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第一章 我こそが

第2話 ドラゴン対決

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 いろいろと性格が破綻しているように思えるが。普段のルーシーは年相応に社交的である。
 近所の子供達とも積極的に交流し。男女問わず誰とでも活発に遊ぶ。勉強も熱心ではないが、やはり年相応に読み書きは出来るし算数も得意な方だ。

 この日も近所の子供達とビーチに来ており砂遊びに興じる。

「じゃあ、今日は何を作ろうか。せっかくみんないるんだし。お城とかどうかな?」

 そう言うのは砂の造形が一番うまいと自負している子供たちのリーダー的ポジションの少年。
 名前はジャン。歳は12歳。日に焼けた肌に黒い髪、そして最近背が伸び、身長もルーシーよりも一回り大きい。
 最近は家の仕事を手伝いをしているそうだ。

 ルーシーとしては彼も眷属にしたいところだが、身体が大きいし、活発な性格であるため遠慮している。
 彼我の戦力差を理解しての判断だ。

 というよりも、彼女の眷属は弟のレオンハルトだけだ。
 ――もちろんルーシーがそう思い込んでいるだけで魔術的な契約などは無い。弟は姉の機嫌を取るために仕方なく眷属になることの同意をしているだけだ。

 そんなジャンの提案にルーシーは首を振る。
「お城? うーん、私はこないだみたいにドラゴンを作りたいわ。ジャンの作ったのって結局、ウナギの人魚姫だったじゃない。いや、どちらかというととぐろを巻いた蛇かしら?」

 身体能力では勝てないがルーシーは口が回る。
 大人っぽい喋り方が出来る子供ランキングがあるなら彼女はナンバー1だ。

 皮肉まじりにルーシーに言われるとジャンは少し不機嫌になる。
 口では勝てないし実際言ってることは正しい。ただ、いじわるなルーシーの態度は気にくわない。
 だからと言ってジャンは暴力には訴えない。年長の男の子として女子に暴力を振るうのは最低だと思っている。

 だが前回作った渾身の作品である女神像を否定されて言い返さないわけにはいかない。
「失礼な。あれは女神様をイメージして作ったんだ。ルーシーは分かってないだけだよ。僕はこないだ女神様の竜化した姿を海で見たんだ。海のドラゴンロード・ベアトリクス様の真の姿を――」

 ジャンの目は急にキラキラと輝き。海のドラゴンロードの美しさとか、凄さを饒舌に語りだした。

 ルーシーはしまったと思った。
 こうなると彼の話はなかなか終わらない。 

 この街に住む男の子の悪い癖だ。

 やれやれと、しばらく会話が終わるのを待つ。

「――本当にすごかったんだよ。ふう……でも確かにそれに比べれば僕の造形はダメダメだ……。分かったよルーシーの言うとおり今日もドラゴンを作ろう。皆もそれでいい?」

 やや興奮から覚めたジャン。そして周りには彼の話を聞いた年下の男の子たちが憧れの目をジャンに向けている。

「ジャン兄ちゃん。僕も女神様を作る。皆で頑張ろう!」

 そして周りの男の子たちも、おー! と掛け声を上げる。


 こうして砂遊びが始まった。

 ルーシーは少し引いていた。この団結力……。ベアトリクスのどこがそんなに良いのか……自分に何が足りないのかなどと考えを巡らせていた。

「ジャン兄ちゃん。女神様はもっとおっぱいが大きいよ」

「でもなぁ。そこだけ砂を盛っても重さで崩れちゃうよ……いや、そうだ、女神さまはいつもドレスを着てるじゃないか。そうだ。ドレスのスカート部分を砂で再現すれば土台になる……そして、胸に谷間をつければ違和感ない。いけるぞ!」

 男子たちはドラゴンを作るというより。ただの女性像を作るつもりのようだ。

 これにはルーシー以外の女の子、アンナはちょっと、いやかなりドン引きだった。
 ルーシーは逆にチャンスだと思った。アンナを自分の陣営に招こうとたくらむ。

「アンナちゃん。男どもはもう駄目だ。私と一緒に本物のドラゴンを作ろうじゃないか。もちろんレオもね」

 レオはやれやれと言った感じでルーシーとアンナのグループに加わる。

「相手はベアトリクスを作るようだし、あちらに対抗して。こっちは呪いのドラゴンロードを作ろう、どちらのドラゴンが優れているか勝負よ!」

「え? ルーシーちゃん。呪いのって……それ悪者でしょ? それに私、どんな姿なのかよくわかんないわ」   

「大丈夫、 私に任せなさい! 頭にイメージがあるのよ、だから一緒に頑張りましょう」

 アンナの手を握るルーシー。そしてアンナも笑顔で「うん!」と答える。

 レオンハルトは思った。(よかった。姉がまた、我が眷属、とかなんとか変なこと言わなくて……)

 ちゃんと一人称も『我』ではなく私と言っている。普通の態度で安心したのだった。

 …………。
 砂遊びは平穏に続く。
  
「ねえ、ルーシーちゃん。知ってる? 最近ね、お化けが街の外にいるって……商人のおじさんが言ってた」

「お化け? はて、レオ、何か知ってる?」

 二人の会話を聞いたジャンが大きな声で答えた。

「お! アンナ、俺知ってるぞ! たしか、エフタルへ向かう道中にある戦場跡に出るって噂のお化けだろ?」

 砂で一生懸命に谷間を作っていたジャン。だが、いつの間にやらアンナの話に乗り出した。

 それもそのはずで、やはり少年の想像力では女体の再現は不可能だったのだ。
 ぼてっとした砂の像はかろうじで人と分かる程度のお粗末なものだった。  

「ふっ、所詮はただのエロガキ、女性の身体を妄想だけで造形とは……笑止千万」

「姉ちゃんだって……ドラゴンというよりかはフクロウだよ……」

 レオンハルトは姉の上から目線をとがめる。ルーシーだって自分がドラゴンロードだと自称しているのに。出来た砂の造形がフクロウにそっくりだったのだ。

 だがそれは無理はないのだ。実物を見たとしても形に出来るとは限らないのだから。

 ルーシーとてドラゴンのイメージはぼんやりとあるが形にするには技術が足りなかったのだった。

 ということで、今日の砂遊びはお終いと満場一致で例のお化けの話に移行する。
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