細雪、小雪

松井すき焼き

文字の大きさ
4 / 17

しおりを挟む
目が見えない鷹里。
いつも琵琶を弾いて、町を巡って金を稼いでいた。だが金をもらえる日はほとんどなく、よく食べ物をもらい、飢えをしのいでいた。
だが赤目である千鬼を連れて歩くようになって、村人には食べ物をもらえないどころか、
鷹里まで化け物扱いされ、岩をぶつけられるようになった。
村人の投げた石が鷹里の額にあたって血が流れたとき、千鬼は村人を殺そうとしたが、瞬時に気配を察した鷹里に止められた。
「やめなさい。こんなことはよくあることだ」
 食べ物がないある日、鷹里と千鬼は腹をすかせて雑草をつんでいた。
「おなかすいたな」
「ああ」
「・・・千。お前に私はどう見える?」
「どうって?」
「・・・ずっと怖かったんだ。目が見えない私は自分の顔を知ることができない。お前から見たら私は化け物ではないかと」
「普通の人間だがな」
「・・・・・ありがとう。千」
千鬼は人間だと言ってやったのに、なんだか鷹里は物悲しそうに笑った。
 鷹里とは別れたほうがよいということはわかっていた。だがもう少しだけと思って、先延ばしにしていたことですべての間違いだった。
 夜、山奥にある鷹里の小屋の中、眠ろうと鷹里と千鬼は藁を敷いた上に寝転んだ。人の気配に千鬼は緊張して跳ね起きた。
「千鬼?」
「誰か、囲まれている」
感覚がするどい千鬼だからこそわかる気配だった。
複数の気配がしたあとの微かな煙の臭い。つぎの瞬間、千鬼と鷹里のいる小屋に煙があっというまに回っていた。千鬼は鷹里の腕をつかんで、言い放った。
「火をつけられた!外へ逃げろ!!」
甲冑をまとった兵が大挙して、千鬼と鷹里のいる小屋へと押し寄せた。
「死ね!化け物」
兵たちは口ぐちに言い、千鬼と鷹里に襲いかかってきた。
 目の前にある鷹里の血だらけで横たわる、体。
串刺しにされた千鬼は自らの体に突き刺さった兵の刀を奪うと、千鬼はその場にいた兵を皆殺しにした。
 鷹里の死よりも、久々の血の匂いに唾液が流れ落ちそうになった。倒れている鷹里が見えた。
死にかけの鷹里を千鬼は抱え起こす。
「・・・千。すまない」
「何故謝る?」
何故か謝る鷹里に、千鬼は何故謝るのかわからなかった。
「私はいい人間などではない」
「何を言っている」
「・・・すまない」
・・・本当は世間を憎み、人を食らおうとしているお前に期待していた。
だから恐れていたお前の面倒を見たのだ・・。
千鬼には決して言えない鷹里(たかさと)の本当の気持ち。
千鬼は切られて傷ついている腕の血を鷹里に与えた。血はみるみる鷹里の口から滴り落ちる。千鬼はその血を指で、鷹里の喉の奥に押し込んだ。
だがいつまでたっても生き返らない。
鷹里の心臓が止まる瞬間。
千鬼の頭から血が流れ落ち、その血は千鬼の目をつたって、涙に見えた。
その血涙を見て鷹里は微笑んだ。
「何故だ?」
何度も何度も血を与えようとするが、鷹里は目を覚まさない。
千鬼は絶叫した。
千鬼が殺したはずの村人の死者は、猛烈な血臭を発しながら骨が見える体をひきずり、千鬼に襲いかかってくる。
千鬼は刀で死体を切り裂いた。
殺して、殺して、動くものがいなくなるまで刀で切り裂いた。そして、死んだ鷹里の死体を食らった。腹が減っていたから、必死で食らった。
・・・・やっと、千鬼は満たされた心地になった。頭を撫でていた鷹里を思い出す。猛烈な吐き気を催して、すべてを吐きそうになったが、必死でこらえた。
空の滴が木の葉を揺らす。
もうすぐ夜が明ける。どこへ行こうか。男は血まみれの体を引き摺りながら歩き出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...