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アルトレイラル(迷宮攻略篇)
いつか見た記憶《もの》のカケラ 5
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「――――――――⁉」
乱暴に身体を起こし立ち上がる。両ひざが固いものに当たり、痺れにも似た痛みが両ひざを襲う。意図せずうめき声が漏れ、しばらく突っ伏する。頬と額を硬く冷たい感覚が走り、自分が机で寝ていたことにようやく気が付く。かろうじて掛かっていた毛布が肩からずれ落ちる。机の端には、今日作った焼き菓子が皿に載っていた。どうやら、ルナがこの部屋に来てくれたようだ。
「……なに……、いまの夢」
亡者の残響が、今も耳の奥で木霊している。冷や汗が、額から頬を伝い頤へと落ちる。心臓ははち切れんばかりに鼓動しているし、まるで窒息寸前であったかのように、肺は空気を強欲に求める。数十秒経っても、それらは治まることはない。まるで、身体は何か知っているかのように晴香へと何か訴えてくる。
何だったのだ、あの夢は。
たくさんの死者が積み上がり、血が滴ってた。その光景は地の意味で死屍累々。いったい何があったかは知らないが、とんでもないことがあったのは一目瞭然だ。耳をふさいでもお構いなしに叫び声をあげる謎の声。そして、見るも無残な姿になった神谷 樹。
なんとも、残酷で悪趣味な夢だ。グロテスク系統のゲームは大の苦手である自分には、とてもじゃないが平常心ではいられない。というか、いくらグロテスク系が好きでも、流石にアレを好む人間がいるだろうか。それほどにひどい夢だった。
……それで済んだはずだった。
――……なんで……こんなに胸がざわつくの?
普段なら、ただの夢で終わったはずだ。
全く、嫌な夢を見てしまった――そう思って、多少不機嫌になりながらもいつも間にか忘れてしまうだろう。日々の生活を送るうちに、その記憶は薄れてしまうだろう。
しかし、これは違う。そう確信があった。証拠も理由も解らない。だが、この夢は普通の夢ではない。このまま、忘れてはいけない。そう思ってしまう。いったい、何がそこまで思わせているのだろう。
一体何が――、
「……疲れてるのかな」
すこしだけ水を飲もうと、ゆっくりと立ち上がる。蛇口のある居間に向かうため、一歩踏み出した。
刹那、
――……お願い…………。
「⁉」
どこからか、声が聞こえた。多分、女の声。
クラリとめまいがし、机に手をつき頭をおさえる。再び起こった幻聴に、鳥肌が立つ。
――……お願い。
今度は、さらにはっきりと。
「…………誰?」
そう問いかける。問いかけたのは、この二言目で悟ってしまったからだ。これは自分の声じゃない。それに声ですらない。これは、頭の中に響くテレパシーのようなものだと、そう確信したからだ。
「あなたは、誰なの?」
もしかしたら、夢を見せたのは彼女なのだろうか。彼女があの夢を通して、何かを伝えたかったのだろうか。だとしたら、一体どんなことを……。
「…………まさか」
思い至った直後、再び心臓が早鐘を打ち始める。
――……そんなこと……。
冷や汗が吹き出し、じんわりと肌着を湿らせる。肌に密着するその生暖かい感覚が、晴香に著しく不快感をもたらす。そんなことありえないという感情と、もしかしたらという感情がせめぎ合い、目の前が薄暗くなる。
「……とりあえず、ルナに……」
いまは、ミレーナが外出中だ。物理的に会えないのかと言われれば、これまた異世界ファンタジーな方法で会うことはできる。だが、それをすることは禁じられている。とりあえず、ルナに相談しなくては……。
そのとき、
「……?」
橙色の光の中に、紫の色が混ざっていることに気が付いた。
決して強い光ではない。だが、確かに紫色の光が部屋を薄ぼんやりとだがその色に染めている。
たどってみれば、その光源は机の上。正確には、その上に開いて置かれた小物入れの中。
その中に入っているのは、確か樹に選んでもらったネックレス――。
「……どうして、光って、」
――これは、持ち主に大きく関係する厄災を予知するのさ。
「…………‼」
持ち主に関係する厄災、治まらない動悸、頭に響く声、さっきの夢――無残な姿の兵士たち。
ボロボロになった樹。
まさか……。
まさか、本当に……ッ。
乱暴に身体を起こし立ち上がる。両ひざが固いものに当たり、痺れにも似た痛みが両ひざを襲う。意図せずうめき声が漏れ、しばらく突っ伏する。頬と額を硬く冷たい感覚が走り、自分が机で寝ていたことにようやく気が付く。かろうじて掛かっていた毛布が肩からずれ落ちる。机の端には、今日作った焼き菓子が皿に載っていた。どうやら、ルナがこの部屋に来てくれたようだ。
「……なに……、いまの夢」
亡者の残響が、今も耳の奥で木霊している。冷や汗が、額から頬を伝い頤へと落ちる。心臓ははち切れんばかりに鼓動しているし、まるで窒息寸前であったかのように、肺は空気を強欲に求める。数十秒経っても、それらは治まることはない。まるで、身体は何か知っているかのように晴香へと何か訴えてくる。
何だったのだ、あの夢は。
たくさんの死者が積み上がり、血が滴ってた。その光景は地の意味で死屍累々。いったい何があったかは知らないが、とんでもないことがあったのは一目瞭然だ。耳をふさいでもお構いなしに叫び声をあげる謎の声。そして、見るも無残な姿になった神谷 樹。
なんとも、残酷で悪趣味な夢だ。グロテスク系統のゲームは大の苦手である自分には、とてもじゃないが平常心ではいられない。というか、いくらグロテスク系が好きでも、流石にアレを好む人間がいるだろうか。それほどにひどい夢だった。
……それで済んだはずだった。
――……なんで……こんなに胸がざわつくの?
普段なら、ただの夢で終わったはずだ。
全く、嫌な夢を見てしまった――そう思って、多少不機嫌になりながらもいつも間にか忘れてしまうだろう。日々の生活を送るうちに、その記憶は薄れてしまうだろう。
しかし、これは違う。そう確信があった。証拠も理由も解らない。だが、この夢は普通の夢ではない。このまま、忘れてはいけない。そう思ってしまう。いったい、何がそこまで思わせているのだろう。
一体何が――、
「……疲れてるのかな」
すこしだけ水を飲もうと、ゆっくりと立ち上がる。蛇口のある居間に向かうため、一歩踏み出した。
刹那、
――……お願い…………。
「⁉」
どこからか、声が聞こえた。多分、女の声。
クラリとめまいがし、机に手をつき頭をおさえる。再び起こった幻聴に、鳥肌が立つ。
――……お願い。
今度は、さらにはっきりと。
「…………誰?」
そう問いかける。問いかけたのは、この二言目で悟ってしまったからだ。これは自分の声じゃない。それに声ですらない。これは、頭の中に響くテレパシーのようなものだと、そう確信したからだ。
「あなたは、誰なの?」
もしかしたら、夢を見せたのは彼女なのだろうか。彼女があの夢を通して、何かを伝えたかったのだろうか。だとしたら、一体どんなことを……。
「…………まさか」
思い至った直後、再び心臓が早鐘を打ち始める。
――……そんなこと……。
冷や汗が吹き出し、じんわりと肌着を湿らせる。肌に密着するその生暖かい感覚が、晴香に著しく不快感をもたらす。そんなことありえないという感情と、もしかしたらという感情がせめぎ合い、目の前が薄暗くなる。
「……とりあえず、ルナに……」
いまは、ミレーナが外出中だ。物理的に会えないのかと言われれば、これまた異世界ファンタジーな方法で会うことはできる。だが、それをすることは禁じられている。とりあえず、ルナに相談しなくては……。
そのとき、
「……?」
橙色の光の中に、紫の色が混ざっていることに気が付いた。
決して強い光ではない。だが、確かに紫色の光が部屋を薄ぼんやりとだがその色に染めている。
たどってみれば、その光源は机の上。正確には、その上に開いて置かれた小物入れの中。
その中に入っているのは、確か樹に選んでもらったネックレス――。
「……どうして、光って、」
――これは、持ち主に大きく関係する厄災を予知するのさ。
「…………‼」
持ち主に関係する厄災、治まらない動悸、頭に響く声、さっきの夢――無残な姿の兵士たち。
ボロボロになった樹。
まさか……。
まさか、本当に……ッ。
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