記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第15話 お金はない。

家に帰ってきてから大変だった。ライに唸るソルとシルカを、アルとソニアはなだめる。
「こら！ライ君に唸らないの」
ライはソニアの背中におぶわれている。相変わらずソルとシルカは、ライに対して唸っている。
「ソル君、シルカちゃん、お土産あるよ！」
そういうと、子供二人は目を輝かせて、アルの元へとやってくる。
「はい、これ」
アルは綺麗な糸で編まれたミサンガを、ソルとシルカに見せる。
「綺麗！」
シルカが目を輝かせる。
「なんだ、これ？」
けげんそうなソルに、アルはミサンガを腕に結んで見せる。
「これはね、こうやって腕に結んで切れたら願い事が叶うっていうものなんだよ」
「腕、シルカの腕につけて！！」
「うん」
ミサンガをシルカの腕に結ぶと、シルカはしっぽを激しく振りながら、なぜかぐるぐる体を回転させていた。
「ふん！なんだよ、これ？」
と不服そうにしながらもソルは、「足首に結んで！」といってきた。
アルはソルの額にデコピンしながら、「はいはい」とその長い綺麗に編まれた紐を、ソルの足首に結んで見せた。
ソルは尻尾を振りながら、両手を腰に当てて胸を張っていた。
おーよしよし。アルはソルの頭をなでる。するとその手をソルが振り払う。
にこにこアルは笑っていると、ソルはソニアがいないことを確認してアルの背中に抱き着く。
シルカはといえば、アルに抱き着き。うっとりとしていた。

そしてライの体を沸かしたお湯で洗い、子供たちも一緒に体を洗う。洗い終わったころにはアルはへとへとだ。
夜ご飯は面倒なので、買ってきた食材で適当につっこみ、ごった煮みたいにして小麦粉みたいなものを水で練って、適当に落としていく。ソニアさんも夜ご飯作りを手伝ってくれ、何とか作り終えた。
そこまででアルはテーブルの上に突っ伏して、眠ってしまった。眠ってしまったアルをソニアは抱え上げて、寝床から向かったのだった。

「お疲れ様」
ソニアはつぶやき、よだれをたらしながら眠っているアルの頭をなでた。
「んあ？ソニアさん夜ご飯作らなきゃ」
「もう食べ終えただろう？」
完全にアルは寝ぼけている。
ソニアは懐から取り出した櫛を、アルの枕元に置く。
「これお前にやる。約束だからな」
アルはよほどうれしかったらしい。そのままソニアに抱き着いてきて、そのまま寝た。

朝起きると、ソニアさんが台所にいて、朝ごはんを作っていた。
「す、すいません！」とアルは慌てて調理場に立つ。そんなアルをソニアは手で制した。
「いい。今日は俺が朝ご飯を作る。お前は座っていろ」
「で、でも」
「すぐにできる」
「すみません」
おどおどしているアルの頭を、ソニアはなでた。

朝食を食べ終わった後、ソニアはアルに話があるという。
そして二人きりになると、ソニアは一言言った。
「金がない」
「え」
その場が凍り付いた。
「仲間たちのカンパを大幅に病院で使ってしまった」
「ど、どうしましょう」
慌てるアルに、「落ち着け」とソニアはため息をつく。
「具材は山に取りに行く」
「え」
「お前は留守中に、子供たちを見ていてくれ。ライはまだこの家に来たばかりだからな。慣れていないだろう」
「そんな、私はソニアさんの手伝いしたいです。一緒に山に行きたいです！」
「山は危険だ」
「安全な山はないんですか？」
「ないな。魔物を狩に行くからな。正直、アルは足手まといだ」
「そ、そうですか」
「そうだ」
そうソニアは言ったが、正直アルは内心山へと山菜を取りに行くことをあきらめてはいない。
「そうだ！庭先に畑を作りませんか？そうすれば食費浮きますよ！きっと」
きらきら目を輝かせるアル。
「この家先の庭はほかの奴の庭だ。土地を借りるには金が要る」
「そ、そうですか」
アルは撃沈した。世の中は厳しかった。
「だがいい考えだ。金を貯めて土地を買うか」
「はい！」
アルはメラメラ燃えた。
「まぁ、隠れて庭で少しだけ何か育ててみるか」
「そうだ。教会にクレアちゃんとレア君の様子を見に行きたいんですけど」
「山に行く前に教会に行くか。少しくらいならライも留守にしても大丈夫だろう」
「はい」
こうしてソニアとアルの話し合いは終わった。

その様子を陰から見ていたソルは、俯いた。