそこはがれている」
「え」
義嗣の指さすほうには、忍の首筋がある。忍は義嗣の指さすほうの自らの首筋に触れると、絆創膏とシップが緩んでめくれていた。義嗣の噛み跡が見えていたかと思うと、恥ずかしくて顔を赤くする。
「誰かに見られたか?」
義嗣は席を立つと、座っている忍の目の前まで来た。
義嗣は忍の首筋に触れると、そのままその噛み跡の上を軽くかんだ。
忍は仰天する。
「すまねぇな。どうかしてる。ちょっと外に煙草買ってくる。先に飯食べていい」
義嗣が外へ出ていく。やけにドアを閉める音が響く。
忍は首筋を手で押さえて、呆然と腰を抜かしていた。
忍は笑顔でお客さんを見送る。
「忍君」
後ろから伝次郎の声がかかる。
「はい?」
「その首どうしたの?」
「首」
「ずっと首元にシップ貼ってるでしょ」
伝次郎が指さした忍の首元には、義嗣の噛み跡を隠すためのシップが貼ってある。
普通にしていなければいけないのに、忍は焦って赤面してしまう。
「い、いえ、これは、その」
普通に言い訳を考えればいいのに、焦る。
「ふぅーん」
伝次郎は忍の目の前までやってくると、忍の首筋にあるシップとその下に貼ってあった絆創膏ともどもはがしてしまう。
「え」
呆気にとられる忍に、伝次郎は微笑んで言う。
「誰かの噛み跡だね、それ」
慌てて隠そうとする忍を制して、首筋の襟を伝次郎は引き下げてしまう。くっきりピンク色の歯型の上を、伝次郎は口づけた。
「舐めたら治るっていうけど、本当かな」
伝次郎が能天気に言う。
「だ、大丈夫です!消毒液つけましたし」
「そう?お大事に」
にっこり伝次郎がほほ笑む。
「ありがとうございます」
少し顔を赤くしながらも、忍は微笑んだ。
なんとか恥ずかしくもなりながら忍は仕事を終えて、家路につくことができた。
その日忍は、電車の中で四十から五十歳くらいの渋い格好いい男の人と手をつないで、電車に揺られていた。
忍の手を見知らぬ男が握ってきたのだ。忍は首をかしげて、その男の人の横顔を見つめて戸惑った。
「ただいま」
忍の柔らかい優しい声。
「ご飯できてるぞ」
エプロンをつけた義嗣が、玄関で忍を出迎えてくれる。
「義嗣さん、料理できるんですか?」
「ああ。知り合いに料理できる奴いたからな」
背中を向けて義嗣が行ってしまう。
「あ、あの、義嗣さん、これ!」
慌てて忍は袋から花束を取り出して、義嗣に見せる。何故か忍はとても恥ずかしくて、顔が真っ赤に染まる。
「義嗣さんに、これ、花束を。こないだのお返しです」
なんだか耐え切れなくなって、忍は俯く。ひどく顔が熱い。忍は自分自身でなぜこんなに恥ずかしい感情が込みあがるのか、疑問に思う。
義嗣の沈黙が重い。
「綺麗だな」
義嗣が言う。
花束を肩に乗せて、義嗣は忍に背を向けて言う。
「ありがとな」
忍の心臓が弾む。
「いえ!」
その時忍は義嗣のことを好きだなと、はっきり自覚したのだった。
義嗣は花束をいつも寝るソファーの上に置く。なんだか気恥ずかしくて、忍は花束から目をそらす。
「どうした?飯食わないのか?冷めるぞ」
「た、食べます」
食べた義嗣の料理はまるでレストランに出される料理みたいで、とてもおいしかった。いつも自分で作る家庭料理とはまた違うおいしさだ。
「おいしいです!」
「そうか」
「はい」
「首のそこはがれている」
「え」
義嗣の指さすほうには、忍の首筋がある。忍は義嗣の指さすほうの自らの首筋に触れると、絆創膏とシップが緩んでめくれていた。義嗣の噛み跡が見えていたかと思うと、恥ずかしくて顔を赤くする。
「誰かに見られたか?」
義嗣は席を立つと、座っている忍の目の前まで来た。
義嗣は忍の首筋に触れると、そのままその噛み跡の上を軽くかんだ。
忍は仰天する。
「すまねぇな。どうかしてる。ちょっと外に煙草買ってくる。先に飯食べていい」
義嗣が外へ出ていく。やけにドアを閉める音が響く。
忍は首筋を手で押さえて、呆然と腰を抜かしていた。
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