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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。
第59話 大公の車列。
しおりを挟む俺達は、ダイセンの冒険者ギルドの屋根からマッカラン大公国方面へ飛び始めた。
2、3分くらい飛んだところで、エンデランスの王都からマッカラン大公国へつながる街道が見えてくる。
街道沿いに飛ぶこと数分、両脇を森に挟まれている地点で、複数の馬車の長い車列が列を乱して止まっていた。
「――ん? なんだ? 騒がしいな。ちょっと様子をみようか」
「モンスターの気配もするな。血の匂いも漂っておる。……参加するか?」
「いやいや、他人の戦いに手出ししたら迷惑かも知れないからな、まずは様子見だ」
認識阻害をかけてから、高度を下げて様子を窺う。
馬車の内の1台、ひと際綺麗な馬車を30人くらいの騎士? が守るように囲い、20人ほどが2~3人1組で辺りに散ってモンスターと戦っている。
まるで漆を塗ったかのように光沢のある朱色と黒に塗られた馬車だ。窓にはカーテンが張られていて、側面には金色の紋章が入れられている。
襲っているモンスターは、恐らくハイゴブリン。それと豚みたいなイノシシみたいなモンスター、あとウルフ系かな?
「この前の遠征騎士団のクズ騎士達とは全然動きが違う。このままいけば守りきれるな」
「……そうでもないぞ?」
「何か感じるのか?」
「モンスターはまだいるし、にんげんもいるよ?」
「うむ。よく気付いたなアニタ。両脇の森に巧妙に人間もひそんでおる」
人間がいる? なんて事を考えている内に、またモンスターが出てきた。
これまで余裕があったのが拮抗してきて、馬車の守りにも数体のモンスターが攻め始めた。
更に森からモンスターが出てきたところで、危険だと判断した。
「これ以上は危ないな、介入しよう。ミケとアニタは森の中で人間達を捕まえてくれ。俺とアニカは助っ人だ」
「了解じゃ」「はい!」「お~!」
俺とアニカは、馬車を守る連中の中で最も苦戦している場所付近に降りた。
「勝手ながら、助太刀させてもらうぞ!」
騎士達は急に現れた俺達に驚きつつも、どこか安心したようだった。
「申し訳ないが頼む!」
「ああ! アニカ、まずはここに取りついているモンスター共を背後から斬っていくぞ」
「はい!」
イノシシに見えたのはボアとジャイアントボアだった。下で見ると馬より倍はデカイ。ジャイアントボアに突進されたら、騎士たちでは受け止めるだけで精一杯だったろう。
俺とアニカで馬車に取りついたモンスターは狩った。
守りの騎士達もようやく一息つけただろう。
「アニカ、まずはここの騎士達に《エリアヒール》で回復してくれ、その後は戦いに出てる騎士の負傷を回復していってくれ」
「はい」
騎士達にも伝える。
「この子はアンニカ、光属性魔法を使えるからあなた達を回復させる。あなた達も、負傷兵の回収と補充をしてくれよ?」
「わ、わかった!」
「あんな小さな子が魔法を使うのか?」
「信じられん……」
半信半疑な騎士もいたようだが、アニカが実際に《エリアヒール》を使うと、感嘆の声を上げていた。
俺は俺で助太刀回りを続けていたら、森の中からのモンスター出現が止まった。
とりあえず街道周辺のモンスターを狩り尽くして、騎士達は被害状況の確認をしている。
ミケとアニタが、それぞれ2人ずつ引きずりながら森から出てきた。
騎士達が新手かと色めき立ったが、仲間だと説明して落ちつかせる。
ミケ達が引きずって来たのは、合わせて4人。
フード付きのローブを纏った魔術師風の男と、盗賊の様な男の2人1組が2組、分かれて森に潜んでいた。
「森から人間の気配がしたから、この2人に捕まえさせに行かせたんだ」
「こ奴らがモンスター共をけしかけておったのじゃろ。じゃがな、ゆう」
「――どうした? ミケーネッコ」
「ば、バカユートよ。こ奴ら自分で死によったぞ? 薬でも噛んだかの?」
「こっちも~」
騎士達は数班に分かれて、馬車防衛と手掛かりの捜索に森へ入った。
結局、騎士達に死者は出なかった。重傷はいたらしいが、アニカが回復済みだ。
残念ながら、死んでしまった馬が数頭いたようだ。
モンスターに傷つけられた馬や、驚いた時に負傷した馬も、アニカに回復させていった。
アニタは無邪気に馬を撫で回っている。
「この馬達、フィジカルアップを掛けてあるな」
「ほう、気付きましたかな?」
――ありゃ! 心の中で言ったつもりが、声に出ちゃってたか。
騎士連中の隊長的な騎士が近づいてきた。
「バカユート殿、遅くなって済まない。我々はマッカラン大公国騎士である。この度の助力に深く感謝する。ひとまず些少ではあるが、礼として受け取ってくれ」
ジャラッと差し出してきた袋には礼金が入っているのだろう。しかし、ミケ達以外にバカユートって言われると何か傷つくな……
「そんなつもりで助勢した訳ではないが、ありがたく頂戴するよ。――あと、あなた達は《フィジカルアップ》は使えるようだから、俺は荷台や客車に《グラビティ・コントロール》で軽減を掛けてやろう。これで、減ってしまった馬の代わりにはなるだろ?」
「おお! そのような中等魔法を使えるのか! 頼む。重ね重ねの助力、本当に痛み入る」
ギルド受付の子のように、胸に手を当てて頭を下げてきた。
それなりの地位があるだろうに、俺みたいな素性の知れない奴に素直に頭を下げて礼が言えるんだな……
そこへ、この騎士の部下がやって来てなにやら耳打ちをした。
「我らの主が、あなたに直接お礼を述べたいそうです。ご足労いただけますか?」
ミケ達に待っててくれるように伝えて、案内の騎士に先導されて行くと、朱色の扉が開けられ、どうぞと中に入るように促された。
どこぞの大貴族だ? とか、フリスの様な人間だったらどうしよう等考えながら、ステップに足をかけて乗り込んだ。
「この度は、本当にありがとう。やはりユウト殿であったか」
――ん? ユウトなんて名乗ってないぞ?
声の主に目をやると、キースだった。――大公!
改めて、キースと向かい合って座る。
室内はそれぞれ3人ずつは座れるであろうシートが向かい合っていて、従者らは人払いされている。
「礼なら、さっき騎士さんからさんざん言われましたよ。礼金まで頂いてしまって……」
「いやいや、ユウト殿のおかげで大事な命が失われずに済んだのだから当然だよ」
「でも、あなたが出れば楽に倒せたのでは?」
「ははっ! それはそうだが、そうすると彼らの名誉や矜持を傷つけてしまうからね」
ステータスを覗いたわけじゃないが、バハムートの最側近だったなら、余裕でゴーシュ以上の強者だろう。それを自覚したうえで、騎士達の名誉も考えてやれる出来た人間だ。
「――それで、騎士達の報告によれば、そもそもモンスターの出方に違和感があったし、ユウト殿のお連れさんが捕まえてきた者の事を踏まえれば……」
「確実に人為的に仕組まれた。と?」
「そうだね。それに自害した者たちは実行役にすぎないだろうね。指示した人間がいるはずだ。それをたどれば……」
そう言って、俺に目を合わせてきた。
「……フリスか? 確かにあいつならやりそうだ」
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