自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

文字の大きさ
14 / 151
第一章 我こそが

第14話 一般少女

しおりを挟む
 ルーシーは目を覚ます。
 波の音と、騒がしい人々の笑い声が聞こえる。
 さっきまで物音ひとつしない空間に居たためか頭にずきずきと響く。

 後頭部に感じる柔らかい感触。
 目の前には青い風船が二つ見える。

「おはよう、ルーシーちゃん。びっくりしたわ、まさか自力で『千年牢獄』をやぶるとは思わなかったぞ?」 

 二つの風船の向こう側からベアトリクスの声が聞こえてきた。

 ルーシーはどうやらベアトリクスに膝枕をされているようだ。
 なるほど、この膝枕と目の前の柔らかそうな風船で男の子を誘惑しているに違いない。やはり嫌な奴だ。

 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。
 さっきまでされていた仕打ちを思い出し語気を強めて言う。
 
「ベアトリクス! よくも私をおもちゃ牢獄に閉じ込めてくれたな。子供のように慌てる我らの姿を見て馬鹿にしておったのだな!」

「てへっ、ごめんねー。でも、おかげでだいぶ状況が分かったわ。最後にもう一つ確かめないといけないから、もうちょっと我慢してねー」
『ルシウスよ、今度は物理的にお前を殺してやろうか?』

 最後の一言と共に恐るべき殺気を放つベアトリクス。
 だが、ルーシーは戦士ではない。勘もそれほど良くない。どちらかと言えば鈍感系だ。

 感じた事といえばベアトリクスの語気が若干強くなったこと、周囲の空気が不自然に振動している程度の事だった。

「痛いっ! なにをするだー」 
 ムニーっと、ベアトリクスはルーシーのほっぺをつねる。

「おーいルシウスよー。出てこーい、本当に殺しちゃうぞー?」

 もう片方のほっぺもつねる。

「いらい! わらひはルーヒーれ、ルヒウフはふぇふひんら!」

「ふむ、やっぱりか、そうかそうか、よし結論が出た! ルーシーちゃんはルーシーちゃんだ」

 両手を放すベアトリクス。

 じんじんと痛む頬をさすりながら。
「おのれ―。貴様ー、さっきから酷いぞ! お父様に言いつけてやるからな!」 

「ふむ、確かにクロード達にはちゃんと話さないといけないかな。おっと、可愛いほっぺに跡が残っては大変。『グレーターヒール』『メンタルリカバリー』」

 ややオーバーな回復魔法を受け、ルーシーの頬の赤色は完全に消えた。
 それに『千年牢獄』に閉じ込められたことによる精神的な疲労もすっかりなくなっていた。

 むしろいつも以上に頭が冴えわたるようだ。元気いっぱいに立ち上がる。

 ルーシーは初めて高レベルの回復魔法を受け、すっかり怒りを忘れてしまった。

「さてと、ルーシーちゃんには本当に悪いことをした。お詫びに何か願い事をかなえてあげよう、多少はわがままな願いでも聞いてやるぞ? なんでも言ってみよ」

「ほんと! 何でも? じゃあクッキー100個……うーん、それだともったいないし。……あ! 私、魔法を勉強したい!」

「あはは、考えておこう。だが、お主は魔力を持っているわけでもないしのう……うん? 魔力の反応がある? しかもこれは闇の魔力……」

「闇の魔力? ……あ! そうだった。こほん。聞け! ベアトリクスよ! 我はついに眷属を手に入れたのだ。ふははは、いでよ!『ハインド君』!」

 ルーシーが勢いよく腕を伸ばすとその先から黒い煙が現れ。もやもやと宙を漂いながらやがて人型となり。黒いローブをまとった骸骨となった。

『闇の執行官ハインド。マスターの命に従い参上しまし――』

 言い終わる前に、骸骨はポンッと音をたて霧散し跡形もなく消え去った。

「ははは、魔力切れだ! ルーシーらしいな。ぶふっ、せめて挨拶くらい最後まで言わせてやらぬか、あっはっは」

「お、おのれー。だが、私にも魔法が使えた。これなら入学資格はあるであろう!」

「入学資格? ああ、なるほど、魔法学校に行きたいのだな。どれ、時が来ればご両親の説得に付き合ってやるか」

「ほんと? やったー! こほん、であるならば、今回のことは水に流してやろうではないか。わっはっは」



『おーい! 姉ちゃんー! 何やってんのさー! みんなもう待ちきれないってー!』

 遠くから聞こえるレオンハルトの声に向かってルーシーは勢いよく駆けていった。


 ◇◇◇◇◇

 夜のグプタ。
 海の幸を使った料理で有名なベアトリクスお気に入りのレストランにて。
 食事が始まったばかりか。テーブルの上にはパンの入ったバスケットと野菜の入った薄めのスープが二皿。 

 席に座るのはクロードとクリスティーナ、そしてベアトリクスであった。

「せっかくの夫婦水入らずのところ悪いのう。だがお主たちには早めに聞かせなければと思っての」

「いえ、ベアトリクス様がそう思われたなら。私たちのことはお気になさらず」

 とはいえ、少しだけクリスティーナは不機嫌なようだ。

「なに、時間は取らせぬ。要件を伝えたらすぐにあの子らに合流するよ、子供たちもこの店にいるからな」 

「それで、聞かせたいことというのはなんでしょうか? ……やはりルーのことでしょうか?」

「うむ、さてと、どこから話せばよいか――」

 ベアトリクスはルーシーの正体について話す。

 結論としては、ルーシーはルシウスではない。

 ----------

 かつてエフタル共和国が王国だった時代。
 ここグプタより遥か北方のバシュミル大森林の深層部に呪いのドラゴンロード・ルシウスの縄張りがあった。

 ルシウスはたびたび魔物の巣窟である大森林を出ては人類に対して牙を剥いた。
 彼はベアトリクスとは違い、人間の憎悪こそを愛した。

 呪いドラゴンロードの名に相応しく、その人智を超えた呪いの力で人間同士の争いに積極的に介入した。 

 同時に彼は多数の強力な魔獣を眷属に加え、自身の魂の一部を分け与え命のストックを増やしていった。
 呪いのドラゴンロードは討伐不可能の不死身の化け物と化した。 

 時が経ち。エフタルの王族は呪いのドラゴンロードに生贄を捧げることで人類の安寧をはかる。

 ドラゴンロードに比べて遥かに魔力の低い人間の生贄はルシウスにとっては嗜好品でしかなかった。ただ人間特有の憎悪の深さだけは愛でるに値したのだ。
 気に入った人間は特別に眷属に迎えることもあった。
 命のストックになるほどの量の魂は与えないもののそれなりの力を授けた。

 それがルーシーの母であるクリスティーナだった。

 さらに時が経ちルシウスは四人の英雄によって全ての眷属もろとも完全に滅ぼされた。

 命のストックを失ったルシウスは一か八かの賭けで当時ルーシーを身ごもっていたクリスティーナを利用して復活を企てた。

 ベアトリクスの予想では、復活は失敗に終わった。微々たる魂の欠片では復活は不可能だったのだ。
 だが、わずかな権能、断片的な記憶がルーシーの魂に混ざったのだろうとのことだった。

「なに、あの子は間違いなくお主らの子だ。例えるならこの野菜スープがルーシーだとすると、小さじ一杯ほどの黒コショウがルシウスといった感じかの。
 なにも害はない。人格自体も特に操られているわけでも無い。
 あえて言えば、あの性格は彼女がたまに見るドラゴンの夢と、父親に溺愛されて育った年相応の万能感が合わさった結果だろう」
(ただ、呪いに対する完全耐性ともいえる能力は驚異的ともいえるが……まあ、呪いの権能が使えるわけでもないし、魔力も筋力も人間の平均レベル、何も問題はないだろう)

「女神さまー。お話まだ終わらないのー? ごはん冷めちゃうよー?」

 レストランの屋外にあるテラス席からアンナの大きな声が聞こえてきた。

「おっと、長居してしまった。まあ、二人とも安心せよ。あやつを一言で言うなら、自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女といったところだ。今は痛々しいところもあるが、それも今後の成長しだいだろうて」

◆第一章完

-----あとがき-----

 ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

 本作のみをお読みいただいた方。
 ドラゴンロード・ルシウスとはなんぞやと思われたかもしれません。
 彼の活躍?が気になる方は別作品「灰色の第四王女」「カイルとシャルロットの冒険~ドラゴンと魔剣~」をぜひ。


 面白いと思ってくれたら★や♡をいただけると励みになります。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【完結】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299
青春
坂上明には小学校から高校二年になった現在まで密かに片想いしていた人がいる。幼馴染の岸谷聡だ。親友の内巻晴菜とはそんな事も話せるくらい仲がよかった。そう思っていた。 ある日知った聡と晴菜の関係。 これは明が過去に募らせてしまった愚かなる純愛へ一矢報いる為、協力者と裏切り返す復讐(イチャイチャ)の物語である。 ※2024年8月10日に完結しました! 応援ありがとうございました!(2024.8.10追記) ※小説家になろう、カクヨム、Nolaノベルにも投稿しています。 ※主人公は常識的によくない事をしようとしていますので気になる方は読まずにブラウザバックをお願い致します。 ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。関連した人物も、たまに登場します。(2024.12.2追記) ※番外編追加中・更新は不定期です。(2025.1.30追記)←番外編も完結しました!(2025.9.11追記) ※【修正版】をベリーズカフェに投稿しています。Nolaノベルでは全話限定公開・修正中です。(2025.10.29追記)

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

処理中です...