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番外編 花屋の噂の二人 (裏)
しおりを挟む義嗣は不機嫌に煙草を口にくわえながら、舌打ちをする。
不機嫌の理由は喫煙しているので、煙草を吸えないのと、義嗣の方を見て女子高生たちが、キャーキャーうるさいからだ。
学生のころから、義嗣は女にもてていた。
人を半殺しにするのに、良心の呵責もない人間の自分に何故女が寄ってくるのか、義嗣は不思議に思う。
店先の花の水を交換していると、自分を見つめる一人の女子高生に気づく。
その女子高生は義嗣と目が合うと、慌てて去っていく。
ここのところいつもその女子高生は、義嗣と忍の様子を窺っているようであった。
「義嗣さん、今日祥君に饅頭貰ったんですよ。一緒に食べませんか?」
にこにこ微笑む忍の顔が見える。
祥とは最近よくこの花屋にやってくる生意気な小学生のこと
微笑む忍の顔をなんだか直視できず、少しだけ顔を火照らしながら、義嗣はごまかすように髪をかきみだしながら、「今行く」と言って、忍の元へと歩き出した。
「最近この花屋の店先に、女子高生見ねぇか?そいつと視線が合うんだが」
そう義嗣はいつも執拗に自身を見つめる一人の女子高生の視線を感じていた。
義嗣を見つめるものはもちろん他にも大勢いる。
キャーキャ騒ぐ女子高生の視線ならいつもたくさんいるが、獲物を狙うように隠れながら見つめるその女子高生の視線は、危険なものだと義嗣は本能で感じていた。
「よく女子高の方、この店の前通りかかりますよね。義嗣さん、格好いいですから」
にこにこ嬉しそうに忍が言う。
「・・・そんなことねぇ。お前の方が格好いいだろうが」
「え!?」
なにやら硬直する忍。
義嗣は昔つきまとってくる女に刺されそうになったことがある。
見つめてくるだけならまだ何も実害がないので、何もしようがない。だが、義嗣のことはどうにでもなるが、忍に危険が及ぶというのなら放っておけない。
「よ、義嗣さん」
忍は何やらおろおろしているので、なだめるために忍の頭を乱暴に撫でた。
もじもじして顔を赤くする忍。
相変わらず忍は恋愛ごとになれないらしい。
自分もかと、義嗣は照れ隠しに自身の髪を掴んで明後日の方向を向く。
なぜか忍を前にすると、うまく言えないことが増える義嗣だった。
言葉の代わりに義嗣は、忍の手を握った。
調べたところ、執拗に義嗣のことを見ている女の名前は、井上華南ということが分かった。
何もしていない華南に、なにもできはしない。
義嗣一人だけならば、はっきり付きまとうなと言うだけで終わらすが、つきまとう人間は激情する恐れがある。
だから義嗣は一計を案ずることにした。
知り合いに頼んで、建物の陰からただ花屋を見ていてほしいと頼んだ。そして、華南を花屋の中へと誘い、男のストーカーが華南に付きまとっていると、嘘を言った。
そうすれば華南は怯え、義嗣のどころではなくなるだろうと。
結果華南は友人として、この花屋に通うようになった。義嗣の考えすぎだったらしい。
その夜店内の掃除をしていると、窓が割れる音と、忍の悲鳴が聞こえてくる。
忍が男に襲われていた。
床に倒れている忍に、男が馬乗りになっているのが見えた。
義嗣は花が入っていたバケツを、男の頭に振り落とした。
忍のストーカーが別にいて、ある日花屋の店内に不法侵入してきたのだった。
その男を義嗣はぼこぼこにして、半殺しにした。忍が止めてなければ、その男を義嗣は殺していたかもしれない。
どうやらあの嫌な視線は、華南ではなく、忍のストーカーの男だったのかもなと、義嗣は外で煙草を吸った。
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