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□陸篇 Catch Me If You Can.
1.02.4 下る
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「言ったじゃないか、灯りを点けるなって」
ファンダルの街外れ、荷馬車にて。
戻ってきた二人にキアは開口一番そう告げた。キースもエドも顔色が悪くスタンは心配になるが、キアは面白そうに笑うばかりで。
「此処にはもう居られないよ、兵隊さんが騒ぎ出すからね。さっさと支度して次へ移るんだ」
「…言われなくてもわかってる」
「キアが言うから待ってたけどよ、マジで失敗してると思わなかったわ」
「んだと?」
「お前らがべそかいて戻ってくるって、言い当てたんだよ」
「!…べそなんざかいてねぇッ」
スタンの言葉にキースが怒鳴り返す。疲れてしまい座り込んだエドの頭をキアが撫でてやる。キースの鋭い視線が彼女を捉えるが、彼女は笑顔のままだった。
「出るなら今しかない、朝になったら街中で犯人探しだ。捜索隊ってのも来るみたいだねぇ」
彼女の言葉にキースは舌打ち、捜索隊のことまで言われつい目を逸らす。身支度を始めるが彼の様子に心配になったのか、サーシャが頭を擦り付けてきた。同じく身支度をするスタンはエドを荷台に乗せてやり、
「次は何処だ?来た道は戻れねぇよな?」
「…下る。ミチェルブルクだ」
キースは溜息混じりに息を吐き、街の名を告げた。せめてもの救いはファンダルの関所分は金があることだった。
「…で、なんであんたも一緒なんだ?」
「面白そうだからね、付いて行く」
深夜、暗く静かな街道を荷馬車が進む。
荷台には一人増えキアの姿もあった。手綱を握るスタンとエドは二人が気になりチラチラと様子を窺う。主な気がかりは不機嫌マックスなキースが何か仕出かすのでは、という点だ。
「大丈夫、この子は何もしやしないよ。怒りん坊なだけさ」
「ガキ扱いすんなッ」
煙草を投げつける勢いで言い返すが、実際そんなことはせず。二人は向かい合いキースがキアを監視するような状況である。
「あんた、灯りがどうの言ってたな…何なんだあれ?」
「そのままの意味さ。言うこと聞かずに点けたから、あんたは失敗したのさ」
肩越しに見ていたエドが内心動揺する。キアは確かに「灯りを点けるな」と言っていた。先ほどのことも思い出し、また嫌な気持ちが蘇る。
「まぁ、この先は暫く大丈夫だ。何かあっても、あんたは優しいからね。どうにか切り抜けるよ」
「またわけわかんねぇことを……」
何度目かの舌打ち。しかしキースは思うところがあり、迷った挙句口を開いた。
「…あんたと俺は、どっかで会ったか?」
「さっき会ったよ」
「そうじゃねぇ、もっと前に…覚えがねぇけど、会った気がする。あんた覚えてねぇか?」
「さぁてねぇ…会ったことがあるかもしれないし、無いかもしれない」
正直に告げたキースに対し、キアは笑顔で首を傾げるだけ。エドと同じくチラ見していたスタンが溜息をもらし、視線を前に戻した。
二人の会話はそれ以上続かず、キースは謎の占い師に背を向け寝てしまった。
エドはスタンの横に腰掛けたまま、一人悶々と考えていた。
海にいた頃から、海賊相手に戦い生きてきた。さっきのよりも危険な目に、何度も何度も遭っている。その度に剣を振って戦い、仲間を守り、代わりに誰かを殺してきた。守ってもらったこともある。それが海賊として生きる自分だったが…今までの生き方を揺るがすようなキースの一言が頭から離れない。エドは自身のこれまでが間違ってたのではと思い悩み、眠れずに夜を過ごした。
翌日──
朝と昼を過ぎ、捜索隊がファンダルに着いたのは日が暮れた頃だった。
ハリソンはファンダルのバルハラ軍基地にいた。今朝までは別の街の基地にいたのだが、昨夜の事件を聞き駆けつけたのだ。<獣の盗賊>との関連はなかったがハリソンの勘が働いてのこと。運び込まれた軍兵の遺体を確かめる。聞いた通り見事に眉間を撃ち抜かれていた。安置所の近くでは親しかったであろう兵が沈み込んでいた。
「何か盗られた形跡はなく、物盗りではなさそうです」
「…彼は素行が悪かったらしいな?」
「はい、その…街で賭博や、独断に地代取りを行っていて…」
「恨まれてもおかしくないか」
「昨日も市場の者と揉めてたようです」
ハリソンは溜息を吐き、アイクの亡骸に布をかけ直してやった。
怨恨と思われる事件だったが、銃槍が眉間に一発のみで引っかかりを覚えた。ハリソンの知る<獣の盗賊>は射撃が上手い。他二人の遺体は剣によるものだが、こちらも急所の傷が多く腕が立つ者だと解る。
この街での捜査をどうするか悩んでいると、別の部下が報せを持って駆けつけた。
「例の隊長が向かってるようです」
「思ったより早いな」
「上からの命令ですけど…本当にいいんですか?<獣の盗賊>のことは、ハリソンさんが一番わかってるのに」
「仕方ないさ、命令だからな」
つい愚痴をこぼす軍兵にハリソンは苦笑いする。報せは捜索隊の新しい隊長が間もなく合流するという内容だった。報せを最後まで読み、ハリソンは新しい紙とペンを借りて何やら書きはじめる。
「うちの統括のことだから、また貴族上がりじゃないか?」
「北から異動してきたんだと。逆にとんでもなく血生臭い奴だったりして」
「北はお堅い上に内乱ばっかだしなぁ、嫌になったんだろ?」
「お前らうるさいぞ。会ったこともないのに、好き勝手言うんじゃない」
まだ見ぬ隊長を妄想しお喋りする部下達に、ハリソンは呆れつつも叱り紙を渡す。
「新しい隊長はミチェルブルクにいるらしい。そっちで合流だ」
報せの紙を伝書鳩に託し、捜索隊はミチェルブルクへ向かった。
ファンダルの街外れ、荷馬車にて。
戻ってきた二人にキアは開口一番そう告げた。キースもエドも顔色が悪くスタンは心配になるが、キアは面白そうに笑うばかりで。
「此処にはもう居られないよ、兵隊さんが騒ぎ出すからね。さっさと支度して次へ移るんだ」
「…言われなくてもわかってる」
「キアが言うから待ってたけどよ、マジで失敗してると思わなかったわ」
「んだと?」
「お前らがべそかいて戻ってくるって、言い当てたんだよ」
「!…べそなんざかいてねぇッ」
スタンの言葉にキースが怒鳴り返す。疲れてしまい座り込んだエドの頭をキアが撫でてやる。キースの鋭い視線が彼女を捉えるが、彼女は笑顔のままだった。
「出るなら今しかない、朝になったら街中で犯人探しだ。捜索隊ってのも来るみたいだねぇ」
彼女の言葉にキースは舌打ち、捜索隊のことまで言われつい目を逸らす。身支度を始めるが彼の様子に心配になったのか、サーシャが頭を擦り付けてきた。同じく身支度をするスタンはエドを荷台に乗せてやり、
「次は何処だ?来た道は戻れねぇよな?」
「…下る。ミチェルブルクだ」
キースは溜息混じりに息を吐き、街の名を告げた。せめてもの救いはファンダルの関所分は金があることだった。
「…で、なんであんたも一緒なんだ?」
「面白そうだからね、付いて行く」
深夜、暗く静かな街道を荷馬車が進む。
荷台には一人増えキアの姿もあった。手綱を握るスタンとエドは二人が気になりチラチラと様子を窺う。主な気がかりは不機嫌マックスなキースが何か仕出かすのでは、という点だ。
「大丈夫、この子は何もしやしないよ。怒りん坊なだけさ」
「ガキ扱いすんなッ」
煙草を投げつける勢いで言い返すが、実際そんなことはせず。二人は向かい合いキースがキアを監視するような状況である。
「あんた、灯りがどうの言ってたな…何なんだあれ?」
「そのままの意味さ。言うこと聞かずに点けたから、あんたは失敗したのさ」
肩越しに見ていたエドが内心動揺する。キアは確かに「灯りを点けるな」と言っていた。先ほどのことも思い出し、また嫌な気持ちが蘇る。
「まぁ、この先は暫く大丈夫だ。何かあっても、あんたは優しいからね。どうにか切り抜けるよ」
「またわけわかんねぇことを……」
何度目かの舌打ち。しかしキースは思うところがあり、迷った挙句口を開いた。
「…あんたと俺は、どっかで会ったか?」
「さっき会ったよ」
「そうじゃねぇ、もっと前に…覚えがねぇけど、会った気がする。あんた覚えてねぇか?」
「さぁてねぇ…会ったことがあるかもしれないし、無いかもしれない」
正直に告げたキースに対し、キアは笑顔で首を傾げるだけ。エドと同じくチラ見していたスタンが溜息をもらし、視線を前に戻した。
二人の会話はそれ以上続かず、キースは謎の占い師に背を向け寝てしまった。
エドはスタンの横に腰掛けたまま、一人悶々と考えていた。
海にいた頃から、海賊相手に戦い生きてきた。さっきのよりも危険な目に、何度も何度も遭っている。その度に剣を振って戦い、仲間を守り、代わりに誰かを殺してきた。守ってもらったこともある。それが海賊として生きる自分だったが…今までの生き方を揺るがすようなキースの一言が頭から離れない。エドは自身のこれまでが間違ってたのではと思い悩み、眠れずに夜を過ごした。
翌日──
朝と昼を過ぎ、捜索隊がファンダルに着いたのは日が暮れた頃だった。
ハリソンはファンダルのバルハラ軍基地にいた。今朝までは別の街の基地にいたのだが、昨夜の事件を聞き駆けつけたのだ。<獣の盗賊>との関連はなかったがハリソンの勘が働いてのこと。運び込まれた軍兵の遺体を確かめる。聞いた通り見事に眉間を撃ち抜かれていた。安置所の近くでは親しかったであろう兵が沈み込んでいた。
「何か盗られた形跡はなく、物盗りではなさそうです」
「…彼は素行が悪かったらしいな?」
「はい、その…街で賭博や、独断に地代取りを行っていて…」
「恨まれてもおかしくないか」
「昨日も市場の者と揉めてたようです」
ハリソンは溜息を吐き、アイクの亡骸に布をかけ直してやった。
怨恨と思われる事件だったが、銃槍が眉間に一発のみで引っかかりを覚えた。ハリソンの知る<獣の盗賊>は射撃が上手い。他二人の遺体は剣によるものだが、こちらも急所の傷が多く腕が立つ者だと解る。
この街での捜査をどうするか悩んでいると、別の部下が報せを持って駆けつけた。
「例の隊長が向かってるようです」
「思ったより早いな」
「上からの命令ですけど…本当にいいんですか?<獣の盗賊>のことは、ハリソンさんが一番わかってるのに」
「仕方ないさ、命令だからな」
つい愚痴をこぼす軍兵にハリソンは苦笑いする。報せは捜索隊の新しい隊長が間もなく合流するという内容だった。報せを最後まで読み、ハリソンは新しい紙とペンを借りて何やら書きはじめる。
「うちの統括のことだから、また貴族上がりじゃないか?」
「北から異動してきたんだと。逆にとんでもなく血生臭い奴だったりして」
「北はお堅い上に内乱ばっかだしなぁ、嫌になったんだろ?」
「お前らうるさいぞ。会ったこともないのに、好き勝手言うんじゃない」
まだ見ぬ隊長を妄想しお喋りする部下達に、ハリソンは呆れつつも叱り紙を渡す。
「新しい隊長はミチェルブルクにいるらしい。そっちで合流だ」
報せの紙を伝書鳩に託し、捜索隊はミチェルブルクへ向かった。
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