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□陸篇 Catch Me If You Can.
1.04.4 スノウ・チェイス(1)
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エドは一人、雪が残る山道の木立の中にいた。
少し離れた所では、村で買った馬が草を食んでいる。
なんとか朝のうちに山へ入り、身を隠せる場所も見つけ、数日ぶりの男装もバッチリ決めた。あとは計画通りにバルハラ軍が通るのを待つだけ…既に通過したのではないかとも考えたが、今はただただ祈るばかりだった。
エドがここに居る理由──それは仲間を助けるため。ミチェルブルクで漁師から聞いた噂。それはロムの話で確かだとわかり、同時に罠のことも知る。それでも…
腹の音が鳴った。荷馬車で食べて以降何も口にしていない。慣れない乗馬で夜通し走ったせいもあり疲れた。こんな状態で大丈夫か不安な気持ちに苛まれるが、
(!…来た…)
遠くのほうから音がする。荷馬車にしては速度が速く、馬の蹄以外に金属のような音もするので馬車だろう。茂みの中に潜み気配を殺す。腰に下げた剣とキースの荷物から拝借したナイフ。少ない武器で一人でやれるかわかない。けどやるしかない…軍兵の数や馬車が多かったら?ロムの言う通り、罠だったら?
音が近づくにつれ不安が膨らんでいくが、エドは耐えるようにじっと待ち続けた。
速度の速い馬車が一台と騎馬が一騎、エドの目の前の道を駆け抜けて行く。姿が見えた従者や騎乗者はバルハラ兵。さらに馬車を見れば高官や貴族が乗るような綺麗なものではなく、全面が木張りで小さな窓枠には鉄柵が付けられているものだった。ビンゴ──
エドは急ぎ馬に跨り馬車の後を追った。
それから少ししてから、騎馬がさらに複数、後を付いて来ているとも知らずに。
揺れる馬の背で必死に落とされぬよう耐えながら、腹を蹴り速度を上げていく。先行く騎馬がエドの存在に気づいた頃には、彼は腰に下げた剣を引き抜いていた。
「だぁッ!」
軍兵の背と腕を一気に斬りつけてやる。軍兵は咄嗟のことで反撃も出来ず、驚いた馬の急停止によって落馬してしまう。馬車を走らせる軍兵に勘づかれ銃を向けられるが、慌てて手綱を引き逆側へと周り込み、なんとか銃弾を回避した。
一気に馬車へと近づき右腕が木の戸を掴む。半ば落馬に近かったが馬を蹴り離し、見事馬車へ移った。手綱を離せずな軍兵は剣を抜き身構えるが、エドは掴まった戸を重心に勢いよく身体を振り、軍兵の顔面を思い切り蹴りつけた。怯んだところを逃さず手綱を奪い、さらにもう一撃強烈な蹴りが軍兵を吹っ飛ばした。
(やった、上手くいった…!)
未だ早駆けする馬車の上で、エドは息を整え背後を振り返った。倒した兵が追ってくる様子はない。手荒い綱捌きが馬車を停車させた。
逸る気持ちを抑え馬車の戸を開ければ、目前には誰かの姿よりも先に銃口が見え…エドの反応のほうが早く、火を噴いた銃は彼の肩を掠っただけだった。
それでもエドを怯ませるには充分で、右肩に走った熱と痛みに思わず顔を歪ませる。半開きの戸を開け出てきたのは軍兵。それも見たことがある顔だった。
(この人、墓場にいた…!?)
格好も髪型も違ったが、真っ黒な髪と瞳と氷のような鋭い眼差しは、ミチェルブルクの霊苑にいたあの男、ジェラルドだった。
日は遡り数日前。
ミチェルブルク一帯での臨時巡回は空振りで終わってしまい、しかし他の賊や罪人の捕獲に繋がったと基地の指揮官に褒められ、<獣の盗賊>捜索隊は本拠地に戻るべく街道を進んでいた。
だが早駆けの馬が追いかけて来て、伝書鳩の報せを届けてくれたのだ。
ジェラルドは報せを見るなり眉間の皺を深くした。ハリソンは悪い報せかと思い、様子を窺う。
「何かありましたか?」
「別の仕事だ…俺達がやれ、と」
呟くように言うと報せをハリソンに渡す。内容は擬装護送車の囮作戦。ノクシア基地の海賊討伐の一環だ。<獣の盗賊>の文字すらない報せにハリソンも苦笑いをもらした。
「うちの隊は外に出ることが多いので、よくあるんです。すみません」
「あなたが謝ることじゃない」
ハリソンの言葉にジェラルドは首を振り溜息をもらした。
早駆け兵がもう一枚紙を渡し、変更前の作戦内容だと伝えた。どうやら元はブランディン・ヒルを通りパールを経由するはずだったと。ハリソンと一緒に最初に貰った作戦とを見比べる。ジェラルドには擬装の囮に力を入れる理由がわからずだった。
「どうしましょうか?ミチェルブルクに戻りますか?」
「…いや、迷惑をかけたばかりだしな」
「そうなると、クウェントンですかね…」
ハリソンが自身の馬の向きを変え別れ道を指差す。幸か不幸か、そこはちょうど道の分岐点。ジェラルドは指された道を見遣ったが、再び作戦内容に目を通す…最後の一文が特に引っかかっていた。
『ラッカム一味討伐作戦 擬装護送車による囮 ルクスバルト山脈東路より、ノクシアへ 海賊並びに妨害者の生死問わず 賞金首並びに女は生け捕り』
(また面倒な…)
ジェラルドは再び息を吐き顔を上げ、ハリソンと二言三言言葉を交わした。
そして捜索隊は、新しい仕事のためクウェントンへ向かった。
現在に戻り──
エドは後退り馬車から距離を取った。そんな彼に歩み寄り距離を縮めようとするジェラルド。
単発式の小銃を腰に収め、代わりに剣を引き抜く。細くしなやかで太陽に反射した刃が真っ直ぐにエドへ向けられる。エドも剣を抜こうとするが利き腕が撃たれたため痛みが走り、思わず呻き左手で傷を押さえた。掠り傷とはいえ出血は止まらず、服を伝い右の手指から赤い滴が滴り、雪に鮮やかな染みを作った。
(こいつ…どこかで会ったか?)
ジェラルドは対峙するエドに引っかかりを感じていた。記憶を辿るが思い出せない。見たままの容姿か、或いは気配かもと考えていると、近づいてくる音がし来た道から騎馬兵が現れ二人を取り囲むようにして止まった。
引き連れられて来た真っ黒な馬が嘶く。数は目の前の男を入れ、5人。
馬車の他にもいた…罠だ──今更後悔が湧き起こり、エドの鼓動が早まる。ロムやキアの言う通り、信じて鵜呑みにした自身が馬鹿だったのだ。
ハリソンが馬から降り、エドを警戒しつつジェラルドに歩み寄る。
「お怪我は?」
「無い。こっちは二人落ちたぞ」
「二人も大丈夫です、傷は浅い」
報告を聞きジェラルドは小さく息を吐いた。馬車の中に潜む案は散々ハリソンに反対されたが、バレず確実に追い詰めたのだから問題ない。部下も怪我で済んだなら重畳。
ジェラルドが目配せし、残りの兵達も馬から降りエドの包囲網を縮めていった。
「…お前ら、なんで…」
「?」
「なんで、俺達を狙う?こんな罠まで張って…親父や仲間ばっか狙ってるだろ!?」
エドは奥歯を噛み締めジェラルドを睨みつけた。殺気に満ちた海賊を前にハリソンも剣を抜くが、ジェラルドは変わらず冷ややかな表情のままで、
「…聞いてどうする?お前にはもう関係ない」
「なに!?」
「ここで死ぬ者に、答える必要があるのか」
「ッ!!」
冷徹な言葉にエドの緒が切れる。
地を蹴るのと同時に左手で剣を抜き、ジェラルドに斬りかかる。寸ででハリソンの剣に阻まれるが身体を捻り押し返し、右手も支えに使い、両腕で剣を振った。
他の兵も斬りかかってくるが、身体を使い上手く躱す。見事に剣を弾いていき、一瞬出来た隙を逃さず思い切り脚を振り薙ぎ払う。1対5でも闘志剥き出しのエドに兵達は間を取るが、
「!?ぁ"ッ…!」
大振りながら疾く鋭い剣。咄嗟に剣で受け止めるが力圧が違い過ぎ、身体ごと弾かれてしまう。まともに受けた左腕がビリビリと痺れた。
よろけたエドをジェラルドの剣が容赦なく追う。他の兵とは明らかに違うその力量。疾く無駄の無い動き、意志を持ったような剣先。エドは受けるだけで精一杯、というか、必死で弾き続けていた。
(この人、強い!)
少しでも隙を作れば殺られる…そう思った矢先、構えが遅れ腹を斬られそうになるが、なんとか身体を捻り躱し、剣先が服だけを切り裂く。だが、
「!ぃ"い……ッ!」
避けるとわかっていたのか脚が振られ、エドの背中を捉え蹴り飛ばす。エドは踏み荒された雪の中に倒れてしまい、痛みに顔を歪ませ蹲った。
──ダメだ、勝てない。
本能が身体中に警鐘を鳴らす。今ので落としてしまった剣は遠く離れ、ここまで一緒に来た馬は騒ぎに驚き逃げてしまった。キースのナイフを出すが手が震え、足も震えてしまい力が入らずだ。
近づいてくるジェラルドから逃れるべく、両肘と背中で這うようにして後退る。
(…ヤダ、こんな…)
他の兵達も近づいてきて、段々と追い詰められる。エドは必死に睨みつけるがジェラルドは先ほどと変わらず、まるで感情のない氷のようで、エドには死神に見えた。
(こんな、とこで…海もない…嫌だッ…死にたくない!!)
恐怖がビアンカの全身を支配する。海賊として生き、怖い思いなんてこれまでも味わってきた。なのに、今のこれは違う。これは…こんなの嫌だ…!
エドの表情が変わり、絶望の色が見える。ふと、ジェラルドはあることに気がつく。気配が変わったのだ。恐怖に顔を歪ませる目の前の男に違和感を覚え怪訝に思う…まさかと思いもう一歩踏み出した時、
「!」
音が聞こえ意識が削がれる。馬の蹄の音に振り返ったのと同時、何かが飛来し足元に転がった。
それは小さく爆ぜると瞬く間に黒煙を拡げていった。
不意打ちの煙に兵達が声を上げ、もろに吸ってしまい咳き込む。
「これは…まさか!?」
身に覚えのある煙玉。バルハラ軍には無い芸当にハリソンの頭が働く。近づく蹄の音に振り返ったジェラルドが咄嗟に身を躱す。馬が間近を横切って行きよろけてしまう。
捲き上った煙の中からさらに何かが飛び出してくる。瞬時に反応し剣を構えるが、飛び道具の金具に弾かれてしまう。
「!ッ、わ…」
転がったまま咳き込むエドの首根っこを誰かが掴み、強引に引っ張り起こした。見覚えのある姿にまさかと思ったが、それはやはりキースだった。
躓きそうになりながらも腕を引かれ、先行くキースと共に必死に駆ける。お気に入りの帽子が飛ばされてしまい振り返るが、ハリソン達も煙から抜け出し追ってきていて、前に視線を戻す。先に駆け抜けて行ったサーシャが二人を待ち構えていた。
「キース、なんで、」
「いいから乗れ!!」
キースは飛び乗るようにサーシャに跨りエドを引き上げた。軍兵の銃撃に遭うものの、走り出したサーシャが山道を駆け上って行く。
「なぜ<獣の盗賊>が!?」
「とにかく追うぞッ!」
まさかの人物の登場にハリソンは眉を寄せたが、ジェラルドが声を上げ愛馬に跨る。怒気が含まれた声に兵達も慌てて馬に乗り、捜索隊は賊二人を追い駆けた。
少し離れた所では、村で買った馬が草を食んでいる。
なんとか朝のうちに山へ入り、身を隠せる場所も見つけ、数日ぶりの男装もバッチリ決めた。あとは計画通りにバルハラ軍が通るのを待つだけ…既に通過したのではないかとも考えたが、今はただただ祈るばかりだった。
エドがここに居る理由──それは仲間を助けるため。ミチェルブルクで漁師から聞いた噂。それはロムの話で確かだとわかり、同時に罠のことも知る。それでも…
腹の音が鳴った。荷馬車で食べて以降何も口にしていない。慣れない乗馬で夜通し走ったせいもあり疲れた。こんな状態で大丈夫か不安な気持ちに苛まれるが、
(!…来た…)
遠くのほうから音がする。荷馬車にしては速度が速く、馬の蹄以外に金属のような音もするので馬車だろう。茂みの中に潜み気配を殺す。腰に下げた剣とキースの荷物から拝借したナイフ。少ない武器で一人でやれるかわかない。けどやるしかない…軍兵の数や馬車が多かったら?ロムの言う通り、罠だったら?
音が近づくにつれ不安が膨らんでいくが、エドは耐えるようにじっと待ち続けた。
速度の速い馬車が一台と騎馬が一騎、エドの目の前の道を駆け抜けて行く。姿が見えた従者や騎乗者はバルハラ兵。さらに馬車を見れば高官や貴族が乗るような綺麗なものではなく、全面が木張りで小さな窓枠には鉄柵が付けられているものだった。ビンゴ──
エドは急ぎ馬に跨り馬車の後を追った。
それから少ししてから、騎馬がさらに複数、後を付いて来ているとも知らずに。
揺れる馬の背で必死に落とされぬよう耐えながら、腹を蹴り速度を上げていく。先行く騎馬がエドの存在に気づいた頃には、彼は腰に下げた剣を引き抜いていた。
「だぁッ!」
軍兵の背と腕を一気に斬りつけてやる。軍兵は咄嗟のことで反撃も出来ず、驚いた馬の急停止によって落馬してしまう。馬車を走らせる軍兵に勘づかれ銃を向けられるが、慌てて手綱を引き逆側へと周り込み、なんとか銃弾を回避した。
一気に馬車へと近づき右腕が木の戸を掴む。半ば落馬に近かったが馬を蹴り離し、見事馬車へ移った。手綱を離せずな軍兵は剣を抜き身構えるが、エドは掴まった戸を重心に勢いよく身体を振り、軍兵の顔面を思い切り蹴りつけた。怯んだところを逃さず手綱を奪い、さらにもう一撃強烈な蹴りが軍兵を吹っ飛ばした。
(やった、上手くいった…!)
未だ早駆けする馬車の上で、エドは息を整え背後を振り返った。倒した兵が追ってくる様子はない。手荒い綱捌きが馬車を停車させた。
逸る気持ちを抑え馬車の戸を開ければ、目前には誰かの姿よりも先に銃口が見え…エドの反応のほうが早く、火を噴いた銃は彼の肩を掠っただけだった。
それでもエドを怯ませるには充分で、右肩に走った熱と痛みに思わず顔を歪ませる。半開きの戸を開け出てきたのは軍兵。それも見たことがある顔だった。
(この人、墓場にいた…!?)
格好も髪型も違ったが、真っ黒な髪と瞳と氷のような鋭い眼差しは、ミチェルブルクの霊苑にいたあの男、ジェラルドだった。
日は遡り数日前。
ミチェルブルク一帯での臨時巡回は空振りで終わってしまい、しかし他の賊や罪人の捕獲に繋がったと基地の指揮官に褒められ、<獣の盗賊>捜索隊は本拠地に戻るべく街道を進んでいた。
だが早駆けの馬が追いかけて来て、伝書鳩の報せを届けてくれたのだ。
ジェラルドは報せを見るなり眉間の皺を深くした。ハリソンは悪い報せかと思い、様子を窺う。
「何かありましたか?」
「別の仕事だ…俺達がやれ、と」
呟くように言うと報せをハリソンに渡す。内容は擬装護送車の囮作戦。ノクシア基地の海賊討伐の一環だ。<獣の盗賊>の文字すらない報せにハリソンも苦笑いをもらした。
「うちの隊は外に出ることが多いので、よくあるんです。すみません」
「あなたが謝ることじゃない」
ハリソンの言葉にジェラルドは首を振り溜息をもらした。
早駆け兵がもう一枚紙を渡し、変更前の作戦内容だと伝えた。どうやら元はブランディン・ヒルを通りパールを経由するはずだったと。ハリソンと一緒に最初に貰った作戦とを見比べる。ジェラルドには擬装の囮に力を入れる理由がわからずだった。
「どうしましょうか?ミチェルブルクに戻りますか?」
「…いや、迷惑をかけたばかりだしな」
「そうなると、クウェントンですかね…」
ハリソンが自身の馬の向きを変え別れ道を指差す。幸か不幸か、そこはちょうど道の分岐点。ジェラルドは指された道を見遣ったが、再び作戦内容に目を通す…最後の一文が特に引っかかっていた。
『ラッカム一味討伐作戦 擬装護送車による囮 ルクスバルト山脈東路より、ノクシアへ 海賊並びに妨害者の生死問わず 賞金首並びに女は生け捕り』
(また面倒な…)
ジェラルドは再び息を吐き顔を上げ、ハリソンと二言三言言葉を交わした。
そして捜索隊は、新しい仕事のためクウェントンへ向かった。
現在に戻り──
エドは後退り馬車から距離を取った。そんな彼に歩み寄り距離を縮めようとするジェラルド。
単発式の小銃を腰に収め、代わりに剣を引き抜く。細くしなやかで太陽に反射した刃が真っ直ぐにエドへ向けられる。エドも剣を抜こうとするが利き腕が撃たれたため痛みが走り、思わず呻き左手で傷を押さえた。掠り傷とはいえ出血は止まらず、服を伝い右の手指から赤い滴が滴り、雪に鮮やかな染みを作った。
(こいつ…どこかで会ったか?)
ジェラルドは対峙するエドに引っかかりを感じていた。記憶を辿るが思い出せない。見たままの容姿か、或いは気配かもと考えていると、近づいてくる音がし来た道から騎馬兵が現れ二人を取り囲むようにして止まった。
引き連れられて来た真っ黒な馬が嘶く。数は目の前の男を入れ、5人。
馬車の他にもいた…罠だ──今更後悔が湧き起こり、エドの鼓動が早まる。ロムやキアの言う通り、信じて鵜呑みにした自身が馬鹿だったのだ。
ハリソンが馬から降り、エドを警戒しつつジェラルドに歩み寄る。
「お怪我は?」
「無い。こっちは二人落ちたぞ」
「二人も大丈夫です、傷は浅い」
報告を聞きジェラルドは小さく息を吐いた。馬車の中に潜む案は散々ハリソンに反対されたが、バレず確実に追い詰めたのだから問題ない。部下も怪我で済んだなら重畳。
ジェラルドが目配せし、残りの兵達も馬から降りエドの包囲網を縮めていった。
「…お前ら、なんで…」
「?」
「なんで、俺達を狙う?こんな罠まで張って…親父や仲間ばっか狙ってるだろ!?」
エドは奥歯を噛み締めジェラルドを睨みつけた。殺気に満ちた海賊を前にハリソンも剣を抜くが、ジェラルドは変わらず冷ややかな表情のままで、
「…聞いてどうする?お前にはもう関係ない」
「なに!?」
「ここで死ぬ者に、答える必要があるのか」
「ッ!!」
冷徹な言葉にエドの緒が切れる。
地を蹴るのと同時に左手で剣を抜き、ジェラルドに斬りかかる。寸ででハリソンの剣に阻まれるが身体を捻り押し返し、右手も支えに使い、両腕で剣を振った。
他の兵も斬りかかってくるが、身体を使い上手く躱す。見事に剣を弾いていき、一瞬出来た隙を逃さず思い切り脚を振り薙ぎ払う。1対5でも闘志剥き出しのエドに兵達は間を取るが、
「!?ぁ"ッ…!」
大振りながら疾く鋭い剣。咄嗟に剣で受け止めるが力圧が違い過ぎ、身体ごと弾かれてしまう。まともに受けた左腕がビリビリと痺れた。
よろけたエドをジェラルドの剣が容赦なく追う。他の兵とは明らかに違うその力量。疾く無駄の無い動き、意志を持ったような剣先。エドは受けるだけで精一杯、というか、必死で弾き続けていた。
(この人、強い!)
少しでも隙を作れば殺られる…そう思った矢先、構えが遅れ腹を斬られそうになるが、なんとか身体を捻り躱し、剣先が服だけを切り裂く。だが、
「!ぃ"い……ッ!」
避けるとわかっていたのか脚が振られ、エドの背中を捉え蹴り飛ばす。エドは踏み荒された雪の中に倒れてしまい、痛みに顔を歪ませ蹲った。
──ダメだ、勝てない。
本能が身体中に警鐘を鳴らす。今ので落としてしまった剣は遠く離れ、ここまで一緒に来た馬は騒ぎに驚き逃げてしまった。キースのナイフを出すが手が震え、足も震えてしまい力が入らずだ。
近づいてくるジェラルドから逃れるべく、両肘と背中で這うようにして後退る。
(…ヤダ、こんな…)
他の兵達も近づいてきて、段々と追い詰められる。エドは必死に睨みつけるがジェラルドは先ほどと変わらず、まるで感情のない氷のようで、エドには死神に見えた。
(こんな、とこで…海もない…嫌だッ…死にたくない!!)
恐怖がビアンカの全身を支配する。海賊として生き、怖い思いなんてこれまでも味わってきた。なのに、今のこれは違う。これは…こんなの嫌だ…!
エドの表情が変わり、絶望の色が見える。ふと、ジェラルドはあることに気がつく。気配が変わったのだ。恐怖に顔を歪ませる目の前の男に違和感を覚え怪訝に思う…まさかと思いもう一歩踏み出した時、
「!」
音が聞こえ意識が削がれる。馬の蹄の音に振り返ったのと同時、何かが飛来し足元に転がった。
それは小さく爆ぜると瞬く間に黒煙を拡げていった。
不意打ちの煙に兵達が声を上げ、もろに吸ってしまい咳き込む。
「これは…まさか!?」
身に覚えのある煙玉。バルハラ軍には無い芸当にハリソンの頭が働く。近づく蹄の音に振り返ったジェラルドが咄嗟に身を躱す。馬が間近を横切って行きよろけてしまう。
捲き上った煙の中からさらに何かが飛び出してくる。瞬時に反応し剣を構えるが、飛び道具の金具に弾かれてしまう。
「!ッ、わ…」
転がったまま咳き込むエドの首根っこを誰かが掴み、強引に引っ張り起こした。見覚えのある姿にまさかと思ったが、それはやはりキースだった。
躓きそうになりながらも腕を引かれ、先行くキースと共に必死に駆ける。お気に入りの帽子が飛ばされてしまい振り返るが、ハリソン達も煙から抜け出し追ってきていて、前に視線を戻す。先に駆け抜けて行ったサーシャが二人を待ち構えていた。
「キース、なんで、」
「いいから乗れ!!」
キースは飛び乗るようにサーシャに跨りエドを引き上げた。軍兵の銃撃に遭うものの、走り出したサーシャが山道を駆け上って行く。
「なぜ<獣の盗賊>が!?」
「とにかく追うぞッ!」
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