細雪、小雪

松井すき焼き

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あるとき、千鬼のうまそうな匂いに耐えられなくなった、双六は「その目玉を食わせろ」と、言い、千鬼の左目を双六は抉って食った。
ショック死してもおかしくないレベルの痛みも、千鬼は何故か死ぬことはできなかった。
千鬼は限界だった。
重症を負った千鬼は獲物を捕えて食らうこともできない。すさまじい飢餓感。自分の舌に牙を突き立てて、血をすすった。
腹が減った。
気が付くと、岩で双六を叩き殺してその肉を食っていた。
満たされている心地。
千鬼は肉を食らうことを病み付きになった。動物を食らい、時には人間を食らった。
食うことでとても満たされた。
そこで千鬼は前世の記憶を思い出した。前世で地獄におとされた千鬼は今のようにすさまじい飢餓に他の亡者どもの肉を食らっていた。
そんななか、千鬼は地獄で一人の美しい女に出会った。その女は千鬼へ憐れむ眼差しを向けた。
その女への千鬼の狂いそうなほど焦がれる情念。
地獄で千鬼とであった女。千鬼が唯ひとり欲した女。
地獄に落ちた千鬼に仏は言った。
「お前の肉の匂いは化け物どもを引き寄せるだろう。それが、お前が前世で千人殺した罰だ」
その身を化け物どもに食われる呪いをかけられた。
前世で千人殺し、仏に呪われた。
千鬼の片目をぬぐって目を見えなくしていた糸をといた。
はじめて糸をといて見えた千鬼の目には地獄の亡者が現世と混じりあう光景が広がっていた。
赤三月、虱月、二つの月が霞んで見える。
あの世とこの世が交差する。
死者と生者が見える。
すべてを思い出した。
俺は仏に呪われている。

この世にはいない姿の、異界の生物の醜い化け物はいつも千鬼の前に現れ、千鬼の肉を食らおうとするので、双六から奪った刀で千鬼は化け物を切り裂いた。
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