11 / 16
11.キアオラの確保と、ワンちゃん
しおりを挟む
エドは確信を得ている。
(エドが言うなら決まりね)
(いや、僕たちは二人で捜索しているんだ。オリヴィーにも確認して欲しい)
わたしは大きいので、小屋には近づけないので、大きく回り込むように風下に移動して、草むらに伏せて潜みつつ鼻に神経を集中させる。
目を瞑って視覚情報を遮断し、風が小屋を撫でる音や草を揺らす音も気にならない程に鼻に集中する。
森からのニオイも意識して排除する。
窓やドア・壁の隙間から、筋のような空気の流れに乗って運ばれてくるニオイは、二人? の人間のニオイと一匹の犬のニオイ。
お酒と干し肉らしきニオイ。少し腐った臭いもするわね。
でも……このニオイのなかのキアオラ臭は極薄い。
風がふわっと揺れると、来た!
猛烈なキアオラ臭! 戻しそうになるほどの濃密なニオイ!
目を開き、懸命にニオイの出所を探す。
ニオイを嗅ぎつつ、小屋に目を凝らす……
(低いところから出ているわね……地下?)
(そう! おそらくあの小屋には地下があって、通気口からキアオラのニオイが漏れている)
(エドは通気口の場所も分かった?)
(うん。気絶するくらいの臭いがしていたよ……)
あのニオイをモロに嗅いだのね……ご愁傷様。
とにかく、エドに続いてわたしも確信を得たわ。
地面に降ろしていたエドとお互いに目を合わせて頷く。
エドの首を咥えたわたしは、音をたてないように、見つからないように、来た方向へ引き返す。
普段の捜索時には、けっして戻る動きはしなかったのだけれど、今回は戻る。
鬱々とした森を引き返していると……
まだ距離の残る遠くの巨木の陰から、シドが現れて、彼も周囲を窺いながら近づいてくる。
シドと目が合った気がするので、頷いて見せる。
勘付いてくれるといいのだけれど……
「殿下、オリヴィア様」
シドが喋った! 初めて声を聞いたわっ!
これまで、エドと話しているらしき姿は見ていたけれど、ついぞ聞く事の無かったシドの声!
アンと、どんな声色なのだろうと盛り上がっていたシドの声!
低いわけではないけれど、落ち着いたいい声ね。
「進展があったのですね?」
普段と違う行動を取ったわたし達の意図を読み取ってくれたのね?
地面に降ろしたエドもわたしも、シドに頷いて見せる。
「このまま“隠れ家”に戻りたいところでしょうが、間も無く時間です」
時間とは、もちろん変身の解ける時間……
シドは、背負っている袋からシーツのような大きな布を三枚取りだすと、一枚を地面に敷いて「オリヴィア様はこちらの上にどうぞ」とエスコートしてくださる。
「ありがとう」と頷いて布の上に進む。
犬だけどね!
エドは男性だから、草むらのまま。少しでもシド達の荷物を軽くする為に、敷物は断わっていた。
そして、もうひとりの護衛から瓶のお酒を二本受け取り、わたし達の足元へ丁寧に置いてくれる。
瓶を手渡した護衛の姿はもう見えなくなった。
「失礼します」
シドがそう言うと、残りの布を開いてわたしとエド、それぞれにふわっと被せる。
この状態で変身が解けるのを待つの。
解けたら、足元のお酒を自分でかけて、また犬に戻る。
けれど、今回はエドか私、先に解けた方がシドに伝える。「見つけた」と……
じっと時を待っていると、わたしの方が先に変身が解けた。
まずは、布に隙間ができて、外から見えていないか確認。
だって、裸よ? 見えていたら恥ずかしいじゃない?
……大丈夫。隙間は無い。
「シド? 聞こえますか?」
……返事がない。聞こえていないのかしら?
「……はい」
良かった! 聞こえているわね。
「この先の小屋に地下があって、そこにキアオラもいるわ」
「……はい」
「では、ワンちゃんになりますね?」
「……はい」
ワンテンポ遅いわね! 返事!
わたしがお酒を浴びていると、今度はエドの変身が解けたようね。
フワッと犬になって布から顔を出すと、エドは布を腰に巻いてシドに話しかけるところだった。
男性っていいわね? 上半身が露わになっても、それほど気になさらないものね……
それにしても、エドはお洋服を着ているとスラットして見えるけれど……結構胸板が厚いのね。
見ていない振りをして、横目で堪能する。……役得ね!
「シド。オリヴィーが言った通りだ。確実にいる」
「はっ! すぐにキアオラ確保の検討に入ります。殿下、帰路は馬車もこちらに向かわせますので、途中まではご足労願います」
「わかった」
なぁに? シドったらスラスラ話せるじゃないのー!
わたしの時の返事の遅さは何だったの?
そして、エドもワンちゃんに戻って、足場の悪い中わたしの前に来て、ちょこんとお座り。
首を咥えてもらいたくてウズウズしている。
……かわいい!
渋々シドから予備の酒樽を首に着けられて、帰路に。
街道沿いの植物を掻き分けて進んでいると馬車が到着し、シド達が周囲の耳目無しの確認をするのを待ってから乗り込んで“隠れ家”へ帰る。
「お嬢様、殿下。お帰りなさいませ。……シド様も」
“隠れ家”にはカークランド家の馬車も待機しているので、二台に分かれてわたしの家の小屋に向かう。
途中で人間に戻っちゃうから、エドと同じ馬車に乗れないのは残念……
アンもシドと馬車が分かれるので残念そう。
そうだ! シドの声を聞いたことを伝えてあげなくちゃ!
うちの敷地の拠点に帰ったわたし達は、エドが陛下に報告をし、キアオラ翁の確保作戦の立案と実行をお任せする事にして、その日は解散となりました。
わたしがいくら作戦に参加したいと言っても、足手まといになるだけでしょうから、控えましょう……
数日後、極秘裏に作戦が決行され、キアオラは無事に確保された。
首謀者が不明の為、王城や牢獄に連れて行った場合、情報漏洩や隠滅のおそれがあるので、やはりカークランド邸の拠点に連れてくることに。
キアオラの他に、小屋にいた二人の内ひとりは激しい抵抗の末に死亡、もうひとりは確保して“隠れ家”に連行されているそう。
拠点の小部屋がキアオラの拘留場所に充てられた。
そして、あの小屋にいたワンちゃんも連れて来られていました。
エドと同じ種類っぽい成犬だけれど、毛色はやや濃いわね。
とても人懐こそうなワンちゃんで、尻尾をブンブン振る子。
キアオラの取り調べの為に、エドとシドは毎日こちらに来るので、わたしは嬉しい。
ついでにアンも嬉しそう。
(エドが言うなら決まりね)
(いや、僕たちは二人で捜索しているんだ。オリヴィーにも確認して欲しい)
わたしは大きいので、小屋には近づけないので、大きく回り込むように風下に移動して、草むらに伏せて潜みつつ鼻に神経を集中させる。
目を瞑って視覚情報を遮断し、風が小屋を撫でる音や草を揺らす音も気にならない程に鼻に集中する。
森からのニオイも意識して排除する。
窓やドア・壁の隙間から、筋のような空気の流れに乗って運ばれてくるニオイは、二人? の人間のニオイと一匹の犬のニオイ。
お酒と干し肉らしきニオイ。少し腐った臭いもするわね。
でも……このニオイのなかのキアオラ臭は極薄い。
風がふわっと揺れると、来た!
猛烈なキアオラ臭! 戻しそうになるほどの濃密なニオイ!
目を開き、懸命にニオイの出所を探す。
ニオイを嗅ぎつつ、小屋に目を凝らす……
(低いところから出ているわね……地下?)
(そう! おそらくあの小屋には地下があって、通気口からキアオラのニオイが漏れている)
(エドは通気口の場所も分かった?)
(うん。気絶するくらいの臭いがしていたよ……)
あのニオイをモロに嗅いだのね……ご愁傷様。
とにかく、エドに続いてわたしも確信を得たわ。
地面に降ろしていたエドとお互いに目を合わせて頷く。
エドの首を咥えたわたしは、音をたてないように、見つからないように、来た方向へ引き返す。
普段の捜索時には、けっして戻る動きはしなかったのだけれど、今回は戻る。
鬱々とした森を引き返していると……
まだ距離の残る遠くの巨木の陰から、シドが現れて、彼も周囲を窺いながら近づいてくる。
シドと目が合った気がするので、頷いて見せる。
勘付いてくれるといいのだけれど……
「殿下、オリヴィア様」
シドが喋った! 初めて声を聞いたわっ!
これまで、エドと話しているらしき姿は見ていたけれど、ついぞ聞く事の無かったシドの声!
アンと、どんな声色なのだろうと盛り上がっていたシドの声!
低いわけではないけれど、落ち着いたいい声ね。
「進展があったのですね?」
普段と違う行動を取ったわたし達の意図を読み取ってくれたのね?
地面に降ろしたエドもわたしも、シドに頷いて見せる。
「このまま“隠れ家”に戻りたいところでしょうが、間も無く時間です」
時間とは、もちろん変身の解ける時間……
シドは、背負っている袋からシーツのような大きな布を三枚取りだすと、一枚を地面に敷いて「オリヴィア様はこちらの上にどうぞ」とエスコートしてくださる。
「ありがとう」と頷いて布の上に進む。
犬だけどね!
エドは男性だから、草むらのまま。少しでもシド達の荷物を軽くする為に、敷物は断わっていた。
そして、もうひとりの護衛から瓶のお酒を二本受け取り、わたし達の足元へ丁寧に置いてくれる。
瓶を手渡した護衛の姿はもう見えなくなった。
「失礼します」
シドがそう言うと、残りの布を開いてわたしとエド、それぞれにふわっと被せる。
この状態で変身が解けるのを待つの。
解けたら、足元のお酒を自分でかけて、また犬に戻る。
けれど、今回はエドか私、先に解けた方がシドに伝える。「見つけた」と……
じっと時を待っていると、わたしの方が先に変身が解けた。
まずは、布に隙間ができて、外から見えていないか確認。
だって、裸よ? 見えていたら恥ずかしいじゃない?
……大丈夫。隙間は無い。
「シド? 聞こえますか?」
……返事がない。聞こえていないのかしら?
「……はい」
良かった! 聞こえているわね。
「この先の小屋に地下があって、そこにキアオラもいるわ」
「……はい」
「では、ワンちゃんになりますね?」
「……はい」
ワンテンポ遅いわね! 返事!
わたしがお酒を浴びていると、今度はエドの変身が解けたようね。
フワッと犬になって布から顔を出すと、エドは布を腰に巻いてシドに話しかけるところだった。
男性っていいわね? 上半身が露わになっても、それほど気になさらないものね……
それにしても、エドはお洋服を着ているとスラットして見えるけれど……結構胸板が厚いのね。
見ていない振りをして、横目で堪能する。……役得ね!
「シド。オリヴィーが言った通りだ。確実にいる」
「はっ! すぐにキアオラ確保の検討に入ります。殿下、帰路は馬車もこちらに向かわせますので、途中まではご足労願います」
「わかった」
なぁに? シドったらスラスラ話せるじゃないのー!
わたしの時の返事の遅さは何だったの?
そして、エドもワンちゃんに戻って、足場の悪い中わたしの前に来て、ちょこんとお座り。
首を咥えてもらいたくてウズウズしている。
……かわいい!
渋々シドから予備の酒樽を首に着けられて、帰路に。
街道沿いの植物を掻き分けて進んでいると馬車が到着し、シド達が周囲の耳目無しの確認をするのを待ってから乗り込んで“隠れ家”へ帰る。
「お嬢様、殿下。お帰りなさいませ。……シド様も」
“隠れ家”にはカークランド家の馬車も待機しているので、二台に分かれてわたしの家の小屋に向かう。
途中で人間に戻っちゃうから、エドと同じ馬車に乗れないのは残念……
アンもシドと馬車が分かれるので残念そう。
そうだ! シドの声を聞いたことを伝えてあげなくちゃ!
うちの敷地の拠点に帰ったわたし達は、エドが陛下に報告をし、キアオラ翁の確保作戦の立案と実行をお任せする事にして、その日は解散となりました。
わたしがいくら作戦に参加したいと言っても、足手まといになるだけでしょうから、控えましょう……
数日後、極秘裏に作戦が決行され、キアオラは無事に確保された。
首謀者が不明の為、王城や牢獄に連れて行った場合、情報漏洩や隠滅のおそれがあるので、やはりカークランド邸の拠点に連れてくることに。
キアオラの他に、小屋にいた二人の内ひとりは激しい抵抗の末に死亡、もうひとりは確保して“隠れ家”に連行されているそう。
拠点の小部屋がキアオラの拘留場所に充てられた。
そして、あの小屋にいたワンちゃんも連れて来られていました。
エドと同じ種類っぽい成犬だけれど、毛色はやや濃いわね。
とても人懐こそうなワンちゃんで、尻尾をブンブン振る子。
キアオラの取り調べの為に、エドとシドは毎日こちらに来るので、わたしは嬉しい。
ついでにアンも嬉しそう。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる