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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第35話 大一番、迫る。

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「のう、まだ怒っておるのか? 昨日から大分経っておるぞ? いい加減許してくれても良かろう?」
「お姉ちゃ~ん、機嫌なおしてよ~」
「……」
「疲れておるのか? おぶってやろうか?」
「肩たたきしてあげる?」

 1泊して、53、54階層を攻略して昼休憩を取っているのだが、ミケやアニタは、アニカのご機嫌取りに余念がない。
 何故なら……

「アニカ、ハッカ飴くれないか?」
「はい。どうぞ、ユウトさん」
「「あー!」」、「我にも~」「アニタにも~」
「……」

 アニカが飴の管理をしているからに他ならない。
 後先考えずにイタズラを仕掛けるからこうなるんだ。

「頼むー! 我にも飴を! 飴をくれーい!」
「ちょ~だいちょ~だいちょ~だ~い!」
「……はーっ! 手を出して」
「「やったー!」」


 休憩を終え、55階層へと下りる。

「むっ!」

 ミケが何かに気づき、階層を奥に向かっていく。

「2人は無理せずに狩っていてくれ」

 アニカ達に言い残して、俺もミケを追う。


 追いついて見ると、腹ばいにした魔人の背中を、ミケが足で踏んずけて抑えていた。

「こやつが1人でおった。……ほれ、我が抑えておるので、ユウトはスロープを塞いでくるがいい」
「ぐっ! は、離せ!」


「……で、お前はここに1人で何をしておったのじゃ?」
「うるせぇ! 誰が言うか! ……ぐぇ、イデデデデ!」

 俺が戻って来ると、すでに尋問が始まっていた。

「……で、お前はここに1人で何をしておったのじゃ?」
「……」
「ユウトよ、こ奴がしゃべらんから、その刀で足を斬り落としてくれんか?」
「ああ、どっちにする?」
「1本ずつやっても時間の無駄じゃ、りょう」
「――わ、わかった! 言う! 言うから……」

 こいつはグンダリデの配下で、この魔王軍を率いているガンダーという男にミケの存在を報告に行き、隊に戻る途中だった。

「もう報告した後だったか。……まあ、仕方ないな」
「うむ。どうせ獣人がいたという程度の報告じゃっただろうて」

 そして、刀をチラつかせたりミケが強く踏んだり、脅しながら情報を吐かせているとアニカ達が追いついてしまった。

 ガンダーは5,000の本隊を連れていて、その中のモンスターはハイオーガとジャイアントライノで、これまでよりも強く巨大になっている事。
 下の階層は徐々に広くなっている上に、マグマ地帯が多く点在している事。
 5,000の隊は狭い道幅で必然的に進軍速度が遅くならざるを得なかった、ということが判った。

「ぐぐぅぅおー!」
「あっ! 抜けおった!」

 話をさせる為に抑える力を緩めていたのをいいことに、その魔人はミケの拘束から抜け出し、アニタを人質にとった。

「ハッハー、動くなよ!」
「何を無駄な事を……武器も持たずに」

 俺はため息交じりに言うが、聞く耳を持っていない。

「さぁ、そこをどけ! お、俺を見逃せば、こいつの命は助けてやる。早く俺を下に行かせろ!」

 俺達が来た事で、グンダリデに何かが起こった事を悟ったようで、下に逃がす事を要求してきた。

「「「はーっ」」」

 みんながため息をついた。
 アニタに目配せをすると、アニタは頷いて、行動を起こした。

「ぐぉ!」

 アニタは、ストレージに仕舞ってあったナイフを取り出して、逆手に持って魔人の脇腹を刺して脱出した。
 アニタが離れるや否や、ミケの手加減した雷で動きを止め、アニカが貫通撃を突き刺して魔人は命を失った。

「アニタ! 大丈夫だった? どこか痛くない?」
「へーきへーき。みんながいたから怖くなかったよ!」

「しかし、魔王軍がすぐ下におるようじゃのぉ? どうする?」
「とりあえず、ここのモンスターを片付けてから考えよう」


「さて、下の56階層にいるガンダー軍をどうするかの話の前に、ガンダーについて知っている事がある。少しだけどな」
「バハムートとやらの記憶か?」
「そうだ。バハムートが命を落とした戦場に、ガンダーもいた」

 その時の魔王の軍勢は、第1軍団長に現魔王のメルガンという武力、魔法を兼ね備えた魔王の娘がいた。
 その妹が第3軍団長のメルティナ。魔法に長け、魔法師とそれを守る盾役のいる軍団だった。

 そして、ガンダー。そいつは第2軍団長で圧倒的な武力でのし上がったらしい。
 ガンダーは自分が敵わなかった魔王に絶対の忠誠を誓っていた。
 そのガンダーが、今第1軍団長として遠征しているという事は、娘のメルガンが現魔王であり、確実にガンダーより強いという事。

「恐らく、バハムートのいなくなったカストポルクスで、個人の戦力としては2番目の実力者という事だ」

 アニカとアニタは息を呑んだ。

「もし見付けても俺もミケも、もちろん2人も、迂闊に手を出すんじゃない。いいな」
「しょうがないのぅ」
「「はい!」」

 皆に釘を刺したところで本題に戻る。

「とりあえず、下で戦うのは良くないよな?」
「うむ。流石に5,000に突っ込む馬鹿はいないじゃろ」

 戦いになると、結構イケイケになるアニタが一瞬ギクッとしていた。

「スロープを抜けてくる敵を狩り続けるか?」
「それも物量に押されれば、分断されるぞ。アニカとアニタが分断されてしまえば厄介じゃ」

「分断か……! そうだな、分断しよう」
「蓋をするのか?」
「もちろん蓋はするが、それは57階層へ続くスロープにだ。分断はここでする」
「ここで? どうするのじゃ!」
「迷路だよ。俺達も第2階層から第9階層まで、分かれ道が結構あっただろ? それを出来る限り作るんだ」

 分かれ道があれば、確実性を求めるなら隊を分けざるを得ない。細い分かれ道にすれば調べるのは魔人になる。つまり敵を限定できるってことだ。

「奴らにとって手前になる迷路ほど高く厚い壁にする。マグマがある所は行き止まりに利用できるしな。皆には手伝ってもらうぞ?」
「了解じゃ!」
「「はい!」」

 《ロックウォール》やストレージに収納してある瓦礫を利用して、高く厚い壁を設置する。
 迷路の構成はミケにも手伝ってもらいながら考え、アニタとアニカには《フライ》を掛けて、上層の瓦礫や岩を取って来てもらい迷路を完成させた。
 念の為に天井近くの高い位置に“巣”も設置した。



「ふ~、これくらいでいいか」

 結構魔力を消費してしまったな。

「いい感じに出来たんじゃないかのぅ」
「お疲れ様です」
「みんながんばったね~」


 ダンジョンに入って9日、最大の山場と言える戦いを控える中、ケーキで乾杯を交わす。

「じゃあ行ってくる。ちょっとの間頼むぞ!」
「「「おー!」」」
「無茶するでないぞー!」

 ミケの声を背に受け、俺は56階層を目指した。
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