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第3章 カストポルクス、真の敵。

第93話 魔王城突入! ( 1/2 )

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 朝になって、気持ちも新たに魔王の城を目指す。

「おっ! 見えてきたぞ」
「これまたデカイ城じゃな」
「汚れですかね? 黒いですね」
「わ~! 敵もいっぱいいるよー!」

 見えてきたのは、クレーターの様な深い大穴の中心に、底から切り立った地面があり、その上にドンと1つの大きな黒い城。赤黒くも見える。
 360度を深い空濠からぼりで囲まれた状況で、城の正面に橋が架けられている。
 城はパッと見、サグラダ・ファミリアのように全ての屋根が尖っている。
 尖った屋根に大型モンスターの死骸が刺されているモノもあり、腐肉ふにくや血が屋根伝いにしたたっている。
 城の周りにモンスターの白骨が転がっていたりもするな……

「……趣味わっる!」


 城につながる唯一の道である橋の手前には、人だかり――魔人だかり? ができている。
 パッと見ただけでも、揉めている事は解かった。

「ここでも小競り合い……。魔人族は身内同士でも争うのが好きなのか?」

 ここでも認識阻害をかけ、聞き耳を立てる。

「ここを通せ! メルガン様の城なのに、なぜお前達第3軍が仕切っているんだ!」
「そうだっ! メルティナ様もここにいるんだろう? 中に入れろ! メルティナ様に会わせろ!」

「ダメだと言ってるだろ! 今はテミティズ様と重要な会合中だと言っているだろうがぁ! 何回言えば分かるんだ! このボンクラ共が!」
「なんだと~!? だからってお前達がここを仕切っている理由にはならないだろっ! 俺達はメルガン様の親衛隊だぞ!」
「そうだ! なんで第3軍が城に入れて、第2軍が入れないんだ! おかしいだろっ!」
「うるせえ! そういう命令なんだよ! 黙って従ってろ!」

 どうやら、魔王メルガンの直下の魔人達とメルティナの第2軍の魔人が城に入るのを、第3軍の魔人達が止めているようだ。
 橋の前も、城の入り口前も第3軍らしき魔人達が隊列を組んで守りを固めている。入り口の門も固く閉ざされている。

「こ奴ら、まとめて殲滅するか?」
「どうするか……ここまでの道のりを考えると、どうも第3軍が怪しいんだよなぁ」
「それがなんじゃ?」
「とりあえずさぁ、入り口前と橋を塞いでる第3軍の連中を排除して、他は突っかかってきたら相手すればいいんじゃないかな」
「ほぉ~」

 俺は空中でピルムを含む4人に考えを伝えて、アニカ・アニタ・ピルムの3人と俺・ミケの2組に分かれる。
 ピルムは俺に言われた通りに、上空から一直線に橋に向かった。アニカは穴の内側、城の入り口方面の上空に待機。アニタは穴の外側の上空に待機だ。
 巨体のドラゴンであるピルムが、急降下の勢いのまま橋に着地する。

 ドーーーンッ! メリメリメリ――バリーンッ! バリバリッガラガラガラ……

 木組みと石で造られた橋、いくら頑丈に作っていてもピルムの重さには耐えられなかった様だ。

[あれ? なんで? っきゃーーーー!! 落ちちゃう~! アーーーーレーーーーー]

 勢い余って、ピルムが瓦礫と一緒に穴へ落ちていってしまった。
 ピルムが橋に着地する風圧で、橋の両端を固めていた魔人達が吹き飛ばされ、城の入り口付近にスペースができた。

「うおー! な、何だ?」
「ドラゴンが橋を壊しやがったぁ!」
「体勢を立て直せー!」

「《エクスプロージョン》!」

 ドバーーーーーーァァァァァアアアアアアアアアン!!!!

 今度は俺のエクスプロージョンで、門を破壊する。

「ぎゃー!」「アチーッ!」

 爆風を直接浴びた入り口前の魔人達が穴の方に吹き飛ばされ、大半が穴に落ちて行った。

「ピルムは大丈夫かのう?」
「まさかピルムも落ちていくとは思わなかった……。けど、自分で飛んで戻れるだろ」
「加減ができるか不安じゃとは言っていたが、できなかったみたいじゃのぉ」
「まっ、作戦は伝えてあるし、アニカとアニタもいるから心配ないだろ。俺達は俺達で行くぞ!」
「うむっ!」

 俺とミケは壊れて開いた門から城に突入する。
 城の外に関してはアニカ達に任せた。

 アニカ達に伝えた作戦はシンプルで、俺とミケが城に入った後は、アニカが城の入り口側にいる魔人族を、アニタが穴の外側にいる魔人族をそれぞれ相手にするというものだ。
 ピルムは中間にいて、両方にちょっかいを出す。
 アニカにも《フライ》はかかっていて、全員飛べる状態なので、不測の事態があっても臨機応変に対応できるだろう。あいつらは強いしな。


******魔王城・魔王の間


 魔王の間は広いホールになっており、奥には階段5段分の高さの台座があり、玉座が置かれている。
 玉座には片眼鏡モノクルの魔人の“男”が足を組んで座っている。
 右腕を肘掛けに乗せ、背もたれに体重を預けている。

 左手には鎖が握られ、その鎖は2人の女魔人の首輪に繋がっていた。
 長身ながら魔人族としてはやや細身のその男は、魔人族らしからぬ赤紫色の髪をオールバックにまとめていて、指で肘掛けを落ち着きなく叩いている。

 その魔人は、10日ほど前のエンデランス王国王城謁見の間での出来事を思い返していた。


******玉座の男

 トントントンコンコンコツトントンッ!

「ちっ! 次元転移門の消滅によってガンダーの帰還が無くなったのは僥倖ぎょうこうだったが、エンデランスでの失敗は痛いな……」

 もう少しでヒト族の国を1つ手に入れることができたのに……あの邪魔してきた男、何者だ?
 メルガンとメルティナ、それに俺様の3人を相手にして、引かないどころか危うくこちらがやられるところだった……
 それにドラゴンの襲撃も不発に終わったのも許せん! ハウラケアノスめ、まともな龍人を寄越せないのかっ!

 ダンッ!

「くそっ! 忌々しい。お前達がまともに機能していれば返り討ち出来たかもしれんのに!」

 ジャッ! ジャラッ!

 鎖を引っ張っても悲鳴の1つも上げないか。
 ハウラケアノスがどこからか手に入れ、俺様に寄越した禁呪具“隷属の首輪”。
 使用者の魔力量に応じて精神支配の度合いが高まるという……
 俺様にもっと魔力があれば、より深く支配できるものを……

「いや、俺様がこいつらを隷属させている事実は変わらない! コイツらの武力と魔法、全て俺が使ってやる!」

 そして俺様がこの世界の王となるのだ!!
 ――ん?

 俺の腹心が走ってくる。

「どうした?」
「た、大変です!」
「何があった?」

「はい、閉ざしていた門が破壊され、何者かが城内に侵入した模様です!」
「なにぃ!?」

「いかが致しましょう? テミティズ様」
だろ!」
「しっ! 失礼しました! 魔王様!」
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