細雪、小雪

松井すき焼き

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小さな集落でその晩一人の妊婦が出産をはじめた。妊婦は生死の境をさまよい苦痛を伴いながら、一人の子供を産んだ。
女の旦那は喜んでその赤ん坊を受け取ったが、その赤ん坊の目を見て愕然とした。
赤ん坊の目は、通常ではありえない黒ではなく日よりも赤い真紅の色だった。
男は焦った。  
自分と妻が生んだ赤子が化け物だとしれれば、自分たちは何をされるかわからない。男は褄の制止の声も聴かず、赤子を抱え外に出た。
崖下にやってきた男は赤子に話しかけた。
「父ちゃんを許してくれ」
そういって男は赤子を崖下に投げ捨てようとしたが、果たせなかった。
あまりにその赤子がかわいらしからだ。男は泣きながらその赤子を隠して、次の赤子が生まれるまで育てることにきめた。
妻は最初、薄気味わるがっていたが、隠せばよいということで赤子の両目を糸で結んでひらけなくさせた。
赤子は妻と男によって、赤目(あかめ)と名付けられた。
期待していた二番目の子供は流産に終わって、それ以降生まれることがなかった。
赤目の子供は変なものがみえるといい、薄気味悪がった妻が皿を投げつけると、子供はひどく無口になったので、妻はそんな子供をひどくもてあまし、つねづね産まなければよかったと、呟いた。
あるとき外に出ていた赤目は忽然と消えた。
妻と男はそれを話題にすることはなかった。

赤目は鬼の形相をした男にさらわれた。
さらわれたということにまだ幼かった黒糸は、気づかなかった。
幼い赤目は何が起こったのかわからなかったが、自分を抱いている男を不思議そうにみた。
「おじちゃんは誰?」
男は「俺は双六(すごろく)」と名のった。
双六と名乗った男は言った。
「地獄からお前を守りに来た」
「地獄?誰それ」
幼い子供にはと言われても、双六が何をいっているかわからなかった。

「そう地獄だ。お前は前世で千人殺した大罪人だ。
お前を喰いに、千人の鬼が来る。おらもその一人だ。お前の名前は?」
「名前?わからない」
双六に名前を聞かれて、首を傾げた。
両親にあまり名前を呼ばれたことのないのと、幼さがあいまって、その時両親に名づけられた黒糸という名前は忘れてしまっていた。

「そうか、ではお前は千人前世で殺したらしいからお前を千鬼と呼ぶべ」
「千(せん)鬼(き)」
双六がつけた、自分の名前。あまり千鬼という名前は好きではなかった。
「そうだ。しかしお前よい匂いすんべ。おら我慢しなけりゃなんねぇ」
双六という醜い姿の男は千鬼を見ながら、こみあげてきた涎をぬぐっていた。
我慢とは言ったが、双六は断るごと千鬼の腕の肉を食いちぎった。
「ぎゃぁあああああああああああああ」
気が狂いそうな痛み。

千鬼は双六のもとから逃げ出したかったが、力が強く、大男の鬼の形相のような双六のもとから逃げ出すことは恐ろしくてできなかった。
しかも双六は、両親が千鬼の両目を開けないように両目を縫った糸を、双六の許しもなく勝手にとったら殺すといわれていた。見えない目で遠くへ行こうというのも無理だった。
双六は千鬼に食べ物を与えようとしないので、千鬼は餓死をしないために自分で草や畑のものを盗んで飢えをしのいだ。時々、双六は人間の死体をもってきては千鬼に食わせた。
長い間、千鬼は目が見えなかったので、やがて目が見えなくても、気配で千鬼はどこに何があるか、ほとんどわかっていた。
腹が減って耐えられなくなると、殺した動物の肉を食らうようになった。
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