自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

文字の大きさ
3 / 151
第一章 我こそが

第3話 冒険の始まり

しおりを挟む
 翌朝。
 昨日のメンバーの中で年長のジャンとアンナ、そしてレオンハルトとルーシーの四人は、例のお化けが出るという戦場跡に向かうことにした。

 戦場跡というのは昔ここでマスター級の魔法使い――マスター級とは極大魔法を除く全ての魔法を習得したもの――が何やら戦闘をしたことに由来する。
 実際に目撃したのはカルルク帝国の重鎮とエフタル出身の貴族というので、グプタの人間にはとくに思入れもない場所である。

 ルーシー達は戦場跡に向かう前に、各々の両親に行き先を告げている。
 戦場跡という場所はグプタからそれほどの距離はない。歩いて一時間程度の距離で魔物もいるわけではない。

 だが、基本的に街の外に子供達だけで出ることは良くないことだという認識はある。
 彼らはやんちゃしたい年頃ではあるが不良ではないのだ。

 普通の親であれば子供たちだけで冒険は許可しない。しかし何でも禁止というほど頭の固い親はこの街には居ない。
 親たちは子供の自主性を育てたいので妥協案というか最善案を子供たちに言う。

 曰く「女神様の許可を得られるなら行ってきなさい」と。

 ルーシーは不本意ながら、海のドラゴンロード、ベアトリクスに外出の許可を得ることになった。
 当然、不本意だと思うのはルーシーだけで他のメンバーは特に何とも思っていない。むしろ当然のことだと認識している。

 ベアトリクスは運よく今日もビーチにいた。
 彼女は海のドラゴンロードに相応しく大抵はビーチにいるが、街中にいることもある。あるいは船に乗って西グプタに行ってしまうこともある。そうすると数週間は戻ってこない。

 素足で砂を弄びながら歩くベアトリクスめがけて、ルーシー達は駆け足で向かう。


 ◇◇◇◇◇


「……へぇ。君たちは戦場跡に行きたいと? ふむ、別に私は構わんが……あそこは特に何もないと思うぞ?」

 長いスカートを膝上までたくし上げて砂を弄ぶベアトリクス、ジャンはさっきからその動作を凝視しているようだ。
 ちらちら見える太もも。そうだ、ジャンはそれをじっと見ているのだ。
 
 ルーシーはその視線を見逃さない。12歳の男であれば理解したくないがそういう生き物だとして納得する。

 だがアンナも「わー、綺麗な足、素敵ー」と言っている。
 そして、あろうことかレオンハルトも彼女の膝上がわずかに露出している彼女の足に見とれていた……。

 ルーシーは気にくわない。あざといのだと、これで男を、いやグプタの民を釣っているのだ。
 そう思ったルーシーは右手を伸ばし人差し指をベアトリクスに向ける。
 そして、左手でワンピースのスカートを少し持ち上げバサバサと揺らす。

 強風に煽られる衣服の演出で大物感を出そうとしたのだろう。

 レオンハルトは大きくため息をつきながら目を逸らす。

「ふふふ、無知なドラゴンロードよ。貴様は街のこと以外何も知らんのだな? 我は知っているのだぞ? ハハハ!」

「姉ちゃん。みんなの前でその喋り方……やめてよ。恥ずかしい……」

 レオンハルトは羞恥心のあまり顔を真っ赤にして、ジャンとアンナを見る。

「レオ、別にいいよ、あれだろ? ルーシーがドラゴンロードの生まれ変わりだっていう設定の遊びだろ?」

「うん、ルーシーちゃんって女神様と会うとそういう喋り方になるんだよねー。私にはちょっと大人っぽい難しい喋り方で尊敬しちゃう。お母さんもね、ルーシーちゃんみたいにもっとハキハキ喋れるようにって言ってたよ」 

 レオンハルトは余計に恥ずかしくなった。皆とっくに知ってたんだと。それに姉を変人としてではなく友達として肯定的に受け入れている。
 親友とはこういう物だと、かけがえのない存在だと、8歳のレオンハルトは少しだけ成長したのだった。

 そんな彼の心の成長はさておき、ルーシーはベアトリクスに話を続ける。

「お化けがでるのだ、海のお主には縁がないか……何というか……アンナちゃん説明よろしく」

 昨日聞いたばかりなので上手く説明できないルーシー。
「姉ちゃん……さっきまで偉そうだったのに、そこは他人に譲るんだ……」

 突然話を振られたアンナは、少し驚いたが、顎に手を当て、ゆっくりとしゃべりだした。
 アンナはおっとりとした性格であり喋るのはあまり得意ではない。

「えっとね、戦場跡にね、お化けが出るの。商人のおじさんから聞いたの。昔に死んだ、偉い魔法使いの亡霊がいるんだって。それでね、お化けをみようって皆で話してたの。
 お父さんとお母さんは、危ないから近づくなって言ったの。でもジャン君達も行きたいって言ったら。女神様に相談してって……」

「というわけだ、海のドラゴンロードよ……」

 レオンハルトは思う。他人に説明させて、なお偉そうな態度。姉ちゃん……カッコ悪い。

「ふむ、戦場跡に亡霊ね。距離的にはそんなに遠くない。今から行けば、お昼には着くかのう。よし、であるならば、お弁当を買って向こうで食べようじゃないか」

「やったー。ルーシーちゃん。ピクニックだねっ」

「すっげー。なんか分かんないけどルーシーのおかげで女神様の許可が下りたっぽいぞ!」

「いや、姉ちゃんはただ偉そうなだけで説明したのはアンナちゃんだから……」

「レオ! そこは忖度しなさいっ! ……だが、ふふふ。呪いのドラゴンロード、ルーシー。ついに冒険の始まりだ!」

 こうして、本物のドラゴンロードである、ベアトリクスの引率の元、港町の子供たちによる日帰りの冒険(ピクニック)が始まったのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...