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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第38話 魔王軍は殲滅したけど、ダンジョン攻略は続く。

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 ガンダーとの戦いを制した俺は、ガンダーを収納し、周りをうろちょろする56階層のモンスターは無視して、55階層へ急いだ。


 スロープを抜けると、せっかく作った迷路は破壊され、辺りには瓦礫と、魔人族とモンスターの死体が散乱している。
 その惨状は55階層の中程までひろがっていた。

 更にその奥には、血塗れの白狐姿のミケを魔王軍が取り囲んでいる。その数2,000程か?
 袋叩きにあっているとかではなく、一定の距離を保って取り囲んでいる。
 それもそうだ、ミケの周りにはバチバチと放電現象のようなものが起きていて、いつでも雷を打てると警告している様なものだからな……

 アニカは? アニタは?
 巣に目をやると、……いた。
 アニタは端に足をかけて今にも飛びだしていこうとしていて、アニカがそれを抑えている。

 《テレパシー》を送って状況を確認する。

“ミケ! 大丈夫か?”
“おお! ユウト! 下で何かあったのか?”
“ちょっとな、大将を仕留めてきた”
“ほぉう? その割には早かったのう”

“それよりもこっちだよ。どんな状況だ?”
“うむ。敵の強さ自体は大したことないのじゃが、数が多すぎじゃ。アニカ達も踏ん張っておったが、押し切られそうになったので巣に行かせて休ませておる”

“そうだったか、俺も下で受け持つべきだったな……”
“そう出来る相手ではなかったのじゃろ? ガンダーは”
“まあな。よし、ちょっと代わるか! ミケもいったん休憩してくれ”

 アニカ達にミケが巣に行くことを伝え、ついでにミケに《クリーン》を掛けるようにアニタに伝えた。
 アニタは下りて戦いたくてうずうずしているようだった。

“ミケ、俺のタイミングに合わせてジャンプできるか?”
“ああ、よいぞ”
“じゃあいくぞ? 3、2、1……”

 ミケは大きくジャンプし、巣へ向かった。

「《ロックレイン》!」

 地属性魔法の高等魔法。
 俺の上に無数の岩が現れて、それが魔王軍めがけて打ちつける。

 ドーン! ドン! ドドン! ドンッ! ドドドドッ!

「ギャーーーーッ!」「グォーーーーー!」「グワッ!」

 魔人やモンスターに岩の雨が打ちつけ、阿鼻叫喚の様相を呈している。

 これで全て殲滅できるとは思ってはいないが、時間は作った。
 またスロープに蓋をして、巣に向かい、みんなと合流する。
 アニタに綺麗にしてもらったミケが出迎えてくれた。

「早々に計画が狂ったのぅ、お互いに」
「3人共大変だったな。やっぱり多すぎたか?」
「倒しても倒してもくるし、途中で迷路が決壊するしで……大変でした」
「アニタもつかれちゃった~。でももういいよ! またいけるよ~」

「モンスター共もデカくなっておるし、魔人もこれまでのよりも1つ丈夫になっておって、時間がかかったぞ」
「そうか、俺もなかなか大変だったからな……よし、ケーキ休憩してからみんなで頑張るか!」
「「「ケーキ!!」」」


 ケーキとペットボトルの紅茶で一息つきつつ戦果を確認すると、約5,000の軍勢の内3~400は行き止まりのマグマで自滅したそうだ。

 巨大モンスターは全部で1200~1300体で、ミケがすでに1,000体近く葬り、残りが今うろついている。

 魔人族も3人で1500人程は倒したそうで、残り2000程だったらしい。
 こいつらも俺の攻撃で数を減らし、指揮系統が乱れて下で騒いでいる。

「まとめると、魔人が残り1400~1500人で、モンスターが200ちょっとって事だな」

 アニカ達に確認すると、まだ頑張れるということだったので、俺、アニカ、アニタの3人で魔王軍をやることになった。
 ミケは「同じ相手で飽きたのじゃ」と言って、気分転換で先に56階層を片付けてから戻って合流する作戦にした。
 どっちにしろ56階層をクリアにして、そこに泊まる予定だったし、それで大丈夫だ。

 ミケと同じように、俺がモンスター、アニカとアニタが魔人族をメインに狩っていく。
 今度は誰彼構わず闇系統魔法を乱発する。
 混乱や目隠しは予期せぬ行動を招くので却下。
 《シャドウバインド》《シャドウスワンプ》《スロウ》《スリープ》。
 出来るだけ動きを鈍らせるものにして、アニカ達が楽になるようにする。

 モンスターは10分くらいで殲滅した。ガンダーに比べたら遅いし軽い。
 ミケももう戻ってきた。魔石入れとして渡した大きめの巾着袋がパンパンだ。
 ビニール袋だったら破れていたな……

「もう終わったのか? 早いな」
「まぁの。いい気分転換になったのじゃ。後は魔人だけか……。さ、やるか!」

 ミケが合流して、4人でバンバン狩っていく。
 アニカとアニタは、疲れが出て動きが鈍かった。
 光属性の回復系の魔法に《アクティベート》という身体を活性化させる魔法があったので、2人に掛けると動きも多少良くなった。


「頑張れー! もう少しだぞー」
「歯を食いしばって動くのじゃ!」

 大体狩って外野と化した俺とミケが2人を応援して、遂に魔人族を狩り終えた。

「よく頑張ったなー。結局2人で600近くは倒したぞ!」
「つ、疲れましたー。もう動けない……」
「ちかれたよ~。アニタ、おふろはいりたい~」
「おー風呂か! よいのぅ、我も大量の返り血を浴びた故、湯浴みはしたいの~」

 ジィーーーーー。
 3人は哀願に近い目で俺を見てくる。

「わかったわかった、お風呂だな! つくるよ」
「「「やった!」」のじゃ!」


 大急ぎでガンダーと共に魔人族の死体を弔い、モンスターを収納して56階層へ向かう。
 巣を作り、寝床の設置は任せて、風呂作りに励む。
 夕食はパスタで済ませて、みんなでゆっくり入浴したら、アニカとアニタはすぐに眠りに落ちた。

 今日ぐらいはいいか、と巣の淵に座りながら缶ビールを飲む。

「ガンダーはどうじゃった?」

 ミケがやって来て、となりに腰かけた。

「うん? 気合の入った武人だったよ」
「そうか、流石に一軍を率いる将じゃったという事か……」
「そうだな。立派な将だった。……これでひとまずダンジョン内で魔王軍と戦う事は無くなったんだな」

 感慨深い気持ちもあるが、まだまだタンジョンは続くんだ。気は抜けない。

「ミケも相当頑張っただろ、凄い数を倒してたもんな」
「まあの。……頑張った我にも一口くれんか? それ」
「ああ、どうぞ」

 ミケは俺から缶ビールを受け取り、グイッと一口飲み込んだ。

 ボワンッ

「へにゃ~~~」

 白狐の姿に戻り、目を回している。毛色もうっすらピンク色になっている気がする。

「なんじゃ~ら~こりぇ~わ~」
「お、おい! お前、酒は好きだって神社で言ってなかったか?」

 スピー、スピー

 もう俺の膝で寝息を立ててる……

「しょうがない。もう寝るか」

 缶ビールを飲み干し、ミケを抱き上げて寝床に入る。
 アニカとアニタのぬくもりのある寝床へ。
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