自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

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第一章 我こそが

第1話 プロローグ

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 ここは独立都市グプタ。
 人口と領土の面積でいえば一つの都市ほどの規模であるが完全に独立した都市国家である。

 都市の構造は所謂港町であり、海洋を挟んで東側を東グプタ、その対岸の西側を西グプタと呼び。それぞれに盟主が存在している。
 また陸側は巨大な国にそれぞれ面している。東グプタの隣国は共和国エフタル。西グプタの隣国はカルルク帝国である。

 港町であるグプタはこの両国との貿易を主な生業にしており財政は豊かだ。またその立地条件から美しいビーチや海の幸などの海洋資源を有効に使ったリゾート地としても有名である。

 そんな東グプタのとあるビーチにて、二人の子供が折檻という名の遊びを繰り広げていた。

 一人は10歳の少女、名はルーシー。夏のビーチで仁王立ちの彼女は白いサンドレスのスカートを風になびかせながら両手を腰に当て。一人の男の子を見下ろしている。

 真珠の様な白い肌、そして灰色の髪は母親譲りで、肩まで伸びた髪は夏の日差しに照らされてキラキラと輝いていた。

 対して、見下されている男の子は彼女の弟だ。
 こちらは癖のある赤毛の少年だった。
 名はレオンハルト、8歳になる。彼の髪は父親似であり二人は間違いなく姉弟である。

 弟としては見た目は完璧な美少女である姉が怖かった。
 だが怖いのは外見の話ではない。
 たしかに外見で言えば唯一、母親ですらコンプレックスを持っており娘に遺伝したのをやや残念に思った瞳の色だ。

 彼女の瞳は赤い。見つめられるだけで威圧感を覚えるらしい、それが一般的な世間の美的感覚では欠点といえるものではあった。

 だがそれが弟の思う怖さではない。弟は姉の瞳の色は美しいと思っている。では弟は姉の何が怖いのか……そう、姉は頭がおかしいのだ。

 物心ついたころから姉は自分をドラゴンロードの生まれ変わりだと言い、自分を眷属として扱い、ままごとでは執事役を要求したり、嫌いな食べ物を両親の目を盗んで食べさせたり。
 近所の子供と遊ぶ時だけ奴隷のように扱った。もちろん実際の奴隷ではない。あくまで平和で裕福な暮らしをしている子供の価値観での奴隷である。だが、弟にとっては苦手で恐ろしいわがままな姉だった。

「我が眷属レオンハルトよ、そこにひれ伏しなさい!」

 …………。周りに誰もいない。
 レオンハルトは姉の痴態が周囲に知られるのを恐れていた。

「姉ちゃん……。いや、ルーシー様。またそんなこといって……実際姉ちゃんが悪いんじゃないか……」
「うるさい。レオ! 私のクッキーを食べたでしょ! 万死に値するわ、私が大切にとっておいたチョコレートのクッキー」

「姉ちゃんが食べないで取っておくのが悪いんだよ、一口かじった後があったし……てっきりチョコレートが嫌いだと思うじゃないか」

「ちがうー! あれは最後の楽しみに取っておいたのよ。お気に入りはじっくり時間を掛けて食べるの、呪いのドラゴンロードであるこの私の楽しみを奪うなんて許さんぞ! 人間!」

「はあ……また始まった。ドラゴンロードがクッキーなんて食べないでしょ、だいたい、そのドラゴンロードってどんな設定なのさ、ちょびちょびと残しながら食べるドラゴンなんて居るわけないでしょ……」

 こうして二人は今日も喧嘩をしている。しかし周囲の大人たちの目からは実に仲の良い兄弟としてしか見えていない。今回も弟がおやつを姉に譲るということで仲直りするのは間違いないのだ。

「おや、また姉弟喧嘩かのう、お主らは相変わらず仲が良いのう。ちなみに、レオ君よ、呪いのドラゴンロードは実際に美味しいものは最後まで取っておくタイプじゃ。そして最後まで食べられなかった愚かな奴よ、ぶふっ」

 グプタの観光名所であるビーチで彼らの前に現れたのは。美しく空に溶けるような青い髪、潮風になびくスカートがまるで海そのものを思わせる青いドレスを身にまとった女性だった。
 彼女こそが、本物のドラゴンロードであり、グプタの女神とも呼ばれる海のドラゴンロードのベアトリクスである。

 普段のベアトリクスは人化をした状態で街の安全、特に海で遊ぶ子供たちの面倒をよく見ている。
 ルーシーは彼女をよく思っていない。なぜなら自分もドラゴンロードの自負があり。魂がベアトリクスという存在を嫌悪しているのだ。と、ルーシーは思い込んでいる。
 あと、美人だし、胸が大きい。美しい透き通る肌と落ち着きを持った大人の女性らしい余裕の態度。包容力。時折見せる少女のような可愛らしい態度。そして男女問わず皆の人気者だということ。

 つまりはただの嫉妬なのだと、弟としては姉の自称ドラゴンロード宣言をそう理解している。
 レオンハルトは救世主が訪れたと、目の前に現れたベアトリクスに話しかける。

「あ、女神様! 西グプタから戻られたのですか? 聞いてくださいよ、姉ちゃんってば、残してたクッキーを食べただけで怒るんですよ、そんなに怒るならなんで直ぐに食べなかったのか……」

「おやおや、それは半分レオ君が悪いぞ? ルーシーは大好きなものは最後まで取っておく性格なのじゃ、いいかげん学習しないと、そしてルーシーも相変わらずじゃな。最後まで取っておいて食いっぱぐれる。ぶふっ、あはは」

「女神様、姉ちゃんの性格は知ってるんですよ……でもそんなの行儀が悪いです。僕としてはいい加減やめてほしいと……」

「おや、なるほど。姉思いの良い子じゃのう。そんなお主の願いを一つかなえてやるぞ、何でも言ってみなさい」

 レオンハルトはベアトリクスを前に少し頬を染め、いや完全にデレデレしている。
 この街で生まれた男の子は思春期になると例外なくベアトリクスに恋をするようだ。

 ルーシーは男は全員馬鹿だと思った。
 だがしかし、弟を取られたくないルーシーは余計に不機嫌になった。

「おのれ、海のドラゴンロード、我が眷属をたぶらかしおって。この呪いのドラゴンロードである我に対して。許せん!」

「あーあ。また始まったよ。女神様、姉が失礼なことを言ってごめんなさい」

「よい。私としても……うふふ。呪いのドラゴンロード、ルーシーちゃんの所有物に手を出すのは本意ではないしのう。ぶふっ。あはは」

 笑いながら答えるベアトリクスに対して、ルーシーは顔を真っ赤にしてレオンハルトの手を引っ張る。

「ふん、今日はこの辺にしといてやろう。いくぞ眷属よ!」

「だから、その変な喋り方やめなよ。もう10歳なんでしょ? お母様にばれたら怒られるよ」

「お母様! ……いや、クリスティーナも我の眷属だ! だが、本人の前ではいうなよ。おやつ抜きは耐えられん……。お願い、言わないでね、レオ……」

 ルーシーは記憶をたどる……。
 深淵の僅かな記憶の欠片……母親であるクリスティーナは確かに我が眷属であった……?
 そしてなぜか今生の我が身体の母親でもある?
 ルーシー自身よく理解できていないが、魂がそう言っているのだ。たぶん?

 そして、ルーシーにはその肝心な記憶はほとんど思い出せなかった。確かにそんな気がする程度の淡い記憶。
 なんとなく自分はドラゴンロードの生まれ変わりなのだという程度の記憶の断片……。
 
 ただ、お腹が空いたので記憶をたどるのは中断。そんな事より今日の晩御飯は何かと彼女の思考は移った。

 後ではベアトリクスが、別の子供に話しかけている声が聞こえた。
 ち、なにが女神様だ。ルーシーは海のドラゴンロードであるベアトリクスに対してまた嫉妬していたのだった。 

 ルーシーは弟の手を引っ張りながら家に帰る。
 そして家に入る前に、誰に向かって言うでもなく。大きな独り言を言った。
「ふふふ、そうだ、我は呪いのドラゴンロード、ルーシーである!」

「……姉ちゃん。家に入ったらそれ止めてね」
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