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第三章 巣立ち

第38話 入学準備

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 明日はいよいよ入学式。
 そして寮生活が始まる。アランとイレーナと同じ宿で過ごすのは今日で最後だ。
 学園生活に必要なものは全てそろえた。

 少し驚いたのは魔法の杖は既製品で、そこまで高くなかったのだ。どちらかというと制服の方が高いくらいだ。
 一昔前までは魔法の杖は魔法使いの地位の象徴で、華美な装飾を施した逸品もあったそうだが、先代皇帝オリビア・カルルクの提案によって学生は全て同じ杖を使用することになったそうだ。

 その夜。イレーナとルーシーが泊る、少し大きめの部屋にアランも来ている。
 イレーナとアランは椅子に腰かけ。その正面にルーシーとハインドが立つ。

『偉大なるマスター、漆黒の災厄、 憎悪の君。呪いのドラゴンロード・ルーシー様の第一の眷属。我が名は闇の執行官ハインド。御身の前に惨状いたしました。さあ。何なりとご命令を……』

 ハインドは跪きルーシーの手の甲に口づけをする。

「うーん。だめっす。それだと、お嬢が大魔王っす。自己紹介はもっとポップにするべきっす。
 ハインドっちはお嬢の使える唯一の魔法なんでしょ? ……まあ。一部のファンは増えるかもっすが。そいつらは切り捨てた方がいい輩っす」

 今は魔法学科のクラスでの自己紹介の練習をしているのである。

 ルーシーは基本的な魔法が使えない。もっとも学校なのだから、これから学ぶのでそれ自体は何も問題はない。
 それでも、ある程度はクラスで馬鹿にされずに上手くクラスメートとやっていくかの会議中であった。
 田舎出身のルーシーにとっては最初の壁ということで二人は熱心であった。

 なにせ知り合いは一人もいないのだ。幼馴染であるジャンとアンナは一年先輩であるし彼らは学科が違う。
 会う機会といえば学食とかの休憩時間以外はないだろう。

 そういうわけで、アランとイレーナはルーシーに友達が出来るように。色々とアドバイスをしているのだ。
 もっとも、ルーシーは社交的な性格であり。心配はないとは思うが、だからといって何もしないでいいと思うほど他人ではない。
 彼らにとっても、ルーシーは特別な存在なのだ。 

 ということで先程の自己紹介についてのアドバイスをしているのだ。

「ハインドっち。そのフードは深く被る事はできるっすか? 顔が隠れるくらいに。なんなら実体化を途中でやめて黒いもやもやを維持して顔は完全に隠した方がいいっす」

『うむ。出来る。だが、それでは魔力の行使ができぬ。それに不完全な姿をさらしてしまってはマスターの顔に泥を塗るのではないのか?』

「いや、それはそれっす。問題はその骸骨の顔をさらすと、お嬢に友達ができないリスクがあるっす。同年代の子供達には刺激が強いっすからね」

『確かに、私の顔は生前とは違うが。それよりはマスターの実力を疑われてはと――』

「それは関係ないっす。……ふう、ハインドっちよ。俺っちの顔を見てくだせい。これでお嬢と二人きりだったら周りはどう思いますかねぇ? え? 正直に言ってくれていいんですぜ?」

『……。むう……。すまぬ。謝罪する。アラン殿の言を受け止めよう。マスターのため。我は顔を隠す。で、当日はどうすれば?』

「あのう、アランおじさん。私は別に大魔王でもいいんですけど……」

 顔が全てじゃない。ハインド君だって結構な男前?だと思うし。アランおじさんはお父様とは違うカッコよさがある。
 隠す必要はないのではと思った。

「ルーシーちゃん! それはだめよ? ここはグプタじゃない。最初の印象が大事なの。
 グループを作る。そして出来るだけ有利な人間関係を作るのよ。その為には第一印象が大事。
 ……考えるのはその後でいい。もしルーシーちゃんがそのグループが嫌だったら変えればいいの。でもその逆はないのよ? スクールカーストって怖いんだから」

 もの凄い剣幕のイレーナさん。
 ハインドも思うことがあるのか、静かに頷くのみだった。それほどにスクールカーストは怖いのだろう。

「ぐぬぬ。私としては。最初のハインド君の挨拶は良かったのと思ったのに……」

「お嬢は不満でやんすね。でも学園は人が多いっす。分かってほしいっす。お嬢の立場は田舎出身で魔法の知識は乏しいっすが、闇の精霊……のようなものと契約をし魔法の才能を得た。
 そんな感じで良いと思うっす。そこまで嘘はついてないし。それ以上は手の内をさらさないで下さいっす。
 よくいるっすよ。最初から自分の出自と力を見せびらかすイキリやろうが。そういう輩は粛正されて、大抵の場合はそこが自分のピークで成長せずに没落するものっす」

 アランもイレーナ同様に語気を強めた。
 ここまで、ルーシーは覚えることが多い。頭は混乱してくる。

 ハインドは闇の精霊のようなもの。イキリやろうには近づくな。スクールカーストは怖い。心のメモにとりきれるだろうか。

「……まあ、ルーシーちゃんには色々言ったけど。結局はルーシーちゃんがどうするかってことね。先輩としての助言……というかお節介ね。さてと。明日はいよいよ入学式。
 新調した制服をバシッと着て堂々としてればいいの。会いたくなったらいつでも来てね。私達はしばらくはこの宿を使うから」

 こうして、入学式前日の緊張感はあったが。
 準備とか色々忙しくしたので疲れていたのだろう。ルーシーはベッドに入ると一瞬で眠りに着いたのだった。
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