56 / 121
第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。
第55話 惨劇。
しおりを挟むフリスが口火を切った。
「皆の者! 聞いたであろう。この男は、余の王国の領土に出た門から出現した。よって、この男の取り調べは余が主導する。よいな?」
異論は出なかった。みんなフリスの態度に辟易としているようだった。
「おい! 貴様は余の国のどこの領民だ! 嘘偽りなく答えよ!」
なんて答えればいいんだ?
ゴーシュを見ても、助け船は出せないとばかりに微かに首を振る。
フリスが自分の杖で思い切りテーブルを叩いて、バーーン! という音が部屋中に響いた。
「答えよと言っている!! 言葉が解らぬ間抜けか?」
何だこいつは? 世の中全部自分の思い通りになるとでも思ってるのか? ……王様だからそうか。
「俺はどこの領民でも無い」
フリスの顔がどんどん紅潮していく。
「なっ! 何だ貴様!! その言葉遣いは!! それが余に対する言葉遣いか!」
そこ!? まずそこに怒る~?
「ねぇ~~、そんなトコにいちいち怒ってたら、話が進まないじゃな~い。いい加減にしなさいよフリス坊やったら」
「そうですよ。一国の王たる者、度量の大きさを民に示さねばならぬ時もありましょう。今がその時ですよ。ディスティリーニア様もそうお考えのはずです」
「ぐっ! わ、解っておる!」
両隣の美女に諭されて、フリスが質問を続けてきた。
「あの門は何だ! 中はどうなっていた!」
こんなに大声で喚いていて、よく声が枯れないな。
「あれはダンジョンの入り口で、中はダンジョンだった」
また俺の言葉遣いが気に入らないようで、顔を真っ赤にしている。
「そ、そうか。ダンジョンだったという事はモンスターがいたはず。倒したモンスターの魔石や、中にあった物は全て王国の物である。王国の物は余の物! 全て差し出せ!」
よく我慢して話を続けたな。また怒り狂う前に答えてやるか……
「出せと言われても、1層しか無いダンジョンだったからな」
「う、嘘を申すな! 門は巨大で、大型のドラゴンでも通れるほどだと聞いておるぞ!」
「大型? ふん! そこの扉よりも小さかったぞ?」
俺が入って来た扉を指差しながら笑う。
「――よほど小さいヤツに調べさせたんだな?」
くっ! ぐっ! と、笑いを堪えているであろう声が、周りから漏れ聞こえてくる。
「い、いいから出せ! 余が出せと言ったら出せばいいんだ! 全部!」
「出せと言われてもなー」
ポケットに手を入れて、ゴブリンの魔石を1つストレージから取りだす。
「――ほれっ」
ポイッと前に投げ捨てると、ほとんど音を立てずに石床に転がった。スキルが無いと見つけるのも苦労しそうだな。
フリス以外は笑いを堪えるのに必死のようだ。みんな下を向いて肩を震わせている。
フリスの怒りが最高潮に達して、今にも杖をテーブルに叩きつけようとした時、奴の側近が何か書かれている紙を渡した。
それを奪い取るように受け取り、一瞥したフリスがテーブルを叩いて立ち上がった。
「今日は終いだ!! あいつは牢にでもつないでおけ! 明日にでも処刑してやる!!」
それだけ言い放って、側近たちを杖で叩き伏せながら部屋を出ていった。
「《アナライズ》の結果だろうて」
ゴーシュが俺にだけ聞こえるようにささやいた。
他の代表者達も席を離れ始めた。
「ハッハッハァ!! 気に行ったぜお前! この国にいられなくなったら特別に受け入れてやるぜ!」
「肝の据わった男である。うちにもいつ来てもいいのである!」
「ウチもいつでも歓迎するで! あんさんなら、商人になってもやっていけますやろ」
ライゼルとゴダン、そしてエティゴーヤが俺を称えながら出て行った。
ゴーシュは、キースのお付きの者と話す振りをして、まるで薬物の取引のように何やら手渡す。
その受け渡しを確認したキースが、俺をチラッと見てから出て行く。
俺が突っ立っていると、リーファとローレッタが小走りで寄って来た。
「お話しましょ~」「――があります!」
――!
「アタシが先よ~」「私が先です!」
2人はお互いに目を合わせ、バチバチと火花を散らしているようだ。
「アタシが先よ~」「私が先です!」
いつまで言い合っているのか……、4、5回は繰り返しているな。
「あのー、お2人とも、どういったご用件でしょうか?」
「あのね!」「あのですね」
……埒が明かないので、落ち着いて話そうと言おうとしたその時――
******フリス
「あの男~~~! どこまで余を愚弄すれば気が済むのだ! クソッ! クソッ! クソォ! クソクソクソクソクソクソクソくそがーーーーー!」
あの言葉遣い! ふてぶてしい態度! ニヤけた顔も!! ムカつくムカつくムカつく~~~~~~~!!
余の下僕共を殴り倒してもまた足りぬわ!! 余が直々に斬首してくれる!
――! そうだっ! 娘達がいるじゃないか! 今日のところはそれで許してやるか、くっくっく。
ふふふ、娘共の事を考えるだけで心が弾むわ! どうしてくれようか?
く~~っ! 寝室までの距離がこれほど恨めしいことは無い!
「はぁっ、はぁっ、待ちきれんの~」
歩くのも自然と早くなってしまう。
「陛下! お待ちを!」
「何だ! こんな時に! 余の邪魔をする気か!」
「い、いえ! 娘共の《アナライズ》結果です!」
「そうか! 早くよこせっ! このウスノロめ! どけっ!」
「ぐわっ!」
どれどれ? ほう! 全員魔法スキル持ちか! 使える奴らだな~。全員俺の傍に置いてやるか!
ようやく寝室に着くな。あ~待ちきれん!
ダーーーン!!
おもわず扉を蹴り開けて中に入れば、おるではないか! 3人揃って! ぐふふふふ!
「服を脱げ!」
******ユウト
――夕暮れに差し掛かった窓の外がピカッと光った。
ドッッッッガーーーーーーーーーン! ガシャーン!! ドカドカッ!
轟音がとどろいて、俺達のいる部屋もガタガタと揺れ始めた。
結構遠くの部屋の壁が吹き飛び、屋根も吹き飛んで、そこからモクモクと土煙りが上がっている。
外にいる連中の悲鳴も聞こえてきた。
この部屋に残っている連中は、俺以外床に手を付いて揺れに耐えている。
「な、なに~今の?」
「――神鳴りです! これは、伝説の神鳴りです! ディスティリーニア様のお怒りに違いありません!」
ミケです。これは、ミケのお怒りの雷に違いありません。
……ミケぇぇぇぇ! なんて事をしてくれたんだよ~。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
286
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる