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7.探しましょう!
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陛下の口から出た『キアオラ』の名は、わたしのために色々調べたり、伝手も当たったであろうお父様にも初耳のようです。
「キアオラ……。そ、その男はどこに!?」
お父様も身を乗り出し、陛下やエドに答えを求める視線を送る。
「落ち着くがいい、カークランド卿。まずは――」
陛下も、少人数かつ極秘裏に解決策を探るうちに、ひとつの情報に触れる。
『王都の外れの深き森に、“呪術”なるものを研究する一派あり』
それはあまりに荒唐無稽で、胡散臭く、無視すべきものであったけれど、陛下は愛するエドの為、藁にもすがる思いで頼ることにしたそうです。
陛下の手の者が捜索したところ……
森の奥深くに、確かにそのような一派が存在した。
その代表を、王都外の民家を装った“王家の隠れ家”に連れていき、富裕商人の子息に成り済ましたエドを診せたそうです。
『これは、おそらく我らが師匠の“呪術”だと思われます』
にわかには信じられない返答だったそうです。
そして、実際に現場にいたエドが話を引き継ぐ。
「信じる事は難しかったけど、原因が分かるのなら解決策もあるはずだと問えば、術者本人ならば解けるはずだという……」
ならばっ! とは思うけれど、上手くいっていればエドはパーティーで犬に変身することも無かっただろうし、わたしも……
「では、その“術者とおぼしき師匠”はどこだと問い詰めたのだけれど、十年近く行方知れずとのことだった」
「十年?」
わたしや家族がこの現象に気付いたのが八年ちょっと前だから、同一人物によるものの可能性も無きにしも非ずね。
「自分の意思で消えたのか、事件・事故に巻き込まれたのかは分からないが、忽然と姿を消したままだそうだ」
「もっ! もし、その方が亡くなっていた場合……解決しないという事ですか?」
急に、得も言われぬ不安に襲われる。
「それは、その男では分からないと言っていた」
キアオラは、“呪術”に関して飛び抜けて詳しかった。
だからその男も他の弟子たちも、キアオラを師と仰ぎ、彼と共に森の奥でほぼ隠遁生活のような研究活動をしていたそうです。
といっても、人を犬にするとかではなくて、例えば“雨乞い”や“狩りの獲物を弱らせる呪い”を学んでいたそう。
「ただキアオラ本人は、鍵付きの重そうな本を肌身離さず持ち歩き、弟子たちにも明かさぬ研究を隠れて進めていたそうだ」
秘密の研究……
「興味深かったのは、“狩りの獲物を弱らせる呪い”の方で、――」
追っている獲物の足跡に槍や剣を突き刺して、その獲物の逃げ足を鈍らせる呪いの発展系がある。
毛や爪など、相手の身体の一部だった物を手に入れて、儀式を行って、相手に影響を及ぼすものがあるそうです。
「だけどその弟子は、そういう話を聞いたことがあるだけで、実際の方法や儀式を教えられたわけではないという」
結局そのお弟子さん達は、“呪術”の表面的な事しか分からないまま、師の帰りを待っているだけみたいね。
「うーん……」
師匠と弟子の能力の乖離……それは、もしかしたら弟子とさえ呼べない程の大きな差。
エドやわたしの問題の解決につながるかもしれない人物がいるのに、十年以上も行方不明だという事実に、無力感さえ感じてしまう……
聞けば、そのキアオラは七十歳近い高齢。
王国貴族の平均的な寿命は六十数歳と言われ、平民であればもっと低いのは自明の理。
陛下も捜索の人間を送り込んでいるとは思うけれど、生きているかも疑わしいのよね……
会議室には『手詰まりか……』という空気に包まれる。
なにかいい手は無いかしら?
捜索に長けた人間以上の何か……
もし本当に呪術があるのなら、違う超常な能力もあったりしないかしら?
物を透かして見られるとか、遠くの物を触れられるとか、遠くの音が聞き分けられるほど耳がいいとか、鼻が異常に利くとか……
――! 鼻?
鼻なら十分に利くじゃない! わたしなら利くわ!
「探しましょう!」
みんなが手詰まり感に俯いてしまい、長いこと静まっていた会議室で、わたしが大きい声とともに立ち上がったので、みんなが驚いて顔を上げる。
「探すだって? オリヴィー、何を言っているんだ」
「オリヴィア嬢。私の方でも優秀な人員を使って探しているんだ。内容が内容だけに人員を増やすわけにはいかないが。……これ以上どうやって?」
「オリヴィア! 陛下は我々の知らなかった情報も掴んでおいでだった。その陛下が最善を尽くして下さっているのだ。お任せしたほうがいい」
エドと陛下のお言葉はごもっともです。お父様のおっしゃることも。
ですが、捜索の適任者は貴方がたの目の前にいますよ!
「同じ方法では、陛下がお使いの方以上の人間はいないでしょう。ですが、違う方法なら話は別です!」
「違う方法? 何だい?」
「オリヴィア嬢。何かあるのか?」
「……嫌な予感がする」
なぜかお父様が頭を抱えたわ。
でも、他のみんなは顔を上げて、視線を私に向けている。
「ここを使うのです!」
わたしは、人差し指で自分の鼻をツンツン突っつく。
「――! 鼻!」
「鼻がどうした?」
「あー、やっぱり!」
「キアオラ……。そ、その男はどこに!?」
お父様も身を乗り出し、陛下やエドに答えを求める視線を送る。
「落ち着くがいい、カークランド卿。まずは――」
陛下も、少人数かつ極秘裏に解決策を探るうちに、ひとつの情報に触れる。
『王都の外れの深き森に、“呪術”なるものを研究する一派あり』
それはあまりに荒唐無稽で、胡散臭く、無視すべきものであったけれど、陛下は愛するエドの為、藁にもすがる思いで頼ることにしたそうです。
陛下の手の者が捜索したところ……
森の奥深くに、確かにそのような一派が存在した。
その代表を、王都外の民家を装った“王家の隠れ家”に連れていき、富裕商人の子息に成り済ましたエドを診せたそうです。
『これは、おそらく我らが師匠の“呪術”だと思われます』
にわかには信じられない返答だったそうです。
そして、実際に現場にいたエドが話を引き継ぐ。
「信じる事は難しかったけど、原因が分かるのなら解決策もあるはずだと問えば、術者本人ならば解けるはずだという……」
ならばっ! とは思うけれど、上手くいっていればエドはパーティーで犬に変身することも無かっただろうし、わたしも……
「では、その“術者とおぼしき師匠”はどこだと問い詰めたのだけれど、十年近く行方知れずとのことだった」
「十年?」
わたしや家族がこの現象に気付いたのが八年ちょっと前だから、同一人物によるものの可能性も無きにしも非ずね。
「自分の意思で消えたのか、事件・事故に巻き込まれたのかは分からないが、忽然と姿を消したままだそうだ」
「もっ! もし、その方が亡くなっていた場合……解決しないという事ですか?」
急に、得も言われぬ不安に襲われる。
「それは、その男では分からないと言っていた」
キアオラは、“呪術”に関して飛び抜けて詳しかった。
だからその男も他の弟子たちも、キアオラを師と仰ぎ、彼と共に森の奥でほぼ隠遁生活のような研究活動をしていたそうです。
といっても、人を犬にするとかではなくて、例えば“雨乞い”や“狩りの獲物を弱らせる呪い”を学んでいたそう。
「ただキアオラ本人は、鍵付きの重そうな本を肌身離さず持ち歩き、弟子たちにも明かさぬ研究を隠れて進めていたそうだ」
秘密の研究……
「興味深かったのは、“狩りの獲物を弱らせる呪い”の方で、――」
追っている獲物の足跡に槍や剣を突き刺して、その獲物の逃げ足を鈍らせる呪いの発展系がある。
毛や爪など、相手の身体の一部だった物を手に入れて、儀式を行って、相手に影響を及ぼすものがあるそうです。
「だけどその弟子は、そういう話を聞いたことがあるだけで、実際の方法や儀式を教えられたわけではないという」
結局そのお弟子さん達は、“呪術”の表面的な事しか分からないまま、師の帰りを待っているだけみたいね。
「うーん……」
師匠と弟子の能力の乖離……それは、もしかしたら弟子とさえ呼べない程の大きな差。
エドやわたしの問題の解決につながるかもしれない人物がいるのに、十年以上も行方不明だという事実に、無力感さえ感じてしまう……
聞けば、そのキアオラは七十歳近い高齢。
王国貴族の平均的な寿命は六十数歳と言われ、平民であればもっと低いのは自明の理。
陛下も捜索の人間を送り込んでいるとは思うけれど、生きているかも疑わしいのよね……
会議室には『手詰まりか……』という空気に包まれる。
なにかいい手は無いかしら?
捜索に長けた人間以上の何か……
もし本当に呪術があるのなら、違う超常な能力もあったりしないかしら?
物を透かして見られるとか、遠くの物を触れられるとか、遠くの音が聞き分けられるほど耳がいいとか、鼻が異常に利くとか……
――! 鼻?
鼻なら十分に利くじゃない! わたしなら利くわ!
「探しましょう!」
みんなが手詰まり感に俯いてしまい、長いこと静まっていた会議室で、わたしが大きい声とともに立ち上がったので、みんなが驚いて顔を上げる。
「探すだって? オリヴィー、何を言っているんだ」
「オリヴィア嬢。私の方でも優秀な人員を使って探しているんだ。内容が内容だけに人員を増やすわけにはいかないが。……これ以上どうやって?」
「オリヴィア! 陛下は我々の知らなかった情報も掴んでおいでだった。その陛下が最善を尽くして下さっているのだ。お任せしたほうがいい」
エドと陛下のお言葉はごもっともです。お父様のおっしゃることも。
ですが、捜索の適任者は貴方がたの目の前にいますよ!
「同じ方法では、陛下がお使いの方以上の人間はいないでしょう。ですが、違う方法なら話は別です!」
「違う方法? 何だい?」
「オリヴィア嬢。何かあるのか?」
「……嫌な予感がする」
なぜかお父様が頭を抱えたわ。
でも、他のみんなは顔を上げて、視線を私に向けている。
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わたしは、人差し指で自分の鼻をツンツン突っつく。
「――! 鼻!」
「鼻がどうした?」
「あー、やっぱり!」
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