54 / 124
アルトレイラル(迷宮攻略篇)
馬車内〝雑談〟会議 1
しおりを挟む
喧騒――セルシオ外壁に空く南門の現在を表現するには、その言葉がふさわしい。
ある者は機材の最終チェックをし、ある者は自分の武器を固定する。撤収中の簡易テントには市場には出回らない詳細な地図が何枚も広げられ、上官たちが最終確認に入っている。
見たままの通り。王国騎士団と王宮魔導士の混合部隊だ。
王国最強の前衛部隊 《王国騎士団》と、王国最強の後方支援部隊 《王宮魔導士》。危険が伴う迷宮には、この二つがタッグを組むことが決まっている。その実力を聞く者にとってはやりすぎと思われるこの布陣も、相手が迷宮となればこれで十分な準備ができたと言えるレベルだ。
当然、戦場以外でこの二つが共闘することなどめったにない。そこかしこでは住民が珍しもの見たさに顔をのぞかせており、それを追い払うための声がひっきりなしに飛び交っている。
証明書を提示して、俺もその喧騒の中に飛び込む。そして、昨日あらかじめ会っておいた、お目当ての人物を探す。
正面にいる騎士たちの中にはいない。簡易テントにいるのは王宮魔導士たち……だとすれば、そこにもいるはずはない。王宮魔導士は男子禁制だ。上官たちのいるテントにも姿はなし。当然、俺が合流することになる冒険者たちのたまり場の中にもいない。
――……それにしても…………。
周りを見れば見るほど、違和感が膨れ上がっていくのが解る。それは、水面に垂らした重油のように、どんどんと心の水面を覆っていく。
油が水と交わらないように、違和感が溶けていくことはない。何がおかしいのかは解らない。だが、確かな違和感が目の前にはあるはずなのだ。それは、一体何なのだろう。喉に小骨が引っ掛かっているような、そんなもどかしい感覚だ……。
「それはおそらく、年齢だろうね」
後ろから、声が聞こえた。
大人へと移行が完了する、その一歩手前――十代終わりの青年の声。すこし低く、それでいてどこか子供らしい欠片がかすかに残った――そんな印象を抱く声。振り返ってみれば、目に映ったのは白い鎧に白いマント。そして淡い金髪を湛える整った顔。
「王宮魔導士も、王国騎士も、平均年齢は二十前半だ。ここにいる大半が、そこから前後に大きくズレている。それが、違和感の正体だよ」
その名はレオ・グラディウス。俺が昨日顔合わせをし、現在進行形で探していた人物その人だ。
ようっと、かなり馴れ馴れしく、そんな挨拶をする。それにレオは右手を上げることで応える。心なしか、少し嬉しそうだ。
「確かに、見た目じゃ老兵と一兵卒って感じだな……鎧に着られてる」
「ははは、それは言わないであげてほしいよ。君みたいに、視線をくぐったわけじゃないんだ」
苦笑するレオをよそに、遠征隊の構成を確認してみる。
年齢は、俺より少し上くらいの騎士たちと、還暦を迎えたような老兵ばかりだ。レオの言うような年齢の者たちは、ざっと数えても二十人くらい。実に、全体の二十パーセント弱。そうか、違和感の正体はこれだったのか。
「実をいうと、今回の迷宮攻略は昇進試験の役割を担っているんだ。いまここにいる者の大半は、王国兵士と王国魔術師だ。この中で特にいい活躍をした者が、最高で十人、騎士団と魔導士それぞれの部隊に配属される権利を持つことになってる」
レオが言った二つの名前、それは騎士団と魔導士のひとつ下に存在する組織のことだ。その昇進試験、それすなわち――、
「じゃあ、実力は申し分ないってことか?」
「そう期待したいね。でも、君だってあのジャイアント・オークを倒したんだ。いい線はいくと思うよ?」
少しだけ照れ臭くなる。まさか、と否定する俺に、レオの顔は割と本気で言っていそうな表情を浮かべている。
「お世辞でもうれしいよ。ありがとな。それから……」
言葉を切る。
これだけは、さっきのまま地続きで言ってはいけない。顔だけではなく、身体ごとレオの方向へと向く。俺の行動に、レオの表情が少しだけ困惑に染まるのが解った。
「本当に、ありがとう。あの時は助かった」
頭を下げる――ではなく、敬礼をする。王国騎士団が行う敬礼の一種だ。お礼がしたいのだと伝えた時、ついでにミレーナから教えてもらったのだ。
目の前では、レオが虚を突かれたような顔をして俺を見ている。一瞬の空白の後、レオの顔に、
「ありがとう。礼はありがたく受け取るよ」
驚いたような、困ったような、そんな表情が浮かんだ。
「気にすることはないさ。多くを助けるのが騎士の務めだからね。友達を助けたのなら、なおのことだよ」
「それでも……ていうか、いまさらだけどホントにこんな態度でいいのかよ。敬語とかは? お前、騎士なんだろ?」
「僕としては、馴れ馴れしくしてもらった方が嬉しい。どうか、このまま対等な関係で頼むよ」
「この中じゃあ、僕も浮いているからね」片目をつむって言ったその言葉に、ああそういうことかと納得する。確かに、完全アウェイな場所でも、バカを言えるような関係の友人が一人いれば、だいぶ違う……そんなイメージでいいだろうか。
――アウェイ?
ふと浮かんだその言葉。その疑問を、まるで心でも読んだようにレオ自身が説明する。
「今回、ここに来ているのは、第三部隊になる。僕が所属するのは第一部隊。正直言って――知り合いがひとりもいないのさ」
どうやら、部隊の垣根無く全員が仲良し……とはいかないらしい。
「それじゃあ、顔合わせだ。君の担当する荷馬車に案内しよう」
ある者は機材の最終チェックをし、ある者は自分の武器を固定する。撤収中の簡易テントには市場には出回らない詳細な地図が何枚も広げられ、上官たちが最終確認に入っている。
見たままの通り。王国騎士団と王宮魔導士の混合部隊だ。
王国最強の前衛部隊 《王国騎士団》と、王国最強の後方支援部隊 《王宮魔導士》。危険が伴う迷宮には、この二つがタッグを組むことが決まっている。その実力を聞く者にとってはやりすぎと思われるこの布陣も、相手が迷宮となればこれで十分な準備ができたと言えるレベルだ。
当然、戦場以外でこの二つが共闘することなどめったにない。そこかしこでは住民が珍しもの見たさに顔をのぞかせており、それを追い払うための声がひっきりなしに飛び交っている。
証明書を提示して、俺もその喧騒の中に飛び込む。そして、昨日あらかじめ会っておいた、お目当ての人物を探す。
正面にいる騎士たちの中にはいない。簡易テントにいるのは王宮魔導士たち……だとすれば、そこにもいるはずはない。王宮魔導士は男子禁制だ。上官たちのいるテントにも姿はなし。当然、俺が合流することになる冒険者たちのたまり場の中にもいない。
――……それにしても…………。
周りを見れば見るほど、違和感が膨れ上がっていくのが解る。それは、水面に垂らした重油のように、どんどんと心の水面を覆っていく。
油が水と交わらないように、違和感が溶けていくことはない。何がおかしいのかは解らない。だが、確かな違和感が目の前にはあるはずなのだ。それは、一体何なのだろう。喉に小骨が引っ掛かっているような、そんなもどかしい感覚だ……。
「それはおそらく、年齢だろうね」
後ろから、声が聞こえた。
大人へと移行が完了する、その一歩手前――十代終わりの青年の声。すこし低く、それでいてどこか子供らしい欠片がかすかに残った――そんな印象を抱く声。振り返ってみれば、目に映ったのは白い鎧に白いマント。そして淡い金髪を湛える整った顔。
「王宮魔導士も、王国騎士も、平均年齢は二十前半だ。ここにいる大半が、そこから前後に大きくズレている。それが、違和感の正体だよ」
その名はレオ・グラディウス。俺が昨日顔合わせをし、現在進行形で探していた人物その人だ。
ようっと、かなり馴れ馴れしく、そんな挨拶をする。それにレオは右手を上げることで応える。心なしか、少し嬉しそうだ。
「確かに、見た目じゃ老兵と一兵卒って感じだな……鎧に着られてる」
「ははは、それは言わないであげてほしいよ。君みたいに、視線をくぐったわけじゃないんだ」
苦笑するレオをよそに、遠征隊の構成を確認してみる。
年齢は、俺より少し上くらいの騎士たちと、還暦を迎えたような老兵ばかりだ。レオの言うような年齢の者たちは、ざっと数えても二十人くらい。実に、全体の二十パーセント弱。そうか、違和感の正体はこれだったのか。
「実をいうと、今回の迷宮攻略は昇進試験の役割を担っているんだ。いまここにいる者の大半は、王国兵士と王国魔術師だ。この中で特にいい活躍をした者が、最高で十人、騎士団と魔導士それぞれの部隊に配属される権利を持つことになってる」
レオが言った二つの名前、それは騎士団と魔導士のひとつ下に存在する組織のことだ。その昇進試験、それすなわち――、
「じゃあ、実力は申し分ないってことか?」
「そう期待したいね。でも、君だってあのジャイアント・オークを倒したんだ。いい線はいくと思うよ?」
少しだけ照れ臭くなる。まさか、と否定する俺に、レオの顔は割と本気で言っていそうな表情を浮かべている。
「お世辞でもうれしいよ。ありがとな。それから……」
言葉を切る。
これだけは、さっきのまま地続きで言ってはいけない。顔だけではなく、身体ごとレオの方向へと向く。俺の行動に、レオの表情が少しだけ困惑に染まるのが解った。
「本当に、ありがとう。あの時は助かった」
頭を下げる――ではなく、敬礼をする。王国騎士団が行う敬礼の一種だ。お礼がしたいのだと伝えた時、ついでにミレーナから教えてもらったのだ。
目の前では、レオが虚を突かれたような顔をして俺を見ている。一瞬の空白の後、レオの顔に、
「ありがとう。礼はありがたく受け取るよ」
驚いたような、困ったような、そんな表情が浮かんだ。
「気にすることはないさ。多くを助けるのが騎士の務めだからね。友達を助けたのなら、なおのことだよ」
「それでも……ていうか、いまさらだけどホントにこんな態度でいいのかよ。敬語とかは? お前、騎士なんだろ?」
「僕としては、馴れ馴れしくしてもらった方が嬉しい。どうか、このまま対等な関係で頼むよ」
「この中じゃあ、僕も浮いているからね」片目をつむって言ったその言葉に、ああそういうことかと納得する。確かに、完全アウェイな場所でも、バカを言えるような関係の友人が一人いれば、だいぶ違う……そんなイメージでいいだろうか。
――アウェイ?
ふと浮かんだその言葉。その疑問を、まるで心でも読んだようにレオ自身が説明する。
「今回、ここに来ているのは、第三部隊になる。僕が所属するのは第一部隊。正直言って――知り合いがひとりもいないのさ」
どうやら、部隊の垣根無く全員が仲良し……とはいかないらしい。
「それじゃあ、顔合わせだ。君の担当する荷馬車に案内しよう」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理
SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。
低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。
恋愛×料理×調合
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる