記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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間話番外  黒猫の子育て事情

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 この辺りの縄張りは黒猫獣人の人たちがブイブイ言わせているらしい。

この辺り一帯の縄張りというか獣人の取り締まり役のヴェリエという黒豹だからかもしれない。

しかし黒猫と豹の獣人の違いがわかるかという話だが、分かるのだ。確かに人間の顔立ちをしているが、やはりなぜか人間とは少しだけ不思議なことに、猫よりな顔をしていたりするからだ。



アルはヴェリエという黒ヒョウの顔をした男に誘拐されたことがある。その後、なぜかヴェリエ一味の黒猫獣人たちの子守をする羽目になった。その始まりの物語である。



アルは家で家事に追われていた。

ソル君はやんちゃで、すぐ家のものを壊すし、寂しくなるといたずらしてアルの気を引こうとするところがある。壮絶に家が散らかる。家の掃除をしながら、ソル君を叱る。

するとソル君は嬉しそうにする。悪循環である。



ソル君の妹のシルカちゃんはというと、それはもう消える。家の中からすぐに消える。目を放したらすぐ死ぬというくらい消える。アルはシルカが消えたとおもって、泣きながらシルカの姿を探していたら、気配を殺してアルの背後にいたということがあった。



ライ君は比較的おとなしい男の子だが、ソル君と壮絶な喧嘩をして血まみれになる。本当にやめてほしい。



そんなこんなでアルは家事に育児にてんてこ舞いの日々を過ごしていた。



「こんにちはー!!」

見知らぬ人の声が聞こえてきた。

「はーい」

アルは持っていた箒を下すと、玄関に向かう。

玄関の先には、黒猫獣人の若い女の人が立っていた。

全然見知らぬ人だ。

アルは首をかしげる。



「あの、どちら様でしょうか?」

「あんたがサンの浮気相手でしょう!!」と、女の人は鬼の形相で叫んでくる。

「あの、今のところおつきあいしているお相手はいないんですが」

浮気も何もないですと、アルは呆然としている。

「嘘よ!サンからあなたの匂いがしていたもの!この家に通っているのもみたし」



サンという知り合いはいただろうか?と、アルは考える。

思いつかない。



「サンってどなたでしょうか?」

「しらばっくれんじゃないわよ!!」

「あの、本当に思い出せないんですが。よかったらお話を聞くのでよかったら中へどうぞ。今お茶入れますから」



そう言ってアルは、見知らぬ黒猫獣人の女の人を部屋へと招いた。



「アルー!!洋服汚しちまったから、洗ってくれ!」

にこにこソル君がアルのもとにやってくる。ソルの服にはべったり泥が付いている。



あー、その泥おちないよ、ソル君と、内心アルはがっくりする。

くりくりお目目のふさふさのお耳と白い髪、そしてふっくらほっぺのソル君は愛らしい。

可愛いなとは思うが、まぁ、時々は疲れる相手でもある。



「洗うの大変だし、汚さないようにしてね、ソル君」



「あいよ」と軽く返事をしてソルは家の庭で泥遊びをしている。まったくアルの話を聞いていない。がっくりする。



アルは後ろにいる女性に、席に座らせて、いつもの豆茶を入れる。それとお茶うけに蜂蜜で煮込んだ豆も出す。この豆はほくほくしておいしいのだ。



「あのあなたのお名前は?私はアルと言います」

話ながらアルは女性にお茶を出す。

「私は、エイデ。黒猫獣人のサンの恋人よ」

「黒猫獣人の知り合い?ああ、サン、さん、ってあの背の高い筋肉質な黒猫獣人の方ですか?」

「そうよ!!」

エイデさんは席から立ち上がり、アルを睨みつけてきた。

「サンさんには私頼まれてブラッシングをしているだけで、サンサンの恋人とかではぜんぜんまったくないですよ。ブラッシングを頼んでくるのはサンさんだけじゃないですし。黒猫さんたちに聞けばわかると思いますけど」



はなすアルのもとにシルカがやってきて、強引にアルの膝の上に座る。最近シルカは成長しているので、結構重たい。膝が死ぬなと思いつつ、シルカの頭をアルはなでておく。



「嘘よ!」

「本当です。黒猫獣人の人色んな人がこの家に来て、ブラッシングを頼んでいくんですよね。自分では背中とかできないらしくて。この家に子供たちもいるし、浮気なんて全然ないですよ。本当です」

 

エイデは立ち上がると、アルの体の匂いを嗅ぐ。

アルはなんだかいたたまれなくて、赤面する。



「どうやら多分本当のようね」



「本当ですよ」

まぁ、ブラッシング中、サンはでれでれアルに顔を擦りつけてきたり、ろくなことをしようとしないが。



「あの人まだ子供が小さいっていうのに、遊び歩いてんだからろくに帰ってこないの。だから実家に帰ろうと思って。もう子育てもなにも限界なの」

そういって涙を流すエイデに、アルはうろたえる。



ど、どうしたもんか?



「あ、アルが女泣かしてる!」

そんなことをいってソルがやってくる。

「こ、こら、今大事なお話しているからね、ソル君、今は話してはだめだよ。またあとでね」

「兄ちゃんに言いつけてやろ!」

そんなことをいって、ソルは走り去っていく。



「すみません、うちの子が。よかったらお茶冷めないうちにどうぞ」

一応お茶を進めておく。

すると、エイデは涙を拭いて、「ふふ」と笑う。



「ありがとう。人間のくせに、私たち獣人を差別しないのね」

「もちろんです」

「おいしい、このお茶」

「おかわりもありますからね。お腹減っているなら、ご飯出しましょうか?」

「ううん、ご飯はいい。この甘い豆美味しい。もう少し頂戴」

「ああ、どうぞ、ぞうぞ」

鍋からお代わりの甘豆をだして、エイデの前に置く。



エイデはもぐもぐと甘い豆を食べている。

その姿を見ているとなんか可愛いなと、アルは内心思う。やはり猫獣人は、人間の顔に近いが、猫の顔に少し似ていると思う。



「本当に辛かったら、サンさんに押し付けてもいいと思いますよ。エイデさんが辛いって、サンさんに相談してみてはどうでしょうか?」

「そうねぇー」

にっこりエイデは微笑んだ。



その後サンは奥さんに逃げられたと、アルに赤ん坊を預けに来た。

アルは内心さんに対して妙な罪悪感があり、親身になってサンの赤ん坊の面倒を見た。そのアルの子供に対して親身な姿を見た黒猫仲間は皆、アルを信頼し、自分の赤ん坊を預けに来た。

黒猫獣人は多産である。子供が大変多く生まれる。そして子供がよく死ぬ。

サンの子供をすくすく育てているアルを、皆が頼りにしだしていた。



そんなことをアルは全く知らず、黒猫獣人たちが赤ん坊を預けていくのに、本気で何故なのかわからずに首をかしげていた。



ちなみにエイデはサンの奥さんではなく、愛人だと知る由もないアルなのだった。
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