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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。

第57話 偽名、因果応報。

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「さて、行きますか! ここから見る限り、壁に囲まれていてそれなりに大きな街みたいだけど、何ていう街なんだろうな?」

 朝食を済ませて、キャンプ地を引き払い、上空から街を見下ろしている。
 人気ひとけのない場所を探す為に、認識阻害を掛けたうえで上空から調べているのだ。
 街の入り口には門兵らしき人が立って、街へ出入りする人間を検分しているので、手配されているかもしれない俺達は別の入り方をしなければならないからな。
 そう! 密入街だ。……そういう言い方があるのかは知らないが。

 
「おっ! あそこなんかどうじゃ?」
「そうだな。真ん中の広場みたいなところにも近いしな。あそこに転移しよう!」


 シュンッ!

「ミャーーーオ!!」

 ネットで見てた大きい猫ぐらいのサイズの猫風動物が驚いて逃げていった。

「こっちの世界にも猫? っているんだな。虎並みのサイズだな」

 俺達は、降り立った裏路地から、街の中央にある広場へ移動した。
 露店の開店準備をする人がいれば、朝客相手で店仕舞いの露店、買い物帰りの人などが行き交っている。


「あとは、テキトーな人にギルドの場所を聞けばいいな」
「おいユウトよ、その前に名前じゃ、な・ま・え! 考えたであろうな?」
「もちろんだ。寝ながら考えたよ」

 思い付かなかったがな。……どうしよう!

「で、では発表する」

 どうしよう!

「まず、アニカとアニタは、アンニカとアンニタにする。」
「やった~」

 アニタは、経緯も何も知らないので、無邪気に喜んでいる。
 ……が、アニカの視線が冷たい。

「……なんか、安直でいじられている様な気がするんですけど?」
「そ、そんな事はないぞ! 日本で有名で美人なモデルさんの名前みたいでいいかなって……」
「――美人!? そ、そうですか。……美人。ユウトさんはその人を好きなんですか?」
「へっ? 好きだよ(面白くて)」
「じゃあいいです。ありがとうございます! ……ぼそっ(好きだなんて)」

 アニカが急にクネクネしだしたんだが、どうしたんだ?

「我は? 我はなんじゃ?」
「待て待て、慌てなくても、今発表します!」

 心の中でドラムロールが鳴っている。どうしよう、――どうしよう!


「ミケはミケーネッコです!」
「…………」

 人々が行き交う喧噪の中、一瞬の静寂が訪れた。

「ぐへぇっ!」

 みぞおちにミケの一撃が入る。

「――猫じゃろ!! それ、猫じゃろ! こっちの方が安直じゃわっ!」
「ゴホゴホ! ごほっ! そんなことはないぞ。ミケーネとかも考えたんだが、ミケーネッコの方が、外国人みたいで格好いいと思ってさ、マコーミックとかみたいで……」

 ミケーネも外国人だけどな。

「格好いい? まこーみっくみたいで格好いい? そうか~? ま、格好いいなら良いがのぅ」
「ミケさん……」
「アニタがアンニタで、ミケちゃんがミケーネッコちゃん!」

 アニカが同情の目を向けてる事には気付いていないようで良かった。アニタは相変わらずだ。
 だが、ミケとアニカは何かしらの疑念を捨てきれないようで、2人でコソコソ話し合っている。

「ユウトよ。我らは今更名前の事でどうこう言うまい。礼にお主の名を考えてやったぞ」

 嫌な予感しかしないが。

「……ありがとう。聞こうか」

 ミケとアニカがアイコンタクトをして頷き合った

「バカユートじゃ! ありがたく名乗るがいいぞ」

 捻りがない! ストレートにきた!

「……ありがたく名乗らせて頂きます」

 3者痛み分けで決着かな。アニタだけは我関せずだが……
 あとは、ギルドの場所か。あそこの恰幅かっぷくのいいおば、――お姉さんに聞いてみるか!

「そこのお姉さん!」
「――何だい?」

 早い。

「ド田舎から出て来てさ、冒険者登録したいんだけど、ギルドってどこ?」
「そんな事も知らないのかい!? 冒険者登録ってんなら、そこの冒険者ギルドに決まってんだろ?」

 すぐ目の前だった。……そう言えば、それらしい格好の奴らが出入りしているな。

「登録は何歳からとかって決まりあるの?」
「アンタ、そんな事も知らないのかい!? 冒険者は12歳からって決まってんだろ?」
「そうかー知らなかった! あとさ! この街って何て街?」
「アンタ、そんな事も知らないのかい!? 大丈夫かい? この街はダイセンさ」
「ダイセンね。ありがとうお姉さん」

「いいんだよ! それより、いくらド田舎から出てきたって言っても、物を知らなさすぎじゃないかい? 心配だねぇ。あたしゃ、そこの裏で宿屋兼飯屋をやってんだ。困った事があったら聞きに来な! 『花と火亭』のブレンダだよ!」

 なんだかんだ優しくて、気持ちのいい人だったな。『花と火亭』のブレンダか。

「よし、これで年も偽装しなきゃならなくなったな」


 名前 : バカユート               
 種族 : ヒト族                
 年齢 : 24                                 
 レベル: 13                 
 称号 : -                  
 系統 : 製作 武〈長剣〉           
 スキル: C・土属性魔法〈3〉         

 名前 : ミケーネッコ 
 種族 : 獣人 
  年齢 : 17 
 レベル: 7
 称号 : -
 系統 : 農 
 スキル: C・火属性魔法〈2〉

 名前 : アンニカ                
 種族 : ヒト族               
 年齢 : 15                 
 レベル: 4                  
 称号 : -                  
 系統 : 知識 魔〈光〉                       
 スキル: C・光属性魔法〈2〉         

 名前 : アンニタ
 種族 : ヒト族
 年齢 : 12
 レベル: 3
 称号 : -
 系統 : 農 魔〈無〉
 スキル: C・無属性魔法〈2〉


 アニタの年を5歳さば読むことで、俺以外みんな5歳上げることにした。

「アニタもじゃが、アニカの15歳も無理がないか?」
「大丈夫! 秘策があるから俺に任せろ! それに、アンニカとアンニタだろ? ミケーネッコ」
「……不安なんじゃが?」「……不安なんですけど」

 冒険者らしく見えるように、武器を出して装備しておく。

 冒険者ギルドは大きな建物で、入り口の大扉は開け放たれていて、西部劇に出てくるような木製スイングドアが中と外を隔てている。

 錆びた蝶つがいがきしむ音を立てながらスイングドアを開けると、数人がチラリと反応しただけで、ほとんどの冒険者が気付いていなかった。
 多くは依頼があるであろう掲示板に群がっていて、反対側の打ち合わせ? スペースには、ガラの悪い連中がたむろしている。

 入って正面奥に受付カウンターらしきものがいくつか並んでいるので、そこに向かっていく。

「おいおい! ここはガキの来るところじゃないぜ~。しかも獣人もいるじゃねえか!」

 早速ガラの悪い連中がちょっかいを掛けてきたな。

「早く大人になりたいってんなら俺が相手してやってもいいぜ!」

 命知らずがズカズカとやって来て、ミケーネッコの腕に手を伸ばした。
 よりによってミケーネッコの!

 バチン!

「ギャー!! な、なんだ?」

 ミケーネッコは、そいつに一瞥もくれずに、伸ばしてきた腕に小さな雷をお見舞いしていた。
 そいつは興が削がれたのか、腕をさすりながらすごすごと戻っていった。

“おお、凄い手加減じゃないか!”
“まあな! 最初にゴブリンにやったのと同じくらいでやったのじゃ”

 カウンター奥には同じ制服に身を包んだ人間が複数いたので、近くにいた女性に話しかける。

「冒険者登録をしたいんだけど、ここでいいのか?」
「はい、大丈夫ですよ。お1人ですね?」
「いや、4人だ」

「えっ?」

「4人だ」
「あ、あの……、あなた以外は12歳以下のように見えますけど」
「みんな12歳以上だ」

「……見えないんですけど」
「みんな12歳以上だ」

「……お嬢さん何歳?」
「なな」
「――なななんと! 12歳だ。な? アンニタ?」
「うん! じゅうにさい!」

 アニタの手は7を作ったままだが、12歳だ。
 ミケとアニカの、本当に大丈夫なのかという疑いの視線が俺に突き刺さっている気がする……

「本当ですか? 調べるので必ず判るんですよ?」
「本当だ」
「ちなみに、そう言い切れる根拠は?」

「そういう民族だからだ」

 ミケとアニカの、まさかそれが秘策なのかという驚きの視線が突き刺さっている気がする……
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