6 / 172
第五話 お母さんの事情と気持ち その二
しおりを挟む
ソニアは立ち止まって、アルの方を振り返ってみた。
「あいつらの手前言わなかったが、あいつらの母親の仕事先は娼館だ」
「え?娼館って」
「女が体を売る場所だ」
「お母さん、体大丈夫なんでしょうか?」
娼館という単語と同時に、梅毒という言葉が思い浮かぶ。
「あいつらの母親のミリは、あの飲んだくれに見切りをつけずになぜかそばにいると、近所では七不思議のように語られている」
「七不思議」
この世界にも七不思議という言葉があるんだなと、アルは不思議に思う。
この世界にも?ん?
「そうだ。近所の奴らはやっかいごとが嫌でこれまで放っておいたわけだ。俺は忙しくて全然のあいつの子供のことは知らなかったが、ここまできたらどうにかしないといけないだろう」
「そうですね」
「行こう」
「はい」
「帰ってください」
ミリの母親が務める風俗の店員らしく眼鏡をかけた背の高い黒髪は、店にやってきたアルとソニアを見るなり言い放つ。
「この店にミリという女がいるだろう?会わせてくれ」
「客でもない他人に合わせる女はいねぇな」
にやにや店員が笑っている。
「客ならいいんだろう?」
そういうとソニアは一枚のお札らしきものを、差し出す。
「毎度」
にやりと店員の男が笑うと、「少々お待ちください」と店の中に入っていった。そしてしばらくすると、一人の金髪の美少女が出てくる。
こんな美少女が何故あの飲んだくれと、アルは首をかしげる。
いや、この世界では美少女ではないのか?
「あなたたち二人でするの?私そういうプレイはしてないの。一人ずつならいいわ」
「あの初めまして、私はアルと申します」
「仮面なんかしてまさか犯罪者じゃないでしょうね?」
「いえ、犯罪者というか、あなたの近所に住んでいるものです。レア君とクレアちゃんのお母さんのミリさんですよね?」
「あ、あなたたち何なの?」
「お父さんがお子さんたちに暴力を振るったりひどいことのをとめたいんです。どうにか手助けしてもらえないでしょうか?」
「帰って!帰って!」
ミリはアルたちから距離をとり、走り出してしまう。そのミリの腕を素早くソニアは掴んだ。
「何かあったら俺たちがお前を助けてやる」
怯えた目でミリはソニアを見る。ソニアは牙を見せる。
「あの酔っ払いのろくでなしの旦那がお前たちを殴るというのなら、俺たちがお前たちを助けてやる」
ミリはもう走り出そうとせず、立ち止まる。そして俯く。
「ここでは話せない。店の中にきて」
ミリとともにソニア達は店内に向かったのだった。
殺風景な部屋にピンク色のカーテンがたなびいている。ミリはそのベッドに座ると自嘲気味というかほんの少しの悪意ある顔で微笑む。
「急に何なの?これまでほったらかしだったというのに」
「お仕事中すみません」
「あなた真面目ね。そこのオオカミの彼は本当に格好がいい。人は本当に顔じゃないのね。行動がよければ惹かれる。信じてもらえないけれど昔のヴェイスは本当に優しかったのよ」
「そうなんですか」
「ええ。それはもう。それにヴェイスは嫡子ではないけど、貴族なのよ。優しくて貴族で私は舞い上がったの。私は美人でもないし、ヴェイスが私を選んでくれた時は嬉しかった。まぁ、貴族に選ばれたっていう打算がなかったら嘘になるけど。私たちは本当に家族になれるって思っていたんだけど、顔のせいでヴェイス実家から追い出されたの。親から捨てられたってあれてね。もう私じゃ手が付けられないくらい」
「家を出ていこうと思わなかったんですか?」
「思ったわよ?でもさ、子供二人連れて私だけでこのスラムで生きれると思う?あんな飲んだくれだけど、一応時々は稼ぎがあるの。いつか昔みたいに優しい人に戻るかもしれないし」
「とにかく子供をどうにかしろ。あの様子じゃそのうちにお前のこどもは死ぬぞ」
「これ以上どうしろっていうの?私は万能じゃないのよ!!」
叫ぶミリの体をアルは抱きしめた。
「大丈夫。私たちがいますからね。お子さんのことは一緒に考えましょう。つらいのならいつでもうちに来ていいんですからね」
「……あなたなんか異様にイイにおいがするのね」
そういったあとミリはげらげら笑い、「ありがとう」とぽつりと呟いた。
そうしてミリと別れてアルたちは店の外に出た。
それがミリと会った最後だった。
ミリは子供にアルに手紙を渡すように言い残すと、一人家を出て行ってしまい、行方不明となってしまった。
「あいつらの手前言わなかったが、あいつらの母親の仕事先は娼館だ」
「え?娼館って」
「女が体を売る場所だ」
「お母さん、体大丈夫なんでしょうか?」
娼館という単語と同時に、梅毒という言葉が思い浮かぶ。
「あいつらの母親のミリは、あの飲んだくれに見切りをつけずになぜかそばにいると、近所では七不思議のように語られている」
「七不思議」
この世界にも七不思議という言葉があるんだなと、アルは不思議に思う。
この世界にも?ん?
「そうだ。近所の奴らはやっかいごとが嫌でこれまで放っておいたわけだ。俺は忙しくて全然のあいつの子供のことは知らなかったが、ここまできたらどうにかしないといけないだろう」
「そうですね」
「行こう」
「はい」
「帰ってください」
ミリの母親が務める風俗の店員らしく眼鏡をかけた背の高い黒髪は、店にやってきたアルとソニアを見るなり言い放つ。
「この店にミリという女がいるだろう?会わせてくれ」
「客でもない他人に合わせる女はいねぇな」
にやにや店員が笑っている。
「客ならいいんだろう?」
そういうとソニアは一枚のお札らしきものを、差し出す。
「毎度」
にやりと店員の男が笑うと、「少々お待ちください」と店の中に入っていった。そしてしばらくすると、一人の金髪の美少女が出てくる。
こんな美少女が何故あの飲んだくれと、アルは首をかしげる。
いや、この世界では美少女ではないのか?
「あなたたち二人でするの?私そういうプレイはしてないの。一人ずつならいいわ」
「あの初めまして、私はアルと申します」
「仮面なんかしてまさか犯罪者じゃないでしょうね?」
「いえ、犯罪者というか、あなたの近所に住んでいるものです。レア君とクレアちゃんのお母さんのミリさんですよね?」
「あ、あなたたち何なの?」
「お父さんがお子さんたちに暴力を振るったりひどいことのをとめたいんです。どうにか手助けしてもらえないでしょうか?」
「帰って!帰って!」
ミリはアルたちから距離をとり、走り出してしまう。そのミリの腕を素早くソニアは掴んだ。
「何かあったら俺たちがお前を助けてやる」
怯えた目でミリはソニアを見る。ソニアは牙を見せる。
「あの酔っ払いのろくでなしの旦那がお前たちを殴るというのなら、俺たちがお前たちを助けてやる」
ミリはもう走り出そうとせず、立ち止まる。そして俯く。
「ここでは話せない。店の中にきて」
ミリとともにソニア達は店内に向かったのだった。
殺風景な部屋にピンク色のカーテンがたなびいている。ミリはそのベッドに座ると自嘲気味というかほんの少しの悪意ある顔で微笑む。
「急に何なの?これまでほったらかしだったというのに」
「お仕事中すみません」
「あなた真面目ね。そこのオオカミの彼は本当に格好がいい。人は本当に顔じゃないのね。行動がよければ惹かれる。信じてもらえないけれど昔のヴェイスは本当に優しかったのよ」
「そうなんですか」
「ええ。それはもう。それにヴェイスは嫡子ではないけど、貴族なのよ。優しくて貴族で私は舞い上がったの。私は美人でもないし、ヴェイスが私を選んでくれた時は嬉しかった。まぁ、貴族に選ばれたっていう打算がなかったら嘘になるけど。私たちは本当に家族になれるって思っていたんだけど、顔のせいでヴェイス実家から追い出されたの。親から捨てられたってあれてね。もう私じゃ手が付けられないくらい」
「家を出ていこうと思わなかったんですか?」
「思ったわよ?でもさ、子供二人連れて私だけでこのスラムで生きれると思う?あんな飲んだくれだけど、一応時々は稼ぎがあるの。いつか昔みたいに優しい人に戻るかもしれないし」
「とにかく子供をどうにかしろ。あの様子じゃそのうちにお前のこどもは死ぬぞ」
「これ以上どうしろっていうの?私は万能じゃないのよ!!」
叫ぶミリの体をアルは抱きしめた。
「大丈夫。私たちがいますからね。お子さんのことは一緒に考えましょう。つらいのならいつでもうちに来ていいんですからね」
「……あなたなんか異様にイイにおいがするのね」
そういったあとミリはげらげら笑い、「ありがとう」とぽつりと呟いた。
そうしてミリと別れてアルたちは店の外に出た。
それがミリと会った最後だった。
ミリは子供にアルに手紙を渡すように言い残すと、一人家を出て行ってしまい、行方不明となってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる