結婚を控えた公爵令嬢は、お伽噺の“救世の神獣”と一心同体!? ~王太子殿下、わたしが人間じゃなくても婚約を続けてくださいますか?~

柳生潤兵衛

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第2章 とんでもない異変!編

49.女ふたり、恥じらう

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「ふわぁ~~」

 わたしとアン、二人揃って欠伸あくびが止まらない……

 今朝は早暁そうぎょうに起きて野営地の撤去を待って出発し、街道の分岐でカークランド領へ向かうお兄様の隊と別れた。
 この二日間は、普段ならまだまだ眠っている時間に起きているけれど、就寝を早めているし天幕も快適にしてもらっていたので、それが理由では無い。まだ午前中だし……

「オリヴィー、やっぱり天幕での生活は厳しかったかい? 馬車を停めて少し休むかい?」
「なんだぁオリヴィア? 寝不足なのか? 欠伸なんぞして、緊張感のない奴め」

 エド、心配してくれてありがとう。でも違うの。原因は――
 そう。呑気に話しかけてくる銀狼様……貴女のせいですっ!

 天幕は馬車の客車がすっぽり入るくらい広くて、アンや銀狼様、ブッチと居ても全然余裕のはずなんです!
 二重の天幕で冷え込みにも対応していて、早寝もして……万全の態勢だったはずなんですっ!

 昨日は、昼間にこの件について考えないように話さないようにしていたから、銀狼様には伝わっていないですけど……
 貴女、お兄様にお酒の用意をさせましたね? そして飲みましたよね?
 貴女、お酒を飲んだらどうなります? 馬以上の大きさになりますよね?

「うぅっ」

 いくら広い天幕とはいえ、人間二人にワンちゃん一匹、ちょっとしたトランク幾つか。そこに大馬一頭が現れたらどうでしょう?
 ぎゅうぎゅう詰めになりますよねぇ? そこに寝返りを打たれたら尚更ですよねぇ?

「ぐぬっ!」

 それにイビキ! 大きな大きなイビキ!
 天幕の外で警備に就いてくれていた騎士の方は、わたしかアンのイビキだと思ったかもしれませんし……なによりわたし達がぜんっぜん眠れなかったんですのよねえ!

「ぐはっ! わ、悪かった……」
「アン? どうです、許せますか?」
「ふぁ……はい?」

 わたしが頭の中で銀狼様を詰め銀狼様は言葉にして謝るという、他の人にしたら何が起こっているか分からない状況の中、急に話を振られたアンが欠伸を堪えながら戸惑う。

「だから悪かったってぇ」

 昨日一昨日は天幕が広かったのでまだ良かったけれど、今日からは普通の天幕になるからお酒は厳禁だと銀狼様に伝えると――

「酒なしだと!?」
「――何か不都合でも?」
「い……いや、何でもない。酒は我慢……するよぉ」

 銀狼様がシュンと落ち込んで言うので、少し可哀そうな気もしてきたので、人参をぶら下げることにする。

「銀狼様、事が済んだら……蜘蛛を退治することが出来たら、お酒でお祝いしましょうね?」
「酒で!? おう、サクッと倒しちまおう!」


 昼前には、地図で見た森林地帯が遠目に見えてきた。
 緑の濃い低山だけれど裾野が広く、ここからなだらかな登り勾配が続く。

 集落も少なくなって見通しも利かなくなり、道幅も馬車一台が通るので精一杯というほど狭まってきた。
 対向馬車とすれ違える退避場所も間隔が長くなってきたので、シド隊の人員が徒歩で先を確認し、対向馬車が来ないことを確認しながら進む。

「客車も荷馬車もここまでが限界だね」

 もうすぐ森林地帯に入るというところで、道幅が更に狭くなると報告を受けたエドとシドが馬車移動を諦める決断をした。
 手近なスペースで昼食をとり、目立たない場所に移動した客車や荷台を枯れ木の枝や切り落とした枝葉で隠すように覆う。

 馬は八頭。エドとわたし、それにアンは騎乗して移動するのだけれど、わたしとアンは乗馬したことが無いので――
 わたしはエドと、アンはシドと二人乗りすることに。
 当初はシドがアンの乗った馬を引く形だったけれど、「スカートで横乗りするアンが落馬したらどうするの!」とわたしが主張してシドと二人乗りにさせたの。
 残りの六頭には荷を背負ってもらう。
 立派な馬なのに駄馬――荷馬――のようなことをさせて、お馬さんに申し訳ないわ……

 そして!

 馬に乗るということで……わたしは偽装を解くことにするわ! 
 アンに目配せをし、枝葉で隠した客車の陰へ回り込んでスカートを脱ぐ。
 エドはどんな反応をするのか楽しみにしつつ、陰から出る。

「オリヴィー、用は済ん――えっ!? え?」

 見事な二度見!
 シドと馬の準備をしていてわたしに背を向ける位置にいたエドが、キュロット姿のわたしを見て驚きのあまり固まってしまったシドや隊員の様子から、わたしが戻ったと振り向いて声を掛けて……目を止めて……逸らして……もう一度凝視。
 完璧な二度見。

「オ、オオ、オリオリ!」

 我が国のみならず近隣諸国でも見られない女性のキュロット姿に、エドはものの見事に動揺していたけれど――
 わたしの姿を見て固まっているシドや隊員を手で制して、全員に目を逸らさせた。
 その上でわたしに近づいてきて、耳元に小声で囁く。

「こ、この格好……ど、どういうつもりなんだい? 」
「これ? 動きやすくていいでしょう?」
「動きやすいって……。男の恰好じゃないか」

 わたしは普通の声量で返しているのに、エドはまだ小声を続ける。

「そういう決まりはないわ。確かに淑女らしくは無いかもしれないけれど、動きやすい服装は無いか考えてこれに至ったのよ。大勢の前に立つわけじゃ無し……」
「ううっ。それはそうだけど……」
「それに、ドレス姿で怪物に挑んで『動き難くて死んでしまいましたぁ』ってなるよりは良いでしょ?」
「そ、そうだけど……」

 言葉に詰まって考え込むエドにもうひと押しと、昨日も一昨日もスカートで隠していただけでキュロットは穿いていたと伝えると、「それだ!」と何か閃いたみたい。
「いいからいいから」とわたしの手を引いてもう一度客車の陰へ。

 アンに「オリヴィーにその上からスカートを穿かせて」と、わたしにスカートを穿かせて、そして「裾を撒くり上げて」「裾を腰で結んで固定して」と指示して――
 出来あがったのはキュロットの上に短いスカートを穿いた様な格好のわたし。
 アンの――エドの成すがままにされたけれど……こっちの方が恥ずかしいっ!
 スカートを穿いているって意識がある分、撒くり上げるなんて……こっちの方が淑女じゃない気がして恥ずかしい!

「よし。これで妥協しよう」

 ……恥ずかしい!

「アンタら、さっきから何やってんだ?! いい加減待ちくたびれたっつうの。早くしな!」

 銀狼様の一喝で、反論する間もなくこの格好で出発することになっちゃいました。

 アンはシドの前に横乗り――というか横抱きされるように馬に乗り、意中の男性と触れている、顔が近いという気恥ずかしさから、赤面し両手で顔を覆っている。
 わたしは一応キュロット姿なので、エドの前で馬に跨って後ろの彼に支えられて騎乗するけど、やっぱりスカートが捲れていることが恥ずかしくて、アンと同じく赤面して顔を手で覆っている。

 ……恥ずかしいの!

 銀狼様は胴の両脇に荷を固定して運んでくれている馬のうち、一頭の背にすっくと凛々しく立ち乗りし、ブッチは楽しそうに地面を無駄に駆け回りながら付いてくる。

 緩斜面をゆっくりと登る馬の背からは、森の奥へと続く被害が見渡せた。樹木が黒く立ち枯れる規模が大きくなっている。
 一本だけ立ち枯れていたものが、地面を伝って隣合う木々も巻き込んで枯らせていたり、数本の樹を巻き込んで薙ぎ倒されていた。
 浄化しながら進んでいるけれど、必要となる粉の量が少し増えているわね。

 そして更に進むと――
 樹の頂点を、あの怪物が出したであろう蜘蛛の糸が一本、たわみながらジグザグと森の奥へ向けて線を描いて走っていた。

「やっぱりアイツは谷を根城に……」
「銀狼様の仰った通りね」

 馬上から樹冠と糸を見上げながら、エドと言葉を交わす。
 渓谷に……蜘蛛の怪物に近付いているのね……
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